40.お菓子
一週間後の夜。
僕は試作品の金魚鉢とお菓子をもって、再び初心者ダンジョンを訪れた。
あのスタイルを眺めにいったんじゃないんだからね!
お礼だよ、お礼。
夕刻なのでもうダンジョンは閉まっている。
ダンジョン横から勝手口のような扉が開かれて、手招きされて入る。
カエルのメイドさんだ。刺繍してあるエプロンがかわいい。
「突然来たので今日は手土産を渡すだけで帰ります」といったけど、
「暇してるから会ってやって」と言われる。
暇なのか?
「あら~いらっしゃい」
「こんばんは。突然すみません。約束のお菓子とあと金魚です」
僕は金魚鉢のなかの淡水魚をみせる。
本当は海の魚が良かったんだけど、交換する海水がここにはないからね。
「まぁ!きれいだわ」
リリスさんはしげしげと赤とオレンジの金魚を見つめる。気にったようだ。
大人のお色気担当はリリスさんだな。いつかモデルをお願いしたいな。
見とれてしまった。
あわててお手入れ方法を書いた紙もいっしょに渡す。
「美味しそうですなぁ」とカエルメイドは言う。
「もうっ!なんて事いうの?あなた下がっていいわ」叱られて小さくなるカエル。
カエルだからその感想は仕方ないか。
そのあと、お茶をもって年配のメイドが現れた。
こちらは所作が綺麗だ。きっと貴族の侍女はこういう人をさすのだろう。
「ふふっ。せっかくだから一緒に食べましょう」
お茶をいただきながらダンジョン経営の話をする。
渓谷にあった昔のダンジョンマスターのことを知ってるようだ。
「せっかく渓流の綺麗なところに初心者ダンジョンを作ったのに残念だったわ」
「あの、誰がうらぎったのか知ってますか」
「彼女と約束した人たちは裏切らなかったわ。でもね、人間は寿命があるのよ。
だから跡を継いだ人たちがよくわかっていなかったのもあるのよね。
王国で問題にはなっていたけど、わからないから手出しはしなかったのよ。
それをどう解釈したのか、異国から流れてきた冒険者がダンジョンを攻略しちゃったのよ」
そうだったのか。
タマちゃんの誰を恨んでいいかわからない悲しみが伝わってくる。
「まあ、そんなわけだから、人間を信用するのは限定的にしときなさい」
「限定的?」
「ふふ、そうね。あなたって友人には本当の事を話してないのでしょう?
だったら相手も完全に信用してないと思ったほうがいいわ。
本当のことを話してないってことはあなたも信用してないんでしょう?」
「違う!僕は・・・」
そうだ。
僕はまだダンジョンマスターだって話してない。
そうか。
僕は彼らの事信じてなかったのか。
ああ、
そういうことか。
「よく考えて答えをだしなさい」
そう帰り際に言われて僕は考えながら船まで戻って来た。
僕が旅立つ前に話そうと思ったけど、それじゃだめなんだ。
彼らは僕を信じてくれるのだろうか。
それとも敵対するのだろうか。
その時の両方の答えを用意しておかないとだめだ。
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