34.聖女side---お決まりのイベント
ここは貴族の王立魔法学園。
いつものようにプライベートな庭で聖女フリルは一人でお茶を飲みながら本を読んでいた。
そこにいきなり第一王子が現れて話しかけられたのだ。
王子だからってプライベート空間にいきなりはいってこられるものなのかしら?
「ねえ、聖女フリル。単刀直入に私の弟のことってどう思っているのかな?」
「ど、どうって。その・・正直でまっすぐな方だと思ってます」
意表をつかれて聖女フリルは顔を染めながら素直に答えてしまう。
あ、しまった。
「わたくしはもちろん王族の方々を敬愛しておりますから」
きれいなカテーシー(貴族のお辞儀)をとって誤魔化し、挨拶に変える。
「ふぅん。なら弟とのこと応援しようか。もちろん後もいろいろ協力しよう」
「ご冗談をおっしゃってもだめですわ」
ふふふ。そんな子供だましの手にはのりませんわよ。
「あの辺境伯を敵にまわすなんてこと誰にもできませんわ」
「まあ、そうなんだけど。味方にすることはできるかと」
「あらなにかお考えでも?」
「まあね。弟に幸せになってもらうためなんだ。弟は彼女とあまり性格が合わないみたいだしね」
それはある。
でもそんなものは政略結婚なんだから目をつぶるのが当たり前。
「私はね、弟は君のこと気になって仕方がないと見てる。だからどうにかしてあげようかなって」
「あら?婚約破棄でも勧めますの?ふふ。さすがに冗談がすぎましてよ」
「弟の隣には君のほうが安心なんでね。協力もできそうだし、あいつら警戒してくれるだろ?」
「せめてあの方々と言いましょうよ」
「まあ、君の気持ち次第かな。弟がいくら好きでも、気のない女性はお互いのためにならないからね」
授業の鐘がなる。
またねと軽く手をあげて去っていく。
なぜか大物がつれたわ。
第一王子を攻略しないとこういう展開だったのね。
悪くない提案よね。
ガル様の妹は釣れなくても、第一王子の後ろ盾があればこれ以上頼りになるものはないわ。
◇
オレリアの聖女フリルに対するいじめ。
今まではさりげなく避けていたが、わざと意地悪されるように近寄る。
証拠を集めるのは簡単だった。
第二王子に泣きつきつつ、「大げさに騒ぎたくないの」と釘を刺すのも忘れない。
ここはヒロインイベントを大いに利用する。
一番肝心なイベントが近づきつつあった。
『階段突き落としイベント』
このイベントは多少怪我をしてしまうが仕方がない。
なるべく多くの人の前でやらかしてほしいが、さすがに向こうも気を付けるわよね。
そういえばガル様の知り合いに魔道具研究されてる方がいたわ。
すぐにガル様に相談しなくては♪
ガル様の依頼でポット君は撮影の魔道具を用意する。
あとはイベントの起こりそうな階段にばれないように仕掛ける。
念のため聖女フリルのペンダントにも映像魔道具をセットする。
そして。
オレリアからの「一人で2階の音楽室にきなさい」と呼び出しが来た。
階段を上がってすぐが音楽室だ。
聖女は部屋に入らず、わざと音楽室入り口で声を出す。
「オレリア様何か御用でしょうか」
「ぐずぐずしないでさっさと入ってきなさい!」
「あら?ですが廊下も誰もいらっしゃらないですから、ここでもかまいませんわ」
「なぜわたくしがそちらにいかねばならないの!」
「私のほうは用がないので、話がないのなら帰りますわ」
「ちょ、ちょっとまちなさい!」
廊下には確かに誰もいない。だが階段下には証人として数人待機しているのだった。
そのまま入り口から動かない聖女フリルに、我慢が出来ないオレリア。
取り巻きのご令嬢と一緒に、つかつかと廊下に出てきた。
「何度も忠告してるのに、その態度は何なの」
「はあ。そういわれましても、以前申し上げた通りですわ。もしやもうお忘れになりましたの?」
煽りまくりながらどんどん後ろに下がって、階段のほうに誘導する。
オレリアもどんどん聖女フリルに迫っていく。
「いいこと!これ以上は我慢できなくってよ!」
そういって扇子で聖女を思い切りたたく。
後ろが階段だということを忘れて。
「きゃああああああああああ」
大げさに叫んで階段を、半分は自らころがり落ちる。
量のあるドレスがクッション代わりなので対して痛くはないようだ。
そのまま気絶したふりをする。
「フリル様!」
「聖女様!」
階段下から何人もが駆けつけて、聖女様を確保。
オレリアの取り巻きたちが気が付いたがもう遅い。大勢の目撃者に見られていた。
「な、なぜ階段が」オレリアは真っ青になっていた。
取り巻きたちに連れられて、急いで逃げる。
その場で聖女に近寄って謝れば、事故だと言い逃れもできたかもしれないのに。
こうして『階段突き落としイベント』は成功に終わった。
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