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shadow  作者: 新垣新太
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ep4.赤い刀編・5話

猿橋組ビルの近くを部活終わりの女子学生達が歩いていた。学生達はアーチェリーが入っている袋を持っていた。その集団の最後尾には顧問の溝口翔子(みぞぐちしょうこ)がジャージ姿で歩いている。


滝本美紗(たきもとみさ)・アーチェリー部3年主将 「先生今日は車じゃないんですね」

溝口のすぐ前に歩いていた滝本が話す。

溝口 「今日は弟に車を貸してるから皆と一緒。電車で帰るのよ」

吉村きらら・アーチェリー部2年 「え、先生に弟いるんだー!以外」

溝口 「弟ぐらいいるわよー。何ニヤニヤしてんのよ!」

吉村 「ハハハッ!」


ダダッ


アーチェリー部のムードメーカー役の吉村は、溝口が捕まえようと手を伸ばしたのを見て急いで逃げるように集団の前方へ走り出した。


吉村は近くにあった角を右に曲がり直進する。それに釣られて面白がる部員数名が吉村の後を追いかけた。吉村が先頭を走り辿り着いたのは、少し人だかりのある猿橋組のビル前通りだった。


吉村 「ん?なんだ?」


そこに、中の見回りを終えた玉がビル前通りに姿を現すと、吉村が目の前を走り抜けようとするところだった。


玉 「変な奴らはハイジョー」


ブン!


スパッ。


吉村 「いでっ!」


玉は持っていた長い槍を振りかざし吉村の右ふくらはぎを切りつけた。吉村はびっこを引きながら急いでその場から離れようとする。


後から来たアーチェリー部員の数名が足を庇う吉村に駆け寄ると怪我にすぐ気が付き吉村を抱き抱えて溝口の場所まで急いで走った。


長野凜(ながのりん)・アーチェリー部2年 「先生!吉村が足怪我してます!」

吉村を抱き抱える数名の中にいる長野が溝口に伝えた。


溝口 「え!?なんで?大丈夫!?」


溝口が地面に降ろされ痛がる吉村の足を確認する。血が想像以上に流れ、切れ味の鋭い刃物で切られたのが分かるほど深い傷だとわかった。溝口は救急手当てにカバンから白いハンドタオルを取り出して吉村の傷口をきつく縛った。


その時。


パパパパパパァパパパァアッ!!


ギュリギュリギュリリィィイイッ!!


アーチェリー部員が集まる歩道に、三条が運転する白い車がクラクションを鳴らしながら進入すると溝口の手前で急停車した。


バン、バンバン!


白い車から三条、巻、風春が出てくると、三条は溝口と目が合った。動揺を隠せない溝口の表情。その側でふくらはぎにタオルを巻かれ既に血が滲んでいる吉村の姿を見た三条は瞬時に読み取った。それは間違いなく暴力団の抗争に巻き込まれたものだと判断した。


溝口(心の声) 「恐ろしい顔の人。吉村さんに何があったの…」

三条の表情を見た溝口は固まっていた。


滝本 「先生!」

溝口 「っはい!救急車を!他の皆は先に帰りなさい」


吉村の怪我にアーチェリー部員は不安の色を隠せない状況だった。


三条 「なぁあんた、先生か?」

状況を理解した三条が溝口に声をかける。

溝口 「…え?そう、ですけど」

三条 「車の運転は出来るか?」

溝口は無言で少し頷く。


すると三条は自分の車の鍵を溝口に投げた。


カチャン


三条 「この車で近くの病院に行った方が救急車を呼ぶより早い。車は後で返してくれれば良い。早く行け、君達もここから早く離れて。帰るなら一駅隣の駅から帰れ」


溝口 「…」

溝口は三条の言葉を処理しきれていなかった。


滝本 「先生早く!」

溝口 「っわかったわ!滝本さんは私と吉村さんを担いで運ぶのを手伝って!車はすぐに返します」

三条 「いつでもいい」


するとアーチェリー部員は蜘蛛の子を散らすようにその場からいなくなった。


風春 「なんか既に起きたような後っすね」

巻 「気持ち悪い空気だな」

三条 「まずは状況の確認だ。勝手な行動は慎め」

三条はマスクを付け替えた。そのマスクはグレーブルーの色に黒い縦波模様のデザインだった。


・・・


三条が車で猿橋駅ビル近くに滑り込んで来た頃。お腹が満たされ睡眠していた鈴見が起きた。


鈴見 「Zzz……っかはっ!…あれ?…寝過ごした…ん??」


ファストフード店の窓側カウンター席に座る鈴見は、目の前の光景が変わっていることに気が付いた。そこには、血まみれで車の上で倒れている陶郷の姿、キョロキョロと辺りを見回す新井、怪しい空気を纏った赤羽組の連中がいた。


ドンッ


カウンター席の窓ガラスに鈴見のおでこが当たる。


鈴見 「チッ……出遅れたか…」


ガンッ


鈴見は持っていたワインボトルをカウンターテーブルに強く置くとカウンター席を背にフロアの反対側まで歩いた。


鈴見 「そっちがそう来るなら…」


フロアの端っこの壁まで歩くと軽いクラウチングスタートの体勢を取った。鈴見のぴっちりグレーのスラックスからパンツラインが顔を覗かせ、底の浅い靴の(かかと)に施された銀色のラメがキラキラと光る。


ダッ!!


鈴見はスタートを切るとカウンター席に向かって走り出す。その時鈴見が小声で何かを呟いた。


鈴見 「´´砂密(サンドパンチ)´´」


走る鈴見の右手に黒い細かな粒子が纏い出した。そして黒い粒子が右手を完全に包み込むと色を黄土色に変えると凝固した握り拳となった。


ガッ!


パシッ


走る鈴見は右足でカウンター席を踏み込み、左手でテーブルに置いたワインボトルを掴む。そしてテーブルに左足を掛ける。


鈴見 「こっちは、サンドパーーーンチ!!」


バリバリリリイィイィイィインンン!!!!


鈴見は繰り出した硬い右拳で窓ガラスを割り、ビル4階の高さから見事な跳躍力で飛び出すと、陶郷が落ちた車の真向かいに停まる大きな黒塗りの車の上を狙う。


鈴見 「´´座布砂(ザブザ)´´」


鈴見が着地する寸前。車の上には白い砂がわさわさと現れ、クッションの様に厚みを増すと衝撃を最大限に吸収した。


スタダッ!


鈴見はワナワナ動く新井に声をかける。


鈴見 「新井君!山田さんに連絡したー?」

新井 「あっ!?鈴見さん!…今すぐ!」


新井は尻ポケットからスマートフォンを取り出して山田へ連絡をし始めた。


鈴見がビル窓を突き破って現れた瞬間を三条達が確認すると、巻が好敵手を見つけたと目を鈴見にロックオンすると急に走り出した。


ダダダッ!


巻 「わりぃなハル!あいつは俺が頂くっ!!」

風春 「ちょ!待って巻さん!」


走り出した巻の後を風春が追いかける。


三条 「ニワトリ以下だなお前ら」


三条の元からどんどん離れて行く巻と風春。



巻 「行くぞバショウ!上に飛ばせ!」


巻の影から飛び出し地面を海のように泳ぐバショウは、背中に巻を乗せて進む。そして勢いよく上に跳ね上がると身体をしならせ巻を上空へと飛ばした。


・・・


上空に飛ぶ巻を見上げながら走る風春。


風春 「もぉ何で本能的に動く癖治らないかなー!」


すると風春の真正面から銀色に光る槍が飛んできた。


ズビュッ!


風春 「ぉおあっ!!っと!」


寸出の所で顔を槍から背けた勢いで地面に身体を転がして膝立ちになる風春。


タラッ


風春の右頬に3センチ程の切り傷が付き、そこから血が垂れる。


風春 「痛。切れた?」


風春に長い槍を突き出したのは玉だった。


玉 「邪魔するなら切り刻むよ」

風春 「ぁあ?出来るもんならやってみな」

風春(心の声) 「外で戦えば巻さんの邪魔になる。ここはどこかに入り込んで場所を変えた方が良いな」


ダダッ


風春は玉を誘い込むように走り出した。そしてすぐ側にあるビルの階段を掛け上がった。そのビルには猿橋組と書かれていた。


・・・


巻はバショウを現すと同時に影から抜き出した青い(ブルーライン)をしっかりと握り、その先端を鈴見に向け照準を合わせる。


巻 「気持ちいい高さだ!くらえよ俺の´´青い(ブルーライン)´´!!」


ズビュンンッ!!!!


高い打点から振り下ろされたブルーラインは、速度を増しながら鈴見に向かって突き進む。


右耳を刺激する煩い声に気が付いた鈴見は、気配のする上空へ目線をやるとこちらへ向かってくるブルーラインに興奮した。


鈴見 「にっ!売られた喧嘩は買わなきゃ損損っ!!」


ズバァアアアアアァッ!!!


鈴見 「´´砂壁(ゴーレム)level2´´」


車の上にしゃがんでいた鈴見は自分の影に手を突っ込むと黒い砂を空中に振り撒いた。すると茶色に変色しながら大量の砂が鈴見の前に盾となって現れた。


ズバガアアアッ!!!


巻が投じたブルーラインが鈴見の前に現れた砂の壁に突き刺さる。


ブルーラインは砂の壁に鋭く食い込むと、その先端を鈴見の顔面スレスレで止まった。


鈴見 「私の砂鉄(さてつ)入りゴーレムちゃんをここまで貫いてくるとは…ん?消えた?」


さっきまで空中にいた巻がいつの間にか姿を消していた。そして、砂壁に突き刺されたブルーラインも瞬時に引き抜かれた。


すると、


鈴見がいる黒塗りの車の影からバショウに乗った巻が背後から飛び出してきた。


ズバァアッ!


巻 「後ろががら空きだぜ!!」


再び巻はブルーラインを近距離で鈴見に向かって投げた。


鈴見(心の声) 「気配を感じなかった」


ズドッ!


ブルーラインは鈴見の胸を背後から突き刺す。鈴見は身体を脱力させて(くう)を見つめた。


巻(心の声) 「やったか…いや、手応えが無え…!?」


ドロッ


すると、巻が突き刺したはずの鈴見の姿が急に形を泥に変えて崩れだした。


鈴見 「´´泥体(ドロロ)´´」


巻 「後ろか!ジャンキー!!」


本物の鈴見はバショウに乗る巻の背後から現れた。鈴見の右手に砂が纏い出す。


鈴見 「ラッキークッキー´´砂密(サンドパンチ)´´ー!!!」


ガキイィイィイィンンン!!


巻は後ろに振り返り体勢を変えるとブルーラインを両手で使い鈴見の打撃を受け止めた。その勢いで巻は黒塗りの車に着地すると打撃の勢いで更に巻と車は後ろに下がって行く。


ンガガガガガッ!


巻 「ウラァッ!!」


鈴見の打撃を何とか弾き返すと車から飛び降り、鈴見も地面に着地する。


巻 「いいぞ!おもしれぇ、拳で勝負しろ」

鈴見 「ハハッ!良い度胸だ、買った!」


ダダダダッ!


猿橋組ビル前通りを巻と鈴見が真正面から走り出す。そして両者が地面を踏み切り拳を振りかざす。


巻と鈴見の顔は喜びの笑みを浮かべていた。


その時。


ふたりの間に三条が凄まじい速さで現れ、両手で巻と鈴見の頭部を鷲掴むと地面にねじ込んだ。


ガ、ガ、ズガゴオオォンッ!!!


巻 「!?…んな!力が…」

鈴見 「!?動け…ない」


三条 「ニワトリさん達よ、先に状況確認するって言ったろう。お前らが暴れたら確認もクソも無えだろうが」


巻と鈴見は全力で頭を地面から離そうとするも、全く動かす事が出来なかった。むしろ益々地面に頭が食い込んで行くのを感じた。


三条 「あとな、お前らは敵同士じゃねえ。女、お前は警察だろ。空気で分かる。じゃれんのはここが片付いてからにしろ」


三条は両手の力を緩めると服に付いた砂を払い猿橋組ビルの中へ向かった。


巻 「ぐはっ!…ハッハッハッ…やっぱり、あいつも強者(きょうしゃ)だったか…」

鈴見 「…ハハッ…あーぁ腹減った」


・・・


巻と鈴見が戦っている時。猿橋組ビルに走り込んだ風春は階段を掛け上がると2階の入口ドアを開けて中に入った。


ガチャッ


風春(心の声) 「暗いな…」


タンタンタンタンッ


すると階段を軽く掛け上がる足音に風春は気付き急いで部屋の奥へと進んだ。


ツルッ


風春 「あぶねっ!…なんだ?…血だ」

先の戦闘で負傷した猿橋組の隊員から流れた血だまりに足を取られそうになった風春が暗闇の中の状況に気が付いた。


ドンッ


後ろから風春の腰を足蹴した玉。風春は蹴られた勢いのまま更に奥に進むと後ろから付いてくる玉に向かって衝立(ついたて)として置かれた屏風(びょうぶ)を引っ張り道をふさぐ。


ズバガキンッ!


玉は槍を横に振り風春が動かした屏風を軽く横殴りにしてどかした。


屏風の奥に進むとそこには畳が敷かれた柔道場の様な広さの部屋があった。


玉 「逃げるな逃げるな」


風春(心の声) 「よし。もう目が暗さに慣れてきた」

風春 「ナックル」


バシュウウゥゥ!


風春の側にナックルが現れると風春と共に戦闘体勢に入った。


玉は冷静な面持ちで長い槍を右脇に抱えて風春の正面までゆっくり歩いてくる。


風春 「あんた、暴力団か?」

玉 「俺は赤羽組副組長の玉」


その時、遠くで雷の音が鳴った。空には黒い雲がかかりパラパラと雨が振りだした。


風春 「さっき外で怪我をした学生を見た。お前の仕業か?」

玉 「あぁ。やったやった。それがどうした」

風春 「お前らの目的は何なんだ」


ビガッ!ゴロゴロゴロウゥゥ


雷が稲光(いなびかり)を起こし暗い部屋を一瞬だけ明るくする。


ビュン!


その瞬間。玉は風春の足元を狙い槍を突き出した。


風春 「くっ!」

風春(心の声) 「あんなに長い棒なのに動きが速い」


ビュンビュンビュビュビュン!


次々と繰り出す槍の追撃に風春は後退する。


風春(心の声) 「リーチが長すぎて近付けない」


ダダッ!


風春は右に反転すると低い体勢から拳を握る。


風春 「´´斬拳(ソニックナックル)´´!」


ブブォン!!


黄色い斬撃が畳の上を走り玉の足元を狙う。


玉 「よっ!」


玉は槍棒を使って上に飛ぶと風春の斬拳をかわした。


風春(心の声) 「避けた?…シャドウ使い以外に斬拳は見えないはずなのに」


ダン!!


玉は上に飛んだ状態から側の壁を槍棒で突き、風春との距離を縮めると身体の回りに槍棒を回転させながら近付き風春の横っ面にしなる槍棒の一撃を与える。


バシッ!!


風春 「ぐっ!」


ひるんだ風春に立て続けに槍棒を左右に回転させながら連打を加える。風春の左右顔面、両肩両足を強打すると最後に槍棒の尻先端部分を風春の胸部に突き出して壁面まで押し込んだ。


バシバシバシバシバシバシ!


ドゴッ!!!


風春(心の声) 「あんな小さい身体で何でこんなに速く…息が…苦しい」


風春 「…カッハアァッ!」


口から(つば)に混じり血を吐き出した。


玉 「俺はシャドウ使いではない…ただ、シャドウを使う人間の周りに現れる陽炎の様に揺らめく何かがあるのは目視出来る。さっき俺に向かって拳を振った時もそうだ、揺らめく陽炎が確かに放たれた」


畳にうずくまる風春。


風春(心の声) 「陽炎?…シャドウ使い以外には全く何も見えない訳では無いのか。…にしても、それだけを頼りに戦うなんて」


玉 「お前に俺は倒せない」


玉は槍棒を右脇に抱えて中腰に構えた。


ザザアー、ザザザアアァ


ビルの窓ガラスに強まり出した雨粒と風が吹き付ける。


風春(心の声) 「だからって諦めるかよ」


風春は顔を上げて玉を睨み付ける。


風春 「んぐっ!」


タダダッ!


風春は右足を強く踏ん張り左側にある壁に向かって走り出す。それを見た玉は素早く槍を突き出す。


ダダタタッ!!


玉の突き出した槍よりも速く風春は左側の壁に掛け上がると、途中で足を踏み切り玉に向かって拳を振った。


風春 「´´隠し(シャドウナックル)´´」


近距離から繰り出した風春の右フックを身を引いて避ける玉。だが、更に風春に重なっていたナックルの隠し拳が現れて顔面を狙う。


ガッ!、ブンッ!


だがギリギリの所で玉は槍棒を頭の上に移動させ畳に突き刺すと、更に頭を後ろに下げてナックルの隠し拳を避けた。


風春(心の声) 「くっ!隠し拳も避けられた。…あの槍、やっかいだな」


ブン、ブン!


玉は槍を畳から引き抜くと、自分の間合いを確かめるように槍棒を振るった。


暗闇の中で両者が睨み合う。


風春(心の声) 「隙がない。静かな空気を纏ったその姿。どこか柳田さんに似ている」


その瞬間風春は、鴉山の森で修行していた頃を思い出した。あの時も外は黒い雲に覆われていた。静かな森の中で、大木(たいぼく)に正拳突きの修行をしていた風春は、2度目となる落雷を浴びた。


風春(心の声) 「何故俺は生きていたんだ。あんなに強烈な落雷をくらったのに…」


激しい落雷音と共に強い衝撃が脳天から爪先まで走り抜ける。その後まもなく。倒れた風春の元に、まさか2度目は無いだろうと思った柳田が嫌な勘を感じて様子を見に来た時。風春は既に意識を取り戻し立ち上がろうとしていた。


柳田 「風春…お前の身体の中には、雷…いや、電撃を貯める体質があるのかもしれんな。ハッハッハッハッハッハッ!」


風春(心の声) 「まさか…でも確かに雨雲がある日に限って身体中が静電気を帯びてる様な感覚にはなるんだよな」


そう思いながら風春が自分の握った右拳を見ると。


バチ、バチバチッ


小さな電撃が拳の周りに散った。


玉 「飽きた飽きた。終わりにするぞ」


そう言うと玉は身をかなり低くし、槍棒を顔の横に構えると先端を風春に向けて目付きを変えた。


風春 「じゃあ、雷の拳って感じか」


ズビュンンッ!!!!


鋭く突き出された槍が風春の顔面を狙う。それに気付いた風春は咄嗟に顔を背け左手で棒の部分を掴むと両手で玉の槍を引っ張った。


ブオアワアッ!


玉は引っ張られた力を利用して飛び蹴りを繰り出す。


ズグン!!!


風春は腕をクロスして玉の飛び蹴りを防御する。


玉(心の声) 「ん?俺の槍、」

風春(心の声) 「槍なら引っ張った時に横に投げ捨てた。お前の攻撃を防ぎきれれば俺はお前に近づける」


槍棒を無くし風春との距離を取ろうと離れようとした玉だが。それよりも先に風春の勢いのある踏み込みが玉を離さなかった。


バチバチバチッ!!


風春の握る右拳にさっきよりも強く電撃が散った。


風春 「恨みっこ無しだかんな。これで終わりだ´´雷拳(ライジングサンダー)´´!!!」


玉の鳩尾(みぞおち)に風春の雷拳がえぐり込む。


グンッ!、バチバチバチバチバチッッッ!!!


玉 「グッハァッ!!(…なんだこの…ビリビリ…)」


風春の右拳から電撃がバチバチと音を上げながら玉の全身に走り抜ける。玉は余りの衝撃に意識を失って倒れた。


バタッ


風春 「…くっ。痛ってぇなんだこれ。手が痺れる…でも、本当に電撃が起きるなんて」


痺れる右手を見つめるが既に電撃の光は消えていた。気づけば外の雨は止み風が弱く吹いている様子だった。


・・・


ビシャーーーーー


山田は湯はりを終えた風呂場に入ると暖かいシャワーを出した。


山田 「ふぅ、今日もお疲れサマーでしたと…」


ピロリピロリピロリピロリ♪


その時、山田のスマートフォンがチャック付きのビニール袋の中から着信音を鳴らす。山田は浴槽脇に置いていたスマートフォンを手に取ると電話に出た。


山田 「なんだよ…新井かよ。、はいもしもし」

新井 「あ!山田さん今猿橋組のビルで抗争が起きてるんです!急いでこっちに来て下さい!」

山田 「今!?こっちはこれから風呂入ってビールとたこ焼き食ってな…」

まだ山田が話している途中に新井が口を挟む。


新井 「山田!仕事だ!!」

山田 「チッ、ったく何でこんなタイミングでドンぱちするかねぇ。今ホテルにいるからタクシーで向かう!」


ビシャーーーーー


山田 「ばか冷てえっ!…あー!」


シャワーを止めたつもりが冷水側にノズルを回してしまい、山田の太ももに水がかかった。


・・・


山田との電話を終えた新井は、ビルから落下した陶郷を車の上から降ろして肩を担ぎ1階駐車場の中に運んでいた。


新井 「陶郷さん大丈夫ですか?」


陶郷はかろうじて生きていた。ただ足取りはおぼつかず息も小さかった。


陶郷 「…なんでだ…宮本さん…信じてたのに…」


新井 「駐車場の所で手当てしますから。…痛っ。何で首が痛いんだ…」


陶郷の目には力がなく、新井が知っている声とは全く違った弱々しい声に聞こえた。


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