五回表 〜三ゴロ、中飛、三直〜
父の仕事の都合でA県への移住が決まって高校入試に合わせて山陰地方からやって来た倉橋爽は、宅師潤一郎の名に惹かれて総合高校野球商業科を受験することにした。少子化と謳われる昨今の中でも一学年五百人弱いるそこそこのマンモス校であるため最初は人の多さに面食らったが、部活動に入れば何とかなるだろうと、山陰のクラブチームの野球経験を活かして迷わず野球部に入った。
ところが激戦区となるA県でレギュラーの座を勝ち取るのは決して容易ではなく、郷ではちょっとした有力選手であったが全国級の実力派二階堂や依田の中に入ると平凡と言わざるを得なかった。更には小柄ながらも身体能力の高い二人の中西ほど器用でもなく、一時期は挫折しかけて退部も考えていた。
そんな倉橋に宅師は一つの特技を評価していた。彼は視野が広く、試合全体の流れを正確に把握し的確な判断をする能力を買って一塁コーチャーに指名した。
『先発出場することだけが試合に参加することではない』
そのひと言に自身の役割に尊さを見出していた。
現時点で総合高校の攻撃は本来の良さが出ていない……三回表、先頭打者二階堂が左翼前安打で一塁に出たが走行フォームが明らかに乱れていた。
「無理しすぎんな、今日は蒸し暑いからさ」
倉橋はスポーツドリンクを手渡して声を掛けると、二階堂は辛そうな笑みを見せて頷いた。次の打者である群が一回裏の失策の汚名返上とばかり右中間を破る長打を放った。ところが普段の脚力であれば確実のホームに戻れる二階堂の足取りが重すぎる。
ここままじゃ刺される……三塁コーチャー柿沼は右腕を振り回しているのを静止しなければと彼に向けて無理はさせるなと両腕でバツを作る。柿沼は相手守備の打球処理と返球の様子を確認してから慌てて両腕を前に出し、二階堂を三塁上で走るのを止めさせた。こうしてできた無死一、三塁の状況で相手バッテリーにプレッシャーを与え、四人目の打者哲のスクイズで一点を取り返した。
総合高校|00100|1
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海洋水産|1320 |6




