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shadow  作者: 新垣新太
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ep8.偽造編・7話

玉地は後輩の大矢が搬送された総合病院に到着した。病室に入る前に玉地は看護婦から怪我の症状を説明された。



看護婦 「搬送された時は呼吸も浅く意識が遠かったですが、今は大分回復されています。頭部の一部を縫いました。首は軽い打撲、肋骨は右側2本を骨折、内臓の損傷もあるとの事です。先生の診断では最低でも3ヶ月は安静にするようにと指示が出ております。ご職業がプロレスだと伺いましたが復帰は安易に決断しないで下さいと大矢さんにお伝え出来ますか?」



玉地 「…はい。ちゃんと伝えます」



看護婦 「お願いします」



玉地は看護婦にお辞儀をし、4人部屋の病室のドアをゆっくり開けた。白いカーテンに仕切られた4台のベッド。大矢がいるのは左奥だと看護婦から聞いた玉地は静かに向かう。



スッ


カーテンを開けながら声を掛ける。



玉地 「…大矢、大丈夫か?」



大矢 「……」



頭に包帯を巻かれた大矢がベッドの上で眠っていた。ベッドの脇に置かれた緑色のクッションが付いた丸い椅子に腰掛ける。



玉地 「…生きててよかった…」




胸が痛んだ。


大矢の命が危ぶまれた事に。


自身の肉体の痛みなど、ちっぽけなモノだと思えた。



少しの安堵が玉地に与えたのは睡魔だった。

玉地は大矢の左手を握り目を閉じる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一玉地良太郎・28歳の頃一


まだ何者でもなかった俺は、16歳の頃にプロレスと出会い人生が変わった。



そして、26歳の時に寮で暮らす俺に新しい家族が出来た。


後輩の大矢が動物保護施設にボランティアで行っていると話を聞いてから気晴らしにとついて行った時だった。


その施設で初対面だと言うのに妙に俺になつく犬がいた。

首輪にはネームが付いていた。

シュートとカタカナで書かれたのを見たときなぜだかしっくりきた。


目の色が左右で違う顔つきに逞しさを感じた。



大矢 「めっちゃなついてますね!珍しいっすよ!大体皆怖がって近付かないのに。飼ってもいいんじゃないすか?」



玉地 「お?、おん…」



俺の顔を真っ直ぐに見つめてくるこの犬に、強くありたい自分をどこか重ねていたのかもしれない。


俺は、保護犬だったハスキー犬を育てる事に決めた。




シュートを迎えてから3年程があっという間に経ち、今日も朝の散歩コースをシュートと一緒に歩いていた。




俺の所属するジムの近所が散歩コースだ。朝は静かで良い。空気も気持ちいい。




シュート 「ンンー、ワンッ!」



その時、突然シュートが吠えた。



玉地 「?、どうした?」



間髪を入れずに何かが割れる音と女性の声が聞こえた。



バリイィイィンッ!!



女性 「泥棒!!」



声がしたのは俺とシュートがいる先に建ち並ぶアパートからだった。歩道に面したアパートの一室の扉が乱暴に開くと中から女性が出てきた。




女性 「だれかっ!助けて!泥棒、空き巣がウチに入って、」



その瞬間、俺の握っていたリードが勢い良く手から離れた。

気付いた時にはシュートが声を出す女性の元へ走り出していた。



シュダダッ!



玉地 「!?、シュート!」


混乱する女性の顔を見た俺は、シュートの後を追いすぐに走り出した。




シュートは女性が出てきたアパートの扉へ一目散に入っていった。



玉地(心の声) 「泥棒?こんな時間に、どうやって入った」



俺は泥棒が何かを持っていないと家に入ることが出来ないだろうと予想はついた。がそれが何なのか、全く考慮が出来てなかった。危機意識が低かった。




ガタン、ガガ、ドンドン、パリンッ!!!




開いたままの扉の中から新しい物音が発していた。



ズダッ!!



出てきたのは泥棒と思われる全身黒で身を包んだ男だった。その男の右腕にシュートが噛み付いている。




シュート 「ヴヴゥゥヴヴッ!」



その男は右腕を強く振りながら俺がいる方へ走ってきた。シュートはどんなに振り回されようと顎を開くことはなかった。




玉地 「…ンン!、お前か!」




俺は男に向かって走って行く、男はシュートに気をとられていた。



ガッ!



俺は男の胸ぐらを鷲掴み。



ドンッ!!



歩道に背負い投げをした。




男の右手に握られていたのはナイフだった。




俺は男を抑えるのに必死だった。




怪我人はいないか、空き巣に入られた女性は見たところ無事に見える。



玉地 「ん?…血?」



男の持つナイフに血が付いていた。


誰の血だ?


部屋の中に怪我人がいるのか?


だとしたらさっき出てきた女性は真っ先に部屋に戻るはず。女性は様子を見にこちらに近付いてくる。




玉地 「…シュート!!?」




男を抑える時まではシュートの怒り声が聞こえていた。だがそれ以降シュートの気配を忘れ去る程に、いつの間にか男の右腕から顎を離して地面に倒れていた。




玉地 「シュート!、シュート!!」




シュート 「ハァ、、ハァ、、、ハァ」




シュートの横腹が赤い血と黒い血で濡れていた。呼吸が弱く声を掛けてもこちらを見ない。



俺はシュートの首輪に付いたリードを片手で何とか外し、悪あがきをする男の両手両足をリードでしっかりと縛った。


すると男は抵抗をあきらめた。




俺は空き巣に入られた女性が近付いてきたのを見て警察を呼ぶようお願いした。


すぐさま携帯を手にとって救急車にかけながらシュートを膝の上に乗せた。



シュートを抱き抱えると、足の付け根からお腹側が血で濡れていた。出血の多さが手で触るだけでわかる。



初めて聞くシュートの弱々しい声。

どうすればいいのかわからない。

ただ俺はシュートに顔を近付けて抱きしめた。



玉地 「シュート、よくやった。シュートが捕まえたんだ。ありがとう、ありがとう。すぐ病院に行こう」



細く開けられたシュートの瞳が笑うように目を細くした後、再び目を開くことはなかった。




連れていった病院先では、刺された場所が悪かったと獣医に言われた。

涙が止まらない。


日常に訪れた非日常は、俺の心を深く傷付け苦しませた。


救われた命と救えなかった命が同時に訪れる。そんな経験はもう二度と味わいたくない。










俺はシュートの墓前(ぼぜん)で手を合わせる。


シュートの様に勇敢で強い男になると誓って。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一現在・大矢が入院する病室一


グショグショに濡れた大矢の左手と玉地の寝顔がそこにはあった。



玉地は痙攣したかの様に意識を取り戻すと自分が大泣きしていた事に気付く。



腕で顔を拭う。



大矢 「先輩、」



急に大矢の声がして意表をつかれる玉地。



玉地は大矢の笑っている姿をとらえた。



大矢 「先輩、泣きすぎっすよ!俺を勝手に殺さないで下さいよ!」



玉地 「ン、バ、カ、ヤロゥ…寝汗が顔面から凄い出る体質なんだ俺はっ」



玉地がいつも知っている大矢の純粋な笑顔がそこにはあった。




大矢 「ハッハハ!」


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