28 救出!
巨大-守護巨人は走る。札幌の街をゆるく一周する環状線を、北区から東区、白石区へと疾駆する。
隕石集中地帯で事故
バックヤードが下敷き
バックヤードは仲間だ
仲間は助ける
急がないと!!
都市の道路だ。通行量の少ない時間でも、車両は少なくない。車と車、自転車と歩行者の間に、スキマをみつけては着地するを繰りかえす。迷惑を省みないデンジャラスな飛び石渡りで、信号機、歩道橋、シュパっと跳び越えて、低めのビル屋上も伝っていく。
無茶な疾走を続け、隕石集中地帯のある豊平区に達した。彼女の肌着や制服を小脇に抱えて追随するKATUが、荒い息でぼやいた。
「はぁ、はぁ、ひ、ひかり。オレのことも、すこしは、考えろ」
だが、先を急ぐ守護巨人に、彼のぼやきは届かない。ビルを越える跳躍力はないので、歩道をひたすら走って追いかけた。ガーディウスの無茶は、いくつもの事故を招いた。おかげでKATUを気に留めるものはいなかった。
現在はスタバ、かつてはステーキハウスだった交差点を、ひとまたぎに越えた。
その軽量隕石は、高さ2m長さ5mほどある、黒く滑らかな恩恵隕石だった。軟鉄系、鋼糸、燃鉱物、宝石系とあるなかで、最も数が多く質量が高い軟鉄系。熱伝導率が低く、折り曲げや切断の加工が容易、かつ鋼鉄よりも強度があるため、加工金属として重宝されている。
「せいのー」
「おぃっしょお!」
「もいっかい、せいのぉ!」
「うっしゃああ!!」
研究員、バックヤード、それにフリートたちは、鎮座する110個めの隕石を1ミリでも動かそうと、歯を食いしばっていた。
2機のクレーン仕様バックホウはあるが、稼働してない。吊るにはパワー不足、掘るには力が強すぎて隕石を傾けてしまう危険があった。彼ら彼女たちは、金テコで隕石を動かす班と、その下の土を掘り出す班にわかれ汗を流すが、成果はかんばしくない。
「……」
「目をあけろ! 意識を失うな!」
後方支援班チーフ、馬宿 詩斬が、ぐったりして反応がない男性職員の頬をたたいた。足や腕を挟まれ身動きできない3人は、とうに意識を失っていた。
警察が、誰も入らないよう出入り口を塞いでる。ちょうど取材にきていたマスコミ数社だけは、運よく状況報道を認められた。そのひとり平川豊が、カメラに向かって苦渋の表情を浮かべる。
「テレビを御覧のみなさま。もしも言葉選びを間違っていなならお許しください。みなさまは、私どものこの中継を偶然居合わせた僥倖とお考えになられるかもしれません。ですが、もしかしたら、私たち取材班が、下敷きとなった可能性も十分にあるのです。あそこで苦しむ彼らは、ついさきほどまで、笑顔で取材に応じてくれた方達なのですから。一秒でも早い救出を、心から、心から、願わずにはいられ……」
心痛な表情と声が、徐々に悲痛な涙声へと変わったそのとき、突然、地面がゆれて砂埃がおこった。カメラがとらえる映像は撒きあがる砂埃だけ。平川が落としたマイクが、驚いた反応を拾う。
「うあっ 地震か? なんだ!」
「軽量隕石じゃないのか 111個めの」
「生物っぽい。隕石生物か。沙也加たちを救出しなきゃって時に」
どれも違う。高さ3メートルの軽量金属壁に囲まれた隕石集中地帯に着地したのは、誰もが知ってる巨人だった。
「ガーディウスじゃねーか!?」
巨大-守護巨人は慌てる人々をみつめて、知らされた状況と違いがないか確認する。
誰か下敷き
香暁沙也加と、2人
持ち上げれば助かる
人が多くてじゃま
突然に現れた巨大人に、人間は慌てふためいてる。手を貸したいが、手が出せない。
素早く事態を飲み込んだのが4人、そのうちの射妻がダッシュ、卯川が続いた。
「危険だわ! みんなさがって!」
射妻エリカは叫ぶと、仲間たちをかばうように隕石の前に立つ。ホルスターから抜いた熱線レーザー銃を守護巨人にむける。狙わなくても当たる至近距離だ
「サブチー! 撃つなッ」
出張り腹の卯川が、トリガーに指をかかった銃を押し下げた。発射されたレーザーは守護巨人から外れ、外壁の一部を焼き街路樹を貫通した。
「どうして!? 隕石生物なのよ」
困惑する射妻の手から、卯川は銃を奪い地面に投げつけた。
「仲間を撃つ奴があるかよ」
「仲間って誰が」
「アイツにきまってる。2度も助けにきてくれた味方だぞ」
「偶然にきまってるでしょう。それを仲間? 笑わせてくれるわ」
「敵を倒したアイツぁ、惚れ惚れする颯爽ぶり誰も傷つけんで帰ってった。そのどこが偶然ってんだよ」
「現実とファンタジーの区別もできないの?」
卯川の眼鏡面に、射妻は指をつきつけ。
「ご都合種に浸るの、ヲタの悪いクセだわよ」
「るっせー、俺は誇りあるヲタだ。この紙ヲタがっ」
「紀元前からメディアの宝だった紙が廃れていくのが見過ごせないだけ。萌に目尻をさげてるあなたと一緒にしないで」
助けたい守護巨人はいっそう活動しくく、ふたりを見下ろし困ってしまった。バックヤードに混じって土を掘る恵桐万丈が、無表情に「不毛な」吐いた。
「そこから離れろ二人とも」
チーフ相崎は、ぐいっと割ってはいると、二人の腕をとった。のそっと立つガーディウスの前からどかそうと引っ張る。卯川は素直に動いたが、射妻は抵抗した。相崎の腕を振りほどくと、買ってと駄々をこねる子供みたいに、しゃがみ込んだ。
「らしくないぞ。エリカだって早く救けだいしたいだろ。あいつを困らせるな」
「あいつ? 隕石生物のこと。なぜ困るの。なぜ困ってるってわかるの」
「分かるんだよ」
相崎は声をはりあげた。
「みんな離れてさがれ! バックヤードたちも。全員だ」
「救助をやめて逃げろっていうんですか?」
「チーフ! 見殺しにする気なの」
「いや。救助はするし逃げもしない。いまは俺の言葉を信じろ」
しぶしぶ、全員が救出作業をやめ、隕石を遠巻きに取り囲むように後ろに下がった。
伊妻は、落とした熱線銃を拾おうと動いたが、相崎はそうさせない。
「銃をよこして。ひとりでもユーテネスを倒す」
相崎は無言。嫌がるクールビューティを腕力にまかせて立ち上がらせた。大人しく見下ろす守護巨人に目をあわせると、「頼んだ」とつぶやいた。
巨人はうなずく。身体を折って恩恵隕石の前に膝をつく。相崎の依頼に応えたような行動。事実そのとおりなのだが。
「言葉を理解している、とでもいうの」
伊妻は、なにがなんだかわからなくなった。
守護巨人が白く輝いた。光りのなか体躯は、ずんずん大きくなっていった。光が消えると、およそ倍ほどまでになっていた。
北大研究員たちは、巨大な人型生物の挙動を、暢気に分析していく。
「身体の大きさを変えられるのか。いや、なんで変えたんだ」
「バフメテオ、重いからだろな」
「あー。誰だって膝まである庭石は持てないってことか」
「つーことは、サイズによって力を変えられるってこと?」
「その理論いただき!」
守護巨人と恩恵隕石のサイズ比は。ヒザ下大だったバフメテオは、くるぶし大にまで。比率5:1が、10:1になったのだ。口から出まかせのような彼らの仮説は、おおむね正しかった。
腕で抱えるのがやっとだったバフメテオが、掌の中にすっぽりと収まる。守護巨人は両手で握りあげると、一歩後退し、人も重機も何もない地面にどすんと転がした。
「……ガチで助けた……だよな」
「いまだ! 3人を助けだせ」
「そうだ。急がないと命にかかわる、ぞ……ぬわっ??」
守護巨人が手を延ばし、寄るなとばかりに、近づく人々をさえぎった。下敷きとなり意識を失ったままの3人に、大きな両手をゆるくかぶせる。
「握りつぶす気よ! 助けだして」
馬宿が指図し自らも飛びこもうとしたが、相崎はその肩を制した。
「離してチーフ」
「あいつにまかせろと言ってる!」
3人を青白い光りの球が包み込んだ。青白はカラーイメージなら冷たさを感じさせる寒色。だが暖かな光の効果は真逆だった。
「みていろ」
「何を見ろって言うの」




