第2話 甘露なるは我が正義、と女王陛下は言った 〜1
なんとか一段落を迎えましたので連載を再開します。
またお付き合いください。
今回は時系列的には0話の直後ぐらいの話になります。
お楽しみいただけたら幸いです・
あさドキ 特集コーナー『探検隊に潜入しまシュッ』
キャスター 熊本三角・末吉 くまもとさんかく・すえきち
キャスター 佐藤菜穂子アナウンサー さとうなおこ
レポーター 御厨美登里アナウンサー(神奈川局) みくりやみどり
現地レポーター 郡山華音ディレクター こおりやまかのん
現地カメラマン 菊園輝信 きくぞのてるのぶ
ゲスト 辻岩洋太郎 K大教授 第一次外洋調査隊 隊長 づじいわようたろう
ゲスト スティーヴ・開高 コンスティテューション艦長 調査艦隊司令 一佐 かいこう
佐藤アナ 本日は月一恒例の探検隊の密着コーナーです。
末吉 今日はどこの探検隊なんでしょうか。
御厨アナ おはようございます。今日は第一次外洋調査隊です。こちらは転移直後からずっと探検の旅を続けていて、南亜諸島を巡り終えています。数ある探検隊の中で最も長く旅しています。今はこの辺り、このオーストラリア大陸の4割ほどの大きな島、「新濠州」のすぐ北側のニューギニア島ぐらいの大きさの南鳳島の沖に停泊中です。日本のほぼ真南より少し東寄りにありまして、時差は1時間半程度です。
三角 へぇ、鳥が翼を広げたるこつ島たいね。
御厨アナ そうなんです。この島、発見されて早いうちにこの名前がついたそうですよ。この南鳳島のある一帯は南洋州と呼ばれてます。旧地球で言うところの亜熱帯に当たり、気候とか植生については沖縄とか小笠原とかを想像していただくと良いと思います。
これまでも数々の発見をしてきた第一次外洋調査隊ですが、この地域の最初の訪問地となるこの南鳳島ではどのような発見をしてくれるのか楽しみです。
早速、現地の郡山ディレクターとつないでみましょう。郡山さん。おはようございます。
(画面切り替わる。衛星通信のため少しタイムラグの後)
郡山 おはようございます。私は今空母コンスティテューションの艦橋にお邪魔しています。ここは普段は入れないんですよ〜。
(ゆっくり歩く郡山をカメラが追う。窓越しに外の景色が綺麗に写る位置に移動)
こちらにいらっしゃるのは本調査隊隊長の辻岩洋太郎K大教授と調査艦隊司令でこの船の艦長のスティーヴ・開高一佐です。おはようございます。
辻岩 おはようございます。
開高 おはようございます。
郡山 早速ですが、今回の南鳳島での調査について、調査の目的や大まかな予定などを教えていただけますでしょうか。
辻岩 この島では、2ヶ月ほど前から単独調査で入っておられるT大の村田先生のチームが新種の猿をはじめとして多くの生物を発見しています。恐竜の仲間とみられる生物の目撃証言もありました。遺跡なども発見されてますので、それらの追跡調査と通信基地の設置などが主な目的です。8週間を予定してます。
郡山 T大の村田先生と言えばその遺跡で消息を立ったと伺っておりますが。
辻岩 はい。先々週に内部調査に単身で向かわれたようで、詳細はわかっていません。T大チームと合流して捜索と調査することになっています。その際には自衛隊の皆さんのご助力もいただくことになっています。
郡山 では調査の内容についていくつかお聞きしたいと思います。まず新種の猿についてお聞きします。どのような猿なんでしょうか。
辻岩 旧地球のワオキツネザルと外見はよく似ています。ニホンザルやチンパンジーが鼻腔が真っ直ぐで鼻孔が前方ないし下方を向き、鼻先が乾いているのに対して、発見された猿たちは鼻腔が屈曲して鼻孔が左右を向いており、鼻先が湿っています。旧地球の曲鼻亜目に分類されると考えています。
体長は1〜1.2m程度、体調とほぼ同じぐらいの長さの太い尻尾があります。ワオキツネザルに比べると頭の比率が大きいですね。
T大チームの報告によれば、かなり知能は発達しており、道具を用い社会生活を営んでいるようだと。また、個体によっては首飾りや腕輪のようなものを身につけているので、チンパンジーなどよりもずっと知能は高いのでは無いかと報告されています。
かなり高い樹上に巣を作っているので、まだその中まで調査できていないということでした。
郡山 言葉などは?
辻岩 観察した範囲では、私たち人間のように音声による言葉での意思疎通ではなく、他の方法で会話しているようだと。ジェスチャーを交えて意思伝達をしている様子は観察されていますが、その際も猫の威嚇音のような発声は認められたものの、言葉のようなものは発していなかったようです。
そもそも敵意や害意は無いようなので、今回の調査では彼らの信頼を得て、より密着し、より詳しい事がわかると良いと考えています。
郡山 お宅訪問とか?
辻岩 できると良いですが、何せ登るのが困難な高さなので。
郡山 え、そんなに。
辻岩 50mはありますね。
郡山 うわあ。それはちょっと無理そうですね。ドローンとかで。
辻岩 こちらに敵意があるように思われては困るので、なんとか意思疎通ができたらそういう手段も考えていいのかと。これまでの観察からはそう結論づけています。
郡山 なるほど。では他に新種の生き物などは発見されていますでしょうか。
辻岩 ええ。概ね旧地球の亜熱帯にいるような生物が生息しています。さらに旧地球ではすでに絶滅した生物の生息も確認されています。植生についても同様ですね。
郡山 絶滅した生物というと恐竜とかでしょうか?
辻岩 はい。恐竜種とみて良い生物が確認されてます。足跡や糞だけでなく、実物の撮影にも成功しています。竜脚種の比較的小型の、オルニトミムス、オヴィラプトル、トロオドンなどに分類されるとみられる個体が確認されています。
今のところはまだお見せできませんが、近々ご報告できるのではと思います。
郡山 楽しみです。さて、それでは遺跡のことを教えていただけますでしょうか。
辻岩 実はよくわかっていません。一つの山全体が遺跡と見られ、T大が持ち帰った資料の年代測定によれば2000年〜5000年経っていると思われます。
中は極めて複雑な構造になっていて、いわば迷路のようで奥までは到達できていません。村田先生はその奥に行こうとして消息を断ちました。今回は入念な準備のうえ挑むことになっています。
郡山 その遺跡はもう使われていないものなんですよね?
辻岩 そうですね、使うべき人がいませんから放置されたものと考えてよろしいかと思います。ただ、かつてここにはそういう遺跡になる建造物を築くほどの文明があったのはたしかということですね。
郡山 ありがとうございました。続いて開高艦長にお聞きします。こちらでは何か建設作業もあるとお聞きしましたが。
開高 はい。衛星通信の簡易基地の設置と、本格的なレーダー施設を作る前の調査です。それから・・・。
(不意にカメラが左に動く)
菊園 おいアレ、なんだ?
郡山 えっ?
(3人が振り向く。艦橋の人々が慌ただしくなる)
菊園 見たか?。アレ・・・。
郡山 それ以上言うな。スタジオ、今の録画してたら確認お願いし・・・。
(急に画面がスタジオに切り替わる)
佐藤アナ 大変失礼いたしました。現地で何かトラブルのようです。
三角 なんか大きいの映ってなかった?
末吉 三角しゃん、シーったい。(口元に人差し指を当てて)
御厨アナ 取り合えじゅっ、いったん終わりましゅっ。
(その場の全員が噛んだな、噛んだね、とマイクに拾えないところで言い合う)
この放送事故は憶測も呼んで、一時ネットを中心に話題になる。局に問い合わせが殺到したのは言うまでもない。この後しばらくの間のSNSのトレンドは「#怪獣」または「#怪獣キター」である。
◇◇◇
「それは旨いのか?」
突然だった。外から声をかけられた。
俺たちいつものメンツでいつもの場所で、ただし今日はランチ後のアフタヌーンティーではなく、休日の朝食を共にしようと準備をしていた時だった。いつもの場所と言うのは空母コンスティテューションの艦橋の脇に設置した大型のテントの中だ。移動式の冷房装置を使っているので中は快適である。
いつものメンバーのうちの2人で準備をしていた。戦闘機パイロットの成田美沙希一尉と俺こと簏崎真城一尉だ。
成田は女だてらにエースの称号を得た、空の猛者である。清楚なお嬢様風の容姿の見た目からはそうは見えないのだが。
それでもって俺は、まぁ容姿は十人並み、良くもなく悪くもなく、まぁ平凡だ。身長はおかげさまで180ほどある。戦闘職ではなく整備班長なんてものをやらせてもらっている。
俺と成田は外からの声の主を見ようと顔を出す。
そこには少女が立っていた。
「我はそれは旨いのか?と訊いておるのだがな。」
少女が繰り返して問う。いや、さっきの声はもっと太かった気がするが。
ほっそりとしたその少女は黒のヒラヒラしたドレスを身に付けており、何故か大振りのツノのような髪飾りをつけている。口調がアレだが、色白でくりっとした目、鼻筋は通っていて、薄めだが形の良い唇。白人風の整った顔立ちのなかなかの美少女である。一点変わったところがあるとすれば瞳が真っ赤な事だろう。赤い瞳なんて旧地球では見たことがない。
口をぽかんと開けたまま、目を見開いて絶句している俺はさぞ間抜けに見えたことだろう。
「そのカゴに入っておるそれは旨いのか?」焦れたように少女が言う。
「あ、おお。おう。旨いぞ。」なんか受け答えが変だが、まあ許してくれ(誰に?)。
「そんな事より、お嬢ちゃんどこから来たの?。」
成田は俺よりも落ち着いているようだ。さすがパイロット。突然のことにも動じないらしい。
そんな成田が小声で「この子、急に現れたわよ。」と俺に告げる。急にってどうゆー事と聞き返そうとすると、それを表情で制する。
「さっきまでそこにいなかったと思うけれど。」と続ける。
「中に入るぞ。ここは暑い。」そう言って少女はテントの中に入ってくる。
「我はそこの島から来た。転移すれば良いからな。」
ん? 俺と成田は顔を見合わせる。
「それ、食べないのか?。」
少女はバスケットの中のサンドイッチをガン見している。
今日のは自家製鶏モモソーセージのバジルソースのサンドとキュウリとスクランブルエッグのマスタードマヨネーズソースのサンドと厚切りペーコンのBLTサンドだ。俺のお手製だ美味いに決まっている。
「みんなが揃ったらな。」と俺。
「みんな?」
「あと2人。飲み物とかスープとか持ってくるぞ。」
「おお、待つ。」そう言うなりニコニコしながら椅子に座ってしまった。ふんふんと鼻歌を歌っている。食べる気満々である。
「ところでお嬢ちゃんのお名前は?」
成田が顔を覗き込むと、少女はあからさまに嫌そうに顔をしかめる。
「我はお嬢ちゃんとヌシに呼ばれる筋合いはないわい。」
「あら。では何とお呼びすれば良よろしいですかしら?」
「我の名はグローリアーナ。リアと呼ぶが良い。」
フンスと、どちらかと言えば薄い胸を張る少女。可愛いが言葉遣いがなぁ。
「私はナリタミサキ。よろしくね。」
「ナリタミ・サキ?。ナリタミとは珍しい名前じゃな。」
「あー、そうじゃなくてナリタが家名でミサキが名前ね。」
「相分かった。」
「俺はトシザキ・マシロ、よろしくな。」
「うむ。トシザキが家名じゃな。」
偉そうだが美少女がやるとギャッブがまた良いんだな。
などとやっていたら後続組がやって来た。
「おっはー。」鳥海 桂である。短髪で身長145cmに満たない低身長で細身だが、出るところは出ている。見るからに軽薄な感じだが、K大の助教授様だ。俺の幼馴染みだ。コーヒーやらジュースやらを持って来てくれたようだ。
「おいーっす。」その後ろからカートに乗せて鍋やらを大事そうに持って来たのが防大同期の蓮佛万理人二尉だ。こいつは烹炊班員をやっている。料理人とは思えないほどガタイが良いのは元々は空挺隊員だったからだ。
慣れた手つきで皿を並べようとした万理人の手が止まる。
「この嬢ちゃんは、誰?」
「ヌシに嬢ちゃんと呼ばれる筋合いは無いわ。」どこかで聞いたやり取り。
「ああ、ご免な。で、何処の誰様なの?。」
「フン。まずはヌシから名乗るのが筋であろう。」ごもっともです。
「ああ、すまなかったね。僕はレンブツ・マリトだ。この船の料理人だ。」
「うむ。」少女は籠のサンドイッチを指差す。「この料理はお前が作ったのか。」
「鳥のソーセージは僕が作ったものだけど、サンドイッチはそこの簏崎が作ったものだよ。」
ほお、と感心した声を上げると、鳥海の方を顎でしゃくって見せる。
「そっちの女な子は?。」
「おなごって・・・。私はトリウミ・カツラ。仕事は学校の先生だね。」
「ガッコウ?、センセエ?。何じゃそれは。」
「あらら。んーと、人にものを教える仕事〜かな。」
「おお、賢者か。小さいのに立派じゃな。」
いやさ、あんたに言われたくはないだろう。と全員が無言のまま顔で突っ込んだ。
「賢者ねぇ〜あはは〜。そこまで偉い人ではないと思うけどねー。」
「で、君の名は?。」と蓮佛。
「我の名はグローリアーナ。リアと呼ぶが良い。女王をしておる。」
「は?」「へ?」「あ?」「ん?」その場の全員が固まる。
「何を惚けておるのじゃ。そこの島で、そこで女王をやっておると言うておる。そんな事より、我はそれを食したい。惚けとらんで早うせい。」
ドヤァと胸を張る少女を前に俺たちは顔を見合わせた。
「はあああ?」「ほえええ?」「ひょっ?」
そして変な声を皆同時にあげてしまった。
と、外からまた声をかけられる。
「鳥海先生はこちらにおられますでしょうか。」
鳥海は「ああ、いるよ。」と返事をしながらテントの外へ出て行った。
「女王って言ったよね。私たちはそこの島を南鳳島と呼んでいるのだけど、そこには人が住んでいるということなのかしら?。」成田は椅子に座ってリアと名乗った少女と目線を合わせる。
「うん。人はおらんぞ。」
「?????」3人の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「ではあなたは何の女王なの。」
「質問の意味がわからん。強いていうならこのあたり一帯の女王じゃ。」
「どこからどこまで?」
「東の壁から西の壁の間の南半分じゃな。」
「?????」
「でも人は住んでないわよ?」
「うむ。人族はおらんな。」
「なんていう国の女王様なのかしら?。」
「国?。国というのは人族が集まって暮らすアレのことかの?。そんなものは無いぞ。そんなことより早う、食べさせるのじゃ。」
「?????」俺たち3人は顔を見合わせた。なんだか話が堂々巡りになりそうだ。
「まさか、猿たちの女王?。」俺がポツリというと、他の二人が「えっ」とそれは無いだろうという顔をする。
そこに鳥海が戻ってきた。
「なんだか怪獣が現れたって、外が騒ぎになってる。」
「は?。」俺たち三人は惚けたような顔で惚けた声を出してしまう。
鳥海がスマホで俺たちの方に向けて腕を伸ばすと、テレビ局のクルーが偶然撮影したその怪獣のスチル写真を見せた。
そこに写っていたのはいわゆるドラゴンだった。黒い半光沢の鱗で覆われ、大きな翼を広げた巨体は楽に15mはあるだろう。艦橋の窓越しでほとんど隠れていても、その大きさは想像に難く無い。長い首の上にある頭は少し大型猫族を思わせる形をしていて、黒光りするちょうどリアの髪飾りのようなツノが二本ある。
「ん?。」俺は鳥海のスマホを奪い取り、何?とか言いながら文句を言う鳥海を尻目にドラゴンのツノとリアの髪飾りを並べて見比べた。
「!!!、同じだ・・・。」
3人もスマホを覗き込み、リアと見比べる。
「まさか・・・。」
そう言って慄く俺たちを軽く一瞥すると、リアは「先に食べるぞ。」と言ってサンドイッチに手を伸ばし、両手に大事そうに持つとパクリとかぶりつく。
「んふぅ〜。」ばああっと表情を輝かせながら鼻歌まじりに体を左右にリズミカルに動かす。足をプラプラさせながら。
「いや、まさかね。」俺たち四人は顔を見合わせながらゆっくりと席に着くのだった。
なんとなく予想のつきそうな展開のお話ではありますが
次回もお付き合いいただけますと嬉しゅうございます。
なるはやで次回を投稿できるように頑張りたいと思います
よろしくお願いいたします