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28.トカゲのおうち

リュウのことはどうすることもできずにお手上げだった。

元気になって行動がだんだん活発になってきた。

朝は窓から飛び出していき、学食の前にいた時は焦った。


「肉まんは毎日売ってるわけじゃないんだからね」

そう言い聞かせたが、今度は外の串焼きを売ってる店で待ち構えるようになる。


「お客さんが困るからやめろ!」

「あらいいのよ。お客さんが珍しがって買いに来てくれるの。撫でても平気だし、毛も落ちないしね」


串焼きの店長がいい人でよかった。

外の川や林で大量に獲物を捕まえてたべたくせに、まだ欲しがるんだよ。


「おやつは5本まで!」

とうとう数を制限せざるをえなかった。



夜中はレッドの上に乗って寝てるのだが、リュウはどんどん巨大になっていく。

さすがのレッドも苦しそうなのでどかすが、どかしてもどかしてもまたすぐ戻ってきてしまうのだ。

レッドの目の下にクマができていた。


もちろんいたずらも過激になっていく。

子供だからしょうがないけど、お漏らししたり、寝ぼけて火を吐くのはやめて。

ここまで派手に動かれると僕は寮長に目を付けられてしまう。


「ペットを飼ってはいけない規則です。ご存じですよね」

「あ、はい。保護しただけなので、怪我治ったら元に返します」


やばいよ。

やばいよ。

やばいよ。


ケイトが犬小屋に住まわせたらどうかと言って来た。

串焼きで釣りながら説得していたら、貴族と思われる人が声をかけてきた。

真っ黒なスーツに赤いひげ。赤い瞳だ。背の高い紳士だ。


「すみませんが、その子はどうされたのですか?」

「え?リュウですか?えーと怪我してたので保護しました」


串焼きを食べていたリュウはハッとして、

「ぱぱーー--!!!!!」手足べたべたで飛びついた!




僕らは人のいない裏手の空き地へ移動した。

ドラゴン父の横にいる人はセバスチャンという名前が似合いそうなシルバーグレーの執事さんだ。


「よかった。どうやって家に帰そうかと思ってました」

「ぱぱー。ボクね。ご飯たくさんもらったの。あとねタマちゃんに怪我なおしてもらったの。みんないい人」

「ほぅ。てっきり虐待されてると思いきや。ではお礼をせねばなりませんな」


「主様、お名前がまだ」と真っ白い手袋の執事さんが口をはさむ。

「おっと失礼した。私はレッドドラゴン。ほむらという名を勇者殿にいただいた者だ」

「僕はショウ。ほむら・・日本語なんですね!」

「いかにも。わが名をつけてくれた勇者が日本からきたといっておった」


「ぱぱー。ボクもリュウって名前もらったよ」

「おおーそれはありがたい」

「本来は名をいただいた方のそばで修行をするのが筋ですが、何分まだ子供。もうしばらく手元で育てることをお許し願いたい」

「僕は保護しただけで、名前ではなく愛称ですから。家に戻れるのならそのほうがいい」


とにかく早く帰ってほしい。

ここはリュウのためによくない環境なんだ。そう最大限オブラートに包んで話す。



執事さんが手のひらサイズの赤い宝石を手渡してきた。


「今はこれくらいしかありませんが、お納めください」

「いえいえ。こんなことしてもらうわけには」

「遠慮なさるな。足りないくらいだが、あいにく手持ちがないのでな」


無理やり押しつけて、リュウと一緒に帰っていった。


「ばいばい。お兄ちゃん。またね」

「気を付けて。向こうで立派なドラゴンになるんだよ」




はぁ。やっと帰った。

手のかかる子だったなぁ。

レッドになついていたのは親に似た赤い髪だったからなんだな。


それにしてもすごい魔石だ。

ルビーなのか?

大きさは手のひらサイズだが純度がすごいのか深紅だ。

太陽に照らされて怪しく光っている。吸い込まれそうな色だ。


「寮に戻ってから吸収しましょう」タマちゃんの声がする。



寮の部屋でしばらく眺めて、吸収する。

そのまま僕は眠りに落ちた。

その後僕は丸一日眠りこけていたらしい。

「疲れがたまっていたんだね」と周りに心配された。




リュウが無事に帰り、僕らの日常がもどってきた。

トマト師匠にリュウ問題が解決したことを報告して、さあがんばるぞ。


僕が魔石を吸収してからちょっとうれしいことがあった。

記憶容量が増えたのか戻ったのかはわからないが、最低限名前だけは憶えていられるようになったのだ。


さて、次なる課題として浮上したのは、僕の夏休みに書き上げた報告レポートだ。

いままで海のことはまったく勉強していなかった。

近くになかったのだから思いつかなくても仕方ないのかもしれない。


海はたえず流れていて魔素が多そうだし、

なんといっても海流があるから魔素をつかまえやすいんじゃないか。

巨大亀の魔石は書けなかったが、そのかわり海にもぐったときに小さな魔石っぽいものがあったと報告。



報告書を読んでいるトマト師匠の目がキラキラして子供のようだ。


ここにはケサランというお手伝いの先輩もいる。こちらに戻ってきて先輩の髪も青っぽいってことに気が付いたんだ。

前はグレーだったのに。

ついでだけど弟のパサラン先輩もいる。


ケサラン・パサランって白粉の中にいるやつだよね。最初に名前を聞いたときは吹きそうになったよ。


僕の報告を読んだ師匠が、先輩方と砂浜に魔石があるのか調査すると言い出した。

シーグラスならぬシー魔石。

海にたくさんあるのならありそうだよね。


  ※シーグラス=波に揉まれて角の取れたガラス片のこと。




僕は他に学びたいことがあるので一緒にいけなかった。

これから魔石を探すには船がいるんじゃないかと思ったのだ。


僕だけの船がつくれたら。


この学校の近くに海はない。なので本だけが頼りだ。

当たり前だが、小学校卒の僕が船の構造を見ていてもちんぷんかんぷんである。

うむむ。やはり専門家に頼むか。




こんなときに相談できる相手は決まっている。

魔法の練習をしていたデイジーを見つけて声をかける。


「師匠と魔石探索をしてるんだけど、海の中も調べたいんだ。船があると助かるんだけどなんとかならないかな」


「ショウって私を何かと勘違いしてない?船のことならポット君あたりに頼めば貸してくれるじゃない」

「そうか!借りたらいいのか。それなら費用も安く上がる」

「勉強熱心ね。私たちは学生なんだし本来その熱意が普通なのよね」


「デイジーだってがんばってるじゃないか」

「まあこの魔法が役に立てばいいけどね」


デイジーは『シールド』スキルを習得したらしい。

ピンク髪のように全員を包み込めず、まだ一人がやっとなのだとか。

もっと精度をあげなきゃいけないんだといっていた。


ますます聖女っぽくなってきたな。


この努力は僕らの仲間のため、あの聖女の予言が外れるための努力だ。

僕も自分のことだけじゃなく、何かできないだろうか?




師匠が帰ってくるまでに『土魔法』スキルを練習しておくことにする。

土壁ならシールドと同じ代用ができる。魔物を落とす落とし穴作成も練習するか。


「魔力が溜まりましたので本格的な『ダンジョン作成』スキル使えますよ」

ダンジョンマスターをやる気はないが、そこは好奇心が勝ってしまった。


『ダンジョン作成』といっても、派生魔法がいくつかあるんだ。

魔力が少なくてもできる『ダンジョントーチ』もそうだった。

学校隣の林中に2メートル高さの小さな塔を土でつくってみた。

土壁なので涼しい。

すぐ壊そうと思ったが壊れない。結構丈夫だ。

リュウが間違って帰ってきたらここに住んでもらうかな。


その後、ここは休憩や雨宿りとして人や動物たちに利用されるのだった。




こちらは貴族の王都魔法学園、ピンクの聖女フリル側である。


王立魔法学園はいろいろな行事がある。

剣闘士大会をはじめ音楽や文芸の文化祭。山に研修旅行。

ゲームイベント盛りだくさんである。

ピンク髪聖女フリルはイベントをそつなくこなして王子と仲良くなっていく。


2人の王子はあくまで王の子供であり、王位を継ぐ皇太子ではない。

皇太子は一応第一王子となってはいるが、正式発表はまだである。


クールでイケメンな第一王子は魔物襲撃イベントで死去する予定だ。

第二王子は優しいのだが、悪役令嬢が婚約者であり、断罪イベントがある。


ゲームでは第一王子を助けて皇太子にするか、イケメンな王子を見殺しにしてキラキラな第二王子が皇太子になるか選べるのだ。


キラキラ第2王子エンドはノーマルエンド。

イケメン第1王子エンドはエクセレントエンド。


やっぱりイケメンが死ぬのはよくないわよね。

大怪我程度で第二王子が皇太子に改変できればいいんだけどね。

第二王子が好みだし、あの断罪イベント現実で見てみたいわ。

わたしって罪な女。


さてそろそろ魔物襲撃イベントだわ。

殿下にも詳細は話したので多少は未来が変わるのかしらね?




お読みいただき、ありがとうございます。

小さな塔は土魔法です。ダンジョンではないのですぐに壊れたりはしません。

少しでも続きが気になる、と思っていただけたら、

『ブックマーク』と【★】何卒応援よろしくお願いします。

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