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第1話 双腕重機大地に立つ 〜その2

長らくお待たせしており、恐縮です

救出作戦の開始です。

ーーーー

以下前話を修正しました。話の本筋には変わりはありません。

金額ベースで考えると大盤振る舞いすぎるので供与したボートの数を60→40に、ツェリンナートにある数を32としました。

また隊員の数が合わないので

先頭の5艘は陸自の戦闘強襲偵察用舟艇で鏑木の偵察班が舵を→自衛隊員が舵を

としました

 25艘のゴムボートが夜の海をツェリンナーモ島へ突き進んでいる頃、俺はというとツェリンナーナ島のニノ村を即席で砦化する工事に勤しんでいた。今日は月の出が大きい月が24時と小さいのが2時と遅いので、それまでは真っ暗闇だが、このニノ村の現場だけは投光器のおかげで昼間のように明るかった。

 最終的には足場用の鉄パイプやアルミの足場板やら、プレハブの材料やらで巨大な柵にしたりして、一端の砦を作るわけだが、今日のところは堀を掘ったり、基礎を作ったりと、まあ、俺たちらしい作業に勤しんでいた。

 問題は時間がないことだ。猶予は4日というのが作戦会議?が導き出した日数だ。


 ツェリンナーモの救出作戦が上手くいって、クムル兵に見つからずに脱出できたとしたら、クムル国の連中の捜索には2日はかかる。そこで村民が逃げたと気づけば、半日後にはこのツェリンナーナ島に一直線に追ってくるはずで、その到着が4日後ということだ。それまでに突貫工事でこのニノ村の工事を完了しなきゃなんない。


 ふとした作業の合間に、暗い森越しに広がる降るような星空を眺めながら、アイツら上手くやってるかなあ、とツェリンナーモ救出組の事を考えていた。特に我が班の秘密兵器の取り扱いのために同行した奴ら、危ない目に合わずにしっかり役目を果たせよと、せめてバカやるなよと祈るばかりだ。


 ◇◇◇

 そんな俺の心配をよそに、ツェリンナーモ救出組は淡々と作戦通りの鼓動をしていた。島に近づくと先頭の一艘が左へターンを切り、岩場に囲まれた小さな浜辺に向かう。

 その後ろにいたもう一艘が大きく右へ舵を切り、島の反対側を目指して行く。他の23艘は島の断崖絶壁の岩場へと直進する。


 浜辺に着いた陸自の戦闘強襲偵察用舟艇から、わらわらと偵察隊の面々が降り立つ。全身黒づくめの偵察隊員たちの中に、一人だけ長髪で小柄な人物がいる。

 少々合っていない黒い34式鉄帽(テッパチ)を被っており、その横ちょから長い耳が飛びたしている。よく見れば、彼は上半身は防弾チョッキをつけているだけで、下半身も黒い半ズボンを履いているだけ。他は自前の黒いビロードのような毛皮なのであった。彼は名をスブーと言うプラトムの青年で、鼻と耳が村一番利くということで、斥候役を買って出たのだ。


 スブーは鏑木隊長のハンドサインにこくりと頷き、腰の金具にロープを結びつけると、目の前のほぼ垂直の崖をこともなげに登り始め、ものの5秒ほどで25mはあるだろう断崖を上り切ってしまった。

 スブーが固定したロープを使って百瑛ももえい三尉がスルスルと某アメコミの蜘蛛男ヒーローのように絶壁を登っていく。百瑛に続いてもう1人が同じように崖を登って行った。

 彼らが登った先にはこの島の最高点があり、島全体を一望できる。3人は配置につくために急いで、だが静かにその場所を目指した。


 一方、鏑木隊長と残りの2人は砂浜の左側の崖を海沿いに進んでいく。ヴィーネの情報と島の3Dデータで予習済みだったのが功を奏して、比較的労せず目的の小高い場所に到達した。そこは一本ぽつんと樹が生えた小さな広場のようになっており、目の前の深く抉られたような大きな入江を挟んで、クムル国の連中が上陸した浜辺を望むことができた。


「奴ら宴会してるみたいですね。」三枝さえぐさ京也きょうや曹長が双眼鏡を覗きながら呆れたように言う。


「ああ、奴らにとてはこの島の住民は動物と同じなんだろうな。狩って当たり前、殺しても構わない・・酷いもんだ。」と鏑木も双眼鏡を覗きながら言う。彼の目には住人を的にナイフ投げをしている連中が映っていた。「下衆が・・・。」


コマンド・モーター(60mm迫撃砲)持って来りゃ良かったっすね。ここからならギリ届くんじゃ」ドローンの準備を終えた三雲みくも駿しゅん一曹がプロポ(送信機)を操作しながら言う。


「それじゃただの襲撃だから。船の連中まで動いちゃうからダメに決まってんだろ。」と三枝。


「それでこいつの出番と。」と三雲が言うなり4枚羽根のドローンが飛び立って行く。


「天幕はここから見えるのは8つだな。」と鏑木が言うと「ドローンが死角に差し掛かるっす。」と三雲が答える。


「ここからの死角に5基有るっすね。こいつらに仕掛けますか。」


「そうだな。3個仕掛けて引き上げてくれ。」


「了解っす。」


 そう言うと三雲は慎重にドローンを操作し始め、ある天幕の上でホバリングすると期待の下のフックにかけられていた四角い箱状のものを天幕の天井に落とした。

 同じ操作を次の天幕、一つ飛ばしてもう一つの天幕と同じ操作をする。最後の天幕では箱が屋根から滑り落ちてしまったが、場所を確認すると天幕の裾の辺りに落ちていたので、それでよしとすることにした。


「ほい。見つからないうちに撤収っと。」とドローンを元の場所へともどす操作をする。


「さて、仕掛けは上々。あとはあっちの連中が配置についたら状況開始だな。」

 と、そこに百瑛からの通信が入る。


「こちらフォックス2、配置についた。登ってくる連中が居る。数は・・・・4。」



 島の裏側の方へと登って来るクムル兵を真っ先に見つけたのはスブーだった。

 暗視装置をつけた百瑛たちが見つけるのよりもはるかに早く「あっちから4人来る」と言ってのけ、しばらくするとスブーのいう通り、松明を持った4人の兵士が登ってきたのだった。

 百瑛とかけい二曹には全く聞こえなかったが、スブーによれば完全には聞き取れないがゴニョゴニョと談笑しながら、だらだらと登ってきているようだった。


 百瑛たちが陣取った際頂部は3m四方ぐらいの広さの平らな地形で、人の背ぐらいの高さの草が生え、身を隠すにはうってつけだった。そこにシートを敷いてスブーが指示する島の反対側への登り口を監視していたのだ。


 百瑛は準備していたTAC-50対物狙撃銃を構える。隣にはスポッターの筧が片膝をついて座り、スコープを覗きながら風向きや目標との距離などを百瑛に伝えて行く。


「風は3m、2時方向から8時方向、目標との距離830m。」


「向かい風か。OK。」百瑛はインカムを切り替え「フォックス1へ、状況開始とともに敵を排除する。開始の合図よろしく。」


「了解した。」と鏑木が短く返信した。



 鏑木が「あっちの連中」と呼んだのは右に大きくターンを切って島の北側へと回り込んだ戦闘強襲偵察用舟艇の連中のことだ。


 彼らのうち4人は真っ黒なウェットスーツに真っ黒なベスト状の浮力調整装置(B C)、真っ黒なゴーグルに真っ黒なグローブ、真っ黒なブーツにフィンという黒ずくめのフロッグメンで、あとの1人は鏑木たち同様に黒ずくめの戦闘服でボートの舵取りをしている。


 目標の龍母艦から400mばかり離れた岩陰にボートを隠すと、上半分が濃紺色の水中スクーターを静かに下ろし、フロッグメンの面々も水中へと姿を隠して行く。4人は水中スクーターに捕まって、水中を静かに龍母艦へと向かう。


 龍母艦につくと、まずは1人が舵とスクリューの付け根に爆薬を取り付ける。1人は船底の何ヶ所かに爆薬をとりつけに行き、あとの2人は水中スクーターで島とは反対側の左舷側の真ん中やや船尾寄りの場所に行くと、喫水より幾らか下をドリルで穴を開け始める。

 事前の調査通り、龍母艦は元々は木造船で、舷側などを鉄板で補強していたが、それは吃水線より上だけだった。


 穴が貫通するとすかさずシリコンのキャップをはめ、そこにファイバースコープを刺し入れる。2人はファイバースコーブが映し出すモニターで中を確認する。

 真っ暗かと思って暗視モードにしていたが、微かに明かりがあるらしく、すぐに高感度モードに切り替える。そこは大人がやっと立ってられるぐらいの天井の低い、特に仕切り壁もないだだっ広い船倉のようだった。

 モニターには驚いて後退るプラトムの人たちがやや遠巻きに映し出される。そりゃそうだろう、壁からいきなり黒い紐のようなものが出てきて、まるで生き物のようにあっちこっち首を振ってたら、大概の人はびっくりする。


 それを見るなりもう1人はBCとタンクを外して浮上し、ファイバースコープの真上の吃水の少し上あたりに、紐状の爆薬を貼り付け始め、人が1人が楽に通り抜けられそうな角丸の矩形にする。貼り終えると今度はナイフの柄の部分で、リョージャから教えられていた符丁でその真ん中あたりを静かに叩いた。


 プラトムの人たちは耳がシクトスの何十倍も鋭い。ごくごく小さな音も聞き分けられると言う。果たして、中に囚われている1人が壁を叩く音に気が付き、その場に捕まっているみんなを音がしたあたりから遠ざけた。

 漁師たちは声を掛け合うか代わりに船のヘリを叩いたりして合図を送るのだが、モールス信号のような感じでリズムをつけて叩くことで、危ないとか、集まれとか、助けてなどの意味のあることを伝える符丁があるのだ。


 それをファイバースコープ越しに確認した隊員が無線で鏑木に準備よしと短く伝えた。それと同時に爆薬を仕掛けた隊員が顔と片手の点火装置を水面に出して船尾の方へ退避する。


「フォックス2へ。5秒後に状況開始する。」インカムに向かって鏑木はそう言うとそのままカウントダウンを始める「それじゃあ、おっ始めよう。5、4、3、2、1、三雲、派手に行け。」三雲に指示する。三雲は「点火」と静かに言いながら点火スイッチを順にタッチした。



 天幕に仕掛けた箱がパンと弾けて油を撒き散らす。ついでパンパンと派手に花火に火が付く。シューという音とともに打ち上げ式の花火が上がり、パーンという音とともに小さな花が開く。


 そんなことが三つの天幕で次々に起こり、天幕にも火が移り燃え広がる。あたりはそれこそ蜂の巣をつついたような騒ぎになる。敵襲〜と叫びながら飛び出してきた兵士もいる。中には下半身が裸のものもいた。



 その騒ぎが始まると同時に、フロッグメンの1人が点火ボタンを押す。指向性爆薬のジェット噴流が20mmほどの鉄板とその内側の木材を一瞬のうちに焼き切ってしまう。

 フロッグメンはすかさず焼き切った鉄板に吸盤式のグリップを取り付けそのまま中へと押し込む。そしてそのまま滑り込むように暗い船の中に入り込んだ。


 黒づくめの怪しげな人影に村人たちは後退る。フロッグメンの人はゴーグルと頭を覆っていたウェットスーツの頭巾を外して、茶髪の頭を手でバサバサっと掻くと私はいい人ですよとばかりにニカっと笑って見せた。

 が、残念なことにそれを見ても村人たちは緊張を解かず、遠巻きにしている。


「ここには何人いますか」とフロッグメンが問うと、やっと1人のプラトムの女性が前に出てきて「40人ばかりが捕まっている。まだおかに5〜6人捕まっている。」と答えた。


「その人たちはこの船が移動するときには、ここに戻されますか?」


「だといいが。わからない。私らの代わりにひどい目に合っている・・・。」


「それは・・・、すみません・・・。では、今ここに動けないような怪我の人などはいますか?」


「動けないものは辛うじていない。」


「泳ぐのに支障のある人はいますか?」の問いには「いない。」とだけ答えた。


「えーと、4日後にこの船は間違いなくツェリンナーナ島のそばに移動します。その時に船底を爆破してこの船を沈めるので、この脱出口から逃げてください。また迎えにきます。それまでは何かでこの穴を隠しておいてください。」と伝えると皆がこくこくと頷く。


「ではまた4日後に会いましょう。」と言って脱出口から出て行く。

 プラトムの青年から鉄板を受け取ると、防水テープで止める。中では捕まったプラトムの人たちが焼き切れた木材を鉄板の内側にはめ込んで、隅にあった藁束を積み上げて穴を隠していた。



 同時刻、花火が上がるのと同時に百瑛のTAC-50対物狙撃銃が火を吹く。標的となったクムル兵のうち先頭を進んでいた兵士の頭が文字通り吹き飛んだ。崖の小さなギャップを丁度登ったところで被弾したため、そのまま崖下へと落ちていった。

 後続の3人は何が起きたの分からないまま、崖下を覗き込んで、おーい大丈夫かーなどと叫んでいた。松明に照らされた彼らは格好の的だった。


 2人目の頭をスコープの中央に捉えると、百瑛は静かにトリガーを引き絞る。轟音がして耳を塞いでいたスブーが1発目同様にまたしても飛び上がる。

 2発目は2人目の兵士の首のあたりに当たり、哀れな彼の首を吹き飛ばすと勢いそのままにその後ろの3人目の兵士の肩にめり込み、その肉を大きく抉りとる。


 百瑛は容赦なく3発目を悲鳴をあげてのけぞる3人目の胸にお見舞いする。胸に命中した12.7mm弾はその強大な破壊力で肋骨や肺を砕き、背中に大きな穴を開けた。


 その様子に慌てて背を向けて逃げ出した4人目は、その後頭部に百瑛の弾を受けて、やはり頭を吹き飛ばされて絶命した。


 スブーに後続がいるか確認してもらうと、2km以上先にはいるみたいだが、登ってきているものはいないと言う。

 よくそんな遠くのことがわかるなと思った筧が尋ねると、爛々と光る目を向けて「向かい風だから音も匂いもよくわかるよ。」と無邪気に答えた。


 百瑛はその姿を見て、怖えーよと思ったが口にはしなかった。

「撤収するぞ。」と筧とスブーに声をかけ、敷いていたシートやらを片付け始めた。



 そんなことが一方で行われている少し前。

 洞窟の救出班はというと、()()新城戸めぐり二曹の指導の元、我が安室班の秘密兵器「めぐりんの海中散歩マシーン1号」(本人命名・あー恥ずかしい)の設置を急いでいた。

 この海中散歩マシーン1号は、強いて言うならビニールの透明な巨大な浮き輪状のバルーンを管状に繋ぎ合わせて、台形の長い方の底辺をとっぱらってひっくり返した形にしたもので、全長が9mほどで両端には直径1.2mほどの球状のバルーンがついているという代物だ。もちろん空気さえ抜いておけば、そこそこコンパクトにはなる。


 泳げない新城戸が、どうしてもサンゴ礁を間近に見たいと駄々をこねて俺に迫ってきたので、泣く泣く制作することになった逸品である。無論安室班の名誉にかけて半端なものは作れないので、ガチでしっかりしたものを作ったのはいうまでもない。が、透明なビニールではくっきりとは海中を見ることができなかったのでめぐりさんには不評だったことを付け加えておく。余談だが今は2号(頭からスポッと被るタイプの釣鐘型潜水器みたいなもの)がもっぱら活躍している。


 少しばかり時間は前後するが、フロッグメンが海中の洞窟を通って鍾乳洞の中のプール状のところに顔を出した途端、それを見つけた子供がまず悲鳴をあげた。

「きゃー、なんか来たーー」

 あとは口々に悲鳴ですよ。逃げ延びてきた隠れていたツェリンナーモの人たちは一瞬にしてパニックになった。


 そりゃま、そうだよね。真っ黒な海坊主みたいなのが、急に水からぴょこんと顔を出したらそりゃ怖いよな。


 直後にツェリンナートのイケメン漁師さんが水から上がって、

「みんな助けにきたぞ。この怪しい人は自衛隊の人だ。助けてくれる。」

 と伝えるとどうにかその場は収まった。

 怪しい人呼ばわりされて、微妙な顔をしていたフロッグメンの人も水から上がり、ゴーグルやレギュレーターを外して、変な人じゃありませんよアピールをしつつ、「泳げない小さい子供や赤ちゃんはいますか?、泳げない人はいますか?後、長く潜れない人はいますか?」と大きな声で尋ねる。

 すると子供や赤ん坊を抱えた母親らしき人が何人か手をあげる。他にも逃げる時に足を痛めた人や、まだ長く潜れないと手を上げた子供たちもちらほらいる。


 そうこうする内に他のフロッグメンが「めぐりんの海中散歩マシーン1号」(くどいようだが本人命名)の空気がまだ入っていないペシャンコの片方の端を持って鍾乳洞内に入ってきた。

「目一杯引っ張ってギリギリだな。」

「よーし、空気入れるぞー。」2人のフロッグメンな自衛官がそんなやりとりをした後に、見る見る空気が入って、海中散歩マシーンがむくむくと本来の形になって行く。


 それを横目に次々と泳げると言った村人たちが水に入って、洞窟プールの端まで泳ぐと、海中に潜って行く。途中途中にフロッグメンがいて、問題ないかチェックしながら出口へと誘導してした。

 村人の子供の1人は途中で息が切れそうになったが、それを見つけたフロッグメンな人が駆け寄って、もとい泳ぎ寄って、予備のレギュレーターを咥えさせる。

 無理に息を吸い込もうとしている子供の目の前で、そうじゃないと手でジェスチャーすると、派手に息を吐いて見せる。ぶわーっと泡が出る様子を見た子供が同じように真似をすると、不思議とすうっと空気が肺に入ってきて息苦しさがなくなった。

 銀色の毛並みのその子供はレギュレーターを外してニコッと笑って、親指を立てて見せると、出口へと悠々と泳いで行った。

 子供は真っ暗な外の海に少し躊躇したが、ボートから下ろされた灯りに向かって懸命に泳いだ。ほんの2mほどの距離が永遠のように感じたが、どうにかたどり着いて、ぷはーっと息を吐きながら浮き上がると、先にたどり着いていた大人たちにボートに引き上げられ、ボートの自衛隊の人にライフジャケット着せられた。


 そんな風に次々と村人がボートに拾い上げられて行く。

 ボートが助け出された村人で一杯になると、そのボートは静かに動き出し、ツェリンナート沖に停泊中の貨客船へと向かうへと向かう。


 脱出が始まってしばらくすると、山の上から大きな銃声が響く、その直後に遠くから花火の音がしはじめた。

 ボートの村人たちは不安げにその音を聞いていた。


 泳げる人たちが半分ぐらい脱出した頃になってようやく「めぐりんの海中散歩マシーン1号」(現在ドヤ顔で指導中の本人命名)での脱出も始まった。

 予想以上に距離が足りず、急遽予備で持ってきていた小さなレジャーボート (安室班所有)を洞窟内のプールで膨らませて、4人ずつ乗せて岩場からマシーンの入り口までの移動となった。


 思った以上に狭いビニールのトンネルの中を、進むのは意外と骨が折れるものだ。ましてや赤ん坊を抱っこしてでは尚更である。

 まずは最初の斜面を降りるのでさえ、赤ん坊を抱っこしていると躊躇してしまい、ゆっくりと出っ張りに足をかけながら降りることになるし、水平部分にたどり着いても、立ち上がるほどの高さはないので、赤ん坊を抱えて四つん這いで進むことになる。


 ある母親は途中で赤ん坊を落としそうになり、体を捻って倒れ込んで事無きを得たものの、そのため後ろが支えて、しばし渋滞が起きてしまった。

 さらに最後の上りがまた地味に大変で、上から垂らされたロープを掴みながら登るのだが、やはり片手でローブ、片手で赤ん坊では大変で、ここでも渋滞が起きていた。



 脱出に予想外の時間がかかっていることに、些かの焦りを感じ始めている時に、見張りの鏑木から嫌な通信が入るのだった。


「こちらフォックス1、右手よりカッターが3艘そちらに向かっている。作業いぞがれたし。」


 敵さんにも目端の効く奴がいたようだ。12人で漕ぐカッターなら、5ノット近くは速度を出せる。30分もすれば救出現場を目視できるところまでやってきてしまうだろう。

 なかなか面倒なことになったぞと思いながら鏑木たちは山を降りて行く。


「フォックス2へ、上から狙えるか?」


「最初の岩棚に到着。このあたりから狙えるか確認する。」

 百瑛は崖の端まで行ってみたが、樹木が邪魔でうまく狙えそうもない。

「ここからは無理だ。いったん降りる。」


「こちらに登る途中から狙えそうな岩場があった。我々は戦闘強襲偵察用舟艇で連中の方に向かう。援護頼む。」


「了解」


 鏑木、三枝、三雲の3人は戦闘強襲偵察用舟艇と言う名のゴムボートに乗るとクムルのカッターの方へと全速で向かう。

 かたや百瑛たちも鏑木たちと入れ替わりに海岸沿いの崖を駆け上り、カッターを狙えそうな岩棚へと足を進めるのだった。


 鏑木たちがようやくカッターを視界にとらえる頃に「こちらフォックス2、配置についた。」と桃英から連絡が入った。


「ではこっちも始めるとしようか。」

 鏑木は舵を取る三雲に「距離をとって攻撃する。速度は全速力でいいが、150mより近づきすぎないように気をつけろ。」と指示を出す。

 三雲は了解というとボートの速度を上げた。


 クムル兵が持つマスケット銃の有効射程はせいぜい100m。対して鏑木たちが持つ37式小銃は、PDW(個人防衛火器)型に改造したタイプとはいえ、有効射程は250mを超える。ヘッドマウントディスプレイと連動した照準器のおかげで、闇夜でも問題なく目標を捕らえることができる。


 鏑木たちのボートが3艘のうち先頭を行くクムルのカッターにあと300mのところまで近づいたとき、その先頭のボートの指揮をしていた兵士の頭が吹き飛び、その体は勢いそのままに海に落ちた。直後、島の方から銃声が響く。

 漕ぎ手の水兵たちはそれを目の当たりにして恐怖する。彼らは狙われていることに気がついたのだ。


 そうして怯んだ隙を狙うかのように鏑木と三枝が37式の5.56mm弾をこれでもかとボートに撃ち込む。何人かはオールからマスケットに持ち替えて反撃しようとしたが、暗い上に距離がありすぎて狙いたくても狙えない。闇雲に音がする方に撃つしかできないのだった。

 クムル兵からすれば、変な音とともに何かが近づいてきたと思ったら、1個小隊よりも多い弾数の銃弾を浴びせられるのだ。はっきり言って訳がわからない。まさに悪夢だ。


 一番後ろを進んでいたカッターは。自分たちでは対応ができないと判断したのか、逃げることに決めたと見え、方向を変えて戻ろうとし始めていた。


 2番目のカッターは全員が身を低くしてマスケットを構えて臨戦態勢だった。

 が、いきなり船の横っ腹に穴が空いた。立て続けに人越しに、と言うか兵士ごと船が射抜かれて行く。5発目を食う頃には浸水が激しく、沈むのは時間の問題となっていた。


 鏑木たちは往復しながら1番目のカッターを蜂の巣にしていたが、4往復目で打ち止めとしてその場を後にした。その頃には3番目のカッターはもう見えないぐらいに遠くまで逃げてしまっていた。


 ボートの音が去って行くと、2番目のカッターで生き残った連中は次々と海に飛び込み、銃痕だらけにはなっていたものの、どうにか浮いている1番目のカッターへと泳いでいく。

 死体はその場で海に投棄され、生き残った者たちはどうにかオールを持って元来た方へと漕ぎ出すのだった。


 鏑木たちが上陸した浜辺に戻って百瑛たちを収容した頃には、鍾乳洞に隠れていた島民全員の脱出も終わり、ちょうど最後の避難民を乗せたボートを送り出したところだった。

「めぐりんの海中散歩マシーン1号」(現在焦り顔で撤収が進まない言い訳中の本人命名)の撤収に手間取っていたが、・・・と言うのも、空気を抜くのに予想以上に時間がかかり、さらにたたむのも大変だったのだが、どうやらこちらも終わりが見えてきたので最後まで現場に残った自衛隊の面々もほっと胸を撫で下ろしていた。


 撤収作業が終わって最後まで残った3艘が帰路に着く頃になって、ようやく東の空から大きい方の月が登ってきた。3艘のボートは月の光に導かれるかのように、東の方へと帰って行くのだった。

 三枝が知ってか知らずか「シャララーラ、シャラララーラ」と昔の歌を口ずさむ。その歌のタイトルの通り、彼らは正しく日曜日の使者だった。



 ◇◇◇

 クムル兵たちが上陸している浜辺の村では、ようやく火事も消し止め騒ぎは収束し始めていた。

 下半身を放り出して這々の体で天幕から出てきた、この奴隷狩り隊の指令官を、早くその粗末なものをとっととしまえと言わんばかりに、その男は冷ややかな目で見下ろしていた。


 彼はこの隊の副官をしており、装甲機帆フリゲート「聖なる光」号の艦長でもある。彼はここで行われている野蛮な行為には面と向かって反対はしないが、否定的な考え方の持ち主であった。

 したがってプラトムたちをいたぶることに恍惚とする隊長を、心の底から軽蔑していた。


 そこへ、偵察に出したカッター が戻ってきたと報告が入る。

 一艘が銃痕で穴だらけになっているのを見て、戦艦ででも攻めてきたのかと問うてみたが、遠すぎてわからなかったと言う。少なくともそんな大きな船ではなかったと。


「これでは40人の銃士が一斉射撃をしたようでは無いか」

「音を聞く限り、とても速く移動しているようでした。人数までは全く・・・。それに大砲のようなものでも狙われて、一艘は沈められました。」


「解せんな。それほどの戦力ならここを攻めて来ても良かろうものを。」


 副官は何か閃いたのか、指令官に進言する。

「隠れた連中はすでに島を脱出したものと思われます。山狩りは早々に切り上げてツェリンナーナに向かいましょう。奴らはそこに行くしか無いのですから。」


「しかし」と司令官はぐずぐずと納得しない。「確証がないのではのう。子供がのう・・・。」


 子供だと・・・・

 その反応に怒りを覚えつつも顔には出さない。淡々とした調子で「では、山狩り班はそのまま置いていきましょう。往復で10日もあれば戻って来られるでしょうから。」


「いや、それでは。戦力が・・・」とまた難る子供のようにブツクサという。


「わかりました。それでは山の中腹まで登っている捜索隊から4〜5人先行させましょう。潜んでいる村人を見つけたら白い狼煙をいなかったら赤い狼煙をあげさせるのです。白ならそのまま捜索隊に捕まえにいかせましょう。赤だったら、中腹の捜索隊は撤収させ、その先行した者たちだけここに残して、ツェリンナーナに向けて出発しましょう。」


「ううむ。それならば。まぁ、良かろう。」


 副官の指示に従って捜索隊へと伝令が走る。

 その頃、捜索隊の方では戻って来ない斥候を訝って、さらに2人の斥候を出していた。伝令が捜索隊のキャンブにたどり着く頃には、先行していたはずの斥候の死体を発見して、報告に戻っていたところだった。


 副官は伝令の戻りを待っていた。どうせ怒りで眠れなかっただろう。司令官の馬鹿ぶりにも腹が立つが、他の連中の馬鹿騒ぎにも辟易していた。

 明け方が近づく頃戻って来た伝令の報告を聞いてますます確信する。

 カッターを襲った連中は間違いなく隠れていた島民を連れ出している。隠れ場所には誰もいないだろう。

 司令官はあとは頼むとか言って寝てしまって、今は高いびきだ。ほっとけば昼まで起きないだろう。

 兎にも角にも狼煙が上がる時間までの空白の時間が惜しかった。

 とはいえもう何もすることがくなった副官も、朝まで少ない時間だが寝ることにしたのだった。



 ◇◇◇

 そんな脱出劇が完遂した頃、俺たち砦建設組もようやくひと段落を迎えていた。休憩時間となり、夜食が配られる。砦の基礎工事のために些か狭くなった村の広場の中央で、三々五々集まってガヤガヤと話しながら夜食タイムを楽しんでいる。

 後の山陰から月が登ってきた。救出組の連中もこの月を見ながら夜食を食べてるのだろう。などと思いながら握り飯を頬張る。


「まぁ、初日はこんなもんだろう。」隣に腰を下ろした政宗一尉が概ね出来上がった基礎部分を見渡して言う。「アムロ君ご苦労だった。」


「ありがとうございます。ま、一番大変だったのはあそこで寝てる真嶋だと思いますけど。」

 そう、こういう基礎工事に関しては真嶋がエキスパートなのだ。それだけに一番忙しかったというわけだ。


「明日からはチョット巻きでお願いしたいんだな〜。」と軽い調子で政宗が言う。


「え?」俺がそう言うのとほぼ同時に、その場にいた他の施設か隊員たちからも同じような声が漏れる。


「鏑木君の話だと、どうもあっちさんにも目端の聞くのがいるみたいでさ。予定よりも半日早く来そうなんだと。そう言うわけでみんな頑張ってね。」

 とか、不穏なことを言いながら俺の首に腕を回して抱きつくのはどうかと。くどいようだが背は低いが出るところは人一倍出ているマサムネさんである。だから当たってますから〜。


「そう言う話はもう少し深刻にしてもらえませんかね。」と霧島が突っ込む。


「どう話したってやること同じなんだしぃ。」相変わらずノリの軽い政宗。「まあ、みんなで頑張りましょう。後でおごるからさぁ。」

 俺はため息を大きくついた。おごりって言ってたけど絶対にいつものメシが少し多くなるだけなんだろうな。それはそれでいいけど。とりあえず首離してもらえませんかね。俺の顔が赤くなる前に。


 ハァ、決戦は木曜日かぁ。明日から大変だ。

 ようやく政宗のヘッドロック気味の抱擁から解放された俺は、ずいぷん登ってきた月を眺めながら、最後の握り飯を頬張った。


なんとか2話目を投稿できました。

このあとはツェリンナーナ攻防戦です。アムロたちはどうやって敵と戦うのでしょうか。

連休明けには続きをと思っております。よろしくお願いいたします。

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