36.進水式
船が完成した。
ノリノリで造ってくれたのだ。
まだいろいろ問題はあるけど、試乗して直していけばいいということになった。
『クラゲ号』と名前を付ける。
進水式だ。学校関係者も見に来てくれた。
金髪バニラちゃん、兄貴のガル君もいる。
バニラちゃんは元気になったのかちゃんと自分の足で立っている。
うれしくて手を振る。
お酒と花束とコインを海に投げ入れて船の安全を祈る。
さて、これからの問題は船の操縦方法だ。
つっききりで僕に教えてもらえることになった。え?ぼくだけ?
先輩方は「研究があるから操縦してる暇ないだろ?」と逃げるので、
「移動中は暇ですよね?」といって腕をつかんで船に引きずり込む。
逃がしませんよ先輩方。
◇
船内は狭い。
人が入れるのはおたま、もといクラゲの頭のとこだけなので、10人入ればぎゅうぎゅうだ。
観察機材も入るのでおそらく定員は5人くらいだ。
家具はすべてベルトで固定する。横向きになってもベルトを動かして固定できるようになっている。
縦でも横でも使えるなんてすごいな。匠の技だ。
トイレの下にちょこんとスライムがいる。
よし!君はダンジョンモンスター1号だ。
生ごみ捨て場所にもいる君は2号ね。
ゴミを外に出さないエコな施設のようだ。
クラゲ頭の下にある地下は食料庫で小さな冷蔵庫もある。
魔石を入れて冷やすのだが、海は冷えるのでそんなに強力じゃなくていい。
むしろダンジョン機能で寒冷地に設定すれば冷え冷えだ。
そういえば僕の体ってやっぱりダンジョンマスターみたいだ。
船をダンジョン化したとたん体が楽になり、食事も少しで済む。
空中と違って海中の魔素は多い。
『雪の結晶』チームの3人がお祝いに干し肉の樽を持ってきてくれた。
皆でまたオークを倒して作ってくれたそうだ。
ありがたい。
ちくわのような尻尾、おっと・・・船首をあげて『クラゲ号』出発だ。
推進力は海水を穴から吸い込んで圧力をかけて噴射する。
それだけじゃ足りないので、帆も使う。
大航海に出るわけではないのでこれで充分だ。
海岸線の岩場に沿って海から調査する予定。
わくわくする。
◇
ちくわの穴へ潜り込む小魚など海洋生物はダンジョンに吸収。
クラゲの中にいる人間が活発に動くので、その時に作り出される魔素もいただき。
海流によるのか調査中だけど、魔素も少しずつ海から吸収できている。
何かが動くと発生する電気に似てる気がする。
食料庫の食材は間違って吸収しないようにしないとね。
先輩方は海面上の岩場を探索する。
見るだけだと思いきや、人の来ない岩場を登ったりしてる。ハードだ。
僕は泳げるので海の中担当だ。
金魚鉢のようなものをかぶって酸素を確保。潜水服もどきだ。
海に潜ったら捕食される危険があるので、周囲を警戒しながら潜る。
巨大海獣がいるといっても、あれだけ大きいと小回りは効かない。
岩場のそばだと大型魚はスピードをつけて突っ込めないので比較的安全だ。
もぐりながらタマちゃんサーチで魔力の流れを探る。
どっかに魔石ないかなー?
『クラゲ号』から離れて泳いでも大丈夫なのかと聞いてみたが、このくらいは離れてるうちに入らないんだとか。
ダンジョン広げるときは外に出て作ることもあるから、ある程度は許容範囲なんだって。
結構アバウトだった。
離れていくと力が弱まっていくそうなので、あとで試すことにする。
◇
あちらこちら移動してるうちに学校の一年間が終わってしまった。
しょうがないか。
そのまま船の船長として学校に在籍している。
間に合わなかった論文をパサラン先輩に手伝ってもらい、仕上げて卒業だ。
巨大海獣にも何度か遭遇!
近くを通っただけでものすごい波が押し寄せて、クラゲの頭ごと何度も沈んで波をかぶる。
さすがクラゲ。揺れまくって沈むけどちゃんと浮上する。
迫力満点。
気持ち悪い。スライムのごはんが増えたようだ。
ここは船の改善をしたほうがいいかも。
焔さんの火山のそばにもいったが、やはり近寄れなかった。
この辺は巨大海獣もいそうだが、ドラゴンのエサになってしまうのかあまり遭遇しない。
よしもぐろう!
海底火山あとを探す。焔さんの古い記憶も助かった。
すぐにいくつか見つかった。
ケサラン・パサラン先輩方に報告する。
あとは調査なんだけど、さすがに息が持たない。
人が入れる大きな石のコップをつくり、中に空気を入れて沈めてみた。
最初から船に積んであったようにみせるのがコツだ。
そこで息継ぎをしながら古い火山あとを探索する。
おおーあったあった。
あれはきっと魔石。
てか大きすぎてとれないじゃないか。
元溶岩と一緒に半分以上埋もれている。
吸収してもよかったが、あまりに大きいので危険な気がする。
先輩方に相談して、いったん戻って採掘方法を見つけようってことになった。
大きな魔石を見つけた功績で『トマト魔石研究所』ができた。
僕らは研究員として正式に認められることになったんだ。
これはよかったのか?
トマト先生も研究所の所長をやるのが夢だったらしく、とても喜ばれていた。
師匠が喜んでおられる。うん、これはいいことだな。
その後、国もまきこんで一大産業になったんだ。
まさか人の手では掘れまいと思っていたが、ポット君チームが採掘できる装置をつくったそうだ。
念のため焔さんに「人間がこの辺うろつくけどごめんね」って伝えておいた。
そしたら巨大海獣が近寄らないように見張ってくれるっていうんだ。
助かる。
その見張り役ってリュウなんだよね。
ドラゴンの焔さんのとこに行ったらやっぱりいた。
「おにぃちゃーー--ん!!」って人化して駆け寄ってくるけどやめてw
そんなはだけた格好のドラゴン小娘なんて需要ないからね!
レッドはまだ学生だし、とりあえす見張りの仕事を与えたんだそうだ。
大きなドラゴン(リュウ)が飛んでいるので皆最初はびっくりしたけど、
大型海獣を狙ってるだけで、小さな人間は目に入ってないと説明するとなんとか納得したようだ。
近くに来た時だけは気を付けてね。おてんばだから巻き添えになる。
◇
こうして船には僕らだけではなく、地質や海流など他国の研究者たちにも大人気だ。
今日も予約でいっぱい。
さすがに大変なので同じ船を他国に出荷しようと、商談もすすんでいるようだ。
リュウの抜け殻足りるのかな?
まさか転生して船のダンジョンマスターになるとはね。
さすがファンタジーだ。
「これでチュートリアルは終了ですね。次からは本格的なダンジョン製作を教えますね」
「うん。たのしみ」
次はもっと大きな船でタマちゃんと旅をしたい。
あちこち、この世界をみせてあげる約束をしたんだもの。
あちこち旅をする。
あれ?
『ジョン爺さんの冒険』の絵本に似てきた気がする。
その時は僕の最後の誠意。チームのみんなには本当のこと言おう。
静かな星が瞬く海の上でそっとつぶやくのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
生命力を満たして、ダンジョンを作れるようになりました。
いよいよ次は最終章の旅立ちです。登場人物紹介を挟んで開始します。
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