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shadow  作者: 新垣新太
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ep1.雨の街編・1話

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

チュピチュピチュピ

女子医学(じょしいがく)付属病院の側では、軽やかな声でツバメが鳴いていた。その病院の一室で、白衣を着る先生と看護師が2人で話をしていた。


深田(ふかだ)みくる 「先生~、怒りって何ですか?」

丸茂秀一(まるもひでかず) 「僕が考えるに、自分の中にある正義を貫く為の感情だと思っているよ」

深田 「また難しい言葉が出てきた~、正義~?」

丸茂 「正義は皆の中にあるけど、そのどれもが違う正義なんだ、怒りと言う感情は自分を守ってくれる味方の様で在りながら、実は味方のフリをした敵なのかもしれないね。時代によって正義の答えは変わって行くから人間は心が不安定になりやすい。そんな人間の怒りの感情に結び付いたこのウイルス(シャドウ)は相当頭の良いウイルスなのかもしれないね」

深田「あ、私先生にお土産買ってきたんですよ!持ってきますねー、バウムクーヘンですよ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2022年6月

炎暑の中、大学生の城戸風春(きどかぜはる)と彼女の松岡恵里(まつおかえり)は腹を空かせていた。大学の授業は昼頃に終わり、2人は午後の授業をサボることにして街に繰り出していた。6月だと言うのに空からは強い日射しが照り付け、横断歩道を歩いていると、正面に建つビルのガラスに青い空と大きな入道雲が映っていた。


風春 「腹減ったー」

恵里 「あ、日傘教室に忘れちゃったー。何食べたい?」

風春 「やっぱり豚トコトンでしょ」

恵里 「そうだと思った。学校出てから豚トコトンに行くルートだなって感じてたもん」


並んで歩く2人の視界に、黄色い看板にポップな文字で´´豚トコトン´´と書かれたお店が現れた。広い歩道に構えるそのお店は、昼食時もあって混雑していた。2人はちょうど2人分の空いたカウンター席へ案内します、と頭に白いタオルを目深に被った男性店員に声を掛けられた。風春は、ふと後ろを振り返ると´´豚トコトン´´の看板を愛おしそうに眺めている高校生数名とサラリーマンの姿が目に映った。


恵里 「ちょっと、風春。消毒消毒」

風春 「あ、ごめんごめん。やっぱりみんなここのラーメンが好きなんだよ」

恵里 「美味しいもんね」


2人はお店入口にある足踏み式のアルコールスプレーで両手に消毒液をたっぷりと付けて手でスリスリした。店内は厨房を中心にコの字型にカウンター席があり、壁側にはテーブル席があった。風春と恵里はコの字型の右奥に空いた2つの席に座り、付けていたマスクを外した。


風春 「ニンニクの良い匂いが食欲をそそるね~」

恵里 「はい、メニュー!今日は何食べるの?」

風春 「恵里。それは愚問だね。もう来る前から決まってるの」

恵里 「いいのね、すいませーん!注文します!」

すると黒いタオルを頭に巻いた白い口ひげがよく似合う男性店員がすぐに来た。

中森(なかもり)店長 「はい!いらっしゃいませ!」

恵里 「えっと、私は醤油豚トコラーメンのニンニクマシマシと餃子一皿。あと風春は?」

風春 「ねぎ玉豚丼豚汁セット下さい!」

中森店長 「はい!よろこんで!」

恵里 「なにー?ラーメン食べないの?」

風春 「ラーメンは、デザートなの」

恵里 「うっざぁー」

風春 「恵里だって女の子なのにー、ガッツリニンニクマシマシ頼んでるじゃん」

恵里 「私はちゃんとカバンの中にリンゴジュース入ってるから。これ飲めばリンゴの成分がニンニク臭を綺麗に消してくれるの」

風春 「なるほどね。って、キタよ恵里見てよ向こうのカウンター席」


風春が興奮した顔色で真向かいのカウンター席に置かれたラーメンを凝視した。そこには、ラーメンどんぶりからはみ出さんばかりのチャーシュー、山盛りのもやし、気持ちよく揚げられたニンニク、ゴロゴロの唐揚げが盛り付けられて鎮座している。


白タオルを巻いた男性店員 「はい!お待たせしましたー!メガ豚トコです!」


メガ豚トコのどんぶりを受け取る柳田哲(やなぎたさとし)は、ゆっくりと顔をラーメンに近づけた。ラーメンから立つ湯気が鼻をくすぐる。目を瞑り鼻から目一杯に湯気を吸い込むと、少し笑みを浮かべて割り箸を取った。


風春 「マジかよ、あのおっちゃん。メガだよ」

恵里 「ね!私あれ頼んだ人初めて見た」


すると、白いタオルを巻いた男性が、風春と恵里が注文した料理をカウンターテーブルに並べた。


恵里 「来たよー。うまそー」

風春 「ひー!見た目から最高かよ!」

恵里・風春 「いただきます!」


恵里と風春が食べようとするとき、お店の入口から新しいお客さんが入ってきた。そのお客さんはオフホワイトの作業着を着た中年の男性だった。入店する時からマスクをしていなかった。


恵里 「ぁあ、うまひ」

麺を頬張り癒され顔を見せる恵里。中森店長が、入店してきたお客さんを正面のカウンター席に案内して、水の入ったコップを置いた。


中森店長 「いらっしゃいませ!」

末好学(すえよしまなぶ) 「おぉ店長さん、元気にやってる?」

中森店長 「まぁ、はい」

末好 「えっとー、豚トコチャーハンと餃子一枚、あと生ビールお願い」


注文を書いた中森店長は、ばつの悪い顔をしながら調理場の方へ移動する。


白タオルを巻いた男性店員 「店長、あの人ツバメの巣が何だとかで怒鳴ってた人ですよね?」

と末好には聞こえない声量で中森に話しかける。

中森店長 「あぁ、とにかく早く作って帰ってもらおう」


風春 「口の中が幸せすぎる。まだデザートにラーメンが残ってるのに。罪深い」

恵里 「フフッ!本当にこのお店好きなのね」


中森は慣れた手つきで素早く料理を仕上げて行く。皿にドーム状に盛られたチャーハンにグリンピースを乗っけて、羽根つき餃子を別皿に乗せる。それを受け取った白いタオルを巻いた男性店員が末好の座るカウンター席に届けた。


末好 「おっ、早いね~」

と呟く間に中森が冷えた生ビールを末好に手渡した。

中森店長 「ツバメの巣の件。お騒がせしました」

末好 「あぁ、わかりゃ良いんだよ」

と言い、末好は受け取った生ビールを胃に流し込む。店内の席は相変わらず埋まっており、箸やレンゲが食器に当たる音、麺をすすりティッシュで鼻をかむ音があちこちで鳴っている。


・・・


末好 「あ~食った食った!」

そう言いながら末好は白髪混じりの坊主頭を掻きながら爪楊枝を口に咥える。

中森店長 「ありがとうございます。お会計お願いします」

末好 「え?」

中森店長 「お会計です」

末好 「聞こえてるよ。無料でしょ?この前看板裏のツバメの巣、移動させたんだから」

中森店長 「え、、まあ、はい。わかりました。今回はタダという事で」

末好 「えっと、ここってテイクアウトもやってるんだっけ?」

中森店長 「ええ、やってますけど」

末好 「じゃあ、明日の昼にさ職場に持ってきてくれないかな。メガ豚トコとチャーハンと餃子。全部3人前で」

中森店長 「出来ますが、御代はちゃんと頂けますか?」

末好 「無料でしょー!、あれかい、今ここで改めてこの前の件について大声で説明しないと無料にならないのかな店長さん!?」


末好の怒気のこもった一声で、店内にいるお客さん全員が末好の方をチラッと見た。恵里と風春も、食べている途中で箸を止めて何事かと店内を見た。風春はその時、メガ豚トコを注文したたくましい髪型の柳田の方へ視線を移した。既に柳田の食べるメガ豚トコは残り3分の1にまで減っていた。

中森は困った顔をしたあと、ぐっと目に力を入れ右手を握りしめ、末好の顔を見た。


中森店長 「テイクアウト出来ません」

末好 「あ?」

中森店長 「あなたにウチの料理をタダで食べさせることは出来ないって言ってんだよ」

中森が言い切ったその時、末好の座る椅子の下に映る影、その影から黒く揺らめくモノが末好の後ろから立ち上がっていた。

鋭い眼光で中森を睨み付ける末好。


末好 「誰に口聞いてんだよぁああ!!?」


その時、

バチバチバチッ!ビュンヒュンビュンッ!


店内にいるお客さん全員が身体をビクッと震わせた。末好が怒鳴り上げた瞬間。末好の背後の黒い影から幾つかの小さな黒い物体が店内のあちこちに素早く音をたてながら飛び回った。

その物体は、店内の壁にカッターで切った様な傷を付け、一部照明を割り、中森の左耳やお客さんの服を傷付けた。カウンター席に設置されたクリアパネルが揺れる。静まる店内を見回し、高圧的に伺うように末好が口を開く。


末好 「店長さん、テイクアウトは出来ないの?」


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