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十二回裏 〜三ゴロ、一ゴロ、中飛〜

 名門校監督退任劇の後、故郷A県にある総合高校(野球無名校)に就任した宅師潤一郎。校長が“おだっちゃった”せいでこのことが拡散されてしまい、翌年度春に入学してきた男子生徒の中に将来有望な野球選手たちが混ざっていた。

 まずは県内では無敵のクラブチームのエースだった二階堂海里、下級生時ではあるが軟式野球日本一の立役者となったが安西有、中学野球屈指のスラッガー依田稔といった有名人もさることながら、軟式野球出身ながらも広い守備範囲と高い身体能力を誇る中西勇樹、無名中学を県大会出場に押し上げた地味なオールラウンダー中西哲、才能はありながら監督に恵まれず試合に出られなかった小木凌太朗など、磨けば確実に光る逸材に彼の胸は高まった。

 彼らが野球部に入ってくれたら……そんな期待を裏切ることなく揃いも揃って野球部の門を叩き、仮入部の時点で現役部員を実力で打ち負かして下剋上を繰り広げていた。いくら新入生が“粒揃い”とは言っても現役部員を蔑ろにはできず、春季大会はセオリー通り上級生部員主体のチームで臨んだが呆気なく初戦敗退した。

 夏の大会に向け、宅師はチーム編成に一年生部員を積極的に登用した。背番号一(エース)は二階堂、四番打者は依田、安西は背番号十で二枚看板にしよう……実力はさほどでもなかったが、素行は真面目だった三年生には最大限考慮して捕手(キャッチャー)一塁手(ファースト)三塁手(サード)は春季大会のままにした。

 そして二遊間に哲と勇樹を登用し、“中西二遊間”として徹底的に守備の要として鍛え上げることにする。問題は左翼手(レフト)か……小木を据えたい気持ちはあったが、この時点での起用は才能を潰す可能性があると考えて二年生で主将候補の選手を置いた。

 控え選手も一年生を多用した。安西、小木、柳原、峰川、春日、大岩をベンチ入りさせ、倉橋と柿沼はボールボーイとしてグラウンドに入れることにした。それに合わせて残り五名は三年生を入れ、素行に問題のある二年生部員は徹底的に排除した。

 それが元で嫌がらせを受けた一年生部員がいたことにも気付いていたが、その場では敢えて放棄し密かに証拠を集めていた。それがある程度揃ってから大義名分的に悪事を突きつけ、害虫駆除が如く二年生部員のほとんどを退部させて理想のチームを作り上げていった。

 だからと言ってライトノベルのように順風満帆とはいかず、エース二階堂はメンタルが繊細で試合でもなかなか安定しなかった。中学時代からそこを問題視するスカウトも実際にいて、宅師自身も悩みの種としていた。更には細身過ぎるが故怪我も多く、そういった意味では安西の方が機能していた。しかし彼もメンタルが弱く、良い時は徹底的に乗るが悪い時は優勢の試合でさえもぶち壊す危うさがあった。

 これはマズイな……“粒揃い”の一年生の中でもこの二人に匹敵する投手候補がおらず、いっそ依田や哲に投げさせた方がマシだと思わせる場面も多々あった。しかしそこは我慢して二人を安定した戦力に育てることに注視し、後輩の入部に期待をかけることにする。

 それでも“粒揃い”一度目の夏の大会は創部史上最高の四回戦まで勝ち進み、秋季大会も準々決勝敗退と結果は出し始めていた。この時点で峰川、柳原がレギュラーメンバーに定着し、大岩、小木、倉橋、柿沼も控えメンバーとして徐々に試合経験を積んでいった。

 それから半年待つと五十人近くの新入生が野球部に殺到した。名門校監督を歴任している自身のネームバリューも多少あっただろうが、全国的に名の知れた選手への憧れやこれまで一勝もできなかった学校の快進撃に絆されたなどの理由もあったようだ。ところが名将ならではの厳しい練習に耐えきれず退部者が続出し、一年経ってみると八人しか残らなかった。

 入学当初は投手(ピッチャー)として入部してきた田村、幼馴染の群、安西の後輩森田、次期エース候補の行定、チーム一小柄な松原など、ベンチ入りを果たせていない三人を含めても将来有望な選手ばかりが残り、“少数精鋭”ともいえて“粒揃い”に引けを取らないと分析している。

 投手力の補強が必要だと田村と行定の二枚看板を作ることも考えていた。しかし残った“少数精鋭”の学年で内野を守れるのが松原しかおらず、器用な田村をコンバートさせてでも内野手を育てなければならなかった。期待に応えた彼は倉橋や柿沼を抜き去って正三塁手の座を奪い、膨大な打撃(バッティング)練習も実を結んでで野手としても主力となっていった。

 三塁手(サード)に田村、中堅手(センター)に群を据えて挑んだ夏の大会では二階堂が怪我をしてしまい、安西、森田のバッテリーで五回戦まで進出した。次の秋の大会では小木が満を持して左翼(レフト)に固定し、県大会三位通過で地方大会へと駒を進めた。初戦で前任監督を務めたF県一位通過の高原学院に破れはしたが、前年以上の実力が付いて甲子園が夢のまた夢ではなくなってきたと手応えを感じていた。

 これが評判を呼んで今年入学してきた新一年生は百人近くが仮入部にやってきた。本入部で半分が脱落したが、守備の上手い長嶋、バッティングセンスのある加藤、左サイドスローの堀といった個性的な実力者も混じっていた。

 そんな中春季大会でも県大会三位通過で地方大会に進出し、D県一位通過の学校から一勝をもぎ取った。夏の大会に向けてこのクオリティーを持続させるため三人の一年生をベンチ入りさせており、現在創部史上最高の県大会決勝戦に臨んでいる。

 延長十回からマウンドに上がり、最高に良いピッチングを見せている安西を頼もしく見つめていた宅師だったが、次の会では確実に打順が回ってくる。この三年間でマシにはなっているが、打撃(バッティング)はかなり苦手にしていて得点力は期待できない。しかしこの投球(ピッチング)を見せつけられると代えてしまうのは正直惜しい。

 さてどうするか……監督としてこの試合にとって勝負の分かれ目となるであろう決断に頭を悩ませていた。

 

総合高校|001001211000|6

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

海洋水産|132000000000|6


[選手交代⑦]

【海洋水産】

①中 芹澤(せりざわ)

②遊 丸山(まるやま)

③右 武田(たけだ)

④捕 (はなわ)

⑤左 竜﨑(りゅうざき)

⑥二 望月(もちづき)

⑦三 八尾(やお)

⑧一 戸塚(とつか)

⑨投 佐竹(さたけ)

 打 横山(よこやま)

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