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第6のネフィリム ~あたし巨大ヒーローっス!~  作者: きたぼん


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39/40

36最終話 3年後……



 相崎がひとりごちる。


「本日の札幌も別段の異常なし。平常運転と」


 そんなリーダーの態度に、サブチーフのエリカが不満を述べたまうた。


「アラートが鳴りっぱなしじゃないの。どこをどうみて異常なしよ」


「いつものことだろう。全域が隕石集中地帯(テイアゾーン)、いや異生物地帯(ゾーン)なんだから」


 あの日。ガーディウスが雁刃先(かりばざき)七輝(ほくと)を倒した日。新千歳空港から浮かした大量の生物が悪しき命を得てしまった。


 拡散したタマゴは、なぜか北方面。現地に急行中の対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の頭を飛び越えて流れ、豊平区の隕石集中地帯(テイアゾーン)方面を中心を目指す。札幌全域に隈なくもぐりこんだ。その数知れず。


 戦術ディスプレイの数センチ上には隊員たちの3Dアイコンが並ぶ。善行は、指をくるくる回しながら、呼びかけた。


半端孵化生物(オドギュラー)が発生した。南区方面に近いヤツいるか?」


 アイコンがスライド、中央の小窓(ビュー)――慰霊写真の枠にみえる――にひとつが停止すると、中で元気な少年が手を挙げた。


『こちら臨時のバイト職員。石山にいます。11足(ナメクジ)ですか』


「カツか。香暁(こうづき)もいるな。3手の頭(アニキャラ)だ。イケるか」


『問題ありません。そう沙也加先輩(さーちゃん)が申してます』


 女性の「誰がさーちゃんよ」と声がして、右から出た足がKATUを蹴った。小窓(ビュー)からKATUが消えた。エリカは頭をかかえた。


香暁(こうづき)てあんな子だったかしら。カツ君は驚くとフグとか足デカになっちゃうこと知ってるのよね。また、車が破壊されなきゃいいけど」


 利益を生み出すフリートには潤沢な予算が組まれている。後付けの決済も大幅に認めらてはいるが、隊員による車両破壊がなんども承認されるはずもない。つい先月も大破したばかりなのだ。


「なんとかするさ平蔵が。キミの心配は紙のほうだろ」


「いよいよ入手が難しいのよ。A4用紙一枚が20年前のタバコより高いって。ホーマックで298円で買えた時代に戻りたい」


「何歳のころだ。社名もとっくに違ってる」


「はあ。とっとと北海道を離れておくべきだったわ」


「俺を選んだエリカが悪い」


「ふふ。そうね。図に乗らせてあげるわ」


 相崎(・・)エリカが善行の肘あてにもたれかかる。妻の腰にそえる善行の手は夫のそれであった。


 フリートのコンテナが東京への移送を撤回されて、3年の月日が流れた。2棟のコンテナ事務所は5棟に拡張された、数か月後には、新造ビルへと本部は移った。いまや仮本部でも支部でもない。ここが対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の統括本部であった。

 装備も一新される。バックヤードの手で改良に改良を重ね、人体に影響およばさず害悪だけを狩り獲る、対隕石生物(メテオクリーチャー)に特化した武器誕生した。


 組織の改編。人員も新たに加わった。


「モーニン相崎! 朝からアツいねっ」


「なにがモーニンだチャーリー。高給取りのヒーローさまは、重役出勤のクセが抜けないんですかね」


「言うな若造。老体に朝はキツイんだぜ」


「老体ていえる歳かよ」


 陽気な男は、米国から派遣された監察官だ。この地に残された隕石生物(メテオクリーチャー)の看取りに名乗りをあげた、もの好きなヤンキーだ。ソルトレイク管制塔員として、当時世界をにぎわせたヒーローのひとり。軽量隕石(ライトテイア)行く末を見守りたいと、雪深い北にやってきた。


「それで、ぼくのヒーローちゃんは?」


「ああ……巨大いるか?」


『……』


 返事がない。ビューに映ってるのは、夜店で売ってるガーディウスのお面だ。車載カメラの前にぶらさがってるのだ。


「出現さきは盤渓なんだがな。だれか――つーか、応答しろ巨大! 南区で油売ってるのはナビでバレバレなんだぞ」


 お面の隣りの画面で若い男が謝った。者星ハヤトだ。


『申し訳ありませんチーフ。あいつ焼き窯職人に会いに行ってます。渋いイケメンがいるとかなんとか』


「者星。手綱をしっかり握っておけよ。お前の女だろうが」


『その件に関しては、ぼくも多少なり後悔しているわけでして』


 エリカが深く、赤べこみたいにうなずいた。横目でみる相崎の顔が渋い。


「同感するわ。東京へ戻ろうと考えたりしてない。行こうか? 私と一緒に」


『それはごめんなさい』


 すかさず断る者星に、相崎の顔が複雑なものに代わる。






 南区の北ノ沢トンネルの果て、盤渓窯という焼き物工房にいた。強引な巨大に引っ張られて、者星もそこにいた。碧海波釉(セイカイハユウ)の青 とかいう、珍しい色合いの陶器があるので、休憩のついでに見に行こうというのだが、まちがっても目的は違う。


 側には上質なコーヒーやランチが楽しめるキッチンカーもいて、辺鄙な場所のわりに賑わっていた。


「せんぱーい! 嘘でしたっスよ嘘。イケメンなんて真赤な偽造ビザ。ウェブにあった写真を信じた自分がバカでした。あたし、先輩一筋ですから。うヴ……」


 勢いよく戻ってきた巨大の口に、者星はソフトクリームを突っ込む。


「それでも食べていろ。わかるだろうが抹茶ではない」


「ふぐぐ、女性の口に物を入れる。んま。そんなプレイをお望みとはつゆ知らず。ぐが」


 者星はあごを押さえ、彼女の咀嚼を手伝ってやった。冷たい頭が頭痛すると騒ぎながら、ようやく食べ終わる。ちなみに者星は、巨大が来る前に美味しくいただいてる。


「この近くに半端孵化生物(オドギュラー)が出没した」


3手の頭(アニキャラ)っすか? それとも11足(ナメクジ)?」


 半端孵化生物(オドギュラー)とは軽量隕石(ライトテイア)の成れの果て。目を輝かせた巨大は、三つ編みを振りながら、サイドシートから乗り出す。


 未確認生物(クリプチ)恩恵隕石(バフメテオ)隕石生物(メテオクリーチャー)の3性から生まれた生命体は、非常に短い孵化の後、大量のエネルギーを必要とする。摂取しなければ成長しないのだが、ひな鳥や人間と同じに生まれたときはひ弱だ。自らエサを獲れないので、誰かが与えつづけることになる。


 それが、未確認生物(クリプチ)隕石生物(メテオクリーチャー)、ほかに物質生命体(メテラー)という知性型使役物質がいる。雁刃先七輝がそうだった。


 孵化した生命体は小さくその数こそ知れないが、ほとんど食べ物のない状態で、孤独にひっそり成長。大きくなって姿を現したヤツを半端孵化生物(オドギュラー)と呼んでいまに至ってる。半端孵化生物(オドギュラー)は3タイプある。


 手あたり次第に融かして食べる11足(ナメクジ)

 8メートル射程の火魔法を使う3手の頭(アニキャラ)

 とにかくあたりかまわずぶつかりまくる羽根つき()


羽根つき()だ」


 肩を落とした巨大がシートに座りなおす


「……嫌いなんスよねあれ。ぶつかってくるし」


 半端孵化生物(オドギュラー)は数日おきに見つかる。多いときは日に数匹。ヒグマすら捕食する怪物退治を生業にしてれば、いつしか得意不得意がでてくる。もちろん始末はできるのだが、苦手意識はつきまとう。羽根つき()が好きなのは卯川や恵桐。


 巨大や者星は意外に手こずり、巨大化しないと倒せないこともあった。七光は、変身するのが好きではない。者星は、ポジティブな提案をする。


「燃鉱物の恩恵隕石(バフメテオ)を内包してることがあるから。ボーナスは高いよな?」


「そうっすね」


 隊員の育成には時間がかかる。だが、半端孵化生物(オドギュラー)がいなくなり、明日にも収束する可能性がある任務だ。人員を増やる予定はないと、倭沢は議会で断言していた。その対案で、現隊員には、討伐に応じたボーナスが支払われる。


七光(ひかり)はあのカフェを買い戻したいんだろ」


「……うん」


「まったく。超のつく金持ちなのに。資金の融通を嫌うとはな」


「個人と会社は別なんです。それにあそこは育った家。自分の力で取り戻したい」


「それなら行くしかないよな。羽根つき()の討伐に」


「レッツゴーっすよ。”あんぶれら”に先を越されるまえに」


 者星がアクセルを踏む。ピックアップトラックは緩やかに走りはじめた。

 空は雲ひとつなく青かった。隕石が落ちてくる兆候は、もうない。




                               おわり



これで物語はおわりです。長いあいだお読みいただき、ありがとうございました。

次回作を楽しみにしてください。

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