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ダンジョンマスターに生まれましたが人間やってます  作者: 猫の靴下
二章 成人の儀
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5.人見知りの村

翌日。すこし曇り空ではある。春の空は雲ることも多い。

ギルド馬車でしばらく行くと樹が規則正しく並んでるのが見えてきた。大きな生け垣のようだ。

街から離れているのでこの街道には何もないと思っていたが、道の駅のような休憩所があるのかもしれない。


大きな石のオブジェも見えてきた。

そのわきにある小さな木の板にこう書いてある。


『人見知りの村』


いたずら書きのような看板だ。

そう思いつつ村らしき場所に入っていくと衛兵さんがいた。

華奢な衛兵さんがニッコリ挨拶してきた。


「これはこれはようこそ。ギルド依頼を受けてくださりありがとうございます。お迎えに来ました。

 村の中がわかりにくとよく言われますので、中央までご一緒しますよ。」


おとなしくついていくと確かにわかりにくい。

村の中に何本も樹が生えていて、さらに石や木のオブジェがたくさん置いてある。

エルフの里だと言われたら信じてしまいそうな自然の中の村である。





中央広場にはこれまた大きな菩提樹のような樹がはえている。

この~きなんのき、きになるき~♪と歌いたくなる。

「おしゃべり厳禁」の立て札がある。


「この木は精霊の樹と言われてまして、おしゃべりせずに静かに耳を傾けてると精霊の笑声が聞こえることがあるんです。」


説明されながら歩いていくと役場、宿屋、休憩所などの建物がぽつぽつと離れて出てきた。


「あの、どうしてこんなに家が離れてるんですか?」

「普通はくっついていたほうが効率的なのですが、ここにくるまでの看板は御覧になりましたか?」


「看板?なかったような・・・落書きみたいなのはあったような気がする。」

「きっとそれです!『人見知りの村』なんですよここ。住人はいかに人にあわずに暮らすか考えてる人ばかりでして。」


「はあ・・ずいぶん不便そうですが大丈夫なんですか?」

「ここを作った村長が『人見知り』だったそうですが、ものすごい魔法使いでしてね。

 あれよあれよと似たもの同士が住み着いて村になってしまったんですよ。

 私のように他人と話せる人間は貴重なので、こうやって案内なんかもやってるんです。


 休憩所にいますから、わからないことはいつでも声かけてくださいね。」


本当に不思議な村だ。

お店も壁の真ん中に穴が開いている。

そこにメニューの名前が書いてある札をとってお金と一緒に入れると、そこから商品を渡すしくみだ。




食事をしようかと店に入り、メニュー札を見てみたら『うどん』と書いてあった。


こ、これは・・・あのウドンか!?

久しぶりの懐かしい響きにドキドキしながら『うどん』と書いてある木札を穴のところに置いてみる。


木札が消えてしばらくするとトレーの上に天婦羅らしきものがのった『うどん』がでてきた!!


トレーを持ってる手だけが見えたが、もじゃもじゃしてる魔物のような手だ。

旅人を驚かせようと手袋みたいにつけてるのかな。


美味しい。


ちゃんと醤油っぽいし鰹節の出汁もはいってるみたいだ。

天婦羅も野菜を揚げてあるかんじだ。

これだけでも、この村来てよかったなと満足する。

久しぶりの味に涙がでそうだった。


日本人といったらご飯なんだろうけど、硬めでパサパサしてて冷たいイメージだ。

海苔とか味噌汁とかも形は見た覚えはあるけど味は思い出せない。


珍しい工芸品やオブジェなど村の中には面白そうなものがたくさんある。

人がいないからゆっくり見て歩けるのもいい。


人見知りじゃなくて芸術の村かもしれない。

などと思いつつ散策する。





一回りすると休憩所にさっきの衛兵さんがいた。

隣のコーナーには観光のディスプレイなのかいろいろな魔物の手袋やら着ぐるみが飾ってある。


「触ってはめてみても大丈夫ですよ。会話がなくても観光客に楽しんでもらおうと頑張ってるんです」


魔獣のクマの手をはめてみた。かっこいいかも。

次は龍の腕。これが作り物なんて思えないほどの迫力だ。



さて頼まれていた問題点なんだけど早速僕は書き出してみる。


1.看板なんとかしろ。会話がないなら、観光客が混乱するので地図と順路がほしい。

2.かわいらしい小動物もいたので抱っこしたりできるふれあい広場。

3.ゆっくりできる癒しの観光地として宣伝が必要。芸術を売りにしたらいいかも。

4.お菓子などのお土産物屋もほしい。工芸品や絵は売ってみてもいいのでは?

5.泊まる部屋も何か面白い、たとえば牢屋の中ならおもしろい体験になる。


そして一番の問題点は『人見知りの村』というネーミング!

『芸術の村』もしくは『手作りの里』あたりに改名を強く要求する!



それをのぞき込む衛兵さん。「『芸術の村』なんかカッコイイですね」

僕のこんなありきたりな感想でいいのかなと思いつつ書いた紙を渡す。


「ありがとうございます。参考になりました」

クエスト完了のサインをもらう。

面白い体験をできたのは僕のほうだ。また来たいです。

『うどん』あるし。


きちんと村の整備ができたら招待してもらう約束をして街に戻る。







『人見知りの村』村長の部屋。

衛兵さんと一緒になにやらこそこそ話している。


「いやー驚きましたね。まさか生まれて間もないダンジョンマスターがくるとは。

 まだダンジョンは作れないようでしたが、人型になれるのは貴重です」

「ふむ、敵になるのか味方になるのかわからんが土属性なら気にすることもないダス」

「またそんなことを。人型に協力してもうのは大事ですよ。あなたは私たちエルフの協力を得られただけなんですから」

「我らを理解できる人間はほしいダス。森をうろついてもらうだけで魔素が入るのダス」


『人見知りの村』は地上にある森ダンジョンであった。

ショウは気が付いてなかったが、ここに住むものはもともと口のきけない魔物がほとんどである。

観光客が少しでもここで遊んで行ってくれるだけで得られる魔素は多くなる。

まだ小さいダンジョンなので来た人たちを殺して王都に目を付けられるのは避けたい彼らなのであった。




森ダンジョンとは森自体が魔物の生活圏で洞窟のないダンジョンのことである。

そして、ここが森ダンジョンであることをタマも気が付いていた。


ダンジョンを持っていないマスターは小さな虫以下の存在なので襲われることはない。

殺したとて魔素もないので意味がないのだ。

敵意もないようなのでショウにはまだ言わないことにした。



お読みいただき、ありがとうございます。


少しでも続きが気になる、と思っていただけたら、

『ブックマーク』と【☆】何卒応援よろしくお願いします。


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