一回裏 〜中飛、左2、中失☆、右安、二ゴロ〜
百八十センチの長身に甘いマスク、学校の野球部ではなくクラブチーム出身の二階堂海里は全国的に有名な選手であった。クラブチームで全国大会を経験し、隣県にある高原学院はもちろん首都圏や近畿にある甲子園名門校からも推薦を受けるほどの逸材であった。しかしちょっとした偏屈者である彼は自宅から見える距離にある総合高校を選び、無名校が名門校をなぎ倒す下剋上シナリオを脳内で作り上げていた。
一年夏の大会で背番号一を勝ち取ったは良かったが、メンタルが安定しないという弱点のせいで四回戦敗退。二年生の時は肩を故障して投げられず、他の選手の頑張りもあったが五回戦敗退。彼の功績も加味されて万年初戦敗退を脱したと学内はお祭り騒ぎとなったものの、ここまでは本人にとって不甲斐ない結果となっていた。
最終学年で甲子園切符への最後のチャンス、決して楽な道のりではなかったがここまで来れたからには絶対に勝ち取りたい……しかし準決勝が再試合にまでもつれたせいで、一日の休養では体力が回復できていなかった。可能な限りのメンテナンスも行い、睡眠時間も確保したのに普段の状態には程遠いくらいの絶不調であった。
ボールが指に馴染まず、無駄に過敏になって縫い目の引っ掛かりが気に入らない。一つ気になりだすとマウンドの高さ、土の具合、ロジンバッグの手触りまで気になって集中できず、精神を浪費させている状態で早くも先制を許してしまう。
総合高校 0 0
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海洋水産 1 1