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shadow  作者: 新垣新太
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ep8.偽造編・4話

風春が見上げる2階の窓ガラスに一万円札の束に押し潰される男はだらしない肉体を(あらわ)にしていた。


風春 「´´コンコンファイナンス´´。何の場所だ?」


潰れている男のちょうどお腹の部分を横切る様に´´コンコンファイナンス´´と白い明朝体(みんちょうたい)の文字が窓ガラスに貼り付けられていた。



風春 「明らかに変だ、他の一般人が誰一人この状況に気付いてない。一般人に見えていないと言うことはシャドウを使ってるに違いない。…巻さんが変な女に捕まってるのに、行くのか。…でもあの男の人をそっちのけで戻れるかよ」



風春は一度巻がいた方向へ視線を送ったが、足は窓ガラスに押し潰される男がいる建物の中へ進んでいた。



・・・


一5分前一


SBTの鈴見は水道橋駅付近にいた。


鈴見は先日行われたプロレスの試合観戦中に山田からある事件の話をされていた。


山田 「別に遊びに来たわけじゃねえよ。本当だ。つい最近、この水道橋駅周辺にある銀行・信用金庫・郵便局から多数の被害届けが出された」


鈴見 「強盗っすか?」


山田 「違う。偽造紙幣が出回ってると報告が上がってきた。今では一般人からも偽造紙幣じゃないかと被害の声が上がり始めてる」


鈴見 「へー。じゃあもう犯人いなくなってるんじゃないっすかー?」


山田 「最後まで聞け。なぜ銀行やら一般人が偽造だと気付いたのか、それには不可解な現象があった。本来お札の形をしていたのが、ATMにお金を預けた途端や、自分の財布に入れていたはずのお金が、黒く溶けていたという話だ」


鈴見 「偽札は偽札でも、本来形のなかったものが札になったという事っすか」


山田 「だからSBTにいる我々に話が来た。そこで俺が気になってる奴がひとり、この水道橋で生業をやっているんだが」


鈴見 「いやだー!もしかして片想い?恋バナ聞きたいーーー♪」


山田 「いやだ恥ずかしいぃぃいい」


鈴見 「…ごめんなさい、ちょっと今の気持ち悪かったっす」


山田 「おぉ、すまん。…で話に戻るが、水道橋で金貸しをやってる稲荷(いなり)って奴がいる。警察の中でも噂の絶えない奴だ。ただの金貸しじゃなく高利貸し、つまり闇金をやってるって話だ。ただ尻尾を出さないから捕まらないイタチみたいな奴で掴み所がない。俺はそいつが今一番怪しいと踏んでる」



・・・


コッ、コッ、コッ


鈴見は山田から聞いた話を反芻(はんすう)しながら歩いていると、建物2階の窓ガラスに押し潰される男を目撃した。



鈴見 「あぁーー。やってんなーー(笑)」



風春が建物の2階へ繋がる階段を上がる頃、鈴見は外からコンコンファイナンスの窓ガラスを見た。鈴見は有無も言わずに同じ建物の階段を上った。



・・・


一コンコンファイナンス事務所では一


稲荷を含む男3人が窓ガラスに押し潰される男を眺めていた。




稲荷 「払えんの?」


黒髪オールバックの稲荷が冷淡に問う。



井口(いぐち) 「ムムム、ムムムムッ…」



稲荷達からは窓ガラスに井口の姿が一万円札で覆われた人型にしか見えていない。




稲荷 「大崎(おおさき)。返済金額いくら?」


稲荷に聞かれた大崎と言う男は大学生の様な見た目で、サラッとヘアを横に振りながら答えた。



大崎 「はい。現在の返済金額は支払い期限の昨日までの合計125万円。今日は期限を過ぎているので10日6割の利子が上乗せされて200万円ピッタリです」


井口 「ムムッ、ムムムムッ、」


稲荷 「ちょっと何いってるか分からないわ、ちゃんと喋って」



バサパラパラ、



井口の頭部を覆っていた一万円札だけが剥がれ落ちて行く。


井口 「っとぅは!、10日で6割なんて犯罪だろ!!…今日はちゃんと返済しようと思ってここに来たんだ!」


すると窓ガラスに押し潰される井口に近づくもう一人の男が口を開く。


山内(やまうち) 「へえー。じゃあいくら持ってきたの?早くだして!」


井口 「……ん、今は、、返そうと思って来たんだが持ってくるのを忘れた…」



山内 「ハハハハッ!あっそー!じゃあおたくの身体についたブヨブヨのお肉でも切り捌いて油売りでもしてもらおうかー?」



稲荷 「ダメだ。井口の肉なんかに価値はねぇ」


山内 「じゃあどうして今日ウチに来たー?」


井口 「…返済の延長を…あと、10万円を借りに」





稲荷 「……わかった。10万円。返済は10日後だ」


井口 「あ、あ、ありがとうございます~」



ミシ、ミシッ、ミシシ



井口が押し潰される窓ガラスに小さな亀裂が入り始めた。



井口 「?」



コンコンッ



山内 「ん?大崎」


突然事務所のドアがノックされた。井口以外の全員がドアに視線を送る。山内に顎で指示された大崎がドアの前に立ち訪問者に訪ねる。



大崎 「はーい?」


風春 「すいません宅急便です」



ガチャ



ドアを開けた大崎の目の前に現れたのは風春だった。大崎は何も持っていないどころか宅急便の姿すらしていない風春の姿に怪しんだ。



大崎 「何の用?」



風春(心の声) 「中にいたのは3人。とあの窓ガラスにいるおっちゃん。あの鈴見って人の言う通りに来たけど、」


・・・


一3分前一


風春が建物に入りコンコンファイナンスの事務所ドアの前に到着した時。後ろから階段を上ってくる鈴見が風春に声を掛けた。


鈴見 「あれ?ここの人?」


風春 「あ、いやさっきここの窓ガラスに貼り付けられたおっちゃんが気になって訪ねに来ただけで」


鈴見 「へぇー。良いこと考えた♪」


・・・


一現在一


招かれざる訪問者・風春に一瞬の沈黙が訪れる。


山内 「おぅ兄ちゃん!ここで素っ裸にされて遊び道具にされたくなかったらとっとと帰り…」



その時だった。

井口が密着している窓ガラス全体にひび割れが起きた。




バリキイィイィインンッッッ!!!!




割れる窓ガラスに引っ張られる様に外へ落ちる井口に全員の視線が集まる。




井口 「のわぁあぁあっ!!?」




2階の外壁に鈴見が砂のステップを作り待機していた。



鈴見 「´´砂綱(ブロックチェーン)´´」



鈴見は影から現した綱状となった砂を窓ガラスを割って落ちてくる井口の両脇に通した。



シュルッ!、ギュギュギュッ!!



そして鈴見は両手で掴んだ砂綱を引っ張り井口の身体が地面に落ちない所で持ちこたえた。

井口の身体はゆっくりと地面におろされ井口は目が点に口をポカリと開けた状態で鈴見を見つめた。



鈴見 「あ、ども。警察でーす。早いとこ逃げてください」



井口 「バ、ンバ、バケモンかあぁあぁー!」



鈴見 「あーぁ。…さてと、中にちゃんといらっしゃいますかな?」



鈴見は割れた窓ガラスの(ふち)に持っていたワインボトルで棘の様に残ったガラスを削り落とした。



バキパキパキバキキン!



ガッ!


タッ!



窓縁を掴んで飛び事務所に鈴見が入ると、そこには稲荷と全身焦げ茶色の風春がいた。




鈴見 「んー?おっちゃん独り?」


稲荷 「不法侵入だろ」


鈴見 「警察だよ♪、あれ?彼固まってる?」


鈴見は全く動かずに立っている風春を確認する。



稲荷 「何の用?、コイツはチョコにした。あと2、3分もすれば窒息死する。死体を持って帰りたくなければ答えろ」



鈴見 「水道橋駅周辺で多発している偽造紙幣の事件について見覚え心当たりはありますか?」


稲荷 「知らねえ」


鈴見 「一般の人達が偽造紙幣の被害があった日、お祭りがやっていてそこの射的屋を利用した際、サービスでとお金を返されたという話はご存知ですか?」


稲荷 「それも知らねえ。うちはただの金貸しだ」


鈴見は床に落ちている一万円札を1枚拾った。

すると、ポケットから100円ライターを取り出した鈴見は一万円札の端に火を付けた。


鈴見 「普通お札に火を付けると少し緑がかって燃えるはずなんですよね…」


鈴見が持った一万円札は黒い火を出しながら端から少しずつ散って行く。鈴見はその一万円札が燃える隙間から稲荷を見つめた。



稲荷 「悪いのは俺じゃない、先入観を信じすぎる人間が悪い。恐ろしいのはそっちの方だろ」


鈴見 「お金で人を騙す。クズな男」


稲荷 「いや、金に取り憑かれた奴らがクズだ。だから俺は人間の底辺にいるそんなクズ達と遊んでやってる」



鈴見の脳裏に(よぎ)る父親の姿。額に青筋を立てた鈴見はシャドウを現した。


鈴見 「お前を逮捕する」


稲荷 「話が長えよコイツ死ぬぞ」


鈴見の鋭い殺気に反応した稲荷も影から黒い液体を浮き上がらせる。



鈴見 「かかってこいよ!」



稲荷は両手を貝殻握りで繋ぐと右脇に引いて構える。


ズズズッ


稲荷の影から大きな泡状のモノが膨らむ。



稲荷 「´´龍頭(カラフルサプライズ)´´」



稲荷が握っていた両手を前に突き出し開く、その手の中から大きな白い玉が2つ前方に飛ぶ。



その白い玉を追い掛けて稲荷の影から黒い噴煙が伸びて包み込む。2つの白い玉は目玉に変わる。

そして黒い噴煙は2メートル程の大きな龍の頭となって鈴見に噛み付こうとした。




グゥウワァワワァアッ!!!!




鈴見 「´´砂卵(ゴーレムエッグ)´´」


瞬時に黄色い砂が鈴見の周りを取り囲むと、幾何学模様をした卵型となって固まった。




ガアァアガキィイィイッッ!!!!




稲荷 「そんな砂じゃもたねぇぞ」



一鈴見と稲荷が戦闘中・風春は瞑想していた一


風春(心の声) 「…なんだ…ここは?…そうだあのオールバックの男の影が俺に襲ってきて…で、どうなったんだ?」



風春の後ろから声がした。


城戸元(きどげん) 「風春、大事な事はすぐ忘れる」



風春は振り返った。


風春 「え、じいちゃん」


城戸元・風春の祖父 「´´呼吸´´はボクシングの(かなめ)と言ってるだろ。呼吸が浅く息が苦しくなっている時、意識する事は何だと言った?」


城戸元の表情筋に一切みだれはなかった。


城戸元の言葉が風春の心の中に、水が空のコップの中へ流れるように入って行く。


風春 「えっと…深呼吸、かな」


城戸元 「(いな)。無呼吸状態はボクシングの境地。自身に流れる血液の脈動を筋肉の一点に注ぎ込み、集中し力を放出すれば思いもよらない力が現れる。それが光明(こうみょう)となる。わからなくて良い、わかろうとする事が自分の成長を妨げる時がある。まずはやってみる事だ」



スッ



風春 「じいちゃん!」


城戸元の姿は煙となって消えた。



風春 「…うっ……く!、なんだ…息が苦しく、なってきた。……俺が今一番集中して力を込められるとしたら」



胸を掴んで呼吸が浅くなった風春は、膝まずきながら自分の右手を見つめた。



ググゥ!



ゆっくりと右手を握り力を入れる。身体全体を流れる血液が血管を強く押し広げる。自分の身体が大きなひとつの心臓となった様に風春は感じた。



一その頃、鈴見と稲荷の戦闘は一



ガッキピキィィッ!



鈴見を包むゴーレムエッグの一部に亀裂が入った。その直後稲荷が現した巨大な龍頭の鋭い刃がゴーレムエッグを噛み砕く。




ガバキバキイィイィイイッッッ!!!!




稲荷(心の声) 「俺のゴールデン・チョコレートが生み出した龍の刃が砂ごときを砕けない訳無い。砂は変幻自在かもしれないが相手が悪かったな」



その時。龍頭が噛み砕いた砂が床の一部に流れ落ちた。




ズササアァ…ズ、ズズ、ズズズ




その砂が徐々に盛り上がると、人の形をなして最後には鈴見の姿へと変わった。



稲荷 「(身体を砂に変えたのか?)、面倒くさい女だ…!?」



バキバキバキバキインッッッ!!!!!



突然稲荷の側で固められていた風春を纏うチョコレートの殻が弾け飛んだ。細かな電撃が風春の身に纏っていた。



稲荷(心の声) 「あぁ?何でコイツ俺の最硬度のチョココーティングを破った…あり得ない」



その風春を見た鈴見は何やら興味津々な表情を見せた。



風春(心の声) 「何で足元にこんなに破片が?……そうか、これがオールバックの男のシャドウの能力。俺は何かで身体を覆われて息が出来なかったんだ。…なぜだろう、じいちゃんの言葉通りに出した´´雷拳´´の反動が軽くなってる。前はかなり痺れが全身に残ってた。でも今は指先が痺れる程度。何かが変わってる」



殻を破った風春が静止している間に、稲荷は龍頭を動かし風春を食らおうとした。




風春 「うん!?!?」



バガン!!



風春の身体は床に倒れていた。龍頭は何もない空を食べる。



ズザザザザアアァァッ!!!



鈴見は砂綱を使い風春の足首に引っかけると自分の元まで近づけた。



鈴見 「面白い!立て!」



砂綱を解かれた風春は、その場ですぐに立ち上がり稲荷の方へ向いた。



風春 「何すかあの龍の頭は?」



鈴見 「説明してる暇はない。アイツを倒す。構えろ!」



風春は分からずもファイティングポーズで構えた。



ササアァ…ササアァアァ…ササ



鈴見 「これは私のシャドウだ。拳に砂が纏ったら、さっき見せた電気を起こせ」



風春 「んな、砂?、アイツ悪い奴だったんすか!?」



鈴見 「井口康平(いぐちこうへい)48歳。窓ガラスにへばりついた男を見ただろ?」


風春 「さっきの」


鈴見 「井口には別れた妻との間に12才の息子がいる。その息子と会えるのは半年に一度。井口は息子との時間を大事にしていた。食べたい物を食べさせ、欲しいものを買ってあげた。ギャンブル依存症の井口に金なんか無い。だから闇金に頼った。ただ闇金の中でも借りた相手が悪かった。高額な利子を付けて借りさせ、その場限りの理由で返済から逃げる奴らをあえて見逃した。ただし、借金が無くなる訳でも減る訳でもない。雪だるま式で増やした返済額を足かせに少額ずつの返済で許す奴ら。それをしているのが兄さんの目の前にいる稲荷亨士郎(いなりきょうしろう)。コンコンファイナンスの社長さんだ」


風春 「違法な利子で金貸してんのかこいつら…」


稲荷 「フ…そいつの話を鵜呑みにするのか」


鈴見 「金貸し業が悪いって言ってんじゃない。実際金に困ってる国民が沢山いるから生業(なりわい)が成り立ってるのも事実。とくにコロナが流行りだして低収入人口が増えてる。…だけど、貸す側は金を貸すだけの簡単な仕事に成り下がってる。本当の金貸しってのは、借りる側の人柄・家庭環境・経済的能力を熟知するのはもちろん。借りる人間が金があっても無くても困らず生きていける術を享受(きょうじゅ)するって部分が大分昔にスッぽ抜けてるようだ」



稲荷 「バカはバカのままでいい。その方が幸せだったりもする。先入観で人や物事を何も考えずに判断するようになったバカ量産型のこの国が俺にとって都合が良い」



鈴見 「そこで思い付いたのか、偽造紙幣を」



風春 「…もぅわかったよ、やるよ、´´雷拳´´」





バチバチッ!バチンッ!!



風春の2つ拳に纏う砂から電気が飛び散る。



ブクゥ、ボコン、ブクゥゥ、ボン



稲荷(心の声) 「なんだあれは?、ガキの手にまとわりついてる砂の中からソフトボールサイズの砂玉が出てきた。…あの放電も気になる」



風春 「これもあんたの技か」


風春は顔を横に向けて鈴見に聞く。



鈴見 「兄さんの電気を見てひらめいちゃった♪」


鈴見(心の声) 「私が纏わせた砂の中にある砂鉄が、コスプレ男が出した電気にうまく反応した。おそらく砂鉄が特質反応を起こしてる。それに私のインスピレーションが合わさってくれれば、この砂鉄に電気が帯びて放電玉になってくれるはず」



風春 「こっからどうすんだよ?」


鈴見 「(笑)。もっと電気頂戴♪」


風春 「…おう!」



バチバチバチバチバチチチチチッッッ!!!!!!



風春の両手から強い電光と激しい音が事務所内を刺激する。増幅される電気に反応して砂の中からソフトボール大の砂玉が風春の周りで浮遊する。




稲荷 「´´龍尾(カラフルサプライズ)´´」



稲荷はスカジャンの左ポケットから取り出したパチンコ玉サイズの黒い玉をひとつ風春達の方へ飛ばした。



ズオォオォオオッ!!!



すると稲荷の影から黒い噴煙が現れると、事務所の床から天井まで届く程の大きな龍の尾がしなりながら風春達に向かって勢いよく出てきた。



鈴見 「´´放電玉(デザートボール)´´!兄さん防御しろ!」



巨大な龍の尾が割れた窓ガラスを背にした風春達を路上まで吹き飛ばす。



ズドゴゴォオォオッッ!!!!



風春 「んぐっ!」



鈴見 「´´座布砂(ざぶざ)´´!」



建物2階から吹き飛ばされた風春達。路上へ落ちる前に柔らかな白い砂が地面に充分に出現すると風春達は着地に成功する。



風春 「クソッ!無駄にバカデカイ、どうやったら」


鈴見 「私のアイデアで作った即興品。意外と効いてるね~♪」


風春 「…え?」




稲荷 「あのふたり、相性が良いのか?…今はそんな事考えてる程暇じゃねえ。さっさと潰してここから離れる」



鈴見が龍の尾に吹き飛ばされる直前に放った放電玉。その全てが龍尾に的中していた。龍尾に当たった放電玉の部分だけがぼっこりと穴を開けていた。




鈴見 「兄さんもう一回電気出せ!アイツに考える隙を与える前に叩く!」


風春 「…やってみるよ!…ナックル!」



バブシュウウゥゥッ!!



風春の横にナックルが現れた。


風春 「連続して雷拳をだすには身体に負担がかかる。次で決めないと俺達が危ないっすよ!」



鈴見 「楽勝だよ♪」



と言って鈴見が稲荷のいる2階を見上げながら左手を前にかざした。



ズササアァ…ズ、ズズ、ズズズ



風春 「…!?階段?」



鈴見 「正面突破だ(笑)」



風春の前に現れたのは鈴見の影から流れるように集まり出来たレンガの足場。その足場はひとつひとつに隙間があり、一段一段は稲荷がいる建物2階へと向かって出来ていた。



風春 「空気、階段」


鈴見 「足場使って龍がいる所まで飛べる?」


風春の前に浮かぶ足場は綺麗に並んでいる状態では無い。歯抜けになって浮かぶレンガが少し揺らいでいる。



風春 「…楽勝っすよ」


鈴見 「じゃあ…走れ」



稲荷はひとつ深呼吸をした。

そしてスカジャンの右ポケットから赤い玉を取り出すと口に放り込む。



カッ!



赤い玉を奥歯でキャッチし、(あご)に力を入れて行く。



ガッキィッ!



稲荷 「´´龍丸(カラフルサプライズ)´´。……ヴゥヴゥヴオォオォオオオッ!!!」



すると稲荷の全身に黒い噴煙が纏い出した。




ガッ


風春は一歩目の足場に左足を置いた。



風春 「ン…シャアッ!」



ダダダッ!!



不安定に揺れる足場の上を何とか駆け上がって行く風春。



風春 「!?」


すると後ろから一緒に走ってくる鈴見に気付いた風春。



鈴見 「前だけ見てろ!そろそろ足場なくなんぞっ!」


風春 「おし、、よし、、」



風春が残り2つになったレンガに足をかけた。



鈴見 「雷出せ!!」



風春 「´´雷拳(ライジングサンダー)´´!」



バチバチバチンッッ!!!



電撃が風春の言葉に呼応して両手に纏う。




鈴見 「飛べっっ!!!」



風春は最後のレンガを踏み越えて建物2階へ向かって高く飛んだ。続いて鈴見が風春のほぼ真後ろにポジションを取って飛ぶ。




稲荷 「バアガアオオオオォオォン!!!」




建物を揺らす程の雄叫びを上げた稲荷の姿は、巨大な龍そのものへ変化していた。



風春 「バケモンが…」



稲荷 「さぁ来い人間。食らってやる」




鈴見 「右手貸しな!」



風春 「ん?」



空中で少し後ろを向いた風春は、少しだけ右腕を上に上げて鈴見とアイコンタクトを取った。



その時。鈴見はダークグレー色の大きな蠢く玉を両手でこさえて風春に投げようとしていた。



鈴見 「ユニゾンよ!´´泥鉄(でいてつ)巨人拳(ギガントロック)´´」



風春 「…(あの黒っぽい玉。ユニゾンってさっきは俺の両手を砂で覆ってたけど…)、そういう事か!」



再び稲荷の方を向いた風春は、右の拳だけに´´雷拳(ライジングサンダー)´´を発動した。



バチバチッ!!!



鈴見 「行ってらっしゃい!」



鈴見は両手でこさえた大きなダークグレー色の玉を風春に向かって投げた。



ブンッ!!!




ズグンッ!!




風春の右拳に鈴見が投げた玉が纏った。



ズズズズッ!



すると玉状となった風春の右拳が徐々に大きさを増し、巨人の握り拳に変形し始めた。




稲荷 「ガロロロロロロロウウゥゥウウッ!!!!」




事務所へ飛び込んでくる風春を睨みながら威嚇する稲荷は龍の身体から眩しいほどの光を放った。



風春 「くぅっ!、重てぇけど…まだなんとかなってるぞ!このままあのオールバック男に、届けコンチクショウッ!!!」



風春は巨人の拳となった右腕だけに集中力を注ぎ光放つ稲荷に向かって右の拳をねじ込んだ。




鈴見 「やだ。優しくしないとダメなんだよ♪」


可愛い声を風春に届けるも返事はなかった。




稲荷は猛スピードで風春に突き進み、風春は全体重を右拳にのせて打ち込む。





ドドゴンッッッッッ!!!!!





強い衝撃と振動が全方位に発する。



稲荷は風春の右拳を全身で受け止めていた。


稲荷 「フンッ!見せかけの大きさに力が比例してなかったな…」



風春 「はぁん!?」



バチン!



鈴見 「だから…優しくしてって言ったじゃん♪」



その瞬間。風春の巨人の拳から青白く光る電撃が事務所の隅々まで飛び散った。




バチバチバチバチバチバチバチバチッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




稲荷 「ングフッ!!!」




稲荷の身体は壁に吹き飛び、電撃によって一瞬で焼け焦げた事務所には薄煙りで白けた視界が広がっていた。






ドッ、ザ!


風春は飛び込んだ事務所の床に膝を付いた。



風春 「あぁうぅ…さすがに全身が痺れてんな」



シュウゥウゥウゥ



鈴見のシャドウが風春の右手から溶けるように消えて行く。



外から声が聞こえてきた。



鈴見 「おーい!、やったのかー!、やったなら早く捕まえとけよ兄さんよー!」



鈴見の声だった。




ザッ、ザッ、ザッ



風春(心の声) 「そうだ、あのオールバックの男は?」


風春は煙を吸って咳き込みながら、一番煙が濃く黒い影が浮かぶ場所へと歩いていった。





そこには気絶をした稲荷がうつ伏せに倒れていた。




風春は靴の中敷きから白い正方形の紙を取り出し稲荷に近づく。




とその時。





ジリリリリリリリリリリリリンッ!!!


空気をつんざく電子音が響いた。




風春 「んだ!、この音!?」




カチャ、カチャカチャカチャッ!!




風春は音に驚き一瞬目を離した瞬間。稲荷のいる方へ再び目を向けた時、風春の前には宙に浮かぶ10丁程の拳銃の銃口がこちらに向けられていた。




シュルシュルシュルルッ


そして倒れる稲荷の身体には無数の一万円札が巻き付き始める。




風春 「拳銃!?この距離じゃ逃げ切れ…」




浮かぶ拳銃から火薬で付き出された銃弾が風春へ放たれる。



パンパンパンパンパンパンッッッ!!!!




風春 「んぐ!……」



身構えた風春は発砲音だけで痛みを感じないことに気付き薄目を開ける。




目の前には黄土色の壁が突如現れており銃弾を防いでいた。




その時、風春は事務所の入口に鈴見が立っている事に気付いた。




風春 「…ありがとう、ございます」


鈴見 「チッ!逃げられた。…」



風春は目の前に倒れていたはずの稲荷の姿が消えている事に今さら気づく。




風春 「さっきの音は…」


鈴見 「おそらく緊急アラートを自分の影に仕組んでおいたんでしょ。賢い野郎」





稲荷との戦闘で事務所の中は無残な形になっていた。風春の足元に焼け落ちた一万円札が1枚だけ薄煙りをあげていた。



風春はその煙を嗅いだ時、ほのかにチョコレートの様な香りを感じていた。




ポツ、ポツツ、ポツポ、




外からホコリの香りと雨音が事務所内に入ってきた。




鈴見 「あー。山田に何て言われんのかなぁ…」


スマホを耳に当てた鈴見は誰かに電話をかけながら事務所を出ていった。




事務所に残された風春は、ここに来る前の事を思い出そうとしていた。



風春 「…で、何しに来てたんだっけ?……そうだっ!巻さん!」



ザッ、ザッ、ザッ!



少し電撃の痺れが残る身体をぎこちなく動かしながら風春も事務所から外へ出ていった。




降り始めの雨は、それまでの空気を一変させて湿り気を人々にもたらし始める。



・・・



シュルルルルルルウゥ…



コンコンファイナンス事務所建物の裏手側。人気(ひとけ)も街灯すら無い脇道に稲荷はいた。




稲荷 「俺が…油断した。のか…まだ生きてる……やれる事が、まだ、、あったな」



ズズズ、ズズズズ



稲荷の影から焦げ茶色の液体が溢れ出てくる。その液体は稲荷の足を包み、次第に腕や腹、頭部まで侵食して行く。稲荷の顔は口元だけがまだ侵食されていなかった。




稲荷 「…ゴールデン・チョコレート。…俺と融合しろ」


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