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第2話 甘露なるは我が正義、と女王陛下は言った 〜2

毎度お待たせしております。

第2話のその2です。テンプレな展開になりますがお付き合いいただけると嬉しいです。

その4まで続く予定です。

あさドキの放送を管理するサブ・コントロール・ルームで、プログラムディレクターの藤井は対応に追われていた。次々とお偉いさんたちから電話やらメールやらが入っていたからだ。


「いえ、ドッキリではありません。全くの事故です。ええ・・・はい、・・・いえ、それは、・・・はい。はい。そういたします。失礼します。」


はああああっと、藤井は大きなため息をつくと機材の並んだ部屋の後ろに置かれたソファにマナーモードにしたスマホを投げつけ、自身もそこにどかっとへたり込むように座った。


「藤井ちゃん。」藤井の隣に先に腰掛けていた番組プロデューサーの畑が声をかける。

「さっきのアレ。きちんとあそこだけ切り出して、いつでも各社に送れるよう準備しといてね。」


「それならもうやってあります。」


「さっすが。藤井ちゃんお仕事早いねぇ〜。」


藤井Dは憮然とした態度で「あれ何なんですか。嫌がらせですか。」と愚痴る。


「まあまあ」と畑に宥められる。そう言う畑も先ほどからメールやらSNSやらの対応のために、激しく手を動かしていた。


「運が悪かったと思って諦めましょ。ね、藤井ちゃん。」と柔和な笑みを向けられると、怒るわけにもいかず、やはり憮然とするより他の無い藤井Dなのであった。


「しっかし、何度見てもこれドラゴンですよね。急に現れて急に消えましたが、どう言うことなんでしょうかね。」藤井Dは自ら編集機のタブレット端末を操作しながらぼやく。


スーパーハイビジョンの映像をコマ送りしてみると、120分の1秒の2コマ分で現れて、同じく2コマ分で消えている。その場に止まっていたのはものの30秒ほどで、前後に像がブレるなどの移動した形跡はない。突然現れて、突然消えたことになる。

よくよく見ると、現れる直前、30コマほど前からキラキラしたものが現れており、同様に消えた後にも30コマほどの間キラキラが残っていた。


「まー、専門家みたいな人にそこは喋らせるとして、そんな専門家いるかわからないけどさ。」畑は自分のスマホで何やら検索をしている。


「あ、怪獣の専門家は現地にいるね。刈葉美裕(かりばみひろ)助教授。」


「畑さん。その人、古生物学者で怪獣の専門家じゃないですよ。」


「え、恐竜とかの専門家なら怪獣もカテ内じゃないの?。」


「それ、違いますから。」


「えええ。違うの?。でも、まーいいじゃん。なんか喋ってもらおうよ。恐竜についての知見はあるわけだから、これがどう言う生物なのか、こう学術的に語って貰えばいいじゃない。」


「それはそうかもですが・・・。」


「ね、じゃあ出演依頼かけとこう。」


「そ、そですね。・・・それよりこの突然出てきて突然消えるのって不自然すぎですよ。こんなんだからやらせとかドッキリとか言われるわけで・・・。」


「それこそどうしようも無いじゃない。生放送のそのままなんだから。そう言って信じてもらうしかないでしょ。なんなら画像分析かけてさ。それで証明になるかわかんないけど、とにかく合成じゃないって言うしかないんじゃない?」


「いやまぁそうなんですけど。」


藤井Dはソファにのけぞって天井を仰ぎ見ると、大きなため息をついた。


◇◇◇


「美味いのう。美味いのう。」


グローリアーナことリアはご満悦だ。俺こと簏崎(としざき)謹製の鶏モモソーセージサンドを頬張っている。

これは蓮佛(れんぶつ)がじっくりと燻製にした自家製ソーセージを表面がカリッとなる程度に焼いて、バジルソースをたっぶり塗ったトーストしていない5枚切りのイギリスパンに、モッツァレラ入りのスライスチーズとレタスと一緒に挟んだものだ。パンも俺が焼いたものだ。

手前味噌だが、めちゃくちゃ美味い。


「ゆっくり食べな。多めに作ったから、まだまだあるからな。」

俺は蓮佛が作った野菜たっぷりのコンソメスープをカップに装ってリアの前に置いてやる。


「おお、これも良い香りがするのう。」ズズズとすする。「サンドイッチとやらとよく合うのう。このこってりしたところに、このすっきりしたスープが流し込まれて、口の中がリセットされつつ絶妙な相性に幸せになるのう〜。」食レポあざっす。


「ところでさ、その喋り方もうちょっと何とかならん?。」


「ん?。どう言うことかの?。」


「その『のじゃ姫』的な、ちょっと老獪なジジイのような。」と俺が言うと、そう言われたリア本人だけでなく、他の3人も「えっ」と声に出して驚いた顔をする。


「何言ってんの?。」と成田が言う。「リアは英語で話してるわよ。ちょっと古めかしいけど綺麗なキングズイングリッシュよ。」


「いやいやいや。」今度は蓮佛だ。「フランス語混じりの日本語で、ちょっと古めかしいお嬢様言葉だぞ。」


「あんたたち何言ってんの?。」次に鳥海がやや呆れたように言う。「ドイツ訛りのアメリカ英語で、少し硬い感じの喋り方ね。東のおハイソなお家の年配のご婦人の話し方よ。」


「我はこの世界の標準言語を話しておる。まぁ少し古いかも知れんがの。」とリアが言う。


えええええ。俺は一瞬混乱したが、それがどう言うことなのか少し分かってきた。成田はバイリンガルだ。イギリス留学経験があり、任官後しばらく英国にいたことがある。ネイティブと変わらない綺麗なキングズイングリッシュを話す。


蓮佛はフランスで料理の修行したことがあるが、フランス語はカタコトだったと言う。むしろ英語の方ができるはずだが、こちらもネイティブのように話せるわけではない。


そして鳥海はアメリカの大学に在籍していたことがあるし、年間の大半を海外生活をしており、アメリカ英語をネイティブのように話す。


つまり魔法的な何かの働きで自動翻訳されているのだが、それはそれぞれ個人の経験などによって左右されると言うことのようだ。


って、事は

「ナリタとカツラは英語でリアに話しかけてたの?。」


「そうだよ。」と二人同時に俺に答えた。


「僕はフランス語混じりの日本語だよ。」


「えっと。じゃあぁ、俺がリアに話しかけてるのはどう聞こえてたの?。」


「日本語だよ。」と言って成田は考え込む。少し考えた後に「変だな。それで会話が成立しているのを不思議に感じなかった。」


「あ、私もだ。」と鳥海。


ううむ、なかなかに謎いな、異世界仕様は。


「まぁ、そんなことより、こっちも美味しいですよ。」と蓮佛がスクランブルエッグのサンドイッチを皿にとってリアの前に置く。


「これは卵か?。」はむっとサンドイッチにかぶりつく。


「ええ、スクランブルド・エッグです。」蓮佛の説明が俺には外来語部分が英語発音に聞こえたから、その箇所を多分フランス語で話したのだろう。


今リアがかぶりついているサンドイッチのスクランブルエッグは、生クリーム控えめ、少し甘めに味つけて少し硬めに焼き上げ、仕上げにマヨネーズを加えて塩胡椒で味を整えてある。


それをマスタードとバターをサッと塗ったホテルブレッドに乗せ、さらにその上にスライスしたキュウリを並べて挟んだものだ。ホテルブレッドはこの船のベーカリーで毎朝焼いているもので、焼き立てをいただいてきた。

これもきっぱり言うが、めっさ美味い。


「幸せな味じゃのう。卵は少し弾力があるがフワフワで、このキウリとやらはシャキシャキで食感が良いのう。卵の味付けが抜群じゃな。そのおかげで二つの素材がよく合うておる。」


「マシロくんの卵サンドは最高だよねー。」鳥海は頬に手を当てながら幸せな顔をする。「口の中が幸せだわ〜。」


「こっちのBLTは・・・普通のとは違うな。Bがなんか分厚い。」と蓮佛がBLTサンドを両手で持ってしげしげと見つめている。


BLTはトマトをメインに楽しむサンドイッチという御仁もいるが、俺はあくまでもベーコン主役のサンドイッチにする。従ってベーコンは暴力的なまでに分厚い18ミリ厚だ。それをフライパンで表面にカリッとした焦げ目がつくまでしっかり炒めて余分な油と水分を追い出す。仕上げに粗挽きの黒胡椒を振る。こうしてそのままビールのツマミにしてしまいたいほどの、食べ応えのある旨味の詰まった炒めベーコンが出来上がるのだ。


蓮佛に焼いてもらったパン・ド・カンパーニュをやや薄めにスライスしてベーコンを炒めたフライパンで両面を狐色になるまで中火で焼き上げ、薄くバターを塗る。

そこに水気を丁寧に拭き取ったレタスを一枚敷いたら、マスタードを混ぜたマヨネーズを適量かけてトマトを並べる。


トマトもひと手間かけている。果肉が厚く酸味が少なめの中玉を選び、4ミリぐらいに薄くスライスしてから塩を振って網を敷いたバットで30分ほど放置。キッチンペーパーで丁寧に水気を拭いて、新しいキッチンペーパーに挟んで冷蔵庫に30分ほど入れておく。これで余分な水分が抜けて、ジューシーだが食感があり、甘味のあるトマトが楽しめるのだ。



トマトの上に厚切りベーコンを置いたら、再びマヨネーズとマスタードを振り、レタスを乗せ、再び薄くバターを塗ったカンパーニュを乗せてぎゅっと押さえて、半分に切れば完成だ。


「Tがメインじゃないところがマシロ流だね。」と蓮佛はBLTサンドを頬張った。ほとばしる肉汁と旨味に目を見張る。

「おっ。トマトが負けてない。良いアクセントになってるな。」もぐもぐしながら感想をこぼす。


「それも美味そうじゃのう。」


「美味いよ。」とBLTサンドをリアの皿に取ってやる。

すると、俺のほうに花が綻んだような笑顔を向けてくれた。


これだよ、これ。と俺も笑みをこぼす。俺が料理をするのはこうして喜んでくれる笑顔が見たいからだ。

おいしいものを食べることは幸せなことだ。そしてその幸せをみんなで共有できればもっと幸せだ。食べた人が喜んでくれれば、俺も嬉しい。時には失敗もするけど、それもみんなで一緒に笑えれば、それはそれで幸せだと思うのだ。


「トシザキ、これは何だっ。この黄色いソースはなんか凄いな。酸っぱいような甘いような辛いような。」BLTを口にしたリアがキラキラした目で話しかけてきた。


「おう、マヨネーズソースな。ピリッとするのはマスタードが入ってるからだな。」


「美味じゃっ。このマヨ何とやらがこの肉を何倍も美味くしておる。この肉自体もかなり美味いが。この赤い野菜と葉っぱと一緒になるとそれはもう。なんか、何かだなっ。」


いやもう、感想が変になってるが、これはアレだな。

異世界定番か!。マヨ万能か!。と口にはしなかったが、軽く世界にツッコミを入れてみた。


「そのソースのベースはマヨネーズっつってな、卵と酢と食用油を混ぜに混ぜまくって作ったソースだ。俺が作ったわけじゃないけどな。」

そう、俺は某可愛い赤ちゃん印のマヨを愛用している。卵黄のみを使用し砂糖などは不使用で酸味をやや強く感じるところが気に入っている。某旨味調味料メーカーの全卵水飴入りのもマイルドで旨いが、俺は素朴で力強いこっちの方が好みだ。卵黄だけなので色も濃いしね。


むろん料理に使う時も、含まれる調味料が少ないだけにアレンジもしやすい。鶏のマヨネーズ焼きなんかにするときには焦げ付かないので重宝する。


「元々はサラダドレッシングなんだが、今はいろんな料理に使われてる。まー、これは日本のマヨだからってところもあるんだけどな。」


「確かになー。」と成田が同意する。「海外のマヨって日本のほど旨味がないというか、もっとさっぱりしてるよな。色も味も薄いというか。」


「酢と油が違うんだよ成田くん。」

そうなのだ、海外製のマヨはおおよそが油はオリーブオイル、酢はビネガーと決まっていて、ちょっと日本人の舌には物足りないらしい。


◇◇◇


流石に3つの大きなサイドイッチを食べるとお腹もいっぱいになってくる。

「もうないのか、残念じゃのう。トシザキ、我がまたくるときにはこれの3倍は用意するのじゃ。」などと、リアはまだ食べ足りないようなことを言っているが、俺たちは満足している。


「デザートがあるよ。」蓮佛がリアに声をかける。


「ほお、宮廷料理なんぞで食事の後に出てくる水菓子じゃな。」とリア。


「今日はただの果物じゃなくて、洋梨のコンポートのゼリーでーす。」蓮佛がジャジャーンと効果音を言いそうな勢いで保冷バッグからプラスチックの少し深くて細めのグラスに入ったゼリーを取り出す。


蓮佛は料理人だけあってお菓子づくりも並々ならぬ腕前なのである。プロのパティシェになってもいいぐいで、味だけでなく見た目にも気を配っている。


目の前に置かれたグラスをしげしげと眺める。綺麗だ。これ、ただの洋梨のゼリーじゃないじゃん。


全体はざっくり三段の層になっていて、1番下が薄茶色の白っぽい少し厚めの層、その上にゴロンとカットした洋梨が入った透明なゼリー、またその上に少し黄味がかった白い層になっている。その上に細かいクラッシュゼリーがちょんと小さな山を作っていて、ミントの葉が添えられている。既にお菓子屋さんに並んでいておかしくないレベル。なんかオシャレだ。


「1番下は紅茶のパンナコッタ、真ん中が洋梨のゼリーで、1番上はバニラのムース。上に添えたのは余った洋梨のゼリーを砕いたものとミントの葉っぱ。ミントは香り付けだから食べない方がいいよ。ちょっとクセのある味だから。」とリアに説明している。


俺はスプーンでバニラムースとゼリーを一緒にすくって口に入れる。洋梨の香りが口内に広がる。次いで甘さ控えめのバニラムースがサッと口の中に広がり、洋梨のゼリーと絶妙なバランスで舌を楽しませてくれる。


ゼリーは洋梨だけではなくワインの香りがする。これは・・・。


「シャンパンだ。」と俺はつい口にする。


「流石、よく分かったね〜。」蓮佛がニコニコしている。「洋梨をコンポートするときに白ワインじゃなくて余ったシャンパンを使ったんだよー。風味が白ワインとはまた違うよねー。そのシロップをゼリーに使ったんだー」


「なんじゃーこれは。これはマリートが作ったのか?。」リアが目をまん丸にしている。


「マリートって・・・。僕はマリトなんだけど・・・。」


「じゃからマリート・・・じゃろ?。」


「マ・リ・ト、だよ。」


「じゃから、マ・リー・ト。」


「うん〜・・・・。」蓮佛はなんとなく納得していない顔をしている。


どうやら外国の人によくあるみたいにリアは言いにくい名前とかあるみたいだ。


「マリート、我の料理番になってくれんかのう。」リアが上目遣いでマリトを見る。


「そりゃ無理だよ。僕はこの船の料理人だから。」


「ダメかのう。」って俺を見るなし。


「俺もダメだからな。」すかさず俺も断りを入れる。


「えー。」スプーンを加えてちょっと涙目の幼女が俺を睨んでいる。ここだけ見ると俺がいじめてるみたいだな。ははは。


そんな事よりだ・・・。

「リア、お前さん外の怪獣騒ぎと関係があるだろ。もしかしてお前が怪獣を使ってるのか?。」

俺は保冷バッグから容器を取り出す。そこからマカロンを2本の指で摘んで、リアの前で左右に動かす。


「あうう。それも美味そうじゃな。」


「もちろん美味いよ。これは俺が作ったマカロンという菓子だ。本当のことを言ったらこれを上げよう」


成田さん、そういう目で見ないでください。俺も好きでやってませんからねっ。蓮佛お前もか。桂は・・・親指立てんじゃねぇ。


「あれは・・・。」リアはグッと拳を握って俯く。


「あれは?。何だ?。」


「あれは、我だ。」


「へ?。」


「じゃから、ヌシたちが怪獣と呼んでおるのは古龍で、我の本来の姿じゃ。」


「えええええっ。」如何にもな展開に俺たちは絶句したのだった。」



いかがでしたでしょうか。

わかりやすい飯テロ展開になってしまいましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。

次で少し展開に変化をつける予定でおります。

お付き合いいただけますと嬉しいです。

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