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shadow  作者: 新垣新太
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ep8.偽造編・5話

鈴見がコンコンファイナンスの事務所を出て電話をかけた相手は山田だった。


山田 「…わかった。鈴見は怪我をしたのか?」


鈴見 「いや、私は平気です。今SBTのトラックが2台到着して現場調査を始めてます。引き続き稲荷の捜索に当たります」


山田 「無理はするな。俺達もすぐ合流する」



スマホ画面の通話終了ボタンを押した山田は、コンビニのレジで店員から温められたたこ焼きを受け取ると外へ出た。


コンビニ出口にはSBTの新井が立っていた。



新井 「山田さん」


山田 「おぅ?」


新井 「鈴見さんにわざとひとりで現場に行かせましたよね?」


山田 「なぁに、ああ言う奴は単独行動させた方がかえってやりやすいだろー?」


新井 「やっぱり!危ないですよ、女性ひとりで向かわせるのは」


山田 「まぁな。でもこれで稲荷が黒だって事が証明されたんだ。手柄は全部鈴見のもんだ」


新井 「まだ捕まえてないですから」


山田 「いやぁ、やるね鈴見なら仕留められる」



・・・


鈴見は山田への電話報告を終えて少し息をついた。逃した稲荷の臭いが鼻の下に残っていた。チョコレートの様な香り。雨の臭いと混ざって気持ち悪かった。


鈴見はSBTのトラックの荷台扉を開けて座りワインボトルの蓋を開けた。




グッ!


鈴見 「…ん、、鬼うま!」



戦闘後に接種するアルコール飲料が鈴見の意識をおぼろ気にする。



トラックの屋根からはみ出した手に雨粒が当たる。濡れる白い肌。黒いコンクリート。



鈴見 「…雨は、嫌い」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一約10年前・鈴見太鳳(すずみたお)15才一



ザアアアァ、ザザアァアァアァ、ザザザァ




止まない雨はないなんて、どこの誰が言ったのか。その言葉を考えた人を私は心底恨んだ。今まさに、降り続ける雨。その雨は土の中に吸収され尽くして水溜まりとなって私の手を濡らして行く。




今、私が両手を付いた地面の中に、死んだ父親が埋まっている。



学校終わりに母親から携帯電話に連絡があったのが30分前の出来事だった。


鈴見の母 「今すぐ白瀬橋(しらせばし)まで来て!お父さんが!、」


私は母親の震える声だけでなんとなく状況を掴んでしまった。白瀬橋は家から歩いて10分もしない場所にある橋。通っている学校から走れば20分で着くと予想がついた。


いつもなら友人と部活へ向かうのに、

今日は誰とも話さず教室から校門まで最短で動いた。



私の父親は自営業をしていた。何をしているのかはよく知らない。だけど、地域の人達がよく父親を訪ねに来てはお菓子や野菜を置いて行った。

母親から最近聞いた話では、地域の人達にお金の貸し借りもしている。とあまり浮かない表情を見せていたのを思い出した。



お金が無いと事あるごとに親から言われた覚えはあるが、別に他の友人と比べて貧乏とも裕福ともとれない位置にいる位は理解出来た。


それは父親がお金にルーズではない証拠でもある。

と言うことは、間違いなく誰かに大金を貸したのか、保証人と呼ばれる何かになってしまったのか。その位の想像は、全速力で白瀬橋に走りながらでも出来た。




なんで、



こんな時に、



雨なんか降ってきやがる。




鈴見 「橋っ!、、見えたっ!」




息を切らして走る私の視界には母親と父親の姿はなかった。

母親からの電話では、橋のどこにいるのかさえ知らされずに切れた。



私は先に橋の上を探した。



いない、車は通らない橋だから歩いている人か自転車に乗っている人位しかいないからすぐ判別はつく。



鈴見 「どこ!?、下?」




私は橋の下を探す。

橋の下には川が流れ、砂利と土、猫じゃらし等の雑草が所々に見えていた。




いた。

私と川を挟んだ向かい側に母親の後ろ姿が見えた。


私は橋を渡り、土手を下って母親がいる場所を目指した。




鈴見 「お母さん!」




鈴見の母 「太鳳!お父さんが、お父さんが借金の保証人にされてて!」


しゃがみこむ母親の側に座った私の前には、スコップを持った男が2人。あと晴れてもいないのにサングラスを掛けた男がひとりいた。



サングラスの男 「娘さんが来たよ鈴見さん…息してる?」



私は今気付いた。男達と母親との間に出来た穴に。信じられない状況を理解したくなかった。



全身に鳥肌が立った。



鈴見 「え…お父さん!?」



穴から砂と土煙が上がった。


鈴見の父 「オボッフオォッ!、太鳳!母さんと一緒に帰りなさい!、、お父さんは大丈夫だから!」



大丈夫な訳無い。そんな言葉、今一番似つかわしくないよ。

金貸しの男達はケラケラ笑っていた。



サングラスの男 「早く吐いてよ、藤本(ふじもと)の居場所。それとも保証人のあんたが責任持って1000万全部支払ってくれるなら話は別だが」



鈴見 「1000万?」


鈴見の母 「私達は知らないんです。許してくださいっ!夫を助けてくださいっ!」



鈴見の父 「ゴフオォッ!!、藤本さんの借金の利息はちゃんと払ってるだろ!、あの人は高飛びするような人じゃない!、ちゃんと探してないだけだ!」



私は母親に父親が埋められたのはいつからかと聞いた。

1時間前に穴に入れられた。そう小さく母親が答えた。



降り出した雨は強くなってきた。橋の下の土が水を含み始め、父親が埋まる土の色が深い茶色に変わっていた。



私は咄嗟に身体が動き、父親がいる穴へ向かおうとしていた。



サングラスの男 「バカな事言ってんじゃねえ」



私の身体はすぐに止まった。




サングラスの男が私に拳銃を突き付けていたからだ。




サングラスの男 「しゃがんで両手を地面につけ」


私は言う通りにした。

その時、何かを察した私は目が熱くなってくるのを感じた。



サングラスの男 「もういい。かけろ」



スコップを持った男2人が地面の土を掘って父親のいる穴にかけ始めた。



ザッ、サッ、ザッ、サッ



サングラスの男 「吐け、藤本はどこだ」



私の後ろから母親の泣き声が聞こえた。


土が穴にかかる。父親は頑なに強い声で´´俺は知らない!´´と叫んでいた。


土砂が雨を含んで重たくなっているのをスコップを掘る音で感じる。



父親の声は雨音で徐々にかき消されて行く。


私は声も出さずに泣いた。唯一サングラスの男達に反抗出来る行為だと考えた結果だった。


ケラケラ笑う男達をつまらない大人にしてやりたかった。



私が出来たのは、そんなちっぽけな行為だけだった。




・・・


サングラスの男達が去った後、母親と私は泣きながら父親が埋められた穴を掘り返していた。


だけど、男達がスコップで強く固めた土砂を女性の私達が両手で掘り返せる訳なかった。


爪の間に黒い土が入る。髪は濡れて身体は寒さを感じ始める。


もうこんな世界。終わればいいと思った。




・・・


父親の葬儀が終わると、父親が母親に内緒で入っていた生命保険のお金が入った。その金額で藤本と言う人の借金を全額返済して、私達のもとには少しお金が残る程度だった。




焼き肉に行こうと言ったのは母親で。


ふたりで七輪焼き肉で有名な地元のお店で、1枚ずつ焼き網に乗せた肉をじっと見つめるだけ。

気がつかないうちに、肉は焦げ、炭になるのを待っていた。



何も食べずに帰ろうとした私達は、さすがに空腹には耐えられず、通り掛かったコンビニで肉まんを2つ買って外で食べた。





鈴見 「…お母さん。…私、警察になる」


鈴見の母 「…警察?…なんで」


鈴見 「…別に。…困ってる人を警察が助けないってキモいじゃん」


母親は何も答えずに肉まんを食べた。



何でその時、警察になりたいと言ったのかは分からない。

でも、世の中には間違いなく良い人がいて、その人達が困らなくていい世界を作る為には、正義をふりかざす警察になる事が最短コースだと思ったからだ。



警察を信用してる訳ではない。

正義の仮面を被った悪魔だっているだろう。

だから私はそんな奴らを内側から叩き潰してやる。



良い人が、困ってる人が警察を頼れば全て片付く世界を作る。


その時私は腹をくくった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一現在・SBTトラックの荷台に乗る鈴見一


ガソリンが切れた車の様な顔をした鈴見は、同じような雨雲を見上げながらワインボトルに口をつける。



鈴見 「…こんな私でも変な警察で頑張っちゃってるよお父さん。…だから、ちゃんと見ててよ」



タッ、タッ、タッ、タッ



鈴見の前に走ってくる新井の姿。




新井 「…ハァハァ。遅くなりました鈴見さん!大丈夫ですか?」


鈴見 「…はぁ」


新井は顔を上げ鈴見の顔を確認する。そして、少し視線を下げた。

虎顔のシャツがしっとりと雨に濡れて鈴見の下着が透ける。



新井 「…鈴見さん。おっぱい揉ませて下さ、」



スバアァンッ!!



言いかけた新井の頭に、くるりと丸めた新聞紙が音を鳴らした。



山田 「血迷うな子羊。現場行くぞー」


新井 「…痛くない。むしろ心地よい…山田さん何ですかこの気持ち?」


山田 「やめてくれ、変な世界観に連れ込むな!、あー、鈴見は風邪引くから帰って風呂入ってろ!話は後で聞く」


鈴見 「はいーー」



だらけきった身体を持ち上げる鈴見は、新井にウインクをしてその場を去った。


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