ep1.雨の街編・6話
風春は獅子頭を見つけられず、佑都達の元に戻ろうとしていた。すると、上り電車のホームで、佑都達6人が1列に並ばされていた。その前には雫が立っており、何やら話をしていた。
雫 「私が預けた大切な一閑張りの傘を、、ほらここ、穴が空いている」
佑都 「姉ちゃんが来るのが早ければ、傘なんて使わずに済んだんだ」
雫 「6人がかりでシャドウひとり、足止め出来なかったのは何故だ?」
光 「あいつ、爆弾系のシャドウだよ」
賢人 「眼帯の姉ちゃん、スマホでちゃんと録画してあるから、どんなやつだったか分かるよ!」
雫 「ほう、興味深い。私の投げた傘針も役に立てば、シャドウの居場所が掴めるかもしれない。まぁそれは後で良い、、、詫びろ」
佑都 「え?」
雫 「傘を破損させただろう。謝るのが常識だと大人に教わらなかったのか?」
賢人 「嫌だ」
雫 「ほう、じゃあ、逆立ちをしながらごめんなさいで許してやろう」
光 「嫌だ」
一弥 「嫌だ」
智輝 「嫌だ」
哲太 「嫌だ」
雫 「そうか、では仕方がない。シャドウと戦ったご褒美に持ってきた、´´麺処たけし´´の究極カップ麺を用意していたんだが。これは、私がひとりで6個頂くとしよう」
雫のその言葉を聞いた途端。佑都達6人は目をキラキラと輝かせ、半開きの口からよだれを垂らしていた。雫は麺処たけしのカップ麺を佑都達の目の前に置いて行く。
佑都 「やり方が汚いぞ」
光 「佑都これは、、俺達がずっとコンビニで狙ってたやつだぞ!」
賢人 「母ちゃんにも買って貰ったこと無いのに」
一弥 「パッケージが輝いて見える」
智輝 「よりによって腹が減ってるときに見せられると」
哲太 「あべっ、よだれが!」
雫 「詫びるのか!、詫びないのか!、早くしろ」
風春は、佑都達6人がホームの壁側に並んで逆立ち謝罪をしている姿を目撃した。その6人の姿を見た雫は、ニヤリと笑い満足そうな表情を見せる。
雫 「よし、許そう。ご褒美だ、持って行け」
そして、佑都達の近くに来ていた風春に雫が視線を向けた。
風春 「あっ!」
雫 「それで、そこに立ってるお前さんは誰なんだい?」
風春 「えっとー、俺。柳田さんに吉祥寺で眼帯娘と合流するように言われた、風春って言います」
雫は一瞬白目を向く。
雫 「あーー、の、野生おっさんか。誰が眼帯娘だ。、、つまりはお前さん、シャドウ使いだ」
風春 「はい、シャドウを全部倒しに来ました」
雫 「ほう、そんな格好でよくその台詞が吐けたな。まぁ、野生おっさんが見込んだ奴なんだろう。ちょうど今、バディに欠員が出てな、代わりについてくるか?シャドウ狩りに」
風春 「はいっ!」
雫 「んで、あのガキ共は、と」
佑都達6人は、雫が視線を風春に移した瞬間に、麺処たけしのカップ麺を手に持って、颯爽とその場を後にしていた。
佑都 「こんなところで麺処たけしをゲット出来るとは思わなかったな」
佑都達は、マウンテンバイクで人混みや警察官の制止を避けながら駅を後にする。
風春 「子供って速いなー」
雫 「持て」
風春 「え、、これは」
雫 「私の大切な傘だ。慎重に扱え」
風春 「あ、はい」
雫から手渡されたのは、一見普通のビニール傘だった。すると、雫と風春の元に警察官がやって来た。どうやら、雫から話を聞きたい様子だったのだが、雫が何かを警察官に見せると、「失礼しました」と雫に敬礼をした。
雫 「行くぞ」
と雫は風春の顔を見る。
風春 「はい」
雫 「私の投げた傘針から信号が入っている。そんなに遠くには行っていないようだ」
風春 「さっきの爆弾男ですか?」
雫 「そうだ」
ふたりが歩いて吉祥寺駅南口を出る頃。雨は既に止んでおり、濡れた地面だけが黒く色を変えていた。
・・・
佑都達は、通っている小学校のすぐ近くにある賢人の家でお湯を頂き、小学校にあるほほえみの丘でカップ麺を食べていた。ほほえみの丘の上では、佑都と賢人が食べ、一弥と光と智輝は丸いトンネルの中で食べ、哲太はマウンテンバイクに跨がり食べていた。
哲太 「ふーっ!ふーっ!」
一弥 「ジュジュジュッ」
智輝 「ズルズルッ!ズルズルッ!」
光 「あーっ!うまっ!!」
賢人 「こんなに旨いもん、大人達は食ってんのかよ」
佑都 「あー、身体動かした後のカップ麺は最高だな」
佑都は、カップ麺を堪能し終えると、ポケットから10円ガムを取り出して口に入れた。その頃、獅子頭は、走行中の観光バスの中でガムを噛んでいた。
獅子頭 「おー。そろそろ吉祥寺駅辺りかな。では、お前達、行っておいでー」
そう言うと、獅子頭の影の中から紅色の蟻達が現れ、観光バスの後方へと進んで行く。
・・・
雫と風春は、吉祥寺駅南口から歩いて数分の所にある大きな道路の脇まで来ていた。
雫 「この辺りだな、、近づいてくる」
風春 「え、どこです?」
目の前の道路を沢山の車達が通り過ぎる。そこに、2台の観光バスが緩やかに走って来た。その2台目の観光バスの最後部の裏側では、獅子頭が現した紅色の蟻が直径50センチ程の塊となっていた。その蟻達は数を増しながら、塊の中をひたすらに動き回る。
獅子頭 「そろそろ、準備出来たかな」
2台目の観光バスの最前列に座る獅子頭。その時、塊となった蟻が熱を帯びて赤く光り出した。
バゴォオオオオオオオオォンンンン!!!
突如、雫と風春の右斜め前方から、走ってくる1台の観光バスが爆発した。その観光バスは、お尻が爆発で持ち上がり、前方に倒れ仰向けとなった。
雫 「やはりな。お前さんは先に119番に通報、その後はその傘を開いて身を守れ」
風春 「!?、分かりました!」
雨上がりの空の雲間から、少しだけ陽射しが差し込んでいた。雫は爆発する観光バスの中から、獅子頭が外に飛び出してきたのを見逃さなかった。
獅子頭 「あーー。やり過ぎちゃったな。これじゃあ、皆死んでるでしょ」
観光バスの爆発により、片側二車線の道路がふさがり、観光バスの後続の車達が渋滞を起こしていた。
雫 「レイン、貴重な陽射しだ。銀傘の準備をしておこうか」
雫が傘に語りかけると、手に持っていた銀色の傘を閉じたまま空に刺す様に放り投げた。すると傘はそのまま重力を無視して、遥か上空へと向かっていった。