37.名無しダンジョン
ピンク髪の予言のせいで、ダンジョン攻略が後回しになっていた。
僕は『トマト魔石研究所』研究員になったせいで忙しく船を動かしていたし、皆が学校に通ってるため時間が合わない。
船の操縦をケサパサ先輩(ケサラン、パサラン兄弟)に任せて、ぼくは久々に休日をもぎとった。
数か月休みがなかったんだからいいよね?
そんなわけで久々に再会した皆の成長にびっくりした。
3人は時々狩へ行ってたようだ。
デイジーは賢者と呼んでいい魔法のエキスパートだし、武器も使いこなせる。
器用すぎてうらやましい。
あの鳥ガラ体型だったレッドも腕に筋肉がついて立派な体格になっていた。
立派な体格のせいでスピードが落ちたと嘆いていた。
ケイトは精霊魔法士になっていた。どんな魔法なのか見たことはない。
弓もそうだが投げる武器をいろいろ持っている。
貴重な休日を利用して念願のダンジョンに乗り込もうと計画していた。
場所は焔さんも利用していたオークのいたダンジョン。
昔、遊びに行った時は地上だけだったけど、さらに地下に通じる階段があるのだそうだ。
焔さんにダンジョン情報を聞いてみたら、階段を降りたことがないらしい。
ほとんど空から襲うタイプだから、狭い洞窟は不利でしかないよね。
ダンジョンマスターと仲がいいわけじゃないが、ドラゴンが飛んでるとオークを沢山出してくれる友好的なダンジョンらしい。
ドラゴンが飛んでるだけでも敵がダンジョン内に入らないからお互いちょうどいいのかもしれない。
ダンジョンマスターって穏やかな人が多いのかな。
ギルドでダンジョン情報を調べてみたけど、ここの情報がないようだ。
「勇者様が報告さぼってるんだな」と僕が言うと、
「焔さんのためにわざとかもしれないわよ」と、デイジー。
装備は何がいるのかわからなかったので、一般的なダンジョン用品を揃えてみた。
◇
船のダンジョン化を念のため解除して、僕らは目的地に向かう。
あの尻尾のへんな竜馬が馬車を引く。
リュウが一緒に行きたいとだだをこねていたが、ここのダンジョンは階段からして狭すぎるので却下された。
ドラゴンは入りにくい仕様なんだろうか。
もしかして便利だからお互いに利用してるだけなのかもしれない。
オーク広場が地上。
階段を降りて地下一階。
デイジーが光の玉を魔法で作ってくれたので、そこそこ視界は明るい。
オークが出てきて倒すんだけど、そのままダンジョンに吸収されて時々魔石だけが残ってる。
地上部分はオークが消えなかったから設定できるんだろうね。
僕らは倒した魔獣が光の粒となって消えていく光景を眺めた。
「解体しなくて楽だけど、これどうなってるんだろうね?」
何の変哲もない一本道だ。
チームの連携の練習しようにも、一撃で倒れてしまうので練習のしようがない。
ボス部屋があったけどオークがみっしりいただけだ。
レッドが「全部燃やしていいか?」って聞くので止めようとしたが、
「ここは普通の洞窟じゃないダンジョンだからいけそうよ」とデイジーが言う。
「なら試してみるか」
「まだ最初の階だから煙が充満しても逃げきれるわよね?
今後火魔法が使えるかどうかは試しておいたほうがいいんじゃないかしら?」
僕らはいつでも逃げられるように離れて、デイジーがシールドをかけてくれる。
「おい、こら!そっちに魔法は飛ばねーぞ?」
「いやわからん。レッドだぞ?」
「あぶない」
「そういうのはちゃんとできるようになってから言ってね」
3人に否定されるレッド。信用がないな。
「じゃあいくぞ。<ファイヤーウオール>」
派手な音と共に見事に大量の炭が出来上がっていた。
もうもうと煙があがったが、こちらに流れてくるまえにダンジョンに吸収されてるみたいだ。
真っ黒な炭だらけなので触るのをためらっていたら綺麗に吸収された。
「火魔法使っても平気そうね。戦術たてるのに楽だわ」
ダンジョンっていろいろ機能があるんだね。
勉強になる。
他の人とは違った目線でダンジョンを観察するショウ。
地下二階の階段が現れた。
よくラノベだと地上に戻るワープとか出るらしいけどここにはない。
「階段はやっぱり敵が出ないのかな?」と僕はつぶやいてみる。
皆が「え?」という顔をする。
「そんな話きいたことないぞ。それなら皆、階段で休憩するだろ」
「えーそうなんだ。じゃあセーフティエリアもないの?」
「聞いたことないけど、BOSS部屋なら倒して再生するまでは安全ではあるわね」
あれれ?ラノベとはずいぶん違うんだ。
ケイトがかわいそうな子を見る目で見ている。
いや、その目やめて。
「ショウは一年間しか学校にいなかったから、そういう知識はないのか」
「そうね。なら私たちが教えてあげないと」
「うんうん」
そうか、2年生はそういう勉強もあったんだ。
しくじったな。
焦ってしまうとこういうことになるんだ。
地下二階は凶暴なコウモリと弓や魔法を使うゴブリンが出てきた。
僕は近接タイプなので役立たずだ。
ダンジョンに落とし穴を作ろうとしてもすぐふさがれてしまう。
うわーなんだこりゃ。
狭いからフレイルも振り回せない。石を投げてもノーコンなので当たらない。
詰んだ。
せっせと落ちてる小さい魔石を拾ったり、避けたり忙しい。
ボスは鉄の棍棒を持った大きなハイオークってやつだ。
体がでかい。
ズンズンと地面を揺らしながら近づくので落とし穴開けたら盛大に転んで、しかも床が元に戻ろうとして足が挟まる。
おおーこれはいいかも。
レッドの剣、ケイトの弓で倒された。
暇だったデイジーは土魔法で挟まった足をしげしげと観察していた。
「ダンジョンって生きてるみたいね」
やっぱりするどいな。
ダンジョンコアがいるダンジョンはああやって自動で修復するんだね。
ふとここまできて気が付く。
「あれ?ボス倒しても宝箱でないね」
「そういえば」
「ないわね」
そこはゲームと同じなのか。
宝箱やドロップアイテムがないのは、お客さん歓迎されてないのかな。
いやむしろ、ここのダンジョンに客が入り込んだことがなかったのかもしれない。
なにかほかの方法でダンジョン維持する手段があるんだろうな。
マスターと話がしてみたいな。
ドロップアイテムがないってことは攻略する意味があまりない気がする。
皆もそう思ったようで一旦戻ることにしたんだ。
その日は焔さんのところに泊めてもらい、王立魔法学園のそばにある低レベルダンジョンに行ってみようということになった。
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