ep2.ギャンブルストリート編・5話
風春は、203号室の鍵を開けて中に入ると、何もないキッチンのフローリングに大の字で寝そべった。
風春 「、、、、冷たい床が気持ちいぃ」
重盛の部屋は、本当に人が住んでいるのか、と疑うほど閑散としていた。風春は、床に寝そべった後、ユニットバスの狭いシャワーで身体を流した。キッチンを物色すると、カップ麺と給湯ポットを発見したので、ポットで水を沸かし、3分経ったカップ麺を畳部屋のちゃぶ台に置いて座った。割り箸を口に咥えて器用に割り、カップ麺の蓋を開けた。
風春 「いたーだきーます!、ズッ!ズッ!ズズーーッ!」
麺をすすり、モグモグしているとヒョコっとちゃぶ台の上にシマエナガが姿を現した。
風春 「ん、、そーだ!、どこ行ってたんだよ。ギャンブルストリートに到着したらへんから姿消したから、ちょっと気になってたんだぞー」
シマエナガは首を傾げると、カップ麺の側に近づきツンツンとくちばしでカップ麺を突っつく。
風春 「ははっ、そうか、お前も腹が減ったんだろー?、じゃあ、」
と言うと風春は、割り箸で小さく丸まったむきエビをひとつつまみ、シマエナガの前に置いた。
ツンツン、パク、パク
風春 「おぉ、器用に食べるなー。そうだ、名前付けてなかったなー。エビ食べたから、今日からお前の名前はエビちゃんだ!ズズーッ!」
シマエナガは、風春に命名されるも顔を覗き、首を傾げるだけだった。
風春 「はーー!、スープうめぇ、あーでも。このカップ麺食べながら、豚トコトンの皮パリパリ中ジューシーで春雨が入った春巻に、かつお風味の梅肉ソースたっぷり付けて食べてぇなぁーー」
風春は、カップ麺を完食すると仰向けになった。
風春 「、、エビちゃん、聞いてくれよ。俺、最強の男になるって決めたんだ。、、笑うなら笑ってくれよ。別にふざけて言ってる訳じゃない。今はまだ、全然力も足りてないし、シャドウが使えたって敵ひとり倒せてない。今日なんか、ずっと両手足縛られっぱなしで、透明人間なんじゃないかって言うくらい存在感無くってよ。だけど、それでも俺は、恵里に誓ったんだ。シャドウを全部倒すって。そしたら、恵里と結婚出来るんだ。こんなもんじゃないんだよ俺は、これからもっともっと強くなって、、最強の男になる!!」
ぐぅーーーー
風春 「ダメだー、さっき春巻の事考えてたから、腹が空いて寝れなくなる。早く寝よ寝よ」
風春は、立ち上がると布団を押し入れから引っ張り出して、直ぐに電気を消して布団に入った。
風春 「エビちゃんおやすみー」
・・・
案内人の高橋は、服部のシャドウに手足を縛られた状態のまま、池袋署の取調室にある椅子に座らされていた。取調室のドア近くに座り、机の上に置いたノートにペンで調書を書く新井、そして、高橋の前に椅子を置いて座る山田がいた。
フッ
すると、高橋の手足を縛っていた黒い紐が霧状になって消える。
山田 「なぁ、高橋よ。まだ知ってる事沢山あるだろう?、ギャンブルストリートを裏で操ろうとしてる奴とか、、シャドウの事とかー」
高橋は、外れた手足の首を擦ると、身体を前屈みに倒し、山田を睨み付ける。
高橋 「無いよ。、さっきあんたら警察の裏側について全部話してやったろ。早く出せよ」
山田 「警察内部の汚職になんか興味ねえよ。それは、内部監査がやる仕事だ。俺が興味あるのは、街の中に潜むドロッとした汚い情報だけだ。、、どうだ、先に腹ごしらえしとくか?、カツ丼とカレーどっちが良い」
ガチャッ
すると、山田達のいる取調室のドアが突然開けられた。
中条池袋署長 「山田、取り調べの所悪いな。高橋の釈放が決まった」
新井 「え、」
高橋 「だってよ、」
山田 「、ダメです。、明日の朝まで聴取を取る事になっています」
中条 「上からの指示だ、変更はない、高橋、立て。案内する」
山田 「中条さん、上って誰の指示何ですか?高橋をこのまま野放しにしていて良いんですか?」
中条 「今お前が知る必要はない」
高橋は、ゆっくりと立ち上がると、山田の耳ともで「残念」と囁いてから中条と取調室を後にした。
新井 「・・・」
ガッ!
新井が握るシャーペンの芯が、ノートの上で力強く折れた。
山田は椅子から立ち上がると、取調室の壁に近付き、灰色の壁面をじっと見つめた。
ガンッ!!
静かな取調室に、山田の右の拳が灰色の壁を強く殴る音が寂しく響いた。
・・・
深夜2時。釈放された高橋は、近くの公衆電話から重盛に連絡をすると、すぐにタクシーに乗った重盛が高橋の元に現れた。
重盛 「悪かった」
高橋 「問題ない。それより、良い情報がある」
重盛 「なんだ?」
高橋 「待ち合わせ近くの店の脇道で俺は、変なシャドウ使いにからまれて手足を縛られ地面に倒れていたんだが。そのとき、俺の視界には店の外壁があって。その外壁と地面の間に、2センチ程の隙間が地面に沿って15センチ程空いてたんだ」
重盛 「隙間?、それがどうした?」
高橋 「その隙間から見えたんだ。薄暗い部屋が、店の地下にだ。俺の情報網に、あそこに地下室があるなんてのは初耳だ。それで、その地下室を見つけた時、最近ギャンブルストリートにいる女性達が次々と姿を消しているって話を思い出したんだ。おそらく、その地下室が行方不明になっている女性達と関係があるんじゃないか」
重盛 「地下室から声はしたのか?」
高橋 「いや、わからなかった。ただ、人影が通っているのを何度か確認が出来た。もっと隙間に近付きたかったんだが、手足を縛られてたからな」
重盛 「そうか。その店の場所は?」
高橋 「´´三矢´´って酒場だろう。そこで間違いないはずだ。イエローゾーンのシマの店だ」
重盛 「その女性達が行方不明になっている話が本当だとして、その犯人はシャドウ使いか?」
高橋 「俺の情報網を掻い潜った人間だ。間違いなくシャドウ使いだろう」
重盛 「わかった。明日朝にその地下室に向かう。俺からの連絡はこの件が終わってからだ、それまではお前も気を付けろ」
高橋 「あぁ」
・・・
翌朝。大の字で気持ちよく布団で寝ている風春。寝返りをうち、仰向けになった風春の額に、重盛は銃口を突き付けた。
風春 「ふぅん、、ん、、んぁ、、」
銃口の冷たさに、少し意識が現実に戻される風春は、寝ぼけ眼を薄く開けた。
風春 「あ、、んぁああああ!!!っぶねぇ!!」
風春は突き付けられた銃に気がつき、勢いよく身体を動かし銃から離れた。
重盛 「、気付くの早いな」
風春 「あったりめえだろ!?頭おかしいのか!?」
重盛 「支度しろ、シャドウ狩りだ。案内人の高橋から情報をもらった。まだ確定ではないが、おそらく敵は十色だ」
風春 「十色?」
・・・
その頃。薄暗い部屋には、鷹取とピンク色のショートヘアーの女性がテーブルに向かい合いお酒を飲んでいた。
鷹取 「美味しいお酒だ」
建川瑠美 「思ってたより、飲みやすいかも。、でも、すぐ酔っちゃう私」
と言いながら建川瑠美は、テーブルの上に置いたシャンパングラスを両手の指でソッと包んだ。
鷹取 「う~ん。美しい指。白桃色の指に、ダークチェリー色のネイルがお似合いだ」
瑠美 「鷹取さんは他の男と違って、ちゃんと細かい所まで見てくれてるから嬉しい」
鷹取 「美味しそうな指だ」
口の端から舌を少し覗かせる鷹取。
瑠美 「そう言えば、ここでゲームをするって話。何をするの?」
鷹取 「簡単なゲームさ。この、カードを使うんだ」
と言って、鷹取が1枚のトランプカードらしきモノを取り出し瑠美に見せる。
瑠美 「カード?、ん?、サイコロが描いてある」
鷹取 「そう。12枚のカードだけで遊ぶ´´双六ゲーム´´だ」
バァゴゴォオォオォオオオオンンンン!!!
瑠美 「キャアアァ!!」
鷹取が話を終えた途端。薄暗い部屋の天井に、僅かに空いた隙間から、突如として爆音が鳴り響くとぼっかりと大きな穴を開けた。
タッザッ!、ザザッ!
重盛 「派手にやり過ぎたな」
風春 「もっと他にやり方なかったのかよ」
案内人の高橋の情報から、酒場´´三矢´´の外壁の隙間を見つけると、重盛は銃撃で地下室への通路をこじ開け、風春と共に地下室へ降り立った。
瑠美 「な、な、なな、何!?」
鷹取 「うーん?、招かれざる客だ」
席に座る鷹取の背中側に降り立った重盛と風春の方へ、鷹取は呟きながら振り向いた。
鷹取の殺気を感じた重盛は、すかさず2丁拳銃を構えた。
重盛 「お前がギャンブルストリートの女性を狙って行方不明にしている野郎か?」
鷹取 「あら、君達ふたりともシャドウを持っているのかい?」
風春 「だったら何だよ!?」
重盛 「お前は黙ってろ」
鷹取 「そうかぁ。、、瑠美さんごめんね。ゲームはあそこのふたりと遊んだ後にしよう」
瑠美 「え?」
重盛 「ゲームなんかに付き合ってる時間は無い。どうせお前もシャドウ使いだろ」
鷹取 「だったら、どうする?」
と言うと、テーブルを照らす電球がチカチカと明滅した。と途端、部屋は人の姿が見えなくなる程の暗闇に包まれてしまった。
瑠美 「え!?怖い!!」
風春 「なんだ?おい!」
重盛 「落ち着け!」
鷹取 「んふっ。大丈夫、取って食ったりはしないよ。君達が入ってきた穴を塞いだだけ」
カチカチ、ジー
すると、部屋に再び電球が灯り、部屋を薄暗く染める。
瑠美 「え、動けない。鷹取さんどういう事?」
今まで座っていた椅子に、手足を縛られた瑠美は、鷹取に視線を送る。
鷹取 「大丈夫、落ち着いて見ていて」
地下室には、薄暗く照らされたテーブルと、鷹取の座る席、そして鷹取の正面にあるひとつの空席。部屋はどんよりとした空気に包まれていた。
重盛 「どういうつもりだ」
鷹取 「どうぞ、席に座って。順番はどちらからでも」
風春 「んなろう、俺が行く」
重盛 「ちょっと待て、下を見ろ。さっきまでは無かった色が表れてる」
風春 「ぁあ?、床の色?、この、黒い色ってことか?」
鷹取 「これは正々堂々、一対一で行うゲーム。緑色の床に表れた黒色の領域には、契約するふたりしか入れない。誤解の無いように、黒色の床に触れなければ良いと思わないでね、この黒色に変わる境目から上の空間においても入ることは許されない」
重盛 「入ればどうなる」
鷹取 「ボクに消される(笑)」
風春 「面倒くせえ、俺が先にやるって言ってんだ!文句ねえだろ!」
重盛 「あいつが何をするのか、わかって言ってるのか!」
風春 「ぁあ?、んなのお互い様だろ!」
重盛 「チッ、勝手にしろ」
鷹取 「フフフッ」
重盛 「何がおかしい?」
鷹取 「いや、ボクは仲間割れを見るのが好きなだけだよ」
風春はズカズカと、そしてゆっくり鷹取の待つテーブルに近付いた。そして、思い切りテーブルを叩く。
ダンッ!!!
風春 「俺達は仲間じゃねぇ」
鷹取 「んふっ。じゃあ、ゲームを始めましょう。どうぞ座って」
風春は鷹取を睨み付けながらガタンと椅子に座った。
重盛(心の声) 「あのバカ者、勝算でもあるのか」
鷹取は、テーブルの上に6個の白い紙カップを1列に3個並べ、それを2列つくった。
鷹取 「6(シックス)カップ。このゲームには、君の手足を掛けてもらうよ」




