41.野生児
『クラゲ号』の運営は順調だった。
沢山の研究者たちが船に乘っていろいろ成果を出し始めたからだ。
見学者も毎日来る。
好奇心旺盛な子供たちもやってきて船に近寄ろうとするので追い払うのが大変だ。
危ないからね。
船の仕事以外にも船の材料になる石や木材をタマちゃんのペンダントに収納して運ぶ仕事もある。
港町まではリュウが運んできてくれるが、さすがに街に入ったら大騒ぎになるので手前に置いて収納。
そこから必要なところで収納から取り出す。
船の改善点をだして、もっといい船を試作するようだ。
ある日、というか夜中だけど子供が『クラゲ号』に忍び込んだ。
大人では入れない大きさの換気口を停泊の時は空けっぱなしにてある。
どうやらそこから忍び込んだらしい。
誰もいなかったけど、もちろんダンジョン化してあるのでスライムたちが気が付いたようだ。
僕は地下室のほうで疲れて寝ていたので気が付かなかった。
子供はすぐ出ていったので僕をたたき起こすことはしなかったのだそうだ。
翌日その話をタマちゃんからきいて驚いたくらいだ。
困ったな。
次入ってきたら起こすようにタマちゃんに頼んでおいた。
数日後。
やっぱりその子が入り込んでいて書類などをあさり始めたらしい。
棚に登ったのか、何かが壊れる音がしたので、さすがの僕も飛び起きたよ。
逃げまくる子供はすばしっこい。
僕がどんくさいだけなんだけどさ。
あちこち飛び回るが、狭さが有利となってやっと捕まえる。
「誰だ?」
「・・・・・・・・」
「名前ないのか?」
「ぼ・・ぼく・・・ぼ・・」
ボロボロと涙と鼻水を垂らしながら何か言おうとするが言えない。
可愛そうではあるが仕方ない。
「ボクって名前なのか?なんでこんなことしたんだ」
「ちが・・・ちが・・・う」
「ん?何が?」
「ぼ・・ぼく・・・」
話が進まない。
勇気のある子だと思ったけどちがうのか。
夜中だけど衛兵さんへ渡しにいくか。
歩かせようとすると抵抗して蹴りしてきたり、かみついてくるので背中ベルトを持ち上げる。
「たーすけてー!!誘拐されるうう」
夜中に大声出して暴れるので、恥ずかしい。
肝心なことは泣いて誤魔化し、何も言わないのだからしょうがない。
とにかく親に弁償してもらわないとね。
衛兵さんに事情を話したが、最初は子供をぶら下げていたので疑われてしまう。
「助けてください!この人誘拐犯人ですっ」
こいつ頭がまわるというかうるさいな。
僕は猿をぶら下げたまま、身分証を提示してやっと信用してもらえた。
「子供ですしそういう扱いはかわいそうですよ。降ろしてやってください」
「降ろしたらかみついてきますよ?」
そういって衛兵さんに渡した途端、逃げ出して転ぶ。
サスペンダーベルトに紐つけといたんだ。犬もそうやるからね。
「え?紐?」猿ははずそうとするが、背中に結んであるので届かない。
「や・やりすぎじゃないですか?」
「逃げたらあなたが一生かかって弁償してくれると一筆書いてくだされば、外しますよ」
逃がしそうになった衛兵さんは、あわてて真面目に取り押さえてくれた。
その子を建物内に入れた後、どこかに連れて行こうとしたのか叫び声が聞こえた。
蹴とばして暴れてるんだな。
逃げても建物の中ならすぐ捕まるだろう。
まるで猿だ。
◇
翌日。
ケサパサ先輩たちが船に出勤したので、夜中の事件を話す。
荒らされた船内。
一つ一つ片付けて、被害状況を調べる。
とてもじゃないか今日の出航は無理なので、乗船予定の人に平謝りだ。
「すみません。こんなことがないように船で寝泊まりしてたのに」
「いやいや、トラブルというものは研究につきものだよ」
と逆に慰めてもらえた。
研究者というのは心が広いな。見習わねば。
午後にあの衛兵さんが来た。
衛兵さんによると子供たちの仲間に自慢したくて潜り込んだんだとか。
だけどほかの子たちには信じてもらえなかったので、何か持ち出して証拠にするつもりだったらしい。
子供だって泥棒はいけない事って知ってるはずだよね?
やっぱり猿なのか?
夕暮れになって、猿と母親、侍女2人と一緒にやってきた。
「このたびはすみません。ほんとこの子はやんちゃで」
「えっと、その子の親御さんですか?」
「はい。普通は名乗りませんが、バレン男爵の妻ですわ」
「えっへん。ぼくはその子供のダレン・バレンだ」
お互いに名乗りあう。
謝りに来たのに偉そうだな。
「で、そのダレン坊ちゃんは何か言うことあるんじゃないか?」
「・・・・・・」
あれ?なんで無言?
もじもじして母親の後ろに隠れる。話が進まない。
パサラン先輩が盛大にため息をつきながら僕の前に出てくれた。
僕は交渉が苦手なので助かる。
「謝ることもできないのですか。はぁ~。
では今回の被害金額請求はそちらにまわしますね」
「まあ、子供のしたことなのに?しかたありませんわね」
「こちらは国上げての最新機種ですから、かなり高額になると思います。
およそ大金貨10枚はいくかと」
侍女に支払うように言ったが、およその金額に手が止まった。
「お、奥様。これは旦那様に報告するべきかと」
「こんなおもちゃみたいなものに大金貨ですって!?冗談でしょ」
ぷりぷり怒って帰っていくご一行。
僕とケサパサ先輩方と話し合う。
「謝らずに大げさにしたいようだからそうするか」
「普通にギルドを通して支払ってもらおう」
「同じ貴族のポット君に頼もう。踏み倒しそうだもんな」
その日のうちに港を管理しているご領主様(ポット君の父)に報告をする。
めんどくさくなってきたな。
よしケサパサ先輩に丸投げするか。
◇
被害の調査が終わった。
書物の被害もすごかったが、ポット君チームが作った魔石探知機が壊れた。
これはちょっとやそっとじゃ直せないらしく、魔石探索班は頭を抱えた。
僕は丸投げ…おっと船の運航停止になったので暇な時間ができた。
動かない船では魔素がたまらないので、
チーム3人を船に招待してキノ君のところに遊びに行くつもりだ。
本当は山超え谷超えていかねばならないんだけどそれは陸上の話。
地図をみると海からいけばくるっと半島を回り込んで楽々いけそうなんだ。
大型海獣がいるから半島沿いにしかいけないけど、それでも断然はやい。
いけなかったらもどってくればいいし、楽しみだな。
◇◇
こちらはやんちゃを通り越した猿を持ってしまった男爵家。
バレン男爵は騎士であるが、領地を持っていない。
貴族とはいっても底辺の位置にある貧乏貴族だ。
「子供のいたずらだから大げさにしないで。きっと何かの間違いよ」
初めは男爵も妻の言うことを鵜呑みにして請求書を無視していた。
だが、国家事業にもなった魔石研究がストップしたのだ。
ただではすまない。
研究が滞る理由がまさかの『バレン男爵の息子が器物破損したため』だったとは。
そしていつまでも支払われないため、魔石を探すことさえできませんと訴えたのだ。
いままで無視していたのだから、操業がストップした補償金も莫大になる。
「まさかあの『トマト魔石研究所』の研究機材だったとは。これはまずいことになった」
と、男爵が青ざめる。
しかし金がない。
なんとか借金をして体裁を整えたが、その返済でかなり苦しい生活を余儀なくされた。
侍女やお付きの人はすべて解雇された。
食事も硬くてまずい黒いパン。
ダレン猿は怒る。
「いやだ。こんなまずいの」
床に放り投げたが、お腹が減っても誰もこない。それしかないことに気が付く。
「なんでこんな思いをするんだ」
泣きわめくが、やはり誰も来ない。
夫人は新しい服や靴も買えなくなりヒステリーを起こして実家に逃げ帰った。
ダレン猿は父親と二人きりになった。
彼がなぜこんなことになったのかと理解できる日はこない。
イタズラするくらい実行力のあるダレン猿はそのまま冒険者の道をたどるようになる。
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