三回裏 〜四球、四球、一犧、三振(振り逃げ)☆、死球、四球☆、捕邪飛、遊直〜
本来は左利きである松原祥太郎は、守備では右投げの方が有利だと野球を始めたのをきっかけに投球を右に矯正した。最初の頃は左利きを重宝されて投手に据えられていたが、小柄で肩が強くなかったので内野手にひいては二塁手を守らせようという父の提案があったからだ。右投げには苦心したが、慣れてくると本来の運動能力の高さでレギュラーの座を勝ち取っていた。
高校に入るとその座には一学年上の哲が座り、守備の中核として守備に留まらず精神的支柱も担っていた。主将の経験の無い自身にあそこまでの役割を担えるだろうか? 松原は哲の動きをつぶさに観察し、徹底的に付いて回って乞える教えは積極的に受けてきた。その甲斐あって一年生の秋から背番号は貰えているが、まだ先発出場に名を連ねたことは無い。
この回の守備も二階堂の乱調で長くなっており、四死球を連発して更に二点を失っている。
「こんな海里さん見たこと無い」
ベンチから試合を見守っていると哲が慌てた様子で審判にタイムを掛けてマウンドへと走り、体がふらつき始めた二階堂の体を支えていた。それに慌てたマネージャー木暮真樹子が内線電話を手にして救護隊を要請している。
「松原!」
監督のいつに無く強い口調に彼の肩がビクッと震えたが、恐らく水分補給を含めた伝令に走れということであろうとスポーツドリンクと保冷剤を手に取った。
「二塁手に入れ! 哲をマウンドに立たせる!」
「えぇっ⁉」
初めて聞く采配に松原は焦ってペットボトルを落としそうになる。しかし監督命令は絶対なので、投手用のグローブと自身の内野用グローブも抱えてマウンドへと走った。
「哲さん! マウンドに上がってください!」
「はぁっ⁉」
この指示には普段冷静沈着な哲も目を丸くしていた。
総合高校|001|1
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海洋水産|132|6
選手交代①
【総合高校】
①遊 中西勇樹
②投 中西哲
③左 小木凌太朗
④右 依田稔
⑤捕 峰川誠
⑥一 柳原翔汰
⑦三 田村薫
⑧二 松原祥太郎
⑨中 群滉聖