ep2.ギャンブルストリート編・2話
重盛は食べた赤りんごをしまい、立ち上がると、黒いスナイパーが形を崩し始めた。
シュルシュルルルッ
黒いスナイパーは重盛の影の中へ吸い込まれるようにして入って行く。
重盛 「目立った行動は危険を招く、特に池袋ではな」
・・・
風春は、雫から教えられた池袋にある喫茶店に向かっていた。そこに行けば、人影の重盛と言う男がいるはずだから、バディを組んでシャドウを倒せと言われていた。
風春は、小さなお店の前で足を止めた。その店先には、クロワッサンとコーヒーカップの絵が施された電飾看板が設置されていた。
風春 「ここだ」
風春が店の入り口ドアの木で作られた取っ手を握った瞬間、「動くな」と男の声が後ろから聞こえ、風春はピタリと静止した。
重盛は、小さな拳銃を風春の背中に突き付けていた。
重盛 「何故ここにいる?」
風春 「え?俺は、ただこの店に入ろうと思っただけで」
重盛 「正面を向いていろ」
風春(心の声) 「背中に何か当たってるぞ、銃かなんかか?、何なんだよ池袋、おかしな奴等ばっかだな」
重盛 「誰の指示だ?お前、シャドウ使いだろ」
風春 「面倒な街だなー。俺の名前は風春、眼帯女の指示でここに来ただけだ。あんたこそ誰だよ」
すると、重盛は風春に当てていた拳銃を下げた。
重盛 「不合格だ」
風春 「あ?」
重盛 「俺が敵だったら躊躇なくお前を殺していたぞ。見知らぬ相手に情報を渡すなんて言語道断」
風春 「、、もしかして、あんたが重盛さん?」
重盛 「中に入れ、話がある」
風春は握っているドアを強く引き、店の中に入ると、白い口髭を生やした店員が「いらっしゃい」と馴染みのお客様に掛けるような声で迎えた。
重盛 「奥のカウンター席だ」
風春 「あ、はい」
重盛 「マスター、レモン水ふたつ」
先程の白い口髭の店員がマスターであることに風春は気づく。マスターは、透明なプラスチックで出来たマスクを口に当てていた。風春は、ライトブラウンの小さな背もたれ付きのカウンター席に座る。その隣に重盛が座り、マスターから出されたレモン水を一気に飲み干しおかわりをした。
重盛 「風春、と言ったか?名前」
風春 「そうです」
重盛 「俺は、この池袋エリアのシャドウ狩りを任されている重盛だ。お前、さっき女の子を狙ってたシャドウをぶっ倒してたろ」
風春(心の声) 「この人、めちゃくちゃ角刈りだー」
風春 「え、何で」
重盛 「あのとき俺は、屋上からあのシャドウを狙っていた。そこに、お前が入り込んで、人目も気にせずシャドウを倒し面倒な事になりかけてる」
風春 「別に俺は、助けるつもりで」
重盛 「池袋はな、慎重に行動しないといけないエリアなんだ。今、ギャンブルストリートと呼ばれる危険地帯が徐々に広がってきているのを知らないのか?」
風春 「ギャンブルストリート?」
重盛 「危なっかしいお前は、俺の身も危険にしかねない、信頼のおける案内人をお前に付ける。シャドウが見つかり次第俺に連絡を入れろ、これが俺の番号だ」
と言われ、風春が渡されたのは店のコースターの裏に書かれた携帯番号だった。
風春 「案内人って」
重盛 「高橋と言う男だ。ギャンブルストリートの情報屋をやっている、安全にシャドウ探しが出来るぞ」
風春 「そんなにギャンブルストリートって危険なんですか?」
重盛 「あぁ、どこで誰が見ているか分からない。今、ギャンブルストリートは幾つかのグループでエリアを仕切っているらしい。一般人との見分け方は、マスクの何処かに色が付けられているって事だ」
風春 「色」
重盛 「色はグループ毎に違う。赤、黄、緑、青。詳しく知りたければ高橋から聞け」
重盛は、ペンで新しいコースターの裏に何かを書き残し、風春に渡した。
風春 「これは?」
重盛 「高橋がいる場所だ、そこに今日の夜20時に行け。時間は守れ」
風春 「え、」
重盛 「俺はもう出る」
重盛はマスターに千円札を渡し店を出た。
風春(心の声) 「何なんだよあいつよー!おとなしく聞いてりゃ偉そうに!なんで人影にあんなやつがいるんだよ」
風春は、コースターの上に置かれたレモン水を一気に飲み干し、重盛から貰ったコースターをズボンのポケットに突っ込んで店を出た。
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薄暗い部屋に白い電球がひとつ、黒いテーブルの上を照らしていた。そこには、微かな笑みを浮かべる鷹取と落ち着きのない様子の女性がテーブルの席に対面して座っていた。
海老名架純 「え、と、、ここだ、、どうしよう、まだ全然進んでない」
黒いテーブルの上には、絵柄も模様も無い真っ白なパズルがふたり分用意されていた。そして、テーブルの中央には赤色で表示されたタイマーが1秒ずつ刻を減らしていた。
鷹取 「落ち着いて下さい。まだ、時間はたっぷりある、残り5分でホワイトパズルを100ピース、綺麗に揃えるだけです」
海老名 「もう5分が経ったの?、うそ、、パズルをずっと見すぎて目がおかしくなりそう」
ジジッジッ
小さな音を立てた電球が、チカチカと光を鈍らせる。テーブルに置かれたタイマーは3分の表示を終える。
海老名 「やだ、3分きってる。半分も終わってないし、、ねぇ、鷹取さん、こんな遊び、もうやめましょ、私の降参、」
と言葉を出しながら、鷹取の方へ海老名が目線を向けると、先に鷹取の前にある白いパズルが視界に入った。そこには、縦横が美しく整えられ、白い100ピースのパズルが既に完成していた。
鷹取 「架純さん、あなたのその手、そして、その足先は、まるで白魚のように美しい。ボクは美しい手足が大好きでね。でも、強引に奪っては失礼に値する。だからボクはいつも、ちゃんと初めに相手の合意を得て、簡単なゲームでボクが勝ってしまった場合に、相手から手足を譲渡してもらっているんです」
海老名 「、たしかに合意はしたけど、そんなバカみたいな話。ただの冗談だと」
鷹取 「いや、ボクは至ってフェアな人間ですよ。、、架純さん、そうこうしていると、時間が無くなりますよ」
海老名 「は、、え?」
黒いテーブルに置かれたタイマーは、残り30秒を表示していた。海老名の左右の手首と足首には、黒いゴムの様なモノが付けられていた。
海老名 「やだ、やだ、、そんなの」
震える手でパズルのピースを持つものの、サイズや場所が分かりづらく、諦めて他のピースを取ろうとするも、手汗で指にくっついたピースが他のピースの上に重なる。
ピピピッ
カチャ
タイマーが10分間の終了の音を鳴らす。鷹取がタイマーの上にあるストップボタンを押し、音を止めた。
海老名 「ごめんなさい、、許して、お願いします」
すると、鷹取の後ろからガタイの良い黒いスーツを着た男が現れた。その男の頭部は短く刈られ、金髪に染まり、左頬から首に向かって十二音符のタトゥーが入っていた。
海老名 「、、え?、ひぃぃ」
海老名は、突然現れた男の姿に驚き身を縮めた。
鷹取 「架純さん、ボクの勝ちだ。、、シン、丁寧に頼むよ」
シン 「時間切れだ、契約により、海老名架純の両手足を頂戴する」
鷹取 「美指」
シュルシュルルルルッ
すると、海老名が付けている手足の首もとの黒いゴムの様なモノから、花柄の帯が現れ、それぞれの帯が手足を丸く包み込む。
ボト、ボト、トントン
暗い床に4つの花柄の帯玉が転がった。自分の両手首と足首が無くなった瞬間、海老名は悲鳴を上げた。
鷹取 「良い病院を紹介しますよ。今は無くなった部分の痛みは感じないですけど、明日の明け方ですかね、激痛が訪れます。頂いた架純さんの手足は、ボクが優しく扱いますからご安心を」
ジジッジッ、バチンッ!
部屋を灯すひとつだけの電球が、火花を散らしながら消え、部屋を真っ暗にした。
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風春が重盛と喫茶店で話している頃。SBTの山田と新井は、シャドウの強い反応がみられた池袋に到着し、ふたりは自販機の前で立っていた。
山田はスマホで自宅の電気代を確認していた。
新井 「何飲みます?」
山田 「電気代高っけぇえなあ!」




