ep7.植物の都編・8話
西村は衣李果から貰った麦茶の入ったペットボトルを開けると一気に半分まで飲み干した。闘いで火照る身体に生ぬるい麦茶が体温を少しだけ和らげる。
西村 「…アーーァ!」
西村は麦茶の香りに癒され目をつむり下を向く。
さらしで胸元まで巻かれた身体。
膨らみのある谷間とさらしの間に黒い紙が頭を出していた。
西村 「ん?…植物野郎の影移し、忘れてた」
スッと指で黒く染まった紙を抜き取る。
西村は黒い紙を麦茶の風味が残る鼻元に近付けた。
甘い花の様な香りが西村の鼻腔を刺激する。
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一宇栄原玲奈・7才の頃一
小学校の花壇に植わる薔薇の花を触った。それから30分もしない間に、俺の手と腕にはじんましんが出て痒みが現れた。
保育園に通う頃。俺は周りの友達と出される給食やおやつが違う事に気づく。
バラ科アレルギーだと母親に言われた。
リンゴ、もも、アーモンド。バラ科の果物や食べ物を食べると口のかゆみや腫れが現れる。
バラ科アレルギーは一部の花粉症を合併して起こさせるらしく、小学校入学と共に花粉症にも世話になった。
だからと言って、花壇に咲く薔薇を触る位は何ともないと思っていた。
黄色や赤色、薄いピンクに白色。俺に触ってくれと言わんばかりの色気と香りを漂わせている。
でも結局じんましんは出た。
・・・
一宇栄原玲奈・18歳の頃一
俺はアレルギーを克服したいと強く思うようになった。別にバラ科アレルギーだとは言え、食べ物や花は好きだし嫌いな理由が無かった。
ただアレルギーなだけ。
かかりつけの医者と相談した結果。
食べ物を克服する事は現時点では難しいが、バラ科の植物に関しては直接触れないと言う条件付きで身近な場所に置いてみる積極的療法をする事にした。
俺は薔薇を買いに学校の側にあった菊川商店街にある花屋に入った。
園田絵美 「いらっしゃいませー!」
明るい声に迎えられ俺はなんだか恥ずかしい気持ちになった。
だが、それ以上に花屋に陳列された花々(はなばな)は自信満々に咲いているように見えた。
店内に男の客は俺ひとり。
そんな事も忘れる程俺は、種類の違う花をひとつひとつ眺めていった。
声をかけられたのには正直びっくりした。
園田 「植物系男子ー?花が好きなの?」
宇栄原 「あ、いやー、別に。…家の玄関に置く花を見に来たんです」
この店員さんは向日葵みたいな人だった。
常に笑顔で、明るい声。
人との距離を縮めるのが根っから上手そうな人。
園田 「そしたらー。桜はあなたに合ってるかも」
パッと手渡された桜の枝木。
まだ蕾の状態だったが、ほんのりピンク色で可愛かった。
園田 「ちゃんと満開に咲くから、写真撮って見せに来てね!」
宇栄原 「え、あ、もう少し他も見てみます」
園田 「もう閉店時間よ。またいらっしゃい」
俺は通っている学校の側にこんなに素敵な店があることに今更気づいた。
もうすぐ卒業なのに。
どこか遠くへ行くわけでもないのに、何故かもう2度とここに戻れないような感覚に襲われて、突然俺は卒業後の進路を´´都フラワーズ´´の花屋に就職する事を決めた。
・・・
一都フラワーズに入社後3年目の頃一
俺は作業手袋を付けていればアレルギー症状がほとんど出ない所まで克服をしていた。
そんなあるとき、
鷹取 「鷹取、京と申します」
そう名乗る男が俺の前に現れた。
白いスーツに高身長で、はじめは誰か大切な人に渡す花を探しに店に来たのかと思った。
鷹取 「君、アレルギーがあるみたいだね♪手首にじんましんが出てる。植物系のアレルギーかな?」
宇栄原 「いや、まぁ。そうですけど」
鷹取 「ンフッ♪、じゃあ、アレルギーを完璧に克服したいと思わないかい?」
俺はたった数秒間、鷹取と名乗る男の空気を味わっただけで、嘘を付いていない人だと判断した。
その時から
悪いのは身体の弱い俺ではなく、全てアレルギーのせいだと思うようになった。
鷹取 「よかった♪、じゃあ君にこの棒付きキャンディーをあげる」
半分笑って半分怒っている様な表情で鷹取と言う男は俺に棒付きキャンディーを渡してきた。
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一現在。都フラワーズに残る郁実と風春一
郁実の膝枕で横になる風春は、肌が薄ら赤く体温が高い状態が続いていた。
風春 「フゥー…フゥー…」
郁実 「1時間は経ってないかな?…でもなんだろう、さっきよりは熱が落ち着いているような…」
巻 「ンフゥー、ンフゥー!」
郁実 「また息が荒くなったタオル交換しよう」
郁実はゆっくり風春をタオルケットを敷いた床に降ろし立ち上がろうとした。
と、郁実の視線の先には植物の蔓でパンツを仕上げてほぼ裸で立つ巻の姿が入った。
郁実 「ええぇえぇえぇえぇえぇえ!!!!!!」
巻 「何かあったか?ハルは大丈夫か?」
郁実 「いいいいやあぁあぁあぁあぁ!!!!!!」
郁実は巻を揺れる目で見つめて両手で頭を抱えた。
変なセンサーを感じた郁実は風春を何とか抱き上げてこの場から去ろうと動き出した。
郁実(心の声) 「え、あれ?、熱がない。、さっきまで腕と頬にわかりやすく付いた棘の感触が消えてる」
郁実は両手で風春を抱き上げ、さっきまでとは違う風春の状態に驚いていた。
だが郁実の頭の中は植物のパンツ一丁の巻から逃げ出す事でいっぱいだった。
ダッダッダッ!
巻が風春の元へ近付く。
郁実 「やだ!近付かないで!こっち来ないで!!」
巻 「一瞬で顔色が良くなったな!あの女がシャドウを倒したからか?」
その時風春が薄目を開いて弱い声を上げた。
風春 「…ンン…ウゥ…」
郁実 「あ、意識が。なんなのアンタ?見てわかるでしょ!こっちは怪我人抱えてるの!警察呼ぶわよ!」
巻 「ああーー。俺もこの格好したくてなった訳じゃねぇ」
風春 「…あぁ、巻さん。…終わったっすか」
巻 「シュークリーム屋の店長がシャドウを倒したみたいだぞ」
風春 「…巻さん…無事で良かった」
巻 「こっちは大分楽しかったぜハル♪」
郁実 「……ええ?何言ってるの?どういう事!?、ダメだ。私の頭が理解しきれてない」
風春 「……看病、ありがとう、ございます」
郁実 「…あぁあぁ、、はあぁあ」
巻 「よぉーし!ハル病院行くぞー!」
と言うと巻は風春をおんぶして都フラワーズから出て行く。
それを見送る郁実。
自分の頬っぺたを指でつまむ。
郁実 「夢じゃないんだ…」
・・・
西村は宇栄原をSBTの人間に預けた後、テニスコートから線路側の道路に並んだ修栗無連合のチョッパーバイク達の先頭まで移動した。
西村は結っていた髪をほどくとその髪ゴムを左手首に付ける。
頭を左右に振り髪を揺らす。
西村はハンドルを握り、真っ直ぐと何かを見据えていた。
バァルン!バアルン!バルバルバルバルッッッ!!!!
衣李果が西村の後ろで「行くよっ!!」と威勢良く声を上げる。
西村 「夜行だ」
チョッパーバイクの群れはヘッドライトの明かりとエンジン音で存在感を放ちながらテニスコートから去っていった。
・・・
一翌朝一
風春と巻は病院のベッドの上にいた。巻は掛け布団から半分身体を出して寝ている。先に起きた風春は、横のベッドで眠る巻との間にある白いテーブルの上に置かれた花束に気付いた。
その花束が入っている籠の隙間にある水色のメッセージカードに顔を近付ける風春。
´´トゲ坊やと水色坊主。昨日は助かった。
身体が良くなったら顔見せに来い。…´´
メッセージカードの一番下に´´人影・西村より´´と書かれていた。
風春 「…え。あの人人影だったの?、でもう次行く場所の指示出てるし」
ズルッ
すると病院のベッドから身を乗り出していた風春は、ベッドの掛け布団の端から手が滑り落ち頭を白いテーブルにぶつける。
風春 「っつ!、ってー!」
・・・
一その頃。日本女子医学付属病院・丸茂の診察室では一
恵里は丸茂の診察室にある丸椅子に座り、ライトブルーのコンタクトレンズを右目に入れていた。
ふわりと丸みのあるショートヘアの毛先に金髪が混じった恵里の髪型。
群青色に塗られたネイル。その指先にふたつめのコンタクトレンズを乗せて左目に入れる。
丸茂はデスクの上のパソコンのキーボードを打ちながら恵里の様子を確認する。
丸茂 「筋電義手のリハビリは継続するように。大学に復帰したら右手にも良い刺激になるけどちゃんと休ませることも忘れずに」
恵里 「先生。義手のリハビリよりもこっちの方が大変でしたよ」
丸茂 「うん?」
サタッ
丸茂が恵里の方に身体を向けると、恵里の右肩に白いシマエナガが乗っていた。
恵里 「´´鳥目´´」
恵里の右肩に乗るシマエナガが一瞬だけ黒くなると再び白い毛並みの姿に戻った。
パサッ、ハタタッ
シマエナガは飛び立つと診察室の天井付近を旋回する。
丸茂 「松岡さんは器用。それでいて負けず嫌いが、」
恵里 「負けず嫌い?」
丸茂のその言葉に反応した恵里が白目で睨み付ける。
丸茂 「…はははっ。あぁ、でも初めは視力がおぼつかない状態だったのにね。シマエナガの目で見る世界は人間の目とは違うかい?」
恵里 「先生は、ほとんどサポートしてくれませんでした(怒)。風春に早く会いたいし、大学の友達は待ってるしで必死だったんですよー?」
恵里はここまで頑張った自分を褒め称えよと表情に出した。
丸茂はすかさず拍手で称えた。
パチパチパチパチパチパチ!!
丸茂 「お見事っ!!」
恵里は丸茂の病院で筋電義手のリハビリと自身の影から現したシマエナガ(シャドウ)のトレーニングを約3ヶ月で終えて大学へ復帰する事になった。




