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shadow  作者: 新垣新太
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ep4.赤い刀編・8話

鈴見は尻ポケットから取り出した黒く染まる紙を舐めると目を瞑った。口の中で甘酒と紅茶を合わせた様な複雑な香りが広がる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一2年前、和仁が17才の頃一


猿橋の親父には感謝しかない。


俺は15才で両親とケンカして家を出てから友達の家を転々とした。食うものに困ったら万引きをしてわざと捕まれば、事情を知った警察がたらふく俺に飯を食わせてくれた。


そんな生活を続けていた頃。警察の紹介で猿橋組の下っ端として入れられた。そこで初めて親父と出会った。


俺は猿橋の親父に養子として迎えられた。それを知ったのは少し後の事だったが、組に入るなり直ぐに礼儀作法から雑用まで何でも叩き込まれた。何度も歯向かったが歯が立たなかった。居心地が良いなんて感じなかったが、飯は最高に旨かった。


俺が雑用をしている時ふと気が付いた。どの部屋の壁にも刀が数本掛けられている。


初めはただの飾り物だと思っていた。別の日に俺が組の部屋の掃除をしていると、空気を鋭く割くような音が隣から聞こえてきた。


つい気になって覗いてみると。


ビュンッ!ビュンッ!ビュ、ビュ、ビュビュンッ!


その部屋では、刀を抜いた組の連中がバカみたいに汗を流しながら素早く刀を振り回していた。その刀の使い方が何なのかなんて俺には1ミリも分からなかったが、ただ連中の身体と刀の動き方が余りにも格好良すぎて俺は掃除を忘れて通路で見入っていた。


俺も早く刀を使いたい。使って何をするのかも分からない状態で、バカみたいにいつもより力を入れて雑用をこなしたり無駄に先輩達にケンカを売って身体を鍛え始めた。



猿橋組で出される飯は死ぬ程旨かった。



・・・


ある日。俺は猿橋組副組長の宮本さんから刀をプレゼントされた。


とは言っても黒い木刀だった。


宮本さんは普段外回りで忙しく、ほとんど組に顔を出さない人間だ。俺はそんな宮本さんから木刀を貰った事が嬉しくて、上機嫌で宮本さんを尊敬する兄貴として慕った。




そんなある時。突然俺の携帯に宮本さんから電話が入った。


宮本「悪いなこんな時間に。実は今、ウチの仲間が千住橋(せんじゅばし)付近に集まっている奴等に不意に襲われたらしくてな。まだ奴等が千住橋にいるか確認して欲しいんだ。こっちも今別件で動いててな…出来るか?」


組の仲間が襲われた。それも不意討ち。俺が断る理由等何一つ無かった。急いでアパートを飛び出し原付に乗った。服の中に木刀をしまって。


・・・


その翌日。猿橋組組長室で宮本副組長が猿橋組長にSNS上に投稿された一件の動画を見せていた。


宮本 「昨日の深夜にSNSに路上ケンカの動画が投稿されていました。場所は千住橋の下、そこでケンカをしていたのはウチと協定を結んでいる櫻澤(さくらざわ)組の若手組員と、ウチの和仁でした」

猿橋組組長・猿橋元(さるはしげん) 「なんで和仁が…」

宮本 「僕にも分かりませんが、今朝櫻澤組から電話が入りまして。´´面倒な事はしたくない、話を聞けばケンカを吹っ掛けてきたのは猿橋組の方からだった´´と。ちゃんと誠意をもって対応頂きたいとの伝言を預かりました」


SNS上に投稿された動画の最後には、´´猿橋組の和仁に次会ったら命はないぞ!´´と大声で叫ぶ和仁の姿があった。


猿橋と宮本の間に沈黙が続く。




猿橋 「宮本よ。…最近お前さんの様子がおかしいと周りから聞いている。何か不満でもあるのか?」

宮本 「いつも通りですよ。何もありません」

猿橋 「そんなに俺が嫌いか…」

宮本 「それより、どうしますか?和仁を、切るんですか」

猿橋 「……この件は俺が預かる。お前さん達には事が済んだらちゃんと話す、それまで待ってくれ」

宮本 「分かりました。ではこれで…」


宮本が猿橋に頭を下げて組長室のドアを開けた時。


猿橋 「弱きを助け、強きを(くじ)く。それがウチのモットーだよ」


バタン


宮本は何も答えずに組長室を出た。


・・・


千住橋でのケンカ騒動から1週間後。俺は猿橋の親父に呼ばれて組長室に来ていた。ついに俺の頑張りが認められて、念願の刀を貰える時が来たのかとワクワクしていた。


猿橋 「おう和仁よ。トカゲに餌やってくれるか?」

和仁 「わかりました」


俺は冷蔵庫に入っているタッパーとミニトングを取り出すと、トカゲの入ったケースの蓋を開けた。タッパーを開けてトングで半殺しのハエを掴むとトカゲの目の前に落とした。


パクっ


トカゲはムシャムシャと美味しそうにハエを咀嚼していた。


いつもの親父なら無駄話が多くて耳障りなのに、珍しく今日は静かだなと思っていた。


その時


トカゲの入ったケースに反射して、俺の背後で刀を構える親父の姿が見えた。ゆっくりと俺に近付こうとしている。


フュンッ!


俺は手に持っていたタッパーとミニトングを放って、振り下ろされる親父の刀を両手で掴んだ。


ガザクッ!


和仁 「痛っ!…って、親父!」

猿橋 「よう気付いたな…んぐぐっ」


俺は信じられなかった。何が起きているのかも理解したくなかった。


親父の顔はいつにも増して殺気立ち、俺が手の力を緩めれば容赦なくもう一度刀を向けて殺しに来ると空気が言っていた。


和仁 「んぐぐっ…親父!…何でだよ!」


猿橋は無言で、更に力強く刀を和仁に押し込んで行く。しゃがんで猿橋の刀を受け止めた和仁は体勢を崩し床に仰向けになりながら応戦する。


和仁 「何とか言えよ!…俺が何かしたってのかよ!!」


俺は侮っていた。こんなに親父に力があるなんて。若さで言ったら圧倒的に俺の方が有利なのに全く刀を押し返せない。


ギギ、ザク、ギチッ


俺の手に刀が食い込み骨に当たっているのが分かる。刀には赤い血が伝って流れていた。血は俺の指をなぞるように赤い線を残し俺の胸元に垂れる。


このまま刀を押し込まれても、


親父が刀をどちらかに刀を動かしても、


俺の指は床に転がるだろう。


和仁 「…くっ…」


ポタ、ポタ、


その時。血ではなく、親父の目から流れた透明な液体が鼻先に集まると俺の顔に落ちた。


猿橋 「ズズッ(鼻をすする音)」


親父は泣いていた。


俺の血で染まる赤い刀を強く押し付けながら。




何故だか分からないが、俺の目頭が熱くなるのを感じると。何も認めたくない自分を振り切るように両手で掴んだ刀を左に動かして親父の横っ腹を右足で蹴った。


ドゴッ


カランカラッ


刀を床に落として横に崩れ落ちる親父。俺は握り拳を付いて床から立ち上がった。


和仁 「俺は…ほんの数分前まで、親父を本当の親父だと思って生きてたんだぞっ!……どうせ何も言わないんだろ!…わかったよ出てってやるよこんな組!」


バタンッ!


激しく組長室のドアを閉めると俺は思い切り足でドアをどついた。


しばらく黙って廊下を2、3歩歩いた所で、頭がぶっ壊れそうになった。




和仁 「アアアァアアアアアッッッ!!!!!」


のたうち回る和仁の姿は、尻尾を切られたトカゲの尻尾の様だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一現在・SBT管理下のshadow使用者収容所一


ガチャン


簡素な部屋の扉がSBTの収容所管理者によって開けられた。


部屋の中に座っていたのはシャドウを失い意気消沈の和仁だった。その前に猿橋組組長の猿橋元が姿を現した。


タ、、タ、、ガバッ


猿橋は和仁に近寄ると両手で身体を抱き締めた。何も反応をしなかった和仁だったが、猿橋がよく吸っている煙草の香りで誰だか理解した和仁は猿橋から離れようと力強く抵抗した。



猿橋は和仁の力にびくとも動かない。




そして、和仁が抵抗を諦めて力を弱めると。


猿橋 「…すまなかった」


その言葉を聞くよりも先に、和仁は目から涙を流していた。


・・・


猿橋組ビルで勃発した抗争が一段落したSBTの山田、新井、鈴見の3人は新宿にある立ち食いたこ焼き屋で食べ終わり外へ出てきていた。


山田 「あー食ったなー」


新井 「旨かったですねー!本当に良いんですか?僕たち払わなくて」

鈴見 「あぁ。…鬼ウマっした」


山田 「いぃんだよ。2人ともよく頑張ったからな…んで鈴見、どうすんだ新井に潜入捜査のご褒美は」


鈴見 「あ、そーだ。新井君、いいよ揉んで」


鈴見はそう言うと、(かかと)を揃えて胸を張り、新井の正面を向いてわざとらしくポヨンと胸を弾ませた。


新井 「…え?…い、良いんですか?…大した成果あげなかったですけど」


鈴見 「そんなそんな。ご謙遜なさらずに」


鈴見は珍しく甘い声で新井を誘惑した。



ゴ、ゴクリ。



新井は生唾を飲み込んだ。


恐る恐る指を開いた両手を鈴見の胸に近づける。2人の顔は少し赤らんでいた。



指先に触れる鈴見のシャツの感触。



新井(心の声) 「…さわ、さ、触れる。…もう、俺は一人前の男なんだ。もう、誰にも、俺をバカになんかさせないんだから…」


鈴見の胸に新井の両手が乗っかる。



そして



新井は意を決して指先に力を込めて鈴見の胸を揉んだ。




新井(心の声) 「…?…?…あれ。固い。硬い、堅い、難い?…そんな、はずは」


新井は気付くと自分の顔を鈴見の胸に近付けていた。


視線が気になり鈴見の顔を見上げる。




パッつん前髪の中から覗く、人を見下す様な鈴見の目線と微かな笑みがそこにはあった。




そうだった。


新井は鈴見がシャドウを使えることをすっかり忘れていた。


慢心だった。


鈴見(心の声) 「愚か者め。君が私の胸を揉む前に硬い硬い砂のブラをシャツの内側に忍ばせておいたんだよ(笑)」


サラサラサラーッ


鈴見が虎の顔が刺繍されたシャツをバサつかせると、その間から茶色い砂が地面に流れ落ちた。




新井はうつむき鼻から笑い声を漏らす。


新井 「…フフッ」


山田 「どうだー。気持ちよかったかー」


山田は煙草を吹かしながら新井に聞く。




新井 「山田さん。…この女、悪女(あくじょ)ですよ。僕を騙してもて遊んだんですよ!」

山田 「なんだよ、俺にはどう見たって新井が鈴見の胸を揉んだ様にしか見えなかったぞ」


新井 「ええ!揉みましたよ!でもね!固かったんですよ胸が!ありえます?生物学上あり得ない固さでしたよ!絶対シャドウの力を使って固くしたんだ!そうだろ鈴見!」


鈴見 「え、さぁ」


新井は涙目で山田に訴えた。


新井 「…この人でなし女を追放して下さい!、悪女だ!悪女!みなさーん、こちらに本物の悪女が存在しますよー!」



山田と鈴見は呆れ顔で新井の失態を観察していた。



山田 「はい。じゃあご褒美も済んだので我々は次の捜査に向かいますよー」


鈴見 「はーい」


新井 「…話が、違うじゃないか…」


それぞれの違う表情を横に並べながら、山田達は新宿の人混みを進んで行く。


・・・


コンコンコン


ガッ


巻と風春は三条が入院する日本女子医学付属病院に見舞いに来ていた。病室のドアをノックして引戸を開ける。


巻 「静かだな…個室みたいだな」


個室には充分な部屋の広さの中に、ベッドで眠る三条の姿を見つけた。


風春 「昼ご飯食べた後だから昼寝っすかね。これ置いたら行きましょ」


ベッドの上に取り付けられた簡易テーブルの上を少し片付けると、そこに籠に入ったフルーツを風春は置いた。


ゴト


巻 「?…なんだこれ」


風春が片付けたテーブルの上にお守りが1つ置いてあることに気づいた巻は、それを手に取った。


そのお守りには´´勇気´´と刺繍が施された美しい金色と茜色のお守りだった。


巻 「こんなお守り持ってる面構えじゃないけどな(笑)」

風春 「勇気…何で勇気なんでしょうね」

巻 「さぁな」


巻はお守りを元の位置に置くと風春と共に病室を後にした。


病院を出た2人に空から強い日差しが突き刺さる。陽の光でほぼ顔が白い巻が眩しそうな顔で風春を見る。


巻 「で、次はどこだっけ?」

風春 「三条さんに言われた場所は六本木ですね。…俺行ったこと無いっすよ」

巻 「ハル、俺もだよ」



猿橋組ビルで発砲音があったと連絡が入り、浮島組から三条の車で移動中の時。風春達は三条から今回の件が終わった後、次に向かって欲しい応援先の場所を指示されていた。



東京・六本木を目指して風春達は暑い空気の中を歩いて行った。


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