ep1.雨の街編・5話
吉祥寺駅の改札から、マスクを付けた人たちが続々と外へ流れ出てくる。南口の改札口から風春が出て来た。
風春 「また当てもなく目的地に来ちゃったよ。でも、、眼帯してるってことは、一目見ればすぐに分かるか。とりあえず、駅周辺で聞き込みするか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
井の頭線の電車が、井の頭公園駅に停車していた、車掌が発車ベルを鳴らしドアを閉める。車内にいる乗客は、ほとんどの人たちがスマホの画面を覗きこんでいる。すると一瞬、車内の端から端を黒い影の様なモノが通り過ぎる。その中、ある女性乗客がスマホでショッピングサイトを見ていると、突然操作が出来なくなり画面がフリーズしてしまった。また、男性乗客がスマホで動画サイトを見ていると、画面にロードマークが表示され、動画が動かなくなってしまった。そして、男子学生がスマホゲームを楽しんでいると、突如画面が暗くなり電源が落ちてしまった。
♪~♪~♪~、♪♪♪♪~
鼻歌をしながら、走行中の車内を歩いている金色と黒色のメッシュヘアの男性。車内中央を歩きながら、その男性は電車の進行方向へ向かっていた。その車内では、何やら乗客たちがざわつき始めていた。スマホを使う人たちが、スマホが全く反応しなくなったと何度も操作の確認や乗客同士で話し合っていた。
電車の車掌 「次は、終点、吉祥寺、吉祥寺。お出口は、左側です。お忘れ物落とし物なさいませんよう、お気をつけください」
ざわつく車内に、終点到着の車内アナウンスが響いた。すると、金色と黒色のメッシュヘアの男性が口を開く。
獅子頭正毅 「よそ見すんなよ。、、レッドチェリー・ボンバー」
歩く獅子頭の影からピエロ姿のシャドウが現れた。電車は、吉祥寺駅のホームに入るため、ブレーキを徐々に掛けてスピードを緩める。回転する電車の車輪音が段々と低くなってゆく。
獅子頭 「カウントダウーン。10、9、」
獅子頭は立ち止まり、カウントダウンを始めた。車内の乗客を見渡すと、スマホに釘付けで獅子頭には全く興味がない様子だった。
獅子頭 「8、7、6、」
再び歩き始めた獅子頭。車内アナウンスで、吉祥寺駅からの乗り換え案内が流れる。降りる準備をしながらも、何度もスマホの操作を試みる乗客がいた。
獅子頭 「5、4、3、2、」
電車は吉祥寺駅のホームに滑り込み、停車地点に停車するため車掌はさらに速度を緩める。
獅子頭 「1、0、ブーーー。時間切れ。画面爆破!」
車内の乗客が持つ全てのスマホが熱を持ち始め、一気に画面が爆破した。
バキバキッ!バキリィイインンンッ!
「うわっ!」
「キャァアア!」
「あ痛っ!」
乗客達が悲鳴を上げた。
獅子頭 「う~ん。嬉しい悲鳴だ」
駅に停車した電車のドアが開く。獅子頭が乗っている車両では、爆破したスマホで顔や手足を負傷した乗客たちが苦しんでいる。怪我をしなかった乗客数名が、非常ボタンを押して危機を知らせ、負傷者を駅のホームに降ろそうと動いていた。車内の床や窓には、血や割れた液晶画面の破片が散らばっている。
獅子頭 「よし。回収するぞー」
そう言うと、獅子頭はレッドチェリー・ボンバーから金の匙を受け取る。スマホの爆破で負傷した乗客の側に来た獅子頭。その乗客の影に、金の匙をゆっくりと腹側から沈めると、影の中から黒い液体が金の匙の中にスーッと流れてくる。獅子頭は、匙一杯に黒い液体が溜まった所で匙を影から離した。
獅子頭 「貴重なエネルギーをありがとう、瓢箪頂戴」
すると、レッドチェリー・ボンバーは、首に掛けている赤玉のネックレスから1個取ると、それを瓢箪に形を変えた。
チュポッ!
獅子頭は受け取った瓢箪の詮を開け、口の部分に紐で括ってある小さなじょうごを開いた口にはめる。金の匙をじょうごに沿わせながら黒い液体を流し込む。獅子頭は、順番に車内で苦しむ乗客の影から黒い液体を一杯ずつ集めて行く。
獅子頭 「まぁこんなもんか、人が増えてきたな。帰りますか」
気づけば獅子頭のいる車両と駅のホームは、人で溢れていた。その人波に紛れるように獅子頭は姿を消した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃、風春は吉祥寺の商店街で眼帯娘の聞き込みをしていた。
風春 「すいません、この辺りに黒い眼帯を付けた女性の方って見かけませんでした?」
服屋の店員 「眼帯の女性。見てないね~」
風春 「そうですか、ありがとうございます」
仲間佑都 「危ねえぞ!邪魔だ!」
風春 「おっとぉおー」
商店街で聞き込みをしていた風春のすぐ脇をマウンテンバイクに乗った少年が追い越していった。その少年の後に、5人がそれぞれマウンテンバイクに乗って走って行く。その車輪の内側にはLED電球が取り付けられており、蛍光色のグリーンが鮮やかに光っていた。風春がその少年達を見たところ、小学生の高学年に見えた。
佑都 「駅のホームで合ってる!?」
先を走る佑都が後ろを振り向き声を上げる。
佐賀賢人 「ちゃんとメールに書いてあるから間違いない!眼帯の姉ちゃんも後から向かうって!」
後ろから走る賢人がスマホの画面を佑都に見せながら答える。
風春 「ん?、今、眼帯のって言ってたか?、、ちょっと待って!」
と呼び掛けたが、既にマウンテンバイクの集団は5メートル先を走っていた。風春は、少年達の後を追えば、眼帯娘にあえるはずと思い、全力で駅に向かって走り出した。
佑都達6人が、全力でペダルを漕ぎ、商店街を抜けて駅のロータリーに出る。マウンテンバイクのギアチェーンが強い音を立てる。
ギッギッギッ!ギッギッギッ!
駅係員からの通報を受けた警察官が数名、吉祥寺駅の改札に現れた頃。佑都達がマウンテンバイクのブレーキをかけながら、後輪タイヤを華麗に滑らせて駅改札前に到着した。
西九智輝 「この人混みの中から探すのか?」
智輝は両手で双眼鏡を作って駅の方を覗きこむ。
佑都 「大丈夫!目印はマスクをしてない奴だ。賢人、動画撮影しとけよ」
賢人 「了解。準備オッケー」
賢人はスマホの動画モードをオンにしてから、マウンテンバイクのハンドルにスマホを固定した。
佑都 「んじゃ!行くぞ」
佑都達6人は、マウンテンバイクに乗ったまま駅の改札口に行く。そして、首から提げていたスマホを青く光るICカード画面にかざした。軽い電子音が鳴り、改札口のゲートを通る。駅係員に話を聞いている警察官が佑都達が改札口を通過するのを目撃して声を上げる。
警察官 「ちょっと待ちなさい!」
警察官の事など一切気にせず駅ホームに入り込む佑都達。ホームには、上り電車と下り電車が隣り合わせに停車しており、複数名の駅係員が下り電車の中に入っては怪我人を搬送していた。佑都達は、マウンテンバイクを滑らかに動かしながら、獅子頭の姿を探していた。
風春 「ハァ、ハァ、ハァ。自転車はずるいって。、、電子カード、あった。、少年達は、自転車のまま改札に入ったのか。早く、少年達に話を聞かないと」
佑都達を追いかけて来た風春が、吉祥寺駅の改札口に到着した。そしてズボンに入れていた電子カードを改札にかざす。
パーポーンッ!「チャージしてください」と改札機が無機質な音声を発した。
風春 「あー!もう、何で今なんだよ!」
そう言って、風春はチャージ機の場所まで移動する。
獅子頭は、同じホームで佑都達とすれ違う形で改札口に向かおうとしていた。すると、獅子頭の前方にいる、マウンテンバイクに乗った木村光と目が合った。獅子頭は気にすることなく、光の横を通りすぎる。光はマスクをしていない獅子頭が気になり、後ろ姿をじっと見つめていた。
光(心の声) 「あいつか?、マスク付けてない。目が合っても顔色を変えなかった。でも、何か変な空気だったような、、振り向いたらあいつがそうだ。、、振り向け、振り向け、、、振り向いた!」
光はすぐさま、背負ったリュックの横チャックを開け、フリスビーを出した。そのフリスビーには糸の様なモノが飛び出ていた。光はポケットからライターを出してフリスビーから垂れる糸の様なモノに火をつける。
光 「いたぞ!!、改札口手前にいる!」
そう言って光は、導火線に火がついたフリスビーを獅子頭の上空目掛けて飛ばした。
シューーーーパンパンパンパンッ!!!
ホームや改札口には、人混みがまばらに発生していたままだった。だが、フリスビーが激しく音を立てて火花を飛ばしているのを確認した係員数名は、咄嗟に大声でしゃがむよう乗客達に伝えた。その中、ゆっくりと向かってくるフリスビーを獅子頭は悠々とした立ち姿で見つめていた。
獅子頭 「ほぉー。安い火薬使ってんなー」
バチバチバチバチッ!バチバチバチッ!
爆竹がフリスビーの内側から破裂音を鳴らす。一気に獅子頭の周りにいた人たちが散り散りに逃げる。佑都達が下り電車側のホームから、獅子頭を視界に捉えた。
佑都 「ナイス光!」
ギアチェンジをした佑都は獅子頭に向かってペダルをこいだ。
佑都 「どけえぇえ!!」
と同時に獅子頭は、改札口付近から上り電車のホームに向かって走り出した。
中鉢一弥 「逃がすかよ」
マウンテンバイクに跨がり、パチンコを構えて思い切り玉を掛けたゴムを引っ張る。走る獅子頭に標準を絞り、右手を離した。
ビュンッ!!
勢い良く放たれたパチンコ玉。だが、獅子頭の顔面の20センチ手前で小さな爆発が起こり、放たれたパチンコ玉が粉々になった。
停車する上り電車の中は、光が投げたフリスビーの爆竹音を聞き、ほとんどの乗客が降りてしまっていた。獅子頭は、ホームから停車中の上り電車に乗り込んだ。佑都達は、マウンテンバイクをがしゃこぎで、下り電車ホームから改札口前通路を弧を描くように走り抜き、繋がる上り電車ホームに入った。佑都と智輝はホーム側を走り、賢人と一弥と光は手にカラフルな水風船を持って上り電車の中を走っていた。
国府哲太 「液体スライム注入完了だぜ」
獅子頭は、車内を走りながら、車両の連結扉を小さな赤い玉を投げて爆破させた。その後ろから、マウンテンバイクを走らせる賢人と一弥と光。その手に持った水風船を獅子頭に向かって投げ付けた。
獅子頭 「レッドチェリー」
獅子頭の影から現れたレッドチェリーが、賢人達が投げた水風船に赤い玉の爆弾を投げる。
バンバンバンッ!
爆弾の破裂と共に水風船が弾ける。水風船に入っていた緑色のスライムが車内に飛び散る。賢人達は、スライムで濡れた床で滑らないようマウンテンバイクの速度を落とす。獅子頭と賢人・一弥・光の距離が離される。
光 「あいつ、爆弾系のシャドウだ」
獅子頭は、尚も先頭車両に向かって走り続ける。すると、ホーム側で並走する智輝が両手を離してウエストポーチに手を突っ込む。その中から、フィルムカメラのケースに炭酸入浴剤の欠片が入った3つのケースを左手に持つ。蓋を開け、小さなペットボトルから水を3つのケースに少量ずつ入れて蓋をした。そして、全力でペダルを漕いで走る獅子頭の側のドアから入り、振った3つのケースを獅子頭に投げ付けた。
智輝 「これでもくらえ!!」
智輝の手元を離れた3つのフィルムケース。その中では、炭酸入浴剤の欠片が、入れられた水によって欠片から炭酸ガスを発生し、きっちりと密閉されたフィルムケースの中で膨張を始める。蓋の限界点を突破したフィルムケースは暴発音を鳴らし、炭酸ガスが一気に外気に放出する。
ポンポンポンッ!!!
獅子頭 「ちっ」
智輝が投げた内の1つが獅子頭の後ろ首に当たる。少し後ろを気にした獅子頭。その瞬間、獅子頭が走るすぐ側のドアから佑都が片手に大きなウォーターガンを持ち、マウンテンバイクに乗り滑り込んできた。
佑都 「くらえ!激辛ソース!!」
車内に滑り込みながら佑都が構えたウォーターガンから、赤黒い激辛ソースが放出する。それは獅子頭の肩に命中するも、獅子頭は走り去ろうとする。
獅子頭 「あー、だるいなー。目がしばしばするぞー」
佑都 「逃げんのかよ弱虫!」
佑都の声に反応した獅子頭。足を止め、顔だけ佑都の方へ向けた。
獅子頭 「あ?」
佑都 「ダッセえな、俺達子ども相手に戦いもせずに逃げんのかって言ってんだよ!」
獅子頭 「バカだなー、俺はお前達と遊ぶためにここに来たんじゃない。これ以上邪魔するなら話は別だけど」
佑都 「弱いんでしょ、だから逃げるんだ」
その言葉に獅子頭は青筋を立てた。
獅子頭 「うるせぇガキだなー、お前はここで終わっとけ」
そう言うと、獅子頭は左の手のひらに置かれた小さな赤い玉を右手の指で摘まんだ。親指と中指の間にそれを挟み、デコピンの型で佑都の方へ標準を定める。
獅子頭 「指弾玉」
その数分前。風春は改札口の人混みと警察官の制止をくぐり抜け、激しい音のする上り電車のホームに走り込んできた。
風春 「何が起きてる、電車の連絡通路が爆破されてる、、シャドウか!?」
ホームを走りながら上り電車の車内を伺う。途中、車内でマウンテンバイクに乗った一弥と光の姿を見た風春。
風春 「中に入るか」
電車のドアから走り込んだ風春は、連絡通路の扉がなくなり、先頭車両まで真っ直ぐ開けた視界の先にいる佑都達を捉えた。
佑都 「何だその小さい玉っころ」
すると、獅子頭は勢い良くデコピンで赤い玉を弾き飛ばした。その時、佑都の後ろから傘を持った賢人が側に来た。
賢人 「佑都屈め!!」
賢人は力一杯に傘を広げ、自分と佑都の前に構えた。
バッ!ダゴォオオォンッ!
佑都 「ぐっ!?」
賢人 「くっ!!!」
獅子頭が飛ばした赤い玉が、賢人の開いた傘に直撃し爆破した。佑都と賢人は、爆弾の威力で後ろに飛ばされた。
風春 「ちょっ!?、何だよあいつっ!爆発、シャドウだ、、、、大丈夫か!!?」
佑都達の後ろから走り込んできた風春が、両手で佑都達を抱き起こした。
佑都 「あ~。いったー。、、あんた誰?」
風春 「そんなのは後だ!怪我は?血は出てないか?」
賢人 「あぶねー、さすが、、眼帯の姉ちゃんの傘。全然壊れてない」
佑都 「サンキューな、賢人」
爆風で佑都達のいる車内の窓ガラスは割れていた。だが、賢人が盾に使った傘は傷ひとつ無く、新品同様の姿で佑都達の目の前で開いていた。その傘には龍の文字に龍の絵が描かれていた。
獅子頭 「あ?、、なんだあの傘」
風春 「おいお前!」
風春は獅子頭に向かって声をかける。
獅子頭(心の声) 「なんだよ次から次へと変な奴が出てくるな。火薬が湿気ってきてんな。雨が近いのか?降られると面倒だ」
獅子頭は、側のドアの上枠を掴んで電車の上に飛び移った。駅構内では、野次馬と警察官がわんさか集まり始めていた。その人混みの中から、赤紫色のショートヘアに黒いワンピース姿の女性が歩いてくる。
新井雫 「陽炎かなー。影の香りが地面に染み込んでる。甘ったるい匂い」
雫は銀色の傘をささずに右手で持っていた。すると、雫は左手でその銀色の傘の閉じられた骨組みの1本の端を摘まんだ。端をゆっくりと引き抜くと、10センチ程の鋭い針が姿を現した。その瞬間、鋭い視線を電車の上にいる獅子頭に向け、左手に持つ鋭い針を飛ばした。
ビュンッ!
獅子頭 「ンッ」
獅子頭は、顔を右にずらし、雫の投げた鋭い針を右手で掴んだ。
タッタッタッ。ダッダッダダダダダ!
すると、空から大粒の雨が電車の天板を激しく叩き鳴らす。
獅子頭 「あの黒い眼帯、へぇー、知ってるぞ~。これは偶然かな、上質な怒りが頂けそうだ。楽しみにしてなよ」
そう言うと、獅子頭は先頭車両の上から線路に向かって飛び降りた。
風春 「無視すんなよ!、お前は俺が倒す」
風春は、獅子頭の後を追い、ホームに出て行方を探す。先頭車両の前まで向かったが、そこには強い雨に打ち付けられた黒い石達と、冷たく伸びる線路だけだった。