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十回裏 〜二ゴロ、右安、三飛、三振〜

 次男坊ながらも兄貴分気質であった中西哲(なかにしてつ)は少年野球、中学と主将を努め、野球そのもののセンスもあって常に仲間たちを引き上げる役割を担っていた。中学時代は過去一勝すらできなかった野球部を県大会まで導き、その初戦でJ中学の依田と対戦していた。

 実家である電気屋を継ぐために中学で野球を辞めるよう親戚に接突かれていたが、宅師潤一郎が総合高校野球部に就任すると聞いて高校までは野球を続けたいと電気工学科を選ぶことで折り合いを付け、両親は全力で応援してくれた。

 高校に進学してこの三年で最後と野球部に入り、名将ならではの厳しい練習メニューも歯を食いしばって耐え抜いてきた。それなりの実力はあるので注目してくれるスカウトもいるにはいたが、ここまでという覚悟がベストを尽くせていると割り切って上は目指さず実家を継ぐという意志は変えなかった。

 一年生の夏の大会から背番号四を付け、この時点で勇樹と“中西二遊間”が結成される。背番号一(エースナンバー)を付けた二階堂、背番号九を付けた依田と共に一年生レギュラーとして野球部史上最高の四回戦まで勝ち進んだ。学校内ではお祭り騒ぎとなったが、哲自身はもう少し上を目指せたと満足できる結果ではなかった。

 二年生の時は二階堂を怪我で欠きながらも安西をエースに据え、中学からの後輩である森田にマスクを被せて大会に臨んだ。柳原と大岩が交代で一塁(ファースト)を守り、中西二遊間、三塁(サード)田村、左翼(レフト)は上級生の主将、中堅(センター)群、右翼(ライト)依田という布陣で臨んだが五回戦止まりであった。

 上級生が引退して主将になり、二階堂と峰川のバッテリーが復活して秋季大会に臨んだ。空いていた左翼(レフト)に小木が入ってチーム力が格段に上がり、県大会三位通過で地方大会に進出した。初戦で名門校高原学院と当たって負けはしたが、これが大きな自信となって年が明けた春季大会でも地方大会に進出して初めて一勝をもぎ取った。

 そして最後の夏の大会は創部初の県大会決勝戦まで駒を進め、A県屈指の強豪校海洋水産高校と互角の戦いを展開している。最大五点差まで付けられて二階堂(エース)が体調不良で離脱したが、味方の奮起で九回表土壇場で同点に追い付いて延長十回終了時点でまだ決着が付いていない。

 三年振りのマウンド登板には自身も驚いたが、予想を超えたピッチングができて六と三分の二(イニング)を無失点で切り抜けられるとは思ってもみなかった。野球経験僅か二年強である峰川のリードも冴え渡り、全幅の信頼を寄せてひたすらミットをめがけて投げられたのも良かったのだろう。

 この回の守りから再び二塁(セカンド)に戻って守備に付いている。ロングリリーフで疲れてはいるが、泣いても笑っても最後となる野球人生だ。もう二度とこの体験ができなくなる哲にとって、こうしてグラウンドに立っていられるだけで幸せだと感じていた。

 だからこそ思い残すようなことはしたくない……観客席から降り注ぐブラスバンドの演奏と応援団の大声援、ベンチから聞こえてくる控えメンバーの掛け声に押されてこの舞台に立っている。勝てれば最高だけど勝敗なんかどちらでもいい、出せる力を絞り出して悔いなく引退したい。

 そんな彼の思いが通じているのか、マウンド上の安西はこの三年間で稀に見せる最高のピッチングを披露していた。延長十回裏、安打(ヒット)は許したものの調子は良いと見え、後続をきっちりと抑えて十一回の攻撃に移る。

総合高校|0010012110|6

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

海洋水産|1320000000|6


[選手交代⑥]

【総合高校】

①遊 中西勇樹(なかにしゆうき)

②二 中西哲(なかにしてつ)

③左 小木凌太朗(おぎりょうたろう)

④右 依田稔(よだみのる)

⑤捕 森田雅俊(もりたまさとし)

⑥一 大岩雄星(おおいわゆうせい)

⑦三 田村薫(たむらかおる)

⑧投 安西有(あんざいゆう)

⑨中 長嶋徹(ながしまてつ)

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