ep5.カラクリの椅子編・1話
8月。東京、港区・六本木の夜の街はきらびやかな光で満たされていた。
そんな夜の街を歩く巻と風春は建物と建物の間や、ビルの上を覗いて何かを探していた。
ふたりが六本木に来てから2週間。人影の三条に指示された場所に未だ辿り着けずにいた。
風春 「こっちのエリアも無さそうっすね巻さん」
巻 「…ないなぁ。不思議と強ぇ奴の臭いもしてない気がするなー」
夜道を歩く巻と風春。その道先にあるコンビニ店内からの照明でコンビニ前だけがやけに明るく照らされていた。その道路脇に背の高い男がスマートフォンを横に持ってゲームをしていた。
岡田哲也 「…」
スマートフォンの画面の中では、忍者姿の男とムキムキタンクトップ姿の男が向き合って格闘をしていた。岡田は忍者姿の男を操作すると巧みな連続技を繰り出して最後に必殺技を決めてタンクトップ姿の男をKOさせた。
岡田 「ノック、アウト」
青いフード付きパーカーにカーキ色の綿パンツを履いた岡田は、茶髪クセクセ癖ッ毛で隠れる目元からスマートフォン画面を覗いていた。
すると
巻 「ちょっとお兄さん聞いてもいいか?」
岡田の持つスマートフォンの横から巻が顔を現して質問を仕掛けた。
岡田 「…まぁ、ちょっと暇だったんで良いすよ。何でしょ?」
巻 「六本木に´´シャドウクラブ´´って場所があるらしいんだ。なかなか見つけられなくて困っててな。何か知ってたら教えて欲しいんだけど…地元民?」
岡田 「…´´シャドウクラブ´´。一般人がまず耳にすることは無い言葉すね。…お兄さん達、どこでその情報を知ったの?」
岡田は目元まで伸びる癖ッ毛の隙間から目を覗かせる。
風春 「君ってこのカードに見覚えある?」
と言って風春は、人影しか持っていない銀色のカードを岡田の目の前に見せた。
風春(心の声) 「変に誤解されない為には、何も話さずこのカードを知ってるかどうかで相手の素性を計った方が安全だ」
銀色のカードを見た岡田は目付きが少し鋭くなる。そして、1秒後。岡田の目元は柔らかくなった。
岡田 「…知ってるよ。´´シャドウクラブ´´まで案内しようか?」
巻 「ほう、話が早えぞハル!」
岡田 「その代わりに、、交換条件。何か俺に大切な物を渡さないと案内しない」
巻 「あーぁ。そうか、、わかった」
と言うと巻は自分の影からブルーライン(青い銛)を引き抜くとそれを岡田に手渡した。
巻 「俺の相棒と言っても良いコイツをやるよ(笑)」
風春 「え!良いんですか巻さん」
巻 「大丈夫だよ」
巻(心の声) 「俺のブルーラインは、俺の言う事しか聞かない。どんな影からでも俺の手元に戻せる」
岡田 「へぇ。何かに使えそうだ。じゃあこのブルーラインとやらで交換成立するよ」
巻 「大事に使えよ」
風春 「で、あるんですか´´シャドウクラブ´´って」
岡田 「もちろん。…俺と間隔をあけて後ろからついて来て」
巻 「了ー解」
岡田はブルーラインを握り、杖のようにして地面に付きながら夜道を歩き出した。その後方3メートル程の間をあけて巻と風春がついて行く。
一歩くこと10分一
大通りの歩道に出た岡田はしばらく歩いていたが、左手に建つ大きな商業施設´´フクロウフォレスト´´と壁面に電字版を掲げられた建物の中へ入った。
岡田のすぐ後に巻と風春が後ろから建物に入ると、すぐ右手にある3台のエレベーターの内、一番右にある入り口の前で待つ岡田の後ろで止まった。
エレベーター案内係 「いらっしゃいませ。お客様は何名様ですか?」
岡田が待つエレベーター入り口に百貨店販売員の様な出で立ちの女性が岡田に声を掛けた。
岡田 「3人だけで上に上りたい」
エレベーター案内係 「3名様ですね。かしこまりました。まもなくエレベーターがご到着致します近付かずにお待ち下さい」
流暢な接客用語でこなされた岡田と巻、風春は、タイミング良く到着した上りエレベーターの扉が開くと中に乗り込んだ。
巻 「そうか、こんなでっかい建物の上にあるんじゃ、いくら俺達が探し回っても見つからない訳だ」
風春 「…そうっすね」
先に入った岡田がエレベーターの閉まるボタンに親指をのせて扉を閉める。扉の内側には森の中にいるミミズクの絵が姿を現す。ミミズクの顔が閉まる扉を中心にシンメトリーに描かれていた。
風春 「おぉ…」
不意にミミズクと目が合ってしまった風春が口から声を漏らす。
スンッ…
静かなエレベーター内。
すると、岡田は閉まるボタンにのせていた親指に力を入れると、グッと閉まるボタンを押し込んだ。
ガッガン!
閉まるボタンは2センチ程奥に押し込まれた。
その瞬間。
ガバンッ!
3人が乗るエレベーターの床が無くなった。
風春 「!?え?、ちょっ!マジッ!?」
身体のバランスを崩した風春は横向きに体勢を変えた。
巻 「てめぇハメやがったな!、バショウ!!」
バシュウウゥゥゥッ!
落下する巻の影からバショウが姿を現すと、棚引く背びれを掴み跨がった。
岡田 「フッ面白ッ。やっぱり一見さんの反応見るのは楽しいな。、着地気を付けてね」
エレベーターの下に伸びるワイヤーコードに掴まる岡田は、ポケットからゲームコントローラーデザインのマスクに付け替える。
風春(心の声) 「急に床が無くなった!…どんどんエレベーターが遠くなってく…広い?暗くても分かる程周りに何も無いように感じる…どうなってる?」
巻 「ハル!、俺に捕まれ!」
バショウに乗る巻が風春に右手を伸ばす。巻の声に気が付いた風春は、何とか手を伸ばし巻の手に掴まるとバショウの背中に乗せられた。
巻 「たくどうなってんだここは?かなり落下してんな」
マスクを付け終えた岡田は、マスクにデザインされたコントロールボタンのBボタンを押した。
´´キャラクターチョイス´´
野太い電子声音がマスクから発せられた。
岡田 「´´ハッスル´´を使う、肩車しろ」
と言うと。
バシュウウゥゥゥッ!
ワイヤーから飛び降りる岡田の足元に、ムキムキタンクトップ姿の男が岡田を肩車で掴み下へ降りて行く。
暗く光の届かない地下へ岡田達は落ちて行く。
巻 「…?、ハル、出口が見えたぞ。ちょっと息止めてろ」
風春 「え?あ、はい!」
その時
ザバブウゥゥウゥンン!
落下する先に黒い地面が現れると、バショウに乗る巻と風春は、地面に現れる影の中にバショウと共に潜り込んだ。
ブクブクブクウゥウゥ
バショウは黒い水の様な影の中で華麗に泳ぎながら衝撃を殺し終えると、再び上昇を始めた。
バシャシャァアァアァアッ!!
巻 「大丈夫かハル?」
風春 「…何とか!すごいっすね巻さんのバショウ」
巻 「だろ?サンキューバショウ!」
バシュウウゥゥゥン!
固い地面の上に上陸すると、バショウは影の中に姿を消した。
ドドンッ!!
するとその直後。
重低音を固い地面に響かせながらムキムキタンクトップ姿に肩車をされて着地した岡田が現れた。
岡田 「´´ゲームセット´´」
するとムキムキタンクトップ姿の男はニッコリスマイルを巻達に向けると、黒いコインに姿を変えながらチャリンと音を鳴らしてキラキラと粉を散らして姿を消した。
巻 「なんだよ今のデクノボウ…」
風春 「ゴリマッチョでしたね」
岡田 「お兄さん達一見さんなのによく着地出来たね。優秀で助かったよ」
3人が着地したのは黒い地面の通路らしき場所。
その側には´´D´´と大きく白字で塗られた両開きの扉があった。
巻 「だりぃな。何処なんだよここは?」
岡田は´´D´´と塗られた扉に近付きながら話し出した。
岡田 「ここは´´フクロウフォレスト´´。六本木で有名な8階建ての商業施設。1階から6階まではシアターフロア。7、8階はレストランフロア。そして、一般人には決して知られていない地下へ落ちること20メートル先にあるこの場所こそ、お兄さん達が探していた場所」
ガチャ
扉の前に着いた岡田は、右手でノブを回すとゆっくりと手前に引いて顔をふたりに向ける。
岡田 「ようこそ´´シャドウクラブ´´へ」
開いた扉から中へ入る巻と風春は、シャドウクラブの景色を目の当たりにする。
巻 「おいおいおい…どうなってやがる」
風春 「うわ…凄い熱気」
そこは、東京・国技館の様な広さがあった。中央には周囲20メートル程の黒い金網が高いフェンスとなって八角形に囲われ、内側では誰かが闘っている。
そして、中央の闘技場をぐるりと囲むように観客席が用意され、ほぼ満席状態で客席からは歓声や罵声が飛び交っていた。
岡田 「ここはシャドウ使い同士が闘い、賞金を稼ぐ地下闘技場。…闘ってる人だけじゃないよ、周りで観戦してる人も皆シャドウを使える」
渦巻く歓声と熱気。
巻と風春はシャドウクラブの会場にゆっくりと足を踏み込んで行った。




