ep7.植物の都編・1話
一9月一
世田谷区の経堂にある´´菊川商店街´´の大通りに並ぶ各店は軒並み賑わいを見せていた。
夕方過ぎから夜にかけて商店街に訪れるのは、仕事帰りの人達や学校の部活帰りの学生達。
肉屋に魚屋、八百屋に総菜屋。パン屋に喫茶店、小さな100円ショップ。ケーキ屋に和菓子屋、婦人服に壊れた靴や服を直す仕立て屋。大通りを挟んで両脇に小さい繁盛店が並んでいた。
その内のひとつに、´´都フラワーズ(Miyako Flowers)´´と看板を掲げる花屋さんがあった。
路面には9月の訪れを感じさせるコスモスやダリア、奥には金木犀が陳列されていた。
店内には女性客や年配の男性客等、地元に住む人達が花を選んでいた。
一19時30分一
菊川商店街は全店20時閉店となっていた。生鮮食品の肉屋や魚屋の店員は商品の値引きや明日の為の準備と片付けを始めながら最後の来店客を待っていた。
その頃菊川商店街の魚屋でコロッケ片手に店員と話をしている巻の姿と、気前の良い店長に教えられながら買ったアジを自ら捌く風春の姿があった。
巻 「久しぶりに魚の話聞けて面白いっすわ!(笑)」
魚屋の店員 「いつでも来なよ!…そうだ明日良い生さんまが入る予定なんだよ」
巻 「あーー。さんまイカチーですって!」
風春 「こわいこわい、ここですか?ここに包丁入れれば良いんですか?」
魚屋の店長 「そうそう!…ゆっくりな。うちの包丁は良く切れっから」
風春 「ちょちょちょっ脅かさないで下さいよ~」
魚屋の店長 「ハッハ~!」
タッタッタッ!
商店街の夜道の真ん中を黒いスーツで掛けるひとりの女性がいた。
美代玲香 「まだ……やってる!…」
美代は腕時計を確認する。
19時45分。
タッタ
美代は都フラワーズの前で足を止めた。
美代 「間に合った」
美代は色とりどりに飾られた花を見るために店内へと入った。
閉店間際でも花屋さんには数名の客が花を選んでいた。
宇栄原 「いらっしゃいませ」
園田店長 「いらっしゃいませー!」
美代が店内に入ると黒い半袖シャツにライトブラウンの腰エプロンを付けた店員が優しい声で迎えてくれた。
美代は悩むことなく小さなブーケタイプの花束を選んだ。
茶色い包み紙でくるまれた中にはオレンジを基調とした花々(はなばな)が綺麗に束ねられていた。
レジにブーケをもって行くと男性店員が手際よく会計をしてくれた。
美代はブーケを袋に入れてもらっている間、ふと奥に置かれている薔薇が気になった。
美代の視線に気がついた男性店員が一声掛ける。
宇栄原 「良かったら近くで見ても良いですよ。まだ店頭には並べられてないんですけど…」
美代 「…あ、そうなんですね!すいませんありがとうございます!」
美代はブーケの入った紙袋を受け取ると、店内奥の台車に乗せられた薔薇を覗きに向かった。
美代 「薔薇って綺麗だなー。…色んな色があるけど私はやっぱり赤かなー」
そう言いながら近くで見つめる美代が、ゆっくりと赤い薔薇の花を触ろうと指先を近付ける。
シュル、シュルル
美代 「…え?」
一20時01分一
閉店時間を過ぎた菊川商店街。明かりが付いていた店が次々と店頭の照明を消して行く。
園田店長 「宇栄原君、水替えが終わったら上がっちゃっていいよー!」
レジ閉め作業をしながら園田が宇栄原に声を掛ける。
宇栄原は交換用の黒いバケツを取りに裏手に回って行った。
巻は店員の話を聞きながらきな臭い顔で魚屋から花屋の方を見ていた。
風春は店長に教わりながら作ったアジのお造りに納得の表情で袋に入れると巻に声を掛けた。
風春 「巻さん見てください!今日1日でここまで出来るようになりましたよ」
巻 「ハル。さっきあの花屋に入った女が出てきてない」
風春 「え?」
と風春は巻が見つめる先に視線を向けると、そこには薄灯りのついた花屋でふたりの店員が働いていた。
風春 「見てたんですか巻さん?」
巻 「あぁ」
風春 「でも裏から出てったとか、従業員の人とか」
巻 「いやそんな感じは無かった。ただ大きな物音叫び声ひとつしなかったから確証はねぇ」
その時さっきまで巻と話していた魚屋の店員が口を開いた。
店員 「ここ最近この商店街で女性が行方不明になってるらしい」
風春 「え?行方不明…」
店員 「でも証拠が見つからないから警察も動かない。いつもより商店街をパトロールする警察の回数が増えただけ」
巻 「きな臭いな」
店員 「噂じゃ行方不明になった女性のほとんどが花屋を訪れてるって話らしいけど、都フラワーズの園田店長は物凄く愛嬌良くてイイ人だからたまたまだろって商店街の皆は怒ってるよ」
魚屋店長 「バァカ変な話すんじゃねえよ!片付けろ片付けろー!」
店長に叱られた店員はそそくさと巻から離れて店じまいを始めた。
巻と風春は片付けの邪魔をしないように店の前へ出て通路に移動した。
魚屋の左斜め前にある花屋では店員が作業している姿が見えた。
目元まで隠れる縮れた髪型の宇栄原は黒い花用のバケツの水替えを行っていた。
花屋の入口側で作業する宇栄原の姿を巻と風春はじっと見つめていた。
・・・
一同じ頃。経堂にある道路では一
ブウゥンブウゥンブウンブウンブンブンブンッ!
ブンブンブンブンッ!!
パパラパパラパラパラパッパラパー!!!
ブォゥウウンンッ!!
片側2車線の道路に20台ものチョッパーバイクが泳ぐように走行していた。
その1番先頭で黒色と銀色の2色でカスタムされたチョッパーバイクを運転する白い特攻服を着た女が中央を突っ走る。
その女は鬼ハンドルを握り半キャップを首から掛け、セミロングの茶髪に金色の前髪をなびかせ赤いマスクを付けていた。
白い特攻服を揺らす。
女は強くハンドルを握るとバイクは更に加速して夜の街に消えていった。
西村花憐 「……」




