ep11.ブラックアイズ編・9話
蔵島(心の声) 「…ダメですね。全身から血の気が引いてます…」
担架に乗せられた蔵島は浅草寺から離れて行く。
蔵島の視界がホワイトアウトする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一2019年・蔵島白虎、新聞記者時代一
私は大手新聞社の記者として何度も一面記事を奪い取る´´記事の虎´´として名を上げていた。昔とは違い今はペーパーレス化が加速し新聞社の売上が頭打ちにさらされる中。私の勤める大手新聞社は早くから電子記事の発信に注力をしていた結果、熾烈な競争から一歩抜け出した極少数の勝ち組だった。
日々迫り来る締め切りと社内競争の荒波に、野生の虎のようにアフリカの荒野を駆け回っていた。
時を忘れ行き、次第に私の人生が仕事に塗り替えられた瞬間でもあった。
ひたすら記事を書き、文字を打ち込む、目を酷使して。社内にはキーボードを叩く音と電話で取材をする声。明日の記事に載せるニュースの打ち合わせがそこかしこで繰り広げられていた。
ヴヴッ
私の携帯がメール通知の振動をした。
送信元不明。だがタイトルには私の名指しで届いていた。
メールを開く。
そこには記事のリストが並ぶ。短文のタイトルが幾つか記載されていた。その短文の頭には情報量が万額で提示されている。
いわゆる業界にうろつく情報屋の営業メールだ。
大概が証拠不十分のクズネタだが、
そのメールの一文に私は目が止まった。
このネタは絶対に私が記事にして一面にする。顔を携帯に近付けた。
この一件が公にさらされることで救われる人がいるはずだと疑わなかった。
上司に一文だけ´´しばらく家にも会社にも戻りません´´と送った。
この´´しばらく´´が私にとって大物を狩りに行くときを暗示する言葉だった。
パタッ
折り畳み財布を開き一番手前のポケットに入っている写真を抜く。
写真を財布にしまい外へ出た。
私に営業メールを送った情報主とはすぐに連絡がついた。
その情報は確かだと話の筋から見えていた。
´´警視庁庁官の息子が起こした殺人事件。大手テレビ局がゴールデンタイムにその事件を未解決事件を追う追跡調査番組の一部で取り上げた。その番組放送中、視聴者からの新たな証言がきっかけとなり犯人が逮捕された。が、その犯人は全く事件とは関係の無い別件で逮捕されていた犯人だった。この事は世間には知らされず、捏造され捕まった犯人を裁く検察官はテレビ局と警察に深い根が繋がっていた。警察は汚点を消す為、メディアの情報操作を使い、闇に染まる検察官を引き込み見事なまでの印象操作を実行したのだ。´´
私はこのネタに足を踏み入れた。
矢先、止まり木として使っているホテルに宿泊中。私の部屋のドアから茶封筒が入れ込まれた。
その中には私の家族の写真が何枚も入っていた。どれも知っている近所や学校にいる家族の写真だった。
揺さぶり。
私は確信した。このネタが事実無根では無いと言うことを。
だが、相手が一歩上手だった。
警視庁庁官の息子が起こした殺人事件を担当した検察官と、大手テレビ局の担当検察官は同一人物。その検察官の足取りが掴めたので元を突き止めようと行った場所は更地になっていた。
そして、協力していた情報主からその検察官は国外逃亡したと連絡が入り全てが泡と化した。
パタッ
更地の前で財布を開き一番手前のポケットから写真を抜く。
若手記者の頃から持っている写真。
玲、雫、響、家族4人が家の前で笑って写っている。
蔵島(心の声) 「正義とは、なんだ…」
その時、私が多忙で家をあける時間が増しすぎた事に玲から言われた言葉を思い出した。
玲 「…なんで危ない橋を渡ろうとするの?、家族の幸せが一番じゃなかったの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガタガタ、ガタ、ガタン
一2023年・現在一
蔵島(心の声) 「揺れてる…なぜ仰向けに寝てる?……病院。…そうか、私はあの子に」
病院に到着した蔵島は病院の担架に移され緊急治療室まで運ばれていた。
その時、看護師のひとりが蔵島に声をかけた。
看護師 「今家族の方が来てくれるそうなので安心してくださいね」
蔵島 「………家族」
蔵島は緊急治療室の開くドアの先に入り込む。すぐにドアは閉まりそうになる。
タッ、タッ、タッ!
緊急治療室のドアの隙間から覗く蔵島の姿を廊下に走り込んだ妻の玲がなんとか見送っていた。
・・・
一響の入院する病院一
雫は響の病室に現れた。窓側にいる響はベッドを少し起こして窓越しの空を眺めていた。その横顔が昔の響の顔を思い出させる。
雫 「…どうだ」
響は答えない。
ただ妄想が止まらない。
響(心の声) 「姉さん、俺によく変顔見せてくれたっけな。今じゃクール顔の仮面被っちゃって。まあそれもSっぽくて興奮するけど。悩んだ時はいつだって姉さんの変顔を思い出しては心ほぐされてた。…この傷は、痺れる。姉さんの攻撃を真っ正面から受けれるなんて、最強にして最高級の気持ちよさだったなぁ。息もできない程の愛を受け止めたよ姉さん」
ドスッ
たそがれる響の胸部に一冊の本が刺さる。
響、ギョロ目になる。
響 「あ、姉、さん、だ」
雫 「うん、元気そうでよかった」
響(心の声) 「まだ何も言ってないよ。怪我人の怪我した場所にわざと何か固いもん突っ込んだよ」
雫 「見舞いだ…開けろ」
涙目で受け取った響はゆっくりとラッピングを外す。傷口がやけにじんじんと痛む。
だがその痛みはすぐさま吹き飛んだ。
神々しい姿が響の眼に映る。
響 「違う、、違う、違う、絶対に違う!、こ、こ、こ、こ、これは!お、お、お、お、お、お、お、」
響、言葉にできない。
雫 「目に焼き付けろ。´´長谷山月のプレミアム写真集・脱´´。のサイン付だ」
響(心の声) 「俺が中学の時から大好きな名女優・長谷山月!!今月、自身のキャリアを全てぶっ壊すと宣言する程の気合いで発表したのがこの初のヌード写真集!発売後即完売で転売屋が介入出来ないほどのシークレット本!しかも!、、サイン付だぞ!!」
響 「なんでっ!?」
雫 「フフッ!」
雫はあまりにも分かりやすい反応で、あまりにも大きな響の声に笑ってしまった。
響 「へ?」
雫 「エロガキ。私は帰るぞ」
丸椅子から立ち上がり颯爽と病室を去ろうとした雫。
響 「、姉さん!」
・・・
一その頃・日本女子医学付属病院では一
風春の血液に含まれるシャドウ消滅の糸口となる細胞を素に作ったワクチンが普及を終えた後。
丸茂は研究室でSBTが収容している陽炎の十色達の血液検査の結果とにらめっこしていた。
丸茂(心の声) 「出雲さん。出雲さんが研究している再生医療のミュゼ細胞(人間に元々備わっている分化細胞)の働きの治験対象として、SBTが収容している十色の人達に点滴治療を行い再生医療の発展に協力してもらっていますよ」
丸茂は血液検査の資料から目を離し、背もたれに体を預けて目を休める。
丸茂(心の声) 「僕が若手だった頃、ビシバシと教育してくれた出雲さんのおかげでここまで頑張って来られた」
丸茂 「´´何があっても腐るな´´、、ですね」
・・・
一響の入院する病室一
雫は去り際、響に呼び止められて振り向く。響が手に持って見せたのは淡いピンク色でラッピングされた1本の傘だった。
響 「シャドウワクチンは打ったの?」
雫 「、打った」
そう答えながら響に近付く。
響 「これ、」
雫は響から受け取ったプレゼントの傘を持って病院の外へ出ていた。
響 「姉さんには、傘が似合うから」
雫は傘を包むラッピングを外す。
ハラリ
傘の留め具を外し、傘を上に向けてゆっくりと押し広げる。
青空から差す光が傘を通して雫の瞳をきらびやかに彩る。
そこには晴天に映えるステンドグラス柄の傘の世界が姿を現した。
その瞬間。響との思い出が一挙に雫の胸を打つ。
雫 「きれいだ」
と呟く雫の瞳には涙が溜まり一筋の雫が頬を伝う。
最後までお読み頂き、本当にありがとうございます!
コロナウイルスは世の中にある当たり前の日常を壊しました。コロナが蔓延する最中、人間の感情のひとつである´´怒り´´も、当たり前の日常を壊すモノだと感じました。もしも、ウイルスと怒りの感情が結び付いてしまったら、人間はその世界でどの様に向き合い、どの様に歩んでゆくのかを僕自身考えながら書かせて頂きました。
ウイルスは全て悪なのか、善として活かせないのか。怒りの感情を奪えば世界は平和になるのか、なぜ人間に怒りの感情が備わっているのか。今、コロナウイルスが猛威をふるう時代に生きる人間のひとりとして、ウイルスが人々に何を学ばせる為に蔓延しているのかを静観しながら、年齢性別職業国境を越えて世界が笑顔溢れる平和な日常がいち早く戻る事を願い、まず自分が出来る事は何かを考えてちゃんと行動する所から始めようと思います。
ではまた。




