ep3.時の天秤編・1話
銀座駅地下鉄出口から出た風春は、日常と非日常に分かれた光景を目の当たりにしていた。
風春(心の声) 「道路を挟んで向こう側は、ひどい状態にも関わらず警察ひとり歩いていない。逆に俺のいる方は、何の変哲も無い街並みで、周りの事なんて気にもせず活動する人達ばかりだ。状況が不思議すぎる。何なんだこれは?」
風春 「まずは向こう側の状況を確かめるか」
銀座の大通りを跨ぐ横断歩道を渡り、風春は荒廃した街並みを間近にする。焦げ臭い匂いが、風春の鼻に付いた。建物は、ひび割れと変色がひどく、人気は一切感じられない。風春は道路沿いから左に曲がり、一本内側の通りに入った。
風春 「すげえな、こっちまで焼け焦げてる。ただ、少し奥の方の建物はそこまで被害は無さそうだな」
白けたコンクリートの上を歩く風春が、荒廃した建物を見ながらふと視線を歩道に移した。
風春 「ん?、電線の影か。、なんか揺れてんな、、そんなに風強くねえけどな、」
風春の視界には電柱から伸びる電線の影が地面に何本か映っていたのだが、風が無いと言うのにユラユラと動いていた。
すると
ズビュンビュンッ、ビュンビュンッ!!
空を切る音と共に地面に映る電線の影が何本も飛び出し、風春の首を締め付けながら風春の身体を空中に引っ張り上げた。
風春 「んっ!!??、ぐっ!!?」
いきなり身体が宙に持ち上がり、首に巻き付いた電線が気道をきつく締める。
風春(心の声) 「クソッ!油断したっ!、何とか首と電線の間に指を突っ込めたから息は出来るけど、地面からかなり離れてる」
すると、宙吊りにされた風春の右にある、3階建ての建物の屋上に見知らぬ男が立っていた。その男は風春より少し高い位置から横目で風春を見ると、あくびをしながら話し出した。
田中弥太郎 「なんだ、まだ生きてんのか。面倒くさ」
田中はボサボサの髪の毛を掻きながら、開けていたヨレヨレのシャツのボタンをひとつずつ止めて行く。
風春 「お前、、シャドウ使いだな、、陽炎か?」
田中 「眠い。ぁあ?何言ってんだお前?、ギリギリ命拾いした位で調子に乗んな」
風春 「はぁーー。あぁあぁあぁあぁ、って言うことは、お前何も知らねえんだな。、早くこの電線外せ」
田中 「嫌だー。お前は俺にこれから殺されるんだよ」
と言うと、田中はビルの屋上からジャンプした。すると田中の足元に電線が一本伸びてきた。
田中 「ヨッ!と」
伸びてきた電線の上に乗った田中は器用にその上を歩き、風春の正面まで歩くと、今度は足を外し両手で電線を掴みぶら下がる。
田中 「俺の影から伸びるこの電線は伸縮自在。俺に忠実なお利口さんなんだ」
風春 「へー」
田中 「だから、こうやって。ヨッ!ホッ!」
田中は身体を動かし、ぶら下がる電線をしならせると、宙吊りになっている風春の回りをビュンビュンと電線を使って飛び始めた。
その時
バキィドゴォオオオンン!!!
轟音を鳴らしながら風春の左奥にある高層ビルの4階部分から何者かが飛び出した。
巻櫂斗 「ドーーン!!」
ビルを壊しながら出てきたのは、黒紫色の肌をした全長4メートル程の芭蕉カジキとそこに跨がる巻櫂斗だった。さらに、芭蕉カジキの長い鼻先に左肩を貫かれた男らしき人物の姿もあった。
ドゴシャァアアアンンンッ!
ビルから現れた芭蕉カジキの姿は、勢い良く道路の上を飛ぶとその勢いのまま別の建物に突っ込んでいった。
風春(心の声) 「今、カジキマグロ、だよな?、その上に誰か乗ってたぞ、なんだ?」
ビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンッ!!!
物凄い速さで風春の周りを飛び続ける田中。
田中 「こんなに速く動けるんだぜ?」
風春 「あーごめん、見てなかったわ」
風春は田中の存在に気付き生返事をした。
田中 「生意気な野郎だなー。とっとと殺しちまえば良かった。、、言い残すことは無いな?」
風春 「ちっ。紐で縛られんのは、ギャンブルストリートで懲り懲りなんだわ」
と下を向き、両手で首元の電線を握りしめ、身体をぶらりと脱力する風春。
田中 「ハッ!、干物になるまで、そのまんま宙吊りにしといてやるよ!」
ビュンビュンビュンビュンッ!!!
ビュンッッ!!!!
田中はそう告げると、最後に飛び乗った電線に全体重を掛けて勢いをつけ、思い切り飛び出した。田中は右の拳を風春の左顔面へ向けて繰り出す。
風春 「うるせぇよお前、」
と鋭い目付きで飛び掛かる田中を睨み付けた。
その瞬間、風春は身体を左へ半回転ねじると首元の紐を握る右手を離し、田中の下顎に強烈なアッパーを食らわせた。
ガガァアアアンンンッ!!!!
田中 「ングッ!!ァアァアアッ!!?」
顎を風春に砕かれた田中は、風春の周りに張り巡らした電線に身体を引っ掻けながら地面に落ちた。田中のシャドウの力が弱まるにつれ、風春を縛る電線が緩みだし、風春はゆっくりと地面に着地した。
田中の足元から伸びる影を風春が斬拳で切り裂き、白い正方形の紙を使い影移しを済ませた。
風春 「こいつがこの辺りを焼け焦がした訳じゃ無さそうだな。弱すぎる。さっき見たカジキの奴がそうなのか?」
風春は、宙吊りにされていた時に見たカジキマグロとそれに乗っていた男が突っ込んだであろう建物へ向かう。
パラパラ、パラ、パラ
巻が突っ込んだ3階建ての建物の3階部分に大きな穴が空き、パラパラと建物の壊れた破片が道路の方にも落ちてきていた。その建物の前に来た風春は、上を見上げて穴の空いた部分を確認した。
風春 「ここだなぁ、、もういないのか」
と風春が建物の中に入ろうとした時。
ガシャァアン!!!
すると建物の穴の空いた3階部分から、巻が芭蕉カジキに跨がり道路の上に飛んできた。
ドォドォオオオオンッ!!
巨体の芭蕉カジキがコンクリートの道路を地響かせながら落ちる。巻は「サンキュ、バショウ」と跨がったまま芭蕉カジキを擦ると形をドロリと崩し、巻の影の中に消えていった。
風春 「、、、、ん?」
建物の中に入ろうとしていた風春は、背後で轟いた音に反応し振り返り、芭蕉カジキと巻の姿を確認した。
巻 「ん?、、あれ!ハルじゃん!」
巻は芭蕉カジキが消えると人の気配を感じ、風春の方を見るなりすぐ反応した。
風春 「、巻さんですよね!?びっくり」
巻 「おー!久しぶりだな」
風春 「高校以来会ってないですよ、まさか巻さんだなんて」
巻 「変わってないなハル。俺は今な、強ぇ奴を探してんだよ」
風春(心の声) 「いやいや、巻さんこそ変わって無いよ。眉毛全剃りだし、何か企んでそうなその喋り方。でも懐かしいなー」
風春 「そう言えば、何で巻さんカジキマグロに乗ってたんですか?」
巻 「いかちーべ?あいつバショウって名前なんだよ。何かいつの間にか、俺の影から現れる様になったから楽しくて遊んでんだ(笑)。強ぇ奴は今、影から何か出すんだべ?」
風春 「そうなんですね。いや、、俺も今、影から何か出せるんすよ」
巻 「お前も?、じゃあ一緒に探そうぜ強ぇ奴」
風春(心の声) 「巻さんまだ何にも知らないんだぁ。逆に凄いよここまで楽しんでシャドウ相手に戦ってる人」
風春 「銀座って何で今こんなに焼けちゃってるんですかね?」
巻 「ハル知らねえの?、1週間前に大火事が起きたんだよ」
風春 「1週間前?」
巻 「これ、見てみ。ニュースには出火不明ってなってるけど、これは絶対強ぇ奴の仕業だから」
風春は巻からスマホに映されたニュース画像を見せられた。そこには、1週間前地下鉄銀座駅周辺で出火不明の火災発生と書かれた内容が表示されていた。不思議な点は、火災発生直後に警察ではなくSBTが主導で現場の指揮をとっていた事。今回の火災はシャドウが関与している為、国としては国民に非公開のまま、最小限の情報拡散に食い止めたかったに違いないと風春は感じた。
風春 「たしかに」
巻 「俺は火事を起こした強ぇ奴が、ここにまだいると思って、あちこち探してんだよ」
風春 「なるほど。巻さん俺も一緒に探して良いですか?」
巻 「決まりだ!俺とハルで強ぇ奴ぶっ倒すぞ」
そう言うとふたりはシャドウ狩りの為、荒廃した街中を歩き出した。風春は高校時代、バスケ部に所属しており、その時のあだ名で周りから´´ハル´´と呼ばれていた事を思い出す。
風春 「巻さん髪の毛水色っすね」
巻 「あー、似合ってるか?」
風春 「巻さんにしか似合わないですよ」
巻 「だろ」
巻は風春の方は向かずに前を向いてニッと笑った。
・・・
その頃。銀座にあるアトリエの屋上で、手に筆を持った男が黒い液体を筆に染み込ませ、屋上の床に敷かれた大きな白い紙を凝視していた。
その男は左手を白い紙の上につき、右手に持つ筆先を紙に落として走らせる。
スー、ザ、スー、ススーザザ、
静かな屋上は、紙の上を擦る筆先の音だけがその時を支配していた。
大きな白い紙には、墨絵で描かれる風神の眼が空を睨み付けていた。




