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七転八倒のストライカー  作者: 浅見 仁
第一章 サークル転移
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第7話 帰還と企み

俺たちは拠点の近くまで帰ってきた。もうモノリスがはっきりと見える距離まで来ていた。

帰りは素材集めを控えたこともあり、1時間かからずに帰還することができた。


(それにしても…。)

正直初戦闘やら、慣れない森の道を歩いたこともありヘトヘトだ。

一刻も早く飯を食べて、お風呂に入って寝たい気分だ。

あ、風呂なんて入れないか…。事故に遭っていなければ、今頃は飲み会をして風呂に入れていたのにな…。


ただ、休む前に分かったことについて報告をする必要がある。

今後の方針についても俺の中ではある程度決まっている。

納得してくれるかはまだ分からないが、皆に共有する必要があるだろう。


「もうすぐ拠点だ。皆もう少し頑張ろう!」

「もう疲れましたぁ〜!」

「流石に疲れましたね…。明日確定で筋肉痛ですよ。」

「俺はまだまだいけるけどな!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうして、やっと拠点に到着した。

まだ日は落ちていないが、少し薄暗くなってきていた。


「着いたー!皆ただいま〜!ってあれ…。」

「すごい。なんか色々出来てるね…。」


そう、拠点には探索に行く前に準備していた竈門の他に、

大量の湯気を発する石の箱のようなものができていた。

その隣には木を合成したであろう、用途不明のT字の板が横になって並んでいた。

さらにはいつも飲み会で死人部屋(酔い潰れた人を安置する部屋。汚れる可能性が高い。)に敷いているブルーシートが広げられ、その上にはバスから引っ張り出してきたのか、人数分以上はあろう毛布が敷かれていた。


「皆お疲れ様。探索はどうだった?」


沙也加がこちらに気づき、近寄ってきた。


「まあ、疲れたが上出来だったな。それに結構楽しかったし。」

「それならよかったわ。」

「先に成果報告の方がいいか?」

「そうね、獲ってきた物だけ説明してもらってもいいかしら?まずはそれで、ご飯にしましょう。

疲れているでしょうし、詳しい事はその後でいいわ。」

「助かる。」


俺達は籠を下ろし用意されていたござのような所に、獲ってきた物を皆に説明しながら種類別に並べた。

こうしてみると中々量があるな。

さすが7人分の籠いっぱいに獲ってきただけはある。

魚、キノコ、野菜的な植物、木の実、薬草など本当に様々だ。


皆こんなに獲れるとは思っていなかったのか、終始興奮していた。


「ーーそして、これだ!」


ドスンッ!


「「「おおおおお!!」」」


「ふふ、すごいだろ!」


うっちーさんが勢いよく取り出したのは、今回の目玉、ホルホル鳥だ。

よく血抜きをしたので、もう血は出ていない。


てか、獲ったのあんたじゃないでしょうに…。

全太郎が獲ってくれた事は補足しておいた。


「大量ね。」

「ああ、俺もこんなに獲れるとは思ってなかった。ビギナーズラックってやつかな。」

「次も上手くいくといいわね。じゃあ、次は拠点組で作ったものについて軽く紹介するわね。」


それから俺達は、沙也加に拠点の設備について紹介された。


まず、竈門だ。

探索出発前に真一が魔術で起こした焚き火を、石の土台で囲ってある。

大きな岩から『合成』により削り出したらしく、キャンプ場にあるようなしっかりとした土台で囲まれていた。もちろん空気を送る部分もあり、風香の風球により風を送り込んでいたらしい。

土台の上には石製の大きな鍋が置いてあり、中で水が沸騰していた。

竈門の近くには料理スペースなのか、複数のまな板と包丁が準備されている。


次に寝床兼休憩所、ブルーシートを敷いてあるところがそうらしい。

休憩所となるとバスの中でもよかったが、何せ少し窮屈だし、寝るには体が痛くて適さないので簡易だが作ったそうだ。ブルーシートの下には寝ても痛くないよう、先程籠の中身を並べたござを2枚かましているとのこと。

それにしても、バスの中に毛布があってよかったな。あるとないとじゃ大違いだ。

バスは30人は乗れるバスだったためか、毛布も人数分以上あるそうだ。


極め付けに、風呂だ。

そうではないかと思っていたが、やっぱりか。

サバイバル生活1日目にして風呂が手に入ってしまうとは。

テレビで見た無人島で0円で生活する番組では、風呂は大体ドラム缶だった。

しかし、これは断じて違う。

下から火を焚いてお湯を暖かくするという構造は同じだが、これは五右衛門風呂というやつだ。

下の焚き火を石の土台で囲み、それに半ば埋め込む形で石でできた長方形の風呂釜(なぜかタイル張り)が設置されている。

その風呂釜の中には、木材でできた簀子すのこが沈められている。

2人ぐらいは同時に入れそうだ。大量の湯気がもくもくと湯気が昇っていく。

必然的に高い位置に風呂釜があるので、簡易な階段も設置されていた。


「すごいじゃないか!ここまでやってくれるなんて!」

「ふふ、元々は温泉に入る予定だったのだからその目的は達成しないとね?」

「ところで水はどうしたんだ?」

「もちろん、私の魔術で入れたのよ。さわっても問題はないようだったし。」

「そうだよな、でも結構大変だったんじゃないか?」

「そうね、お風呂をいっぱいにしたところで魔力切れになったわ。

毎日は出来なそうだから、お風呂に入れるのは2日に一回といったところかしら。」


確かに17人も入ることを考えたら、お湯だって変えなくてはいけないよな。

湯船に浸かる前に体をよく洗う事は徹底しないと。


「あと、そこにあるのは衝立ついたてね。このままだと丸見えだから衝立で隠すつもり。

将来的には屋根や、脱衣所と床もタイル張りにしたいと思っているわ。」

「おお是非やろう!俺も協力するから、なんでも言ってくれ!」


沙也加もかなりの温泉好きだからな、気合が入っているようだ。

ちなみにタイル張りに見えるのは『合成』の際に模様として付けているだけらしい。

一鉄も大忙しだな。


そんなこんなで拠点の紹介が終わったので、一部の人は料理に取りかかった。

美保は疲れているだろうから、休んでいていいと言われたが『料理』のスキルを試したいとのことで料理に参加している。元々料理が好きなのもあるだろうけど。



料理ができるのを待つ間、探索組は先に風呂に入っていいということになった。

拠点組もこれだけの設備を作ってくれていたのに、申し訳ない気持ちもしたが

風呂の誘惑には勝てず了承した。


とはいえ、レディーファースト。

雫と蘭が先に入ることになった。

衝立を起こして隙間のないように並べていく。さらに上から葉っぱ付きの蔦で覆い隠した。

完全に囲んだ後、2人がタオルと桶、持参していた洗剤を持って中に入っていく。

と、思ったが蘭がこっちを振り向いた。


「ぜっっったい覗かないでくださいよ!!」


はは、やだなあ。蘭は心配性すぎないか?

衝立は隙間などなく、ラッキースケベなど夢のまた夢だ。


さて、風呂が空くまで、暇だし薪にする木でも拾おうか。



「さて、じゃあやるか。」


と、いつの間にか後ろにいたうっちーさんが呟いた。


「何をですか?」

「分かってんだろ?ーーー覗きだよ。」


この人コンプライアンスという言葉を知らないんだろうか。


「はあ…。やめておきましょうよ、今の時代覗きなんて。」

「良く言うぜ。じゃあなんでお前は木に短剣を突き刺しているんだ。それも鎧まで付けて。」

「もちろん木を切り倒そうとしてるんですよ。」

「息を吐くように嘘をつくな。お前の考えそうなことくらい分かる。」


ーー仕方ない。

俺は一旦木に突き刺した短剣を引き抜く。


「ーー話を聞きますよ。」

「ようやく素直になったか。と、その前に…。」


うっちーさんが手招きをする。

すると2人が皆の目を盗みつつ、こちらに近寄ってきた。


「もしかして、覗きですか?僕も混ぜてくださいよ。」

「(コクコクッ!)」


どちらも大2で≪ 黄術師 ≫ の工藤駿くどうしゅんと、≪ 灰術師 ≫ の山鉾陸やまほこりくだ。


「いい心意気だ。いいか作戦はこうだ。」


うっちーさんの考えた作戦と言うのはシンプルだった。

まず風呂場から見えないよう、俺が大木の後ろから短剣で手足を引っ掛けられる窪みを切り出しながら登っていく。

いい高さまで登り切ったら、太い枝にロープを括り付けて下に垂らす。

その間に切り出した窪みを使い、うっちーさんが身体能力にものをいわせ木を登る。


うっちーさんが登ってきたら、枝を伝い風呂に面するところまで、浮遊をできるうっちーさんが短剣で窪みを作っていく。

この作業は俺がやると落ちそうなのでうっちーさんにしかできない。


ちなみに、浮遊を使って木の上までいけば良いのではと思うかもしれないが、浮遊は踏ん張って飛べる足場からせいぜい3メートルほどしか浮遊できない。なので、木には地道に登るしかない。

大木の枝くらいになると、しっかり踏ん張れるだけの耐久性があるので、うっちーさんは浮遊を使い短剣を扱うことができるのだ。


そして、大2の2人はまずは見張り。

無事覗けることを確認できたら、うっちーさんがロープで登る陸を支えながら登ってくる。

陸にはほとんど身体能力に補正がないためだ。


最後に誰も周りにいないことを確認してから、駿が登ってくる。


正直特に工夫された作戦でもないが、そんな事はどうでもいい。

覗きとは時に力づくで実行するものなのだ。


「じゃあ、早速行きます。」


鎧を装着した手で短剣を握り、強めに力を込めて幹に突き刺す。

数度突き刺しては、鎧で強化された力で無理やり木を剥がしたりして、窪みを作っていく。


ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!バキャッ!

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!バキャッ!


どんどん窪みを作っては登っていく。

途中から短剣の刃がかけてきたが、替えの短剣を数本持ってきていたので、持ち替えて作業を進めていく。


「すごい執念ですね…。」

「あいつは昔からこの手の話になると、バカになると共に凄まじく集中するんだ。」

「すごい…。(尊敬の眼差し)」


繰り返す事、しばらく。

ついに丁度いい高さまで到着した。


「よし、ついた。次はこのロープを枝に通してっと…。」


ロープを枝に結びながら下を見ると、うっちーさんが窪みを巧みに使いながらクライミングしている。

かなりの速さだ。

あっという間に登ってきた。


「丁度いい高さだな。」

「じゃあ、お願いします。」

「おう、任せろ。」


うっちーさんが浮遊をしつつ、風呂を覗ける正面まで短剣で窪みを掘っていく。


ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!


しばらくすると、削り終わったうっちーさんが幹を3回叩く。

終わったときの合図だ。

俺は窪みと枝を伝ってうっちーさんの元へ急ぐ。

ちなみに、同時に風呂を覗くと約束しているので抜け駆けはない。


「(じゃあいくぞ…。)」

「(OKです。)」


小声でやりとりをする。



「「(3、2、1…)」」



クルッ!!



「「なにい!!??」」



そこには全ての男子が夢見る桃源郷がーーーー





ーーーー存在しなかった。



「そんなバカな……。」



なんとかの桃源郷は鬼の手によって占領されていたのだ。

なんと卑劣な鬼どもめ。


1匹残らず、斬り捨ててやる。



ーー要するに、衝立の中にさらに設置された、立体的な鬼の装飾が為された衝立によって、風呂釜が丸ごと隠されていたのだ。


あんなものは、俺達が衝立を並べていたときはなかったはずだ。

つまり、俺達が木に登っているときに設置されたことになる。

くそ!余計なことをしてくれたものだ。



だが、こんなことで諦める俺達ではない。


「あれを排除しましょう。」

「同意だが、どうやってどかすんだ?俺達2人には遠距離の攻撃手段がないだろ。」

「陸か駿にあの衝立のどちらかの足を狙撃して貰えば、あの衝立は倒れるはずです。幸いあの鬼の装飾のせいでバランスは悪いはずですから。」

「確かにな。じゃあ、まず陸を上げてくる。」

「お願いします。」


それからうっちーさんが陸をサポートしながら、木の上まで上げてきた。

そして、駿も自力で上がってくることができた。

今俺達は暗色の毛布を被り陸を先頭に陸、駿、俺、うっちーさんの順で、同じ枝に跨っていた。



「どうだ2人とも、ここから狙えそうか?」


先ほどから陸と駿は、土球と雷球のサイズを変えながら狙いを定めている。


「僕は射程は問題なさそうなんですけど、当てるの優先で大きくするととバレそうですね。

かといって小さくすると当たらなそうだし。」

「…射程きびしっす。期待しないで欲しいっす…。(ムムム…。)」


「駿は三日月型にしてみたらどうだ?そうすれば当てやすくなるし、焦げ跡も目立たないだろ?

陸は…しゅんが当てて脆くなった後に、なるべく自然の石っぽい形にして数で勝負だな。」

「あー確かに!形を変えればいいのか!気づかなかったなー!」

「了解。(集中…)」


駿が一足早く三日月型の雷を作り出し、鬼衝立の足へと放った。


『雷球』


バシュッ!


しかし、衝立の足の数歩手前に着弾し外れた。


「くそー、少し距離が遠いかー。」

「最初にしてはかなり惜しいぞ。」


その後3発ほど撃ち続けたところ、一発が足に着弾し、衝立の足を焦げさせた。

音でバレるかと思いきや、話し声やら料理の音で掻き消されたようだ。


これで倒れてくれることを期待したがそこまで甘くない。

焦ったくなってきた。


「責任はうっちーさんがとる!どんどん撃っていけ!」

「「了解!」」

「おい!?」


作戦をガンガンいこうぜに変更した。

MP(責任)の消費を気にせず戦う作戦だ。


そうして何発目か撃ったとき、雷球が再び当たった後、陸渾身の土球が焦げて脆くなった部分に直撃した。

見事に衝立の足を折り、鬼の装飾のせいで重心の傾いた衝立は鬼の顔を地面に付ける形でゆっくりと倒れていく。



ギ…ギギ……。

ベキベキベキ…。



ーーさあ、ご開帳だ。



俺たちは息を飲んだ。

その瞬間。



「うわっ、倒れてる!?『ツル操作』!」



2本の緑の太いツルが地面より勢いよく伸び、衝立の足に絡まるとそのまま衝立にも巻きつき支えてしまった。



「「「「はっっっ!?」」」」



俺達は全員腑抜けた声を出した。

今起きた現象が受け入れられなかったのだ。

だが、二度ある事は三度あるもの。



ベキベキベキベキベキ!!



「んっ?」



音の発信源を振り返ると、俺達4人が乗っていた比較的太い枝が、根元から今にも折れる瞬間だった。

これやばいんじゃないの?



俺は落ちながら思った。



因果応報とはこのことか、と。




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