26.聖女side--未来視ハズレる
時間を少し遡って大会が始まる直前。
やっと正式な聖女となったばかりの、聖女フリルは剣闘士大会会場の貴賓席に座っていた。
王族をはじめ各国の招待客もいる。
「こほり」とわざとらしく咳をして立ち上がり、よく通る声で話し出す。
「皆さま、大会が始まる前にここで『シールド』をかけさせていただきます。
大会中席を立つ場合はわたくしに教えてくださいませ」
傍にはデイジーをはじめとして護衛が立ち並ぶ。
「大げさとは思われるでしょうが、この会場傍で騒ぎが起こる可能性があります。
その余波がこちらまでくるやもしれませんので」
その言葉に、居合わせたものは『予言の聖女』の二つ名を思い出す。
今までも誘拐や学園に突然現れた魔物をいい当てていた。
神からの信託を受けているかもしれぬ聖女なのだ。用心してもいいだろう。
<エリアシールド>
貴賓席にシャボン玉のような透明な膜が張られる。
前世のゲーム知識では外で騒ぎが起こり、それに大会運営や護衛が対処してる隙を利用して、ここに矢が何本も飛んでくるのを知っていたのだ。
簡単な『イベント』だけど、これで私が皆さまを守ったってことになるのよね。
王子様方にも感謝されてお近づきになっても、まわりから公認されるのよ。
これであの悪役令嬢も文句がいいにくいでしょうねぇ。ふふふ。
◇
だが実際は、陽動の騒ぎがなかなか起きない。
敵はタイミングがつかめずに逃げ出したのだった。
「ちくしょう失敗だ。何やってるんだ。あの魔導士どもの役立たずめ。」
結局。
燃えていた跡のある謎の石棺が見つかっただけで何も起こらなかったのだった。
その石棺も聖女様が言ってた予言に違いないと皆が納得した。
石棺は魔法研究所によって解析が進められることとなった。
◇
聖女フリルはふわふわピンク髪を侍女に洗ってもらいながらため息をつく。
「聖女様、剣闘士大会が無事に終わってよございましたね」
「ええ、そうね。皆さまをお守りするのもわたしの役目だわ。ただ、やっぱり大げさすぎたかしら?」
「いいえ、そのようなことはございません。陛下をはじめ皆様方も感謝していると伝え聞きました」
「慰めるのが上手ね。でもありがとう」
あの『鏡のダンジョン』といい、今回の襲撃がなかったことといいゲームとは少し違うのね。
余裕を持たせてはっきと断言をしなくてよかったわ。
あのいい方なら多少予言にズレがあると思ってもらえるはず。
もしかして私が悪役令嬢のワナにはまらないように振舞、改変したせいかしら。
これからはあまり改変せずにうまくやらなくちゃね。
なにせ未来のお妃さま。ここの国は裕福だし贅沢しほうだいよ。うふふ。
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