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shadow  作者: 新垣新太
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ep5.カラクリの椅子編・3話

岡田の後ろから歩いて闘技場まで来た巻と風春。岡田は売店の様な場所で止まると中にいる男性に声を掛けた。


岡田 「選手エントリーだ」


岡田が立つその場所は´´シャドウクラブエントリー受付口´´と書かれていた。売店の様な中にはひとりだけ男性が座っていた。



エントリー受付係 「名前は」



岡田 「岡田だ。俺の番号は既にあるはずだ」


受付係の男性は悪い目付きでチラリと岡田を見ると、パソコン画面とその脇に並べられた丸い番号が書かれた束を手で探る。



受付係 「あんた今大分稼いでるみたいだ。気を付けな」



と言って受付係は丸い形に番号がふられた1枚の紙を渡した。


岡田 「兄さん達はどうするの?」


岡田は後ろにいる巻と風春に聞く。



風春 「俺は、やります」



巻(心の声) 「さっきっからアイツに渡したブルーラインが俺の手元に戻って来ねぇ。何でだ?これもアイツの能力なのか…」



岡田 「坊主の兄さんは?」


岡田は巻の方を向いて確認した。



巻 「後でエントリーする。今は試合の様子を見ておく」


岡田 「じゃあひとり追加エントリーをお願いする」


風春は受付係に自分の名前を告げると指紋を紙に取られた。そして岡田が渡された物と同じ丸い紙を渡された。


岡田 「それが兄さんの選手ナンバーだ。忘れないように」



風春 「115番」



巻 「なぁ、試合はどうやって決まるんだ?」

岡田 「ランダムだよ。場内に設置されてるマイクからエントリーした選手の番号が呼ばれる。呼ばれた選手は闘技場に入る。簡単でしょ」


風春 「この番号の紙はどうすれば?」

岡田 「シールになっているから剥がして身体の正面に貼っておけば大丈…」



ドッドッドッドッドン



シャドウクラブ内に重低音が鳴ると同時に場内が暗くなった。



風春 「停電?」

巻 「なんだ?」


巻と風春は暗くなった場内を見回す。



岡田 「賞金王が現れる合図だ」




ワアァァ!ワアアァ!ワアァー!!!




場内が暗くなった途端。客席からは大きな歓声が沸き起こった。



場内マイク 「本日のメインイベントを開催致します。現在のシャドウクラブ賞金王であるNo.99に挑戦できる選手番号は………」



風春は丸い紙の後ろをめくり右胸の位置に選手ナンバーを貼り付けた。



場内マイク 「……No.204、No.204。選ばれた選手は闘技場に入場をどうぞ」



賞金王の対戦相手が決まり更に盛り上がる場内。



風春 「なんすか賞金王って」

巻 「強ぇ奴に決まってんだろ。ブルーライン無しでもエントリーするべきだったか」



場内にいる客席からはNo.204が誰なのかと辺りを見回す者達でざわめいていた。




岡田 「…呼ばれちゃったみたいだ」




岡田は内心ワクワクしていた。それは、巻から頂いたブルーラインをお試し出来るからだけではなかった。

シャドウクラブにエントリーを初めてから今まで、賞金王との対戦は実現していなかった。と言うよりも、エントリー者数の中からランダムにひとりだけ選ばれる可能性など宝くじの1等が当たる様なものだった。


岡田は巻と風春を置き去りにし、黒い金網に囲われた闘技場に入場する。


客席から見ているシャドウ使い達から岡田に対して歓声と罵声が飛ぶ。



客席の声 「あいつ、ゲーマーだろ」


「そうだ。噂では賞金王と余り強さが変わらないって話だぞ」


「…案外良い試合になるんじゃない」


「いや、誰が相手でも紫猿(しえん)には勝てんよ」



ドッドッドッドッドン



再び場内に重低音が鳴る。

マイクから´´エントリーNo.99の入場´´とアナウンスが入った。




暗い場内に革靴の音が鳴る。



カッ、コッ、カッ、コッ



紫猿博巳(しえんひろみ) 「どぅも」



181cmの長身を闘技場に入れた紫猿は、No.99の丸い紙をスーツのズボンに付けて現れた。長髪にネクタイの無いスーツ姿の紫猿は、先に入場していた岡田と目を合わせたが無言だった。




岡田 「…暗いのにデカイのが十分に分かる。…待ってたぜ。この時を」



ガラガラガラ…ガシャアァン



開いていた黒い金網の一部が音を立てながら閉まった。闘技場の中には岡田と紫猿のふたりだけとなった。




暗かった場内に明かりが灯る。闘技場には客席よりも少し明るい照明が当てられた。




岡田と紫猿は正面に立ちじっと目線を離さずにいる。


場内マイク 「これよりメインイベントの試合を開始致します。時間は10分1ラウンド、勝者は敗者が獲得した賞金を全て総取りする。異論がなければ両者拳を合わせて試合を始めてください」




岡田と紫猿は闘技場のマット中央に歩み寄ると、お互いゆっくりと右の拳を正面に突き出す。



トン



両者の拳が合わせられた。


金網上部に流れる電光掲示板のタイマーが進み始めた。




´´キャラクタチョイス´´




野太い声が岡田のマスクから発せられた。紫猿と拳を合わせた直後、マスクにデザインされたコントローラーのBボタンを岡田は押していた。




岡田 「´´shinobi´´を登場する」



ブシュンッ!



岡田の目の前に忍者の姿をした男が現れた。


するとその直後



ブンブン、ブン、ブンブン



紫猿 「分身か…」



現れた忍者は影分身を使い紫猿をぐるりと取り囲んだ。




岡田 「…あんたは何のシャドウ使いだ」



シュダダッ!シュダシュダッ!!



取り囲んだ忍者は手にクナイを持ち一斉に紫猿に向かって飛びかかった。




ビリッ、ズポッ


チューチュー


紫猿は胸ポケットに入れていた紙パックのイチゴオレにストローを突き刺すと一口二口口の中に入れた。




紫猿 「´´脚遊(ブレイキングダンス)´´」




ぶんっ!ブウン!ブンヒュンブンブウゥンッ!!!



紫猿はストローを口に咥えた状態で、マットに手を付き逆さまになると開脚した身体をブンブンと高速で回転させた。




ズドゴドゴドゴッオォン!!!!




紫猿に飛びかかった忍者達は回転蹴りを食らうと後ろに跳ね返され黒い煙となって空に消えた。



だが



´´キャラクタチョイス´´



岡田のマスクから野太い声が発せられると。



黒い煙を引き裂くようにして何者かが紫猿の前に現れた。




岡田 「足技が得意なのは知ってる。けど他にも何か隠してないか?…打撃じゃあ´´岩窟(がんくつ)´´には効かないよ」



岡田と紫猿の間に立ち膝で現れた岩窟は、鋭い(まなこ)で紫猿を睨みながら立ち上がる。




客席の声 「ゲーマーの´´岩窟´´が出た」


「何、あの角刈り」


「足技VS鋼だな」




重たい足取りで角刈りヘアの岩窟が紫猿に近づいて行く。




紫猿 「身体重たいのか?…次はなんだ」



岡田 「固さの勝負をしようか」



すると




メキバキゴキグキガキンッ




角刈り岩窟が右の拳に力を入れると全身が岩石のようにゴツゴツと固く変形した。

その直後、岩窟はマットに向かって右の拳を打ち込んだ。



ドゴッ!


バキバキバキバキイィイィイィンンンッ!!!!



岩と岩が激しくぶつかり合う様な音をあげると、岩窟が打ち込んだ右の拳周辺から岩粒が現れる。

と同時に紫猿の足元から激しい音と共に大小粗さの違う岩石が鋭さを持って紫猿に襲い掛かる。



ズガガガガアァアァアッ!!!



紫猿は岩窟の攻撃に違和感を察知し、マットから空中にジャンプをすると寸出の所で岩窟の攻撃を避けた。



だが、岩窟の攻撃は続いていた。マットから飛び出した岩石は、ジャンプした紫猿に向かって次々にぶつかって行く。



ド、ゴォ、ド、ゴッ!



紫猿 「…これは拉致があかねぇ」


両腕で顔をカバーし、大きな岩は脚蹴りで弾く紫猿はマットへと着地する。



その瞬間



ズヒュンッ!



岡田が紫猿の着地した瞬間を狙ってブルーラインを素早く突き出した。



紫猿 「!?っおぉ…次はお前か」



紫猿のスーツを切り裂きながらブルーラインは紫猿の左肩の上を通った。



岡田 「素晴らしい反射神経だな」



ズダダダンッ!



すると岡田の動体視力でギリギリ追える足の速度で紫猿は岡田の横を通り過ぎ、岩窟の後ろまで一瞬にして移動した。



紫猿 「近距離はどうなんだ?」



バゴオォッ!!



紫猿の右ハイキックが岩窟の右側頭部にぶつかる。

だが、全身をゴツゴツと固い岩と化した岩窟はびくともしていなかった。




紫猿 「´´連脚(ミルフィーユ)´´」




すると紫猿は左足を軸にして右足を岩窟の頭部から足元までを上下ランダムに連続でキックを繰り出した。



岡田 「なんだ、あの足蹴りのスピード」



ダダッ!!



岩窟が紫猿と戦っている隙に岡田は素早く走り込み、紫猿の後方に回る。



岩窟は紫猿の脚蹴りをくらいながらも、左腕を少し上に上げて左の拳を握り締めた。



ガゴバギゴギッ!



岩石が岩窟の左拳から現れる。岩窟は左拳をマットに向けて突き下ろす。



ブンッ!



だが、マットに岩窟の左腕が降ろされる瞬間。紫猿の右足が岩窟の左腕を凪ぎ払い、左足を軸に身体を回転させるとその勢いで強烈な右ハイキックを岩窟の頭部に直撃させた。




バガギゴギイィイィイィィンッッ!!!!




岩窟の全身に大きな亀裂が走った。



すると


岩窟は首を左右に振り目をうつ向かせる。



チャリン



膝を付いた岩窟は大きな黒いコインに姿を変えると黒い霧となって消えてしまう。



ズザザアァッ!



岡田は紫猿の後ろに走り込み持っているブルーラインを強く振りかぶり紫猿の首に向けてフルスイングした。



岡田 「よくやった岩窟…フンッ!!」



回転蹴りを岩窟に食らわせた紫猿は、視界の隅で岡田の動きを捉えた。




バキイィィイィィンンッ!!




岡田 「!??」




岡田が思い切りフルスイングしたブルーラインが、紫猿の右足蹴りによって折られてしまった。



紫猿は岡田に素早く近付くと、右足の靴底を向けて岡田の胸部を狙い足蹴りを食らわせた。



ドッ!!



岡田 「グッフ!!」



ザザザアアァッ!!



マットの上を滑り金網の近くまで突き飛ばされた岡田は、激しく咳き込み血をマットに吐き出した。



岡田 「ウブッ。…折られた…」



胸ポケットから飲みかけのイチゴオレを取り出し口にくわえる紫猿。



チューチュー



紫猿 「柔らかい身体だな。加減はしたぞ」



呼吸がしずらくなっている岡田は仰向けに体を向けると、手元に長方形の小窓がマットから現れた。


´´リタイア´´と´´コンティニュー´´の2色のボタン。



岡田 「あぁ…カッコ悪いな」



ポチッ



ガラガラガラガラッ



闘技場の金網の一部がスライドし始めた。岡田は右手で´´リタイア´´のボタンを押していた。



オオォオオォオォォォオオオッ!!!



場内に歓声と罵声が乱舞した。



紫猿は少し前屈みで金網から闘技場を出るとあっという間に消えていった。岡田はシャドウクラブの救護スタッフに担がれて闘技場を後にした。




ドッドッドッドッドン




重低音が場内に鳴ると照明が弱くなり薄暗くなった。

黒い金網上部に流れる電光掲示板に、´´勝者No.99に賞金300万円の報酬を与える´´と表示された。



場内の中腹(ちゅうふく)で立ち見をしていた巻と風春は、話すこともなく試合に見入っていた。



風春 「ふたりとも目で追い付けない位の速さで動いてましたね」


巻 「アイツ…やっぱり強ぇ奴だな。俺のブルーラインを折りやがった」


風春 「巻さん。見失う前に、あの人の所に行きましょ!ここからの出方もわからないですし」


巻 「…だな」



薄暗い場内の中、巻と風春は救護スタッフに担がれて歩く岡田の元へ走って向かった。


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