ep5.カラクリの椅子編・2話
シャドウクラブに足を踏み入れた岡田達は中央に構える闘技場に近づいて行く。
八角形の闘技場の金網の上部には、電光掲示板が横渡しで表示されていた。その掲示板には、緑色の蛍光色で´´No.109VSNo.86´´と´´5:14´´の文字が続けて表示されていた。その文字は金網上部でぐるりと一周する掲示板上に流れていた。
岡田 「金網の上に表示されているのは対戦している選手のナンバー。その隣が試合経過時間。試合は10分1ラウンドで終わるけど、選手には選択権がある。ひとつは試合中に敗けを認めて試合を棄権する。もうひとつは、敗けも同然の状況で時間が終わりを告げても試合を続行する事ができる」
巻 「…俺達もここに参加するってのか?」
岡田 「それはご自由に」
風春 「三条さんがここに俺達を向かわせたって事は…ここに陽炎のメンバーがいるって事っすよね?」
巻 「…だろうな」
・・・
シャドウクラブの闘技場を囲む黒い金網の中では、汗をかいたふくよかな体格の男とロリータファッション姿の女が闘っていた。
ズザザザザアアァッ!!
張りのある闘技場のマットに身を低くして止まった米倉真衣は、ツインテールに縛ったオレンジ色の毛先を揺らしながら息を荒げていた。
斎藤健児 「効かない効かないよ~。もっと僕を痛め付けてよ~」
米倉の前に大きな身体を揺らしながら煽る斎藤は、半笑いで米倉を見つめ身体のアチコチにアザを作っていた。
米倉(心の声) 「何なのアイツ。気持ち悪すぎでしょ。私の攻撃を5分以上受け続けておいて何で笑ってられるの?殴られ過ぎて頭のネジでも吹っ飛んだの?」
米倉はお気に入りのピンク色のハンドグローブをきつく締め直すと立ち上がり、ファイティングポーズで少し身体を動かす。
軽装なロリータ服が米倉の動きに合わせてフワフワと揺れる。
金網上部を流れる試合経過時刻は´´8:31´´。
米倉と斎藤は試合経過時刻を金網の内側上部に流れる電光掲示板から確認が出来る様になっている。
斎藤 「あれぇ…もう体力の限界かなぁ。小さくて可愛い女の子だから、こんな僕相手だと疲れちゃうかぁ。残念だなぁ」
米倉 「勝手な事言ってんじゃないわよっ!」
ダダダッッ!!
米倉は勢い良く走り出すと斎藤の後ろに回り込んで右膝に一蹴り与えると斎藤が「ひぃっ」と軽い声を上げた。
更に斎藤の前に移動すると腹部に連打を与えて、軽快なフットワークで斎藤の側面を駆け上がり、顔面と後頭部に連続蹴りを食らわす。
グラッ
斎藤 「…ん…んぁあ……効く」
白目を半開きの目から覗かせた斎藤はゆっくりと前に倒れ始める。
米倉(心の声) 「しっ!今のは効いた!、でも何でコイツさっきから私に攻撃を仕掛けて来ないの?、シャドウだってまだ出してないし…そんな事より早くコイツを倒しちゃえば良い話でしょ!…賞金頂くわよ」
米倉は気付いていなかった。
斎藤の右腕が、米倉からの攻撃を受ける度にメキメキと太く分厚くなっている事を。
米倉 「これで終わりよ!」
米倉が前に突っ伏した斎藤の背中に乗り、後ろから首を締めようとした。
その時
ガッ!
米倉 「!!?」
米倉の右腕を斎藤の右手が力強く握った。
その力は米倉では全く歯が立たず、気付いたときには立ち上がる斎藤の前で、右肩を捕まれ完全に逃げられない状態にさせられていた。
斎藤 「…楽しかったな~ロリータ嬢ちゃん。…こんなに負けん気が強くてアザが出来るほど男みたいな打撃を持ってるだなんて」
米倉 「…くっ!離せっ!近づくなっ!」
斎藤 「僕のシャドウはね、相手から受けたダメージを溜め込んで溜め込んで弾き返す´´オウム返し´´なんだ」
メキメキと太くなった右腕を斎藤は後ろに引いて構える。
斎藤 「…痛かったよ~」
ブゥォオオオンッ!!!
風を起こしながら斎藤の右腕が伸びるとその拳が米倉の胸部にぶちこまれる。
ドッガッガッシャァアアアンンン!!!!
米倉 「!!?…グファッ!」
黒い金網まで吹き飛んだ米倉は、半分意識を失った状態でマットに倒れ込む。
その時
カシュンッ
マットに黒い影が現れると、長方形の窓枠がマットに現れ音を立てて横にスライドした。
米倉 「…ちく…しょ…今回も負け…かよ」
マットの小窓から現れたのは2つのボタンだった。
赤いボタンの下には´´リタイア´´の文字。その右にある緑のボタンの下には´´コンティニュー´´の文字が表示されていた。
ダンッ
米倉が重い右腕を挙げて押したボタンは赤いボタン。
するとブザー音が鳴り、黒い金網の一部がスライドすると、そこから斎藤が退場した。
斎藤 「賞金は少ないけど、楽しかったから良しだよ」
米倉はシャドウクラブ専属の救護スタッフに連れられて退場した。
闘技場に流れる電光掲示板に´´勝者No.109に、賞金10万円の報酬´´と流れた。
シャドウクラブ客席では、試合にチップを投じていた者達の歓声と罵声が飛び交った。
・・・
一その夜一
試合を終えた米倉は肩にお気に入りのピンク色のハンドグローブを引っ掛けて道を歩いていた。
口にはウサギのぬいぐるみが取り付けられたマスクをしている。
米倉 「…なんであんなヤツに負けなきゃいけないのよ…ありえないでしょ…」
スマートフォンを見ながら歩く米倉。
すると
ドンッ
片手に煙草を持って、もう片方にコンビニ袋を持った守川清人は、肩にぶつかって来たにも関わらず通りすぎようとする米倉を止めた。
守川 「おい!…なんか言う事あんだろ?」
煙草に口を付け終えた守川は、口から煙を出しながら米倉に声を掛けた。
米倉 「…ぁぁ、、すんません」
小さい声で謝る米倉。
守川 「聞こえねえよ!…もっとはっきり喋らねえとオッサンの耳には届かねえよ」
米倉 「は?」
米倉は試合の疲れと敗けた悔しさのイライラが募り、鋭い目付きで守川を睨んだ。
守川 「…なんだその目付きは。…やんのかぁ…!?」
守川が言葉を発して米倉に近付こうと一歩踏み出した途端。
ピタッ
守川 「!?」
守川の鼻の数ミリ先に、米倉の右拳が構えられていた。
スタスタスタ
米倉 「…ダッサァ…口だけかよ酒クサオッサン」
出した拳を引いた米倉は守川の横を通り過ぎて行く。
守川 「違ぇよ…テメェが殴ってこないってわかってわざと避けなかったんだ…ん?」
カシュッ!
守川が言葉を言い終える前に、アルミ缶の蓋が空く音がした。
ジョボジョボジョボボッ
米倉がいつの間にか守川から奪ったコンビニ袋から缶ビールを順に取り出すと、蓋を次々と空けては道にビールを捨てて行く。
守川 「おいおいおいおいっ!何やってんだよ!俺が小便我慢してまで買いに行ったビールとつまみだぞ!」
米倉 「へー。そうですか。じゃあありがたく貰っていきますわ」
と告げると米倉はダッシュで守川から離れていった。
守川 「ハァー。…つまんねぇな俺の人生。何しに夜中にほっつき歩いてここまで来たんだか…」
・・・
六本木にある´´守川神社´´。月明かりに照らされた高さ3メートルの御神石にはしめ縄がぐるりと一周掛けられている。
ジョボッ、ジョボボッ、ジョボッ
守川 「…この歳にもなると小便の出も悪ぃなー」
守川は御神石の影に立って小便を御神石に向かって掛けていた。
すると
ゴッ!
カラン
守川 「痛…ってぇ……なぁーぉい」
ドサアン
守川神社の渡り廊下から誰かが、守川の頭に向けて下駄を投げつけると、見事に頭部に命中すると砂利の上に1つの下駄と守川の身体が倒れた。
守川 「あーぁ。つまんな」
・・・
一シャドウクラブ・運営室にて一
大画面に映し出される闘技場の様子をスーツ姿の男達数名が眺めていた。その内のひとり、銀山辰巳は大画面にゆっくりと近付いた。
銀山 「客入りの状態がピークを迎えるよ。客寄せパンダを闘技場に入れろ」
すると銀山の斜め後ろに立つ男が返事をした。
志波琉楽 「ハッ」




