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帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜  作者: 長月京子
第十八章:第二王子レオンの婚約披露

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104/167

104:優先順位

 いつもの様子を取りもどしたスーを見て、ルカはようやく肩の力を抜いた。


 手の甲への口づけで真っ赤にそまった頬を見ていると、さっきまでの青ざめた顔色が錯覚だったのではないかと思えてくる。


 けれど胸の奥では依然として警鐘が響いていた。

 単純に一時的な不調だと考えられるほど、ルカは能天気にはなれない。


「殿下」


 ルキアが護衛からの耳打ちをうけて大広間の状況を伝える。


「レオン殿下がいらっしゃったようです」


 ルカとしては参加を辞退したい気もするが、ディオクレアの思惑を考えると安易には無視できない。このまま欠席すればどんな噂が拡散するのかは想像がついた。


 どんな風聞になろうとも、自分とスーの婚約が白紙に戻ることはない。ただ、このまま婚姻に至れば、世間の祝福からは程遠い形になってしまうだろう。


 そこまで考えて、ルカは心境の変化を感じた。


(ーー私は、祝福されることを望んでいるのか)


 スーのためなのか、自分の希望なのか。サイオンの王女を迎えた時には、こんな望みを抱くとは思いもしなかった。

 思いあった相手と添い遂げるための儀式。ルカにとっては夢物語に近い発想である。


(サイオンの王女と……)


 彼女の境遇は何一つ変わっていないのに。

 夢見がちになっているのは、スーの影響だろうか。


 婚姻の先に倖せを連想している。それを愚かだとは思えなくなっていたが、ルカは自分の立場を見つめなおす。

 ありもしない噂がたつのは今に始まったことではない。振り回されて何を優先すべきなのかを見失ってはいけないのだ。


(いまはスーの安全に勝るものはない)


 ディオクレアにサイオンの機密が漏れているのであれば、スーの存在は彼らにとっても特別なものになる。奪われるようなことがあれば、切り札として交渉に利用されるだろう。

 ルカは傍らに立つルキアを仰いだ。


「リン殿が戻るまではこちらで待機するが、私はスーの不調を偶然だと考えるのは早計だと思う。今日はこのまま辞去することを考えた方がいいかもしれない。レオンへの祝辞は日を改めて贈ればいい」


「ですが、それでは大公の思惑通りの風聞が拡散しますが」


「噂で私とスーの婚約が白紙になるわけではない」


「あの、ルカ様……」


 スーが戸惑いがちにルキアとの間に割って入ってきた。


「わたしは大丈夫です。もう何ともありません。レオン殿下への祝辞だけではなく、本日の婚約披露に参加することには意味があるのではないのですか?」


「――たしかに不名誉な噂を払拭できればと考えていましたが、私が優先するのはスーの安全です」


「でも、ルキア様も王宮内に危険はないと……」


 スーの言葉の途中で室内の護衛が動くのを感じた。ルカが目を向けるとリンが室内に入って来たらしい。整列する護衛の合間をぬけて、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 ひどく億劫そうな動きだった。


「僕もルカ殿下の意見に賛成だな、スー」


「叔父様?」


 抗議したそうなスーに微笑んで見せると、リンがルキアとルカを見た。


「すぐに王宮を出たほうがいいね」


「何か問題がございましたか?」


 ルキアが緊張を高めるのがわかる。リンは自嘲するように笑った。


「問題……。そうだね。僕もようやく確信した。正直に言うと、僕はここからスーを無事に外に出せるのかもわからない」


「まさか。今の王宮内に何かを仕掛けるのは不可能です。しかもリン殿が傍にあって、どんな脅威があると言うのですか」


 ルキアの意見をもっともだと思う反面、ルカにはリンの抱える危機感が冗談ではないのだとわかる。

 どこか億劫そうに見える仕草にも答えが滲みだしている気がした。


「リン殿? もしかして、あなたにも何らかの不調が?」


 ルカが指摘すると、リンは悪戯の見つかった子供のようにバツが悪そうな顔をする。


「うまく取り繕えれば良かったけど、無理があったかな」


「いったい何が起きているのです?」


 ルカの問いにリンは吐息をつく。


「今は説明できないよ、殿下。ただ敵は想像以上に知っているらしい。僕達が知らないことも」


 リンが装飾に隠された左目を押さえた。その仕草に何らかの意図があるのか、あるいは痛みがあるのか。ルカの予感を裏付けるほどの答えは得られない。


「とにかく速やかに王宮を出る。今、僕にできる助言はそれだけだ。詳しい話はここを出てからだね」


 口調はいつも通りだが、声音が低く切実な響きを帯びている。


「わかりました。あなたの助言なら従います」


 ルカはすぐに王宮から退避することを決める。


「スー、私達の不名誉な噂を払拭するのは、またの機会にしましょう」


「ーーはい」


 戸惑っているようだったが、スーはすぐに気持ちを切り替えて頷いた。王宮内に護衛を配置すると、ルキアが退去のするために室内を出て二人を先導する。王宮の広い通路には大広間からのかすかな喧噪が響いていた。通路の一部を封鎖しているので、誰かとすれ違うこともない。


 スーの手をとって歩くルカの前を、ルキアとリンが並んで歩いている。

 壁面のレリーフや大理石の柱が、等間隔に設けられた飾り窓からの日差しを受けて輝いていた。何かが起きるとは思えないような穏やかな光景だった。


「ルカ様、本当に申し訳ありません」


 落胆した調子で詫びるスーの手を、ルカは少し力をこめて握った。


「あなたが謝ることはありません。私にはスーの不調が偶然だとも思えない。リン殿が警戒するなら、それなりに理由があるはずですし」


「はい。でも、せっかくルカ様と親密なふりをする練習をしたので、皆様の前でも溺愛される王女になりきってみせたかったです」


 言いながら車内でのことを思い出したのか、スーの顔が赤くなった。ルカは自分の心境をありのままに伝える。


「正直に言うと、私は今日のスーをあまり人に見せたくなかった」


「え? どうしてですか?」


「美しいあなたを独り占めしたいという狭量な気持ちです。それに、愛しい女性を好奇の目に晒すのは気分のいいものじゃない」


「!?」


 スーが一気にあたふたする気配が伝わってくる。


「ルカ様は独占欲が強いという設定ですか?」


 頬をそめて嬉しそうに笑っているが、ルカの告白はまったく届いていない。


(設定か……)


 彼女の思い込みを覆すのは、言葉だけでは難しくなっている。これほど慕われているのに、やはりこちらの想いは届かない。


「わたしは親密なふりをする練習はいつでも大歓迎です!」


「そうですか。ーーでは、これからはぜひ夜にも練習に付き合っていただきたいです」


「はい! もちろんです!」


 何の屈託もない様子だった。私邸の広間で晩酌をする程度の認識でいるにちがいない。

 ルカはもう一歩踏み込んでおくことにした。


「夜に親密になる。その意味を理解していますか?」


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