ep6.フロストフラワー編・3話
ザッ、ザ、ザッ、ザ、
ザッ、ザ、ザッ、ザ、
僕は橘さんの黒い家の裏手から獣道を通りながら山へ入った。そこは緩やかな山道とは違い、傾斜がきつく両手を使わないと上へ登れない角度だった。
橘さんはいるのだろうか。
とにかく洞窟がある場所まで行かない事には何もわからない。
僕は脇目も振らずただひたすらに地面を掴み上へ登った。
・・・
丸茂が踏み入れた山の入口から150メートル上へ登った地点。
そこには洞窟があり、その中に入って行く子供達がいた。
タッタッタッタッ
タッタッタッタッ
その洞窟は天井が高く奥へ進めば進むほど暗くなっていった。
洞窟に入った子供達は中間程の場所に秘密基地を作っており、何やら自分達がお気に入りの道具を基地の中に集めていた。
洞窟に響く子供達の足音とはしゃぎ声。そして微かに聞こえる´´ピチャン、ピチャン´´と雨音の様な音が鳴る。
ザッ、ザ、ザッ、ザ、
檜原村村長・天海玄二 「何をしておる…」
洞窟の入口から村長のガラガラ声が奥まで響いた。
タッタッタッタッ
タッタッタッタッ
子供達 「ヤバい!あまじいだ!、逃げろっ!」
天海 「勝手にこの洞窟へ入ってはいけんと言ってるじゃろうがっ!!、ンゴホッ、ンゴホッ」
村長の天海は脇から走って逃げて行く子供達に注意するも、あっという間に逃げられてしまった。
天海は洞窟の中へ進んで行くと、子供達が残した秘密基地に置かれた道具を持てるだけ持つと出口へと向かった。
ザッ、ザ、ザッ、ザ、
天海 「?」
天海が出口へ向かっている途中、明るい出口にひとりの影が洞窟から見えた。
天海 「(また子供達か…にしては背が高いな?)…誰じゃ!」
洞窟の中間程から声だけが外へ響き渡る。
洞窟らしき場所へ到着した僕からは、暗くて声主の姿が確認出来なかった。
丸茂 「すいませーん!、檜原村訪問診療医の丸茂と申しますー!」
天海 「あら…」
ザッ、ザ、ザッ、ザ、
天海が両手に子供達が残した道具を持ちながら明るみに姿を現す。
丸茂 「あ、村長じゃないですか」
天海 「びっくりしたのはこっちの方じゃ。何で先生がこんな所に」
僕は村長と顔なじみだった。と言うより村長も僕が訪問診療で定期的に伺っていたからその関係でとても良くしてもらっていた。
丸茂 「実は…」
僕は黒い家の橘さんに会ってから病院で血液検査をしてこの山まで来た顛末を村長に話した。
天海 「うん…そう言う事じゃったか。…残念だが橘さんは見とらん。…このホコラはむやみやたらに来てはならん所なんじゃ」
丸茂 「どういう事です?」
天海 「この洞窟の中には、´´ホコラ様´´と名付けられた神様が祀られている。薄暗い洞窟だがこの頭上には大小異なる鍾乳石がずーっと奥まで広がっているんじゃ」
丸茂 「え?」
僕は村長の話を聞いて頭上を見上げた。暗闇の天井には、たしかに細いものから太いものまである鍾乳石がこちらに向かって伸びていた。その色は見る角度によって黒色やベージュ色に見えた。
天海 「ホコラ様を祀るこの村は´´限界集落´´と地域住民からは呼ばれているものの、その本来の村の姿はホコラ様と称して洞窟に祀る事で大きな災いをこの洞窟内部に収めておく為に村民一丸となって見守っているんじゃ」
丸茂 「なるほど…その´´ホコラ様´´が僕達を災いから守ってくれてるって事ですね?」
村長はゆっくりと頷いた。
天海 「その伝承話も今となっては薄れてしまってな。今じゃ子供達の秘密基地じゃ。この鍾乳石には水分が多く纏っていてな。大声で叫ぶと洞窟に音が響き渡って、天井の鍾乳石が微かに振動して霧状の水分が上から降りてくるんじゃ。それを子供達は面白がって遊ぶんじゃがな…」
その時、一瞬だけ村長の話が途切れたと思ってふと村長の顔を見ると、半分白目を向いて身体を小刻みに震わせていたんだ。
丸茂 「村長!!?大丈夫ですか?」
天海 「…ぁあ。すまない…私はもう外へ出るよ」
丸茂 「心配なので僕も行きます!…ただ村長、今度この洞窟と鍾乳石を調べてみたいのですが良いでしょうか?」
天海 「調べるのは結構じゃが、気を付けるんじゃよ…」
たどり着いた洞窟で橘さんは見つけられず、僕は村長を自宅まで送り終えると一旦家に帰って洞窟の調査の準備にかかった。




