第2話 状況確認
長いです。設定諸々
見上げるほどの大きさのモノリスだ。
5階建のマンションぐらいはあるだろう。
およそ10メートルほどあるんじゃないか?
黒い岩でできているようで、何か文字が刻まれているようだ。
まだ遠くて何が書いてあるかはわからない。
明らかにこの大自然の中で、人工物チックなモノリスは異質な様相を示していた。
「まるで、ゲームの開始地点みたいだな。ゼ○ダみたいな。」
森の拓けたスペースにモノリス、というなんとも神秘的な光景は
ゲームの1シーンを思い出させる。
とすると何かイベントが起こったりしてしまうのか?
いやそれは怖い。
狼とか出てきても対処のしようがない。せめて剣とか欲しい。
だけど、ここやたらリラックスできるんだよな、鳥もチュンチュン鳴いてるし。
人間の原始の本能ってやつだろうか。
不安は残るけど行ってみるか。
貴重な情報源になるかもしれないし。
「なんだこれ…。」
近づいて確認してみると、モノリスには自分達サークルメンバー全員の名前
が書いてあった。
「なんで俺たちの名前が刻まれてるんだ?こんな森のモノリスに。」
意味が分からない。
まるで前もって分かっていたかのようだ。
「しかも、名前があるのは今回合宿に来ているメンバーだけか。」
サークルメンバーは他にもいて、今回の合宿に参加しているのは約半数のメンバーだった。
名前があるのは今回の合宿に参加したその半数のメンバーのみ。
昨日になって急遽参加することになったメンバーもいるため、尚更こんな物を準備する時間はないはずだし、誰が参加するかなど、第三者にはわかりようがない。
(それに…。)
名前の横には1人1人、何か書かれている。
試しに自分の名前を確認する。
”古谷 纏 星導鎧師"
とだけ漢字で書いてある。
「星導鎧師」ってなんだ?
他のメンバーの箇所を見るに、ゲームの職業みたいだな。
魔法使いっぽい職業や戦士っぽい職業のメンバーもいる。
これってもしかして、異世界転移ってやつか?
最近異世界転移物の小説とかアニメはよく見かけるようになり、
俺もいくつか見たことがある。
いやでもなあ…。流石にないだろ。
大学生にもなって、異世界転生か!?なんて言ってたら笑われる。
ただ状況が状況だけにその可能性も捨て切れないけど…、一旦頭の隅に置いておこう。
判断するのは、情報を集めてからだ。
もう少し、モノリスについて調査を続けることにする。
まず触れてみる。
うん、すごく硬い。いや月並みだけど、それぐらいしか感想って出てこないだろ。
黒く若干の光沢があり、綺麗な縦長の直方体のモノリスは岩というより、鉱石でできているようだ。
なんというか、統一された材質でできている感じがする。
そこら辺に落ちていた木の棒をおもむろに拾う。
思い切り叩きつける。
いい破壊音が鳴った。
木は折れたが、モノリスには傷ひとつない。
続いて、そこら辺に落ちていた両手でようやく持てるほどの重さの石を拾う。
思い切り投げつける。
石は少し割れたが、モノリスは傷ひとつない。
相当頑丈なようだ。
それにこの大きさとなると、相当な重さになるだろう。
やはり人為的に作られた物であるとは考えにくい。
モノリスの裏に回ってみる。
正面右側には…何もないか。
裏には何か書いてあった。
『若き子ら、その名と知見によりて与へられし役全うすべし。
させば、強大なる力を手に入れむ。
こはく念ぜばその理知れむ。』
古文のようだ。
古文は高校時代受験の時に勉強したきりだが、幸い難しくない文章だ。
つまり、「名前と経験によって与えた職業で努力しろ、そうすれば強大な力を得られるだろう」って意味だろう。
そのあとは強く念じればその理を知ることができると。
その理とは職業の内容といったところか。
…本当だろうか。
試しにやってみるか。
強く念じるって職業の名前でも頭の中で叫べばいいのか?
そもそも読み方も分からん。「せいどうがいし」でいいのか?
よーし。
(星導鎧師!!)
ピロン!
職業:≪ 星導鎧師 ≫
スキル:部分鎧化
「うおっ!!」
頭の中に文字が出てきた。
スキルに部分鎧化、か。
見た感じ鎧を身に纏える能力のようだ。
「部分鎧化!!」
口に出して唱えてみた。
するとブウウンという機械音ともに、手が眩しく発光しだした。
さらにサーバーが起動するような音とともに、鎧のような物に手が覆われてゆく。
光が収まると、両手が指の先から手首までが近未来の機械のような鎧?で覆われていた。
暗めのグレーの装甲に、紫のアメジストのような結晶が手の甲と指の付け根の関節に付いている。
正直かなりかっこいい…。
(ってまじか!試しに唱えてみただけだったのに!)
冗談半分で、念じるともに口に出してみたのだがあっさり成功してしまった。
不思議なことに手に非常にフィットしており、手を握ったり、開いたりしても非常に滑らかに動く。
素手のため、擦れたりするんじゃないかと不安だったんだが。
(これでほぼ異世界であることが決定した訳か…。)
もちろん他の可能性もない訳じゃない。
世界が突然変わってしまったとか、実は極秘の人体実験とか。
しかし、これほどのことが起きているんだ、異世界にきてしまったと思い行動した方が良いだろう。
予想外のことが起きた場合には最悪の事態を考えて行動した方が、危険が少ないのだ。
とりあえず、みんなを起こそう。
話はそれからだ。
バスに戻ると、雫が起きて立ち上がり外の様子を見て唖然としていた。
ちなみに鎧は解除してある。解除と念じると解除できた。便利なことだ。
「先輩!外にいたんですね!…一体私たちどうなったんですか?」
雫は不安そうに聞いてきた。今にも泣きそうだ。
事故を思い出しているんだろうか。
「分かっている事もあるが、詳しいことまでは分からない。
説明するから、一旦皆を起こそう。協力してくれ。」
「…分かりました。皆生きてますよね…?」
「ああ。俺が確認した時は皆息をしていたし、おそらく気絶か寝ているだけだ。」
「よかった…。」
「雫は女子を起こしてくれ。男子は俺がやる。」
そうして雫とみんなを起こしていった。
蘭は
「ん…もうちょっと寝る…。」
などと言っており気絶というより、完全に寝起きだった。
うっちーさんは起きてから、
「うん?なんだ、もう着いたのか?」
と自分に聞いてきた。
「いや事故にあったじゃないですか。」
「おお!そうだった。」
この人マジか。
一鉄こと、小島 一鉄にも声を掛ける。
「ほれ、一鉄起きろ。」
「んあ…。…あれ俺たちどうなったっスか?」
「話はあとだ。」
一鉄は1年生の後輩気質なやつだ。
そうして全員を起こした。
仕方がないが、皆起きると動揺していた。
「うわ、ここどこだよ!」
「事故ったはずだよね!?なんでうちら平気なの?」
「事故ったてゆうか。崖から落ちた。無事なはずない。」
「外に出てみましょうよ!めっちゃ森ですよ!」
「おお、すごいな!出てみよう!」
1人まだ旅行気分の奴がいるな。そして乗るな内田。
「皆!動揺するのもよくわかるけど、状況を軽く説明するから一回話を聞いて欲しい。」
そう皆を諭すと静かになっていった。
一応このサークルでは幹部をやっているので、いつも通り皆言うことを聞いてくれる。
「俺は皆より30分前ぐらいに起きて、色々調べてたんだ。
それで分かったんだけどーーー。」
それから俺は皆に分かっていることを説明した。
・確かに事故は発生したはずで、今のこの状況はあり得ないということ。
・携帯はつながらず、運転手もいないこと。
・外は見渡すかぎり森であること。
「そしてこれが一番大事なことなんだけど、今いるここは異世界じゃないかと思ってる。」
「異世界?」
「フフ、異世界って流石に…。」
「流石にそりゃないんじゃないか?」
「先輩ってば、冗談ばっかり!」
「まあそうだよな…。詳しいことは今言っても信じてもらえないだろうから、ある物を見てもらってから説明したいと思う。皆外に出てくれ。」
そしてぞろぞろとバスから降りる。
バスの裏に周り、モノリスの前に皆を連れていく。
名前 職業
内田 金太 ≪ 超人 ≫
清水 沙也加 ≪ 青術師 ≫
宮島 美保 ≪ 料理人 ≫
重田 遥 ≪ 多重結界師 ≫
加藤 真一 ≪ 赤術師 ≫
古谷 纏 ≪ 星導鎧師 ≫
水瀬 雫 ≪ 戦乙女 ≫
桃ノ木 蘭 ≪ 植物博士 ≫
上野 柑奈 ≪ 獣拳士 ≫
工藤 駿 ≪ 黄術師 ≫
山鉾 陸 ≪ 灰術師 ≫
安森 全太郎 ≪ 探索士 ≫
倉持 風香 ≪ 緑術師 ≫
小島 一鉄 ≪ 合成士 ≫
羽賀 和也 ≪ 剣豪 ≫
壁山 修 ≪ 重戦士 ≫
三谷 奈緒 ≪ 聖女 ≫
<学年記載ver1>※モノリスには記載なし
名前 職業
<大学4年生>
内田 金太 ≪ 超人 ≫
<大学3年生>
清水 沙也加 ≪ 青術師 ≫
宮島 美保 ≪ 料理人 ≫
重田 遥 ≪ 多重結界師 ≫
加藤 真一 ≪ 赤術師 ≫
古谷 纏 ≪ 星導鎧師 ≫
<大学2年生>
水瀬 雫 ≪ 戦乙女 ≫
桃ノ木 蘭 ≪ 植物博士 ≫
上野 柑奈 ≪ 獣拳士 ≫
工藤 駿 ≪ 黄術師 ≫
山鉾 陸 ≪ 灰術師 ≫
安森 全太郎 ≪ 探索士 ≫
<大学1年生>
倉持 風香 ≪ 緑術師 ≫
小島 一鉄 ≪ 合成士 ≫
羽賀 和也 ≪ 剣豪 ≫
壁山 修 ≪ 重戦士 ≫
三谷 奈緒 ≪ 聖女 ≫
「おいおい、なんだよこれ…。」
「なんで私の名前があるの?」
「魔法でも使えるのか?」
「このモノリスを見て欲しい。名前の隣に職業が書いてあるだろ?
この通り、俺たちはその職業の力を引き出せるみたいなんだ。こんな風に。」
俺は頭の中で念じ、部分鎧化をする。
突如手に現れた鎧を見て、皆は空いた口が塞がらないようだった。
それにしても最初ほどの光は出なかったな。あれは最初だけの演出なのか。
「「「マジ(かよ)(ですか)(で)…。」」」
さっきは気づかなかったが、力が漲ってくる感じがするな。
細い木なら、殴れば折ることは難しくなさそうだ。
鎧を解除する。
「このモノリスもそうだが、この能力からもわかる通り、ここは日本ではなく異世界の可能性が高いと考えた訳だ。納得してもらえたかな?」
「確かにな…。」
「こんなの日本じゃあり得ないし…。」
「そう考えるのが妥当よね。」
「ーー納得なんてできないです!異世界ってことは、結局私達は死んじゃったってことですか?もう家族には会えないってことですか!?」
「みっちゃん…。」
1年生の三谷奈緒が涙ながらに叫ぶ。ちなみに奈緒の職業は≪ 聖女 ≫だ。
雫が心配そうに呟く。
「…ごめん、少し無神経だった。
ただ現段階では異世界の可能性が高いってことだ、そうじゃない可能性もある。
俺達が死んだから異世界にくることになったのか、異世界だとしても帰る方法があるのかもまだ分からない。
これから調べていかないとな。
まあつまり俺が言いたいのはどんな危険があるか分からないから気をつけて欲しいってことだ。
みんなも心に留めておいて欲しい。
」
「ヒック…すみばせん。先輩も分からないことだらけなのに。」
「いいんだよ。ほら鼻水拭け。」
「テッシュ持ってばす…。」
ハンカチを差し出したら、断られた。
意外と大丈夫そうか?
SNSも家族の写真をしょっちゅうあげてる娘だから、家族に会えないのは辛いだろうな。
その湿っぽい雰囲気を掻き消すかのように声がした。
「おお!浮いたぞ!」
「すげえ!どうやったんですか!」
「スキルを念じたらできたぞ!」
突然うっちーさんが浮いていた。
その側には≪ 黄術師 ≫の工藤 駿がいる。
確かうっちーさんの職業は≪ 超人 ≫だったか。
念じたらできたって、順応速すぎだろ!
「わあ!沙也加さんすごい!」
「纏くんの発動の仕方を見ての、推測だったけどこんなに簡単とはね。」
こっちでは≪ 青術師 ≫の清水 沙也加が水の球を手のひらの上に作り出していた。
流石は国際学科の特待生、清水 沙也加。
スキルの発動を見ただけで発動方法まで理解するとは。
「皆自分の職業が気になっているだろうから、一旦職業確認の時間にしよう。いいかな、真一。」
ここでサークルの主将の加藤 真一に確認をとる。
今まで空気にしてしまったが、基本的にサークル活動では指揮は俺か真一がとっていた。
ここらで役割を交代しておこう。
「ああ、大丈夫だ。俺も早く魔法が使ってみたいしな!
よし、1時間ほど職業確認の時間にしよう。その後皆で職業の詳細を共有することにしよう。」
「オーケーだ。じゃあ皆、モノリスの裏に回ってくれ!そこに発動方法が書いてある。
教えられる人は発動方法を教えながら、職業を確認しよう。」
「「「は〜い。」」」
一波乱あったものの、職業についての検証が始まったのだった。
美女サークル