閑話 ある犯罪者の独り言
俺は元冒険者だった。
貧乏でろくなものがなかったが、ギルドに行けば無料で一食は食べることができる。
子供のころからギルドに通って、いずれは冒険者になって稼いでやるって思ってたんだ。
だが現実は非情だった。
いくら頑張ってもウサギ一匹がやっとだ。
魔法もろくに使えない、武器も木刀程度しか持てない。
それでもメルクル街でならなんとかかっていけた。
気の利いた奴らはすぐにこの街から旅立っていく。
俺たちのような出来損ないがこの街に残った。
そんなときに、どっからみても子供4人が大きなイノシシ倒してきたんだ。
それも2匹もだぜ?
当然俺たちにも分け前はあると思ったのに、あいつら4人で食べだしやがった。
これだけ肉があるんだ。
この街はみなで助け合いがモットーなんだ。
よこさないならと、俺たちはみなで横から肉をかっさらって食べた。
生肉を盗んで、隣の鉄板で焼く。
うまい!
久しぶりの肉だ!
夢中で食べた。
あいつらは迷惑そうな顔してたが、大量の肉があるんだから皆で分け合うのが当然だって思ってたんだ。
よし!どんどんとってこい!
俺たちは応援ムードだった。
俺たちでは全員で狩っても絶対に倒せないイノシシ。
どうやって倒してるのかわからないが、こいつらはあっさりと倒す。
どうせすぐにほかの街に旅立つのだろうが、その前にどんどん肉を持ってきてくれ。
◇
そう思ったが甘かった。
ギルドねーちゃんには怒られるし、まいった。
あんな子供、ちょっと脅かせばなんて俺はバカだった。
子供と言っても、彼らはあのイノシシを狩って来たんだ。
あいつらの本当の怖さを知ったときはもう遅かった。
特にあのぼーっとした荷物持ちだけのような子供。
あいつに襟首つかまれて持ち上げられたときの目はマジ怖かった。
殺される!
本気で殺される!
そうなんだ。
あの目こそが冒険者の目なんだ。
殺すか殺されるか。命のやり取りをする目なんだ。
俺は、俺なんかが冒険者なんてやってるのが間違いなんだ。
犯罪者は牢屋に入れられて簡易裁判のあと鉱山に行かされる。
裁判の時は俺はすべて認めたよ。
あっという間に終了した。
何もかも全て素直に話したってことで、印象がよくなったらしい。
働いた給金はすべて慰謝料としてあの子たちに支払われるようだ。
仕事はきつい。
朝から晩まで炭鉱の中で荷物を運びこんだり、倒れた人を入り口まで運んだりする。
肉体労働だ。
食事は大したものはでないが腹いっぱい食べることができる。
腹いっぱいなんて何年ぶりだ?
おれは慰謝料を返した後もここで働きたいと思っている。
ここなら死ななくて済む。きついけど金が稼げる。
なぜもっと早く気が付かなかったんだろう。
命を懸ける冒険者なんて割に合わない。
もうあいつらに会いたくない。
冒険者になりたくない。
仕事がきつくてつらいときは、あいつのあの目を思い出そう。
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