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shadow  作者: 新垣新太
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ep2.ギャンブルストリート編・8話

重盛と風春が地下室から脱出し、島さんの店に梯子を返す頃。美空はひとりで、池袋にある水族館に来ていた。美空が座る椅子の前では、横幅の広い水槽にペンギン達が泳いでいた。ペンギンの姿を眺めながら、美空は池袋にあるパン屋´´コムギィ´´で買ったパン袋から、食パンを一枚取り出してハムッと咥えた。


美空 「あ~~。癒される。水族館とパンの組み合わせ、最強かよ」


水槽ガラス越しのペンギン達は、陸で飼育員から餌を貰う者。ジャボンッ!と水に飛び込む者。プカプカと水面に身体を浮かしながら泳ぐ者。ズヒューッと水中を素早く泳ぐ者等が、パンを(むさぼ)る美空の前で生命活動をしていた。


美空 「そうだ、黒蜜きな粉のクロワッサン。今日は売り切れる前に買えて良かったーー」

と言いながら、右手をパン袋の中に入れ、中からそぉーっとクロワッサンをひとつ取り出した。ふんわりと黒蜜きな粉とクロワッサンバターが香り、自然と美空の口を開かせる。


サクゥッ


美空の歯がクロワッサンに当たり、軽快な音を立てる。クロワッサンの周りにまぶされたきな粉が、オレンジ色に塗られた美空のネイルの上に飛び移る。


・・・


重盛と風春は、乗っていたタクシーから降りると、水族館の券売機でチケットを買わずに、入場口の女性スタッフにカードを見せた。その女性スタッフは、ベテランだったのか、何も聞かずに検温機でふたりのおでこから体温を調べると中へ通した。


風春 「このカード、何にでも使えるんだな」

重盛 「あぁ、国に感謝しろ」


入場口を通り過ぎると、´´水生動物ふれあいコーナー´´が現れた。重盛は、水生動物にはしゃぐ子供達を尻目に、どんどん先へと進んで行く。


ふたりは、´´ペンギン王国´´のコーナーまでどこにも寄らずに来ると、重盛はペンギン達を一番近くで見る事ができるベンチに座った。


風春 「なんだ、そんな成りしてペンギンちゃんが好きなんだ」

と言いながら風春は、重盛の隣に座った。


重盛 「鷹取は、おそらく、陽炎のNo.2だ」

重盛は風春にしか聞こえない声量で話す。

風春 「鷹取ってあの、棒キャンディ男か」

重盛 「今回その鷹取の手首と足首を奪えたのは、人影にとって大きな前進だ。、、お前には感謝している」

風春 「たかがゲームに勝っただけで、決着が付いた訳じゃねえよ」

重盛 「丸茂さんからお前に指令が出た。次の場所に向かえ」

重盛は風春に右手を伸ばした。風春は、その右手に持っているコースターを受け取った。表には´´シャワー´´と島の店名がデザインされていた。風春はコースターを裏っ返すと何やら文字が書かれていた。


風春 「え?、銀座。次はここに行くのか?」

重盛 「あぁ、何やら最近物騒な事件が多発しているらしい」

風春 「銀座なんて行ったことねえよ」


重盛は(ふところ)から赤いりんごを取り出した。そのりんごを両手で少し擦り、重盛はじっとりんごを見つめた。


重盛 「俺はな、昔、警察だった」

風春 「なんだよいきなり、昔話かよ」

重盛 「まぁ聞け。その時、俺はまだ新人で、交番勤務をしていたんだ」


・・・


一重盛が新人警察官の頃一


交番勤務は、警察官の登竜門(とうりゅうもん)と言われていた。俺はその日も、ひとりで配属先の小さな交番で仕事をしていた。ついさっき来た男性が、財布を無くしたと訪ねてきたので、詳しく話を聞いた後、男性には見つかり次第連絡すると伝えて帰ってもらった。その後、すぐに今日の日誌に落とし物の件を記録する。至って平和な日常作業だった。


重盛 「あぁ、、手がかじかむなぁ」

寒さで少し固まる手を擦りながら、交番の引戸ガラス越しに見える、外の道路を見ていた。すると、外から上下黒のジャージに丸いサングラスを掛けた男性が、交番の引戸を開けて入ってきた。俺は椅子から立ち上がり、何か困り事かと思い声をかけた。


重盛 「どうしました?」

サングラスの男 「ここら辺にコンビニってあります?」

重盛 「あぁ、コンビニなら」

と俺は、交番の一本裏にあるコンビニを教えようと、入ってきたサングラスの男の横を通りすぎようとした。


その時だった。

サングラスの男 「拳銃よこせ!」

ガッとホルダーの付いた拳銃をサングラスの男に握られた。俺は、男を引き剥がそうとしたが、両手で拳銃ホルダーを掴まれていた為離れなかった。


重盛 「何してるんだ!離れろ!!」


ドンッ!!


大声で威圧するも、俺は男に壁に押し付けられた。気付くと、俺を押さえ付ける男の左手には、ホルダーから外された拳銃が握られていたんだ。


サングラスの男 「おぉい!、使ってみたかったんだよなぁ拳銃、、貸してくれよ!すぐ返すからよー」

重盛 「この!、、何してるかわかってるのか!」


さらにもみ合いになり、俺は柔道経験から男の片足を払い床に倒そうとした。

重盛 「諦めろっ!」

サングラスの男 「んぁああっ!」


ダアァンッ!


重盛 「クッ!」

その時、男が倒れた勢いで拳銃の引き金を引いてしまい、その弾丸が俺の右肩に当たった。


サングラスの男 「うへへ、すげぇ、、これが拳銃の威力か、、すげぇ、すげぇぞ!、ハハッ!」

と興奮した男は、俺の拳銃を持ったまま交番から出ていった。俺は、撃たれた右肩を押さえながら本部へすぐ連絡した。


その後、俺は上司や本部の人間から事情聴取と言う名のお叱りをたんまりと頂き、分厚い報告書を書かされた。俺を撃った男は、すぐに捕まった。どうやらそのまま拳銃を自宅に持ち帰り、改造を試みていたらしい。俺はサングラスの男に拳銃を撃たせてしまった。自分の技術の未熟さで、男に恐怖と後悔を与えてしまった事に対して怒りを感じた。傷心の中、撃たれた右肩を治療してくれた病院の先生が、人影の丸茂さんなんだ。手術からリハビリまで、本当に良く面倒を診てくれた。俺のシャドウを初めて見た丸茂さんが、シャドウを滅する為の組織に入らないかと声を掛けてくれた。それからの付き合いだ。だから、丸茂さんには感謝しかないんだ。


・・・


風春はコースターを右手に握りしめたまま、重盛の話を聞いていた。目の前の水槽を丸く泳ぐペンギン達を、こんなに冷静に見ている自分に風春は、何とも言えない気持ちになった。


重盛 「達者でな。お前は先に出ろ、銀座へ向かえ」

風春 「、、重盛さん、あんたも頑張れよ」

重盛 「ちっ、生意気だな」


ベンチから立ち上がり、風春は来た道を戻っていった。


重盛 「はぁーーーー」

と重盛は深いため息をつきながら下を向いた。そして、顔を上げ、ふと左へ視線を向けると、そこにいる美空と目が合ってしまった。


美空 「ドキッ!」

重盛 「ん?、、あれ?」

美空(心の声) 「ど、ど、ど、どうしよう!、こ、こ、こ、こんな所で会うなんて、思ってなかったよ、でも、なんか、なんか声掛けないと」

美空 「あ、重盛さんって言うんですね。あの時は、助けて頂きありがとうございます」

重盛 「あの、お嬢さん、ギャンブルストリートでご婦人を守ってくれた」

美空(心の声) 「あ、声カッコいい」

美空 「はい、そこまで覚えてくれてるなんて、」

重盛 「こんな所で会うなんて奇遇ですね」

美空 「はい、私、驚いちゃって。、、あ、でも重盛さんの名前、だけでも今日知れて良かったです。、あ、私の名前、は、船川美空です」

重盛 「元気そうで何より。船川さんって言うんですね。水族館、お好きなんですか?」

美空 「、、、、美空って、、下の名前で呼んでください」

重盛 「え、、と、、美、空さん?」

美空(心の声) 「ドキッ!ヤバいヤバいヤバい!超嬉しいんですけど!名前で呼ばせちゃったんですけど!ど、どうしよう!」

美空 「あの、もしよかったら、あっちにサメがいるんですけど見に行きませんか?」

と美空はペンギン王国の先の通路を指差した。


重盛 「あ、サメか、、行きましょうか」

と重盛が立ち上がり、美空と一緒にサメのいる水槽へ移動する。


美空は、重盛より少し後ろに並んで歩く。暗い通路を通り過ぎると、ペンギン王国よりは小さめの水槽が現れた。


美空 「ぉお!、いた!」

重盛 「デカイですねぇ」


ふたりは、ホオジロザメが一匹だけ泳ぐ水槽に近付く。まるでスローモーションのように水中をゆっくりと獲物を狙うかの如く泳ぐホオジロザメ。


重盛 「存在感ありますね、、目が恐ろしいなぁ」

美空 「ぁ、、ぁの、、私、サメ苦手で、手、握っても良いですか?」

と重盛の返事よりも先に、美空は両手で重盛の左手を触る。


美空(心の声) 「あ、暖かい手」

重盛 「手冷たいですね、寒いですか?」

美空 「いや、あの私末端冷え性で。、、でも、重盛さんの手を握ったら、ちゃんと見れます」

重盛 「美空さんは心がお強い」

美空(心の声) 「美、美、美空!って言った!え!言ったよね!?今!また名前で呼んでくれた!ヤバいヤバいヤバい!!」


と美空は興奮の余り、重盛の左手をギュッと握ってしまう。


重盛 「ん、あ、、」

重盛(心の声) 「どうすればいいんだ、こういう時は、女性の扱いに慣れなさすぎて」

美空 「あ!ごめんなさい!強く握っちゃって」

重盛 「冷え性も治るくらい、身体が暖まるうまいラーメン屋が池袋駅の側にあるんですが、行きますか?」

美空 「え!」

美空(心の声) 「ヤバい。さっき私、パンがっついちゃってお腹いっぱいだー」

重盛 「まぁ、女性客は滅多に見ない所ですが、」

美空 「、行きたいです!むしろ、そう言うところ、私ひとりじゃ行けないので」

重盛 「そうですか、じゃあ、行きましょうか」

美空 「でも、さっき私パン食べちゃって、そんなに食べれないかもです」

重盛 「あ、じゃあ、無理して行かなくても大丈夫ですよ、」

美空 「でも、重盛さんの手をずっと握ってたら、食べれそうです」

重盛 「あ、あ、ぁ、、ぁ、あぁ」


とその後ふたりは、水族館の出口に向かうときも、池袋駅東口にある´´豚トコトン´´に着くときも、ずっと手を握ったまま歩いていた。


重盛(心の声) 「女性は、難しいなぁ」

美空(心の声) 「声は心なんだ。ちゃんと相手の心を見る事が何よりも大事なんだね、、重盛さんの声も好き。、、重盛さんの心が、、すき」


・・・


梅雨空が、強い日差しにかき消され、7月の空気が暑い予感を人々に与え始めていた。風春は、地下鉄の電車を降りると、細い登り階段から地上へと出る。


風春 「あれ?、、ここ、銀座駅だよな」

降りた駅を確認する為、風春は銀座駅と書かれた地下鉄出口の看板を見上げた。


風春 「どうなってんだよ、、半分丸焦げじゃねえか、、」


風春が出てきた地下鉄階段出口から見えた景色は、大きな道路を挟んで風春の立つ右側は綺麗な建物が建ち並ぶ。だが、道路を挟んで左側の建物が全て、黒く焼け焦げ、ほとんどの建物が半壊している状態だった。

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