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shadow  作者: 新垣新太
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ep7.植物の都編・7話

西村花憐はチョッパーバイクの白い鬼ハンドルを握りマフラー音を奏でながら植物で埋め尽くされた道をタイヤで踏み潰し進む。



西村 「衣李果、そっちはどうだ?」



西村は耳に付けたワイヤレスイヤホンで呼び掛ける。



衣李果 「商店街の通り沿いにシャドウの気配は無いです」


西村 「そうか」


衣李果 「ただ、班長の(あかね)が大きな一軒家から化け物みたいな声を聞いて中に入った所、夏子が連れてきた水色坊主がひとりで立っていたそうで。化け物の姿は無かったと報告がありました」


西村 「あの水色坊主が……郁実が看てる(やっこ)さんの状態は」


衣李果 「まだ大丈夫みたいですが…」



・・・



一都フラワーズに残る郁実と風春一



郁実 「この人大丈夫かな?さっきより身体が熱い」



風春 「ハァ…ハァ…ハァ」



郁実 「意識はあるみたいだけど、早く病院に連れていかないと」



郁実は都フラワーズにあったタオルに水を含ませてきつく絞るとそのタオルを風春の額に当てた。



・・・



一植物の中を走る西村一



西村(心の声) 「あの奴さんの全身に刺さった棘も、水色坊主が相手した化け物もシャドウで間違いないだろう。病院に連れてった所で治るようなもんじゃない。シャドウを使ってる本体を倒さないことには能力が生きた状態が続く。まだ夏子が見つかってないと言う事は、本体は他の場所にいるはずだ」





植物だらけの道を進む西村は、進路を90度右に曲げて線路沿いの道まで出ることにした。



西村(心の声) 「内側からじゃ暗くて見通しが悪い。線路側に出れば街灯の明かりで花屋の裏側が見えるかもしれない」




バルンバルンゥッバルバルバルバルッッッッ!!!!!





ズバキバキバキッズザザザザアァアッッッッ!!!!!





・・・


ズズズッ、ズズズッ


ちょうどその頃。誰もいない夜のテニスコートが植物の太い蔓で覆われようとしていた。




植物の太い蔓がテニスコートを覆うなか、宇栄原はゆっくりと薄緑色のコートの上を歩きながらため息をつく。




宇栄原 「…フゥー」




シュルシュルシュルル…


テニスコートが蔓で覆われると内側が薄暗くなった。線路沿いに並ぶ街灯の光が編み込まれた蔓のわずかな隙間を通り中に差し込む。




シュル、シュルル、


シュッ、シュルッ、シュルッ




宇栄原はテニスコートの中央に立ち少し上を見上げる。

すると、僅かな光りの中で黒い何かが地面から天井へと動いていた。




宇栄原 「どこのどいつだか知らないが、俺のバグズが壊された。…今夜君達をバグズのごちそうにと思っていたのに。…さぁどうしたものか」




宇栄原はこめかみに力を入れて天井を見つめる。



グラン、ブラン、ユラン



その天井には、太い蔓で両足を縛られ、口を蔓で塞がれぶら下がった夏子と都フラワーズに来店していた客3人の姿があった。





宇栄原 「…フゥー。…バグズの再生には時間がかかる、」




その時






ズボオォオオオウオウオウオウゥッッ!!!!!






テニスコートの線路側にある複雑に編み込まれた蔓の一部が焼け飛ばされ燃え上がり、炎の中から一台のチョッパーバイクが姿を現した。





バウンバウゥンバウウゥンッ!!!!





夏子 「…ンー…ンァーッ…フー!」





宇栄原 「あぁ……ちょうどいいや。観客(ゲスト)が来た。、ようこそ´´植物の都´´へ」




白い特効服を揺らし、銀色と黒色にカスタムされたチョッパーバイクから足を下ろした西村花憐。



西村 「やっとウチの娘を見つけた…」



サコッ



チョッパーバイクに差し込まれた木刀を掴み取った西村。




そして、テニスコートの外。

線路側の道路には西村からの情報を聞いた修栗無連合のメンバーがバイクで駆け付けていた。



外から西村がこじ開けたテニスコートの入口から衣李果達が入ろうとした。




西村 「そこで見てなっ!!」




衣李果の動きが止まる。

西村と目線を交わした衣李果は後ろで騒ぐメンバーに(かつ)を入れた。




衣李果 「黙りなっ!!!……総長の戦いだよ」





宇栄原 「フッ」



宇栄原は下を向き笑う。



宇栄原 「観客は多い方が良い…。…ねぇアンタ。俺より強いの?」






チラ、、、チラ、、




上空から流れる冷気と共に、小さな雪がテニスコートを覆う蔓の隙間を通って地上へと落ちる。





衣李果 「総長の背中、ちゃんと見とき」







少し煙たつ木刀を鼻のそばに近付け宇栄原を睨む西村。




西村 「…勘違いするなよ。お前なんか眼中(がんちゅう)にないんだ雑魚(ざこ)




宇栄原 「…カリッ(咀嚼音)」




宇栄原は縮れ髪越しに西村を睨みながらかりんとうを(かじ)った。




宇栄原 「ふーん……じゃあ、お手並み拝見だ」




すると宇栄原は背後にある植物の蔓で出来た壁に擬態化して姿を(くら)ました。




西村(心の声) 「消えた。…まずは宙吊りにされた夏子達の回収からだ」



西村は宙吊りにされた夏子達を見つめしゃがむ。背中に木刀を差し地面に両手を付いた。




西村 「´´銀砲(マフラー)´´」




ズズズッ、ズズッ




西村の影から黒色と銀色が折混ざった液状体が指先から腕に纏い始めた。



小雪が降るほどの外気温が宙吊りにされた夏子達の体力を徐々に奪い始めていた。




西村(心の声) 「´´焦点(ロック・オン)´´…じいさん、アンタを先に落とすぞ」




都フラワーズに買い物に来ていた客3人が夏子と等間隔で吊られていた。

その内のひとりに高齢男性が頭に血が上り意識を保つのに必死で耐えていた。



西村は宙吊りにされた足首と天井の植物に繋がれる蔓に銀砲の照準を定め熱射撃を放つ。




ズドボンッ!!




赤黄色い閃光がテニスコートを一瞬だけ照らした。




ズァアァアアッッ!




すると高齢男性の足首から10センチ先に繋がる蔓が瞬時に燃えて形を無くした。




高齢男性 「…の…のぁ」




宙吊りから解放された高齢男性は地面へと落下し始めた。




シュダッッ!!



西村は高齢男性をキャッチすべく素早い動きで落下点に急ぐ。




西村(心の声) 「植物野郎の気配がまだない…どこに行きやがった?」




その時



シュビビッ!!



揺らめく空間から西村に向かって細長い何かが10本飛ばされた。



それを顔面スレスレで避ける西村。




西村 「フッ!?…棘!?」




そして高齢男性の落下点に滑り込んだ西村は両腕でキャッチした。



西村(心の声) 「今のはサボテンの棘か。避ける寸前に見えた縞模様。…あれは長棘金鯱(ちょうしきんしゃち)の棘だ」




シュビビッ!、シュビビッ!!


シュビビッ!!!




西村 「クッ!、じいさん悪いな」



高齢男性 「すまんの…ほへ!?」



西村はそう言って腕に力を入れると高齢男性を衣李果達のいる入口に向かって投げ飛ばした。




西村は飛んでくる棘を銀砲で焼き飛ばしながら、ぶら下がる客2人の蔓を燃やしてキャッチした。



西村がキャッチした客は若い男性と婦人女性だった。

さっき助けた高齢男性よりは意識はあり自分で立ち上がり、西村に礼をすると衣李果達のいる入口へと逃げた。





西村 「おい、隠れてないで出て来ないのか?チマチマ攻撃しやがって気持ち悪い!」





その時、西村の背後の空間が揺らめいて動いた。



宇栄原 「うるさい」



西村が宇栄原の声が聞こえた瞬間、振り向くとそこには棘のある蔓が巻き付いた拳があった。




グズゴオッ!!




西村は宇栄原の右ストレートを避けきれず、左顔面を電信柱に思い切りぶつけた様な衝撃をくらった。




だが西村は倒れなかった。




宇栄原 「調子に乗るなよ女。…人質を救ったからって強くなった気でもしてんのか?」




西村は両膝に手を付き下を向いていた。

銀砲はいつしか無くなり、宇栄原の視界からは西村のセミロングの髪の毛が邪魔をして表情が見えなかった。





西村 「異常気象…てやつか」




宇栄原 「?」




西村 「本当なら9月は残暑でまだクソ暑いのに、今日に限っては雪が降ってる。…だから身体が暖まるのにいつもより時間がかかってるって事だよ…」




西村が身体を起こすと金色に染められた前髪と赤色のマスクが姿を現す。その左頬の傷口からは血が流れていた。


西村は背中に差した木刀を引き抜く。




西村 「来いよ雑魚」


さっきよりも鋭い目付きに変わり宇栄原に木刀を構えた。





宇栄原 「お前がな、´´(メリケン)´´」




宇栄原の両拳に太い蔓が固く巻き付き、薔薇の棘が先程よりも数を増やした。





西村 「´´木刀(スモーク)´´」




木刀を持ち宇栄原に向かって勢いよく飛び出した西村。




煙たつ木刀が西村の太刀捌きで宇栄原を狙う。



ブオォオォオオウゥウゥウウン!!!



その木刀をギリギリでかわしながら宇栄原は(メリケン)で鋭い拳に強化した打撃を西村に狙うも木刀で防がれる。



ヒュゥウシュッ!!!



ガガッッッッ!!!!!




西村(心の声) 「やっと姿を現した。…ひ弱そうな奴だから隠れてたのかと思ったが。そう言う訳では無さそうだ。…そんな風に見える奴程、内に秘めてる力や想いがあるって事か?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一今から10年前。西村花憐・15歳の頃一


私は自分の眉毛が嫌いだった。だから家の近くにある川沿いで小さな鏡を見ながら眉毛を剃った。



黒い前髪も気に入らなかった。学校の校則で髪を染めるのは禁止だとわかっていたが、前髪だけ金髪に染めた。



そんな私の前に現れるのは(もっぱ)ら生活指導の先生と学校に居座るヤンキー達だった。




友達はいたが皆離れていった。

家に帰るのが遅くなった。

それは先生からの長い説教と下校途中に現れるヤンキー達に付き合わされたからだった。



元々身体が強く、親に感謝するべき何だろうが、そんな考え等一切無かった私は、生活指導の先生の体罰に反抗して怪我を負わせた事で退学。

学校に居座るヤンキー達は代わる代わるやって来た。先輩だと名乗る卒業生を相手にして喧嘩に明け暮れた。




家に帰れば両親がいる。

ただ父親の酒癖と浪費癖から母親が愚痴を溢すと決まって夫婦喧嘩が始まる。


私は母親の味方だった。

なぜなら父親が私と母親を助けてくれた事なんて一度もなかったから。




千歳船橋にあるなんの変哲もない中学を退学させられた私は、特に行く宛もなくやりたい事もなく、家にいるのも窮屈で、昼は公園、夜はコンビニを徘徊していた。




別に喧嘩が好きな訳ではなかったが、

変な奴らに絡まれる度に喧嘩で解決してしまう自分がいた。




その方が簡単に事が済むからだ。




今日はコンビニで何を読もう。

そう思って入ったコンビニの雑誌コーナーには先客がいた。




その大半は中途半端に真面目そうな学生とサラリーマン。あとは仕事中の合間に立ち寄ってる作業着姿のおっさん。




西村 「どけよっっ!!!」




店内中に響く私の声で雑誌コーナーにいる先客は雑誌を突き刺し散って行く。



ただひとりを除いては。




その女は私より少し年上に見えた。黒紫色のショートカットに上下オレンジ色のジャージを着て漫画を読んでいた。




西村 「あぁ…聞こえなかったか」




私はその女の横に立つ。

決まって私が最初に読むのは「週刊ジャサマ」だった。

目の前の雑誌棚に並べられた中から格好良い女キャラクタが描かれた表紙を掴んだ。



その時私とは別の手が同時に「週刊ジャサマ」の表紙を掴んだ。




西村 「チッ」



その手は左にいるオレンジジャージの女だった。



南原結(なんばらゆい) 「それワイが読んでる本だ」


西村 「今アンタそれ読んでんだろ」


南原 「ワイはこの本とジャサマを交互に読むんだ」



訳の分からない事を話す女だと思った。



西村 「あー。わかった。じゃあ外出ろよ、喧嘩で勝った方がジャサマを先に読める」



面倒な時は決まってこうだ。



南原 「別にここでも良いぞ」



西村 「チッ、出ろ」




今日もいつもと変わらない日常。

私に絡んでくる面倒な奴等と喧嘩で話をつける。




オレンジジャージの女を外に誘い、段ボールが詰め込まれ過ぎてはみ出たゴミ置き場前で止まった。



後ろからオレンジジャージの女が近付いてくるのを確認した。



南原 「なんでこんな暗いところで…?」




西村 「…それはな」



私は振り向きざま回転蹴りを仕掛け、女の首をへし折るつもりで右足に全体重を乗っけた。




ガズンッッッ!!!




はずだった。




コンクリートの地面の上に倒れたのは私の方だった。



顎が痺れて脳みそが揺れているのを感じる。




西村 「なに、が、……」




私の側に女が近づいてくる。




ザ、ザ、ザッ




女がしゃがんだ時の風が私の顔に当たる。


トイレの芳香剤の匂いがした。




南原 「ワイが読んだら貸してやっから」




その時何を言われたのかハッキリと覚えていない。

初めて女に倒された。


今まで相手にした先生(おとな)達やヤンキー達に負けた事なんて無かった。

私が武器にしていた喧嘩が通用しなかったとわかってしまった事。

それが自分の中で気持ちが悪く、オレンジジャージの女に殴られた衝撃で意識を失うまでずっと頭の中にリピート再生されていた。




西村 「…っせぇ…」






・・・


一コンビニ外で気を失った日の翌日一


私はオレンジジャージの南原結(なんばらゆい)と言う女が住んでいるアパートに連れてかれた。



南原は私に料理をふるった。



まともに飯を食べてなかった事に気付かされる程、南原が作った料理があっという間に私の胃袋に入った。




鶏そぼろ丼だと南原は言った。

そして南原が所属している暴走族に入れと言われた。




私はいつの間に考える事をやめたのか、そもそも考える頭なんか無かった様に思う。

気付けば南原の後を追い、暴走族に入り、メンバー達に出会った。






南原 「まぁ最初は誰でも緊張すっから気にすんな。総長は今日シマを拡大する件で隣接する暴走族達に会いに行ってていないから。先にメンバーと挨拶して」




私は黒い特攻服と男が着る学ラン姿をした年の近い女達を南原に紹介された。




南原 「はい見取(みどり)、今日から入った西村。新人だ」


私は見取と呼ばれた女と握手をした。

正確には南原の指示でだ。


見取と言う女は17歳で実家を離れて既に働いているらしい。両親とは全く連絡を取らず一人暮らしだった。




次に紹介されたのは白井(しらい)と言う15歳の女。母親の再婚相手から暴力暴言をほぼ毎日の様に受けていた。我慢出来ず家出をした所、今いる暴走族の人に声をかけられたらしい。




次に握手をしたのは亀水(きすい)と名乗る14歳の女だった。亀水には双子の姉がいるらしいのだが、束縛が強い家庭の為ひとりでの外出が禁じられていると言う。一度その決まりを破った際に亀水ではなく双子の姉が両親から酷い暴力を振るわれたと言う。双子の姉は亀水の事を恨むことなく、むしろ亀水だけはこの家から出て幸せになって欲しいと言われ両親の隙をついて家出をしたと言う。




南原 「これから夜行があっから、残りのメンバーとは明日以降に紹介する。今日からここが西村の第二の家族がいる場所、陽狂斗(ようぐると)連合だ」




西村 「夜行(やこう)…?」





私は急に眩しい光に目が眩んだ。




南原 「西村!今日は実家に帰って最後の挨拶してきな!明日またあのコンビニで待ち合わせな!ジャサマ貸してやっから(笑)」





暗い公園に陽狂斗連合のバイクのハイビームで光と影が生まれた。



バァアンッバンッバババババババババッッバァアァアァアァアァーーーッバァアァアァーーーー!!!




けたたましいバイク音が鼓膜を揺らす。

私は耳を塞ぎ公園から去って行くバイク達を目で追った。




西村 「…南原のモンじゃねえだろ」





親との間に問題があり集まった暴走族。それが私が入れられた陽狂斗連合だった。

未熟な若者から働くものまで全員女だ。

シマと呼んでいる縄張りは総長が面倒を見れる範囲内で区切られている。

仲間内の喧嘩や他の暴走族との抗争は日常的で、総長は仲間に溢れんばかりの愛情で接してくれた。

ここは皆にとって第二の家族。

皆はただ、親からの愛情が欲しかっただけなんだと理解しあっていた。


これ以上自分達と同じ思いをさせない為に反面教師の存在になればと女暴走族として悪い格好をする暴走族を作ったと南原から総長の話を聞いた。




愛を求める怒り。


その一心で暴走族を守る総長の想いに心が動かされた。






喧嘩でしか解決出来なかった自分に、


南原は図々しく土足で私の心に踏み入り、


別世界の視界を見せてくれた。






決めた。


私は総長や南原みたいな強さは無いけれど


いつかふたりみたいな想いを言葉と行動で示せる総長になってやる。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




一現在。テニスコート、植物の都では一


宇栄原から繰り出される(メリケン)打撃は完全に西村の身体に当たりはしないものの、拳に巻かれた蔓から伸びる棘の先が服や肌にかすり傷をつける。


西村が捌く木刀は宇栄原の身体にバシバシと当たるが顔色ひとつ変えない宇栄原。その理由のひとつに、宇栄原は西村から受けた木刀の打撃部分に植物の蔓がコーティングされていた。



衣李果 「…さすが総長。動きが素早い…私でさえ闘っているふたりの動きに注視し続けられる力が足りない。メンバーのほとんどが総長の動きが見えてないだろう」




西村の巧みな木刀捌きと連打。微かに現れる木刀からの煙が西村の本来の位置を視覚的に狂わせる。

宇栄原は着実に西村との距離を縮めていた。宇栄原の動体視力は、その身体を纏う植物の蔓が補助となって更に増強していた。



シュブンッ!!ズガッ!ブンッ!ズガガガッ!!


シュッ!シュッ!!スピッ!スパッ!!




西村 「クセェ臭いだ。ろくでもねえシャドウ使いは皆同じ臭いだな」




バガギイィイィイイッッ!!!!!




宇栄原から放たれた強烈な左ストレートを西村は木刀で受け止めた。





宇栄原 「…あぁ?」



宇栄原のこめかみに血筋が浮き上がる。




宇栄原の力に押され少し後ずさる西村。




ユラン、ユラン、、ユラン。




西村(心の声) 「…ん!?…こいつの後ろに花なんてあったか?」




宇栄原の背後。テニスコートの半分から後ろには、赤い彼岸花が夜風に当たり揺れていた。




ミシ、ミシッ、ミシシッ



西村の木刀が宇栄原の拳によってしなる。




宇栄原 「彼岸花は植物の中でも特別な存在だ。まるで触手の様な花びらから吸収された太陽光は茎を通り土の中に張る根に蓄えられる。その光エネルギーは、彼岸花の養分となるだけでなく、外敵から身を守る時としても使われる」




西村 「ハハッ!なんだそのおとぎ話は(笑)」




宇栄原 「そう、思うか」




ピクン、ピクン、ビクンッ




赤い彼岸花が黄色へ、そして陽の光色へ輝き出す。

その光は彼岸花の茎を流れてテニスコートの中へ消えると、宇栄原の足を伝い腕へと流れて行く。





西村 「グゥッ、なんださっきより力が強くなってる」



宇栄原 「´´光拳(ライズ)´´」





その瞬間宇栄原は西村の木刀に両拳をぶつけると、拳が黄金色に光を放ち強烈な波動で西村を吹き飛ばした。





メキ、メキキッ、メキバキ!



ドゴオォオォオォオォオオオオオオッッッッ!!!!!!!!





修栗無連合のメンバー達が西村の安否を心配し声を上げる。






宇栄原 「雑魚はどっちだ?もうおしまいか?」






植物の蔓で覆われた壁に寄りかかり倒れる西村。


吐血する。


白い特攻服は汚れ千切れ、腹に巻くさらしが見えていた。





西村 「……あぁ、、チカチカしてなんも見えねぇ」



西村は右手を顔の前で左右に振った。




宇栄原 「そうだろう、陽の光を凝縮した光撃は失明させるほどの力だ」




西村 「…そうか」




ザッ



西村は地球の重力が10倍になったと感じるほどの身体を動かし立とうとした。




西村(心の声) 「…なんだろうな……私はやられればやられるほど身体の底から力が沸いてくる女になっちまった…」






宇栄原 「やめておけ、俺の光拳をくらって再起出来たやつはいない」





西村 「フッ、だからお前は雑魚なんだ」



小さく西村は呟く。




西村 「スター・トライブ、行くよ」




ズズズッ




西村の呼び声で側に姿を現した黒色と銀色にカスタムされたチョッパーバイク。


西村は座席シートに手を掛けて立ち上がり、重たい足をあげ跨がった。ハンドルに隠された薄いクシを取ると、髪を後ろにまとめて一本に結った。




西村 「お前の物差しで終わったとかほざくんじゃねぇよ……これからがフィナーレなんだから」




宇栄原の額に血管がボコボコと浮かび上がる。



宇栄原 「この、、クソ女がっ」




西村がハンドルを握る。



西村 「´´愛車鎧(トランス)´´」




するとチョッパーバイクが本来の姿から変形し始めた。

ハンドルを握る西村の腕から身体、頭部、脚部まで全身を黒色と銀色のバイクの鎧が包み込んだ。




宇栄原 「雑魚みたいな発想だ。鉄のガラクタごときに俺の光拳は防げない。まぁ何度でもくらいなよ」



宇栄原は遠く離れた西村に向かって再び両拳を突き出した。




西村 「頼もしいね。まだいたの、、水色坊主」








ダダッ!





宇栄原は視界の上を通り過ぎる何かを見つけその方を見た。




宇栄原 「なんだお前は、」




植物の蔓の壁をよじ登り飛び出して来たのは巻の姿だった。




衣李果 「なんでアイツほぼ全裸。…股に植物グルグルパンツ巻いてるだけじゃねえか」





巻 「お前が主だなッ(笑)!」




巻は右手に握った黄金の銛を腕をしならせて投げ飛ばした。





ブブウンンッ!!!




宇栄原 「雑魚が一匹増えただけか」




巻の飛ばした銛はテニスコート上を低空飛行で宇栄原へ向かって速度を上げて行く。




宇栄原 「ただの銛か、先に蹴散らそう」




宇栄原が巻の飛ばした銛に向かって両拳を向ける。




その時




フウッ




宇栄原 「、!?…銛が消えた」




宇栄原と銛の距離が5メートルの所で黄金の銛が姿を消した。





巻 「俺の´´黄金の(ゴールドライン)´´(笑)」


微笑を浮かべる巻。





宇栄原 「…厄介な攻撃だな。…なんて思うと思ったか?…擬態レベルが甘いんだよ」




巻 「…!?」




巻が投げたゴールドラインがテニスコートの色とほぼ同化しながら宇栄原まであと3メートルまで近付く。




シュルルルルルッ!



すると宇栄原の足元の影から細長い蔓が何本か現れると、時速150kmの速度のゴールドラインを宇栄原から1メートルの距離を空けて縛り掴んだ。




宇栄原 「相手が悪かったな。その格好じゃぁ俺の光拳で死ぬんじゃない?」




宇栄原は彼岸花から送られる陽の光を両拳に集め巻に照準を定めた。




光を増して白ける宇栄原の拳。



宇栄原 「…死ね」



西村 「植物野郎…お前がな(笑)」




その時、西村は愛車鎧(トランス)状態の身体に金色のラインが現れていた。



グッ



西村は左右の太ももから伸びるバイクのハンドルを握ると両手で手前に回した。




ブブゥウゥウゥウンンンンン!!!




すると低い電子音声が愛車鎧(トランス)から発せられた。


「ターボ2000。カウントダウン」




宇栄原は後ろにいる西村の方へ顔を向ける。



宇栄原 「こっちは(おとり)か!」




すると宇栄原は光拳の照準を即座に西村へ向けると光撃を始めた。



ズザアァアァアァアンンン!!



テニスコートに黒い溝が出来る。

西村は左右のハンドルを回した事で両足に付いたタイヤが回転し宇栄原の光撃を避ける。




電子音声が発する。


「3(スリー)」




宇栄原 「雑魚がちょこまかと」




宇栄原は横一線に光撃を放つ。



ズバババアァアァアァアッ!!!!




西村は地面ギリギリまで身体を倒して避ける。


光撃が彼岸花に当たり黄金色の花が飛ぶ。




「2(ツー)」




西村 「おぉおぉ、そんなもんかー?」




宇栄原 「チッ」




宇栄原は身体の前で揃えていた両拳を離し、光撃を1本から2本へと増やして西村に乱撃した。




ズバザガズバザアァアァアァアッ!!!!!!




西村は両足の裏からジェット噴射で身体を宙に浮かし宇栄原の乱撃をしなやかに避ける。

そして両足のタイヤは回転速度を上げて宇栄原の正面まで滑り込む。



ズボンッ!



西村は右太ももに付いているハンドルを抜いた。



電子音声が発する。


「1(ワン)」




ズガッ!



抜いたハンドルを右脇腹に開いている穴に突き刺す。




パカッ



すると西村の腹部を纏う愛車鎧(トランス)が縦横15センチメートルの発射口を(あらわ)にした。






宇栄原は縮れた髪の隙間から見開いた目で西村を睨み付ける。


歯を食いしばって。


なぜこんな女ごときに俺がやられなきゃなんないのかと表情が物語る。





電子音声が発する。


「0(ゼロ)。ターボ2000噴射」




クルクルクルクル



発射口の中で重なる丸いベアリングが右に左へ回転する。



コォオォオォオォオオオオオオッッ!!!



発射口の真中心が黄金色に光る。



ドオォゴォオッ!!!!!!



重たい噴射音で放たれたターボ2000は宇栄原の全身を包み込む。





ドサンッ




宇栄原 「…かはぁっ…ぐ…熱い」




西村 「くらう直前に蔓で全身を纏ったのは良い判断だ。…ほぼ焼け飛んだけどな」



西村は右腕を銀砲(マフラー)に変え、熱射撃を細く絞り宇栄原の両足から伸びる影を切り裂いた。




スッ



宇栄原の影に落とした白い紙はゆっくりと黒く染まって行く。






西村 「水色坊主。先に夏子を助けてくれてありがとな」



夏子 「総長…コイツ気持ち悪かったです…植物パンツ一丁で」



体力を消耗仕切った夏子は衣李果達の側でしゃがみ泣いていた。




西村 「バカだね…。命の恩人だよ、感謝しな。例えパンツ一丁の男でもね」




巻 「…ハルは大丈夫だろうなっ!」



ダッダッ!



風春の事を思い出した巻はその姿のままテニスコートを後にした。




西村は愛車鎧(トランス)を影へ落とすと胡座(あぐら)でテニスコートに座った。







西村 「…誰か、麦茶買ってきてくれないか?」




衣李果が西村の元へ走る。


ずっとズボンのポケットに入れていた麦茶のペットボトルを出しながら。


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