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ゲームセット

 負けた……スコアボードに直撃した塙の本塁打を見送った哲は肩を落として大きく息を吐く。戦線離脱してしまった二階堂を甲子園に連れて行きたい気持ちはあったが、今持てる力は出し切れたので悔いは残さず済みそうだと納得はできた。マウンドに視線をやると行定は座り込んで泣きじゃくっており、森田がなだめて立たせようとしている。

 本人にとっては失投だったかもしれないが、きっと一番投げたかった球種で勝負に挑んだはずだ……哲はマウンドにいるバッテリー二人の元に駆け寄って整列を促した。

「実力以上のものは出せたんだ、胸張って帰ろう」

 主将のひと言に森田は頷いたが、行定はアウト一つ取れずにサヨナラ負けを喫してしまったことに悔し泣きしていた。哲は後輩の腕を掴んで半ば強引に立たせ、丸くしていた背中をバンと叩く。

「借りは来年返せ」

「はいっ……うぅっ……」

 行定は嗚咽を上げてむせび泣いていたが、森田に支えられながら整列の中に入った。哲はそれを見届けてから列の先頭に並んで審判員に小さく頭を下げる。海洋水産高校の選手陣はひとしきり勝利を歓び合った後既に整列を済ませており、サヨナラ本塁打(ホームラン)を放った相手校主将の塙に向けて待たせたという視線を送った。二校の選手たちは向き合って整列し、主審がすっと右腕を上げる。

「礼っ!」

 彼の声を合図に試合終了を告げるサイレンが流れた。

「「「「「ありがとうございましたっ!」」」」」

 向き合っていた両校の選手たちは一斉に頭を下げてから互いの健闘を称え合う。満面の笑みを浮かべている塙は哲に近づいて握手を求めた。

「また上で会おう」

「俺はこれで終わりだよ」

「マジかよ?」

 塙は意外そうな表情を見せながらも哲の手を取った。

「勿体ねぇ気もするな」

「いや、俺の実力ならここまでだ」

「そうは思わねぇけど……最高の試合だったな」

「あぁ」

 二人は互いの体をハグし合って背中を二回叩いた。

「まぁどっかで会おうや」

「そうだな、甲子園頑張れよ」

「ん」

 海洋水産高校の選手たちはそのままバックグラウンドに整列して校歌を歌い、総合高校の選手たちは一塁側のベンチ前に整列してその光景を見つめていた。

「負けちまったな」

 副主将である柿沼が隣にいる主将にそう声を掛けた。

「ん」

「けどさ、楽しかったな」

「あぁ」

 哲は横目で彼を見ながら右手を差し出した。

「カッキー、ありがとな」

「へっ?」

「お前が副部長でいてくれたから一年間主将やれた」

「俺大して役に立ってないぞ」

 柿沼は照れもあって右手を出せずにいる。

「俺は心強かった」

「何で?」

「本来俺が引き受けなきゃいけないことを半分背負ってくれたから。それに俺一人じゃ皆をまとめきれなかったと思う」

「そんなことないだろ、哲あってのチームじゃないか」

「逆だ、チームあっての俺なんだよ」

 哲の右手は柿沼に向けて差し出されたままであった。柿沼は今日が最後となるのかと思い直し、ようやっと主将の右手を握り返す。

「だったら皆にも言ってやれよ」

「ん、そうだな」

 そんな会話をしていると海洋水産高校の校歌が終わり、勝利の歓びを応援席に伝えに元気良く走っていった。それを見た哲は、仲間たちを促して応援席へと走る。

「ありがとうございました!」

 主将の掛け声に合わせて選手たちは応援団に一礼すると、上から温かい拍手のシャワーが贈られた。追い付き追い越せはしたのに勝ち切れなかった悔しさと申し訳無さがこみ上げて泣き出すメンバーもいたが、創部史上初となった県大会決勝進出は彼らを大きく成長させていた。

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