42.異国デルッセンへ
卒業論文提出後、時間のあったレッド・デイジー・ケイト。
僕たちは久しぶりに4人そろって船に乗りこんだ。
トマト師匠に許可をもらい、休暇も兼ねて他国の調査に行きますと船を借りた。
他国のダンジョンなんてそうそういけるもんじゃない。
冒険者やっていてよかった。
ギルドカードがあれば大体どこの国にも入れるパスポートのようなものだ。
船も動いてるときは船首をあげて、ちゃんと帆をはって船っぽくなる。
甲板に出て潮風にあたりながらレッドがいう。
「船はいいねぇ」
「レッドならドラゴンのリュウに頼めば一瞬じゃね?」
「な、なに言ってるんだよ。空の上からだなんて邪道だ」
ケイトが「レッド、高いとこ苦手」とクスクス笑っている。
そうなのか。
昼間のみ船をすすめる。灯台もない夜の海は真っ暗で何も見えない。
このへんには夜光るウミホタルあたりはいないのか。
残念だ。
海に潜って赤や青の綺麗な小魚を網で捕まえて、試作中の水槽に入れてみる。
海藻も入れとけばしばらく生きられるはずだ。
ケイトが大喜びしてる。
デイジーは「綺麗ねー」とうっとりしてる。
レッドには帆の角度をこまめに調整してもらってる。
「俺だけ扱いひどくねーか?」
「適材適所。女性陣は日焼けしたらかわいそうじゃん」
「なんだよ、また難しい言葉おぼえてきたな」
「だって海藻サラダ作ってもらえるんだから我慢しろよ」
「ショウって食べ物に釣られるんだな」
そう、最近僕は『海藻サラダ』にハマっている。
海中の美味しそうなの見つけて、プチプチむしってきて食材にする。
女性陣がドレッシングを作ってくれるんだけどそれがめちゃ美味い。
「是非レシピを教えてくれ」と頼んだら、
「レシピだけじゃわからないわよ?」と、後で教えてもらえることになった。
トマト師匠にもぜひ召し上がってもらいたい。
口の中でプチプチとはじける、あの子持ち昆布のような数の子のような食感。
ミカン味でシャキシャキレタスみたいなのもある。
この世界の海藻って美味い。探索の楽しみが増えたな。
◇
いよいよデルッセン国ロメリア港に入港する。
異国の珍しい船が来たので大騒ぎだ。
基本、大型海獣のいないルートしか船は出せないので、フローリア国からは初めての船となる。
キノ君は伯爵の子供なんだとか。
すごい貴族だったと皆でびっくりする。
「なんで『ゆきうさぎ村』にいたんだよ」
「なんでって言われても。一度いってみたかったんだよね」
行ってみたいってだけで行けるものなんだろうか。お国の違いなんだろうな。
デルッセン国は外人があまりいないため割と貴族でもフレンドリーな対応のようだ。
とにかく坂道だらけだ。
温泉が湧いているし、鉄鉱石や金なども産出してるんだとか。
キノ君が山に強いわけがわかったよ。
ここのダンジョンは光のダンジョンというそうで、ゴーグルのような眼鏡をかけないと目をやられるんだそうだ。
とにかく眩しいらしい。
『ゆきうさぎ村』でつかったゴーグルにさらに黒いスプレーと帽子。
白い部屋に白いゴーレムが紛らわしいのだそう。
真っ暗な部屋もあるので「手前で片目つぶったほうがいい」と教えてもらう。
映画館に入るときもそうやると目が慣れるのがはやいよね。
タマちゃんも初心者ダンジョン以外行ったことがないらしく、
「私をおいていったほうがよくないですか?」と聞いてくる。
「海岸線にあるダンジョンだし、ダンジョンから離れたことにはならないよね?」
「入り口までは問題ないですが、かなり広いらしいのでダンジョン化が途中で切れるかもしれません」
「その時はその時で。ダンジョン化が切れても普通の船にもどるだけだからね」
入港した日は入国手続きしたり、キノ君と一緒に食事して再会の話で盛り上がる。
話に夢中で何食べたか覚えてない。
甘酸っぱい木苺のタルトは美味しかったな。
一緒にダンジョン装備を買いに行く。
豪邸に招待されたが、汚すに決まってるので固辞する。
忙しい一日だった。
船で生活ができるとはいえ、真水は貴重なのでシャワーしかない。
やっぱり温泉は入りたいし、久しぶりに地上の宿で眠る。
ダンジョン化した船は他の船の邪魔にならないよう、ダンジョン隣に移動した。
距離が近いと遠隔操作ができるんだね。
乗船中は僕の手足のようだが、離れるほどその感覚が薄れていくみたい。
ダンジョンマスターって生き物は面白いな。
◇
異国デルッセン国・ロメリア港の朝。
海だけでも眩しい快晴。
ウミネコらしきものが飛んでるが「みゃあ」とは鳴かない。
夕食もお魚ずくしだったが、朝食はフイッシュチップスだ。
パンに挟んでいただく。トマトケチャップが欲しいところだがない。
代わりに刻んだ香草と海水を煮詰めて作った粗塩をかける。
そして最後はさっぱりした木苺のジュースがでた。
ここの特産みたいだ。
今日は早速光のダンジョンに入る。
全員黒装束っぽくてなかなか怪しい。
真っ白い部屋がおおいから、黒がいいのだそうだ。
「暗黒の地より馳せ参じたダークヒーロー。その名もレッドだ!」
「同じく千年の眠りからさめたダークヒーロー、ショウ」
「これより憎き宿敵、光のダンジョンを討伐する」
「助太刀いたす!」
僕とレッドがふざけていたら、
「こっちのほうがどうみても悪者よね」と冷たい視線を向けてくるデイジー。
いやまあそうなんだけど。ノリだよノリ。青春の一ページなんだよ。
ケイトは目をそらして他人のふりをする。
ひどい。
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