幕間1 ヴァイゲル大佐の勇猛と憂鬱 〜3
ヴァイゲル大佐の憂鬱、ついに完結です。
お楽しみいただけますと嬉しいです
辻褄を合わせるためにプロローグ後編の最後の砲撃のあたりを書き直しました。
その聞き覚えのある音は間違いなく砲弾や爆弾が降ってくる時の音、風切音だ。
艦橋の全員が身を固くした。
次の瞬間、猛烈な爆発音、金属と金属がぶつかる音、水柱が上がる音、色々な騒音が一度に押し寄せてきた。
「けが人はいるか?。」周囲を見渡してみたが、大きな怪我を負ったものはいないようだ。パニック寸前の艦橋でそうならないように指示を出していく。「被害報告を急いであげさせろ。」
一つの指示が行き渡ったらつぎと、どんどん指示していく。
「浸水箇所は無いか?。」「烹炊所は無事か?コーヒーと少しでいい甘いものをもらってきてくれ。ああ、ここの全員の分だ。」「医療班はきちんと稼働しているか?。」「死傷者の状況を報告させろ。」などなど。
そして最後が「各艦に魔導通信で連絡。被害状況を確認しろ。」だった。
幾分か時間が経ってくると周りも落ち着いてる。もともと有能なクルーなのだ。
そうこうするうちに補佐官のフューゲル少尉がまとめて報告をしてきた。
「本艦の被害ですが、概ね前方に集中しております。まず、水雷による被弾ですが、艦首バウスラスターの側でした。そのおかげと言いますか、魔導機関による魔導障壁を展開してありましたので、爆発装甲との相乗効果で損害は見た目に比して軽微でした。浸水もコントロールできる範囲で済みました。」
フューゲルの報告は続く。
「第一主砲塔が直撃を受けて爆発。誘爆はありませんでした。残念ながら射手と装填手の6名が死亡。その煽りを受けて第二主砲塔が旋回不能になっております。第二副砲塔が至近弾で稼働不能、第三と第四主砲塔の間に被弾し、これらの装弾路が破砕しました。そのため再装填ができません。同様に第三、第四副砲塔も再装填不可です。120mm対空砲座が4基使用不能、50mm機関砲座8基が使用不能、20mm機銃座は12基が使用不能。武装について以上です。全部甲板に被弾し居住区画に穴が空きましたが、全員戦闘配備中のため人的被害はなしです。右舷全貌の舷側に被弾・・・・・・・・」
報告は続いた。
「以上です。」と艦体の被害報告を締めくくるとフューゲルはメモをめくる。
「現在わかっているだけで戦死者36名、不明者40名、負傷者多数となっております。」
そこで一呼吸置く。「後ほど名簿を作成してお届けいたします。」
彼は良く分かっている。私は無言で頷いた。
「僚艦につきましては、4艦が沈没しました。残りのうち『ブラスレイター』『エントデックン』『ローゼンクローネ』は機関停止しております。本艦と『グローセス・ヴァイデンライヒ』はなんとか動けます。」
「我が艦もあの攻撃を受けて浮いてるのが奇跡だな。」私は艦橋から見える惨状になんとも言えない気持ちになる。
「はい。いろいろ幸運が重なったような気がいたします。女神の恩寵とでも言いましょうか。」
ヴェーベルン艦長が感慨深そうに言う。
「本艦は降伏旗を掲げて救助活動に徹せよ。敵対行動は厳禁だ。」そうフューゲルとヴェーベルン艦長に告げ、私は席を立った。
「『グローセス・ヴァイデンライヒ』へ行く。閣下とは最後までお付き合いせねばな。」
「では小官もお供いたします。」とフューゲルは私についてこようとするが、私はそれを制した。
「お前には救助活動の指揮を任せる。私の代理としてしかと努めよ。」
フューゲルはそれでも私についてきたそうに口を開いたが、私の意を汲んでくれたのだろう、言葉を飲み込むと姿勢を正して敬礼した。
その場にいた皆が私の方を向いて最敬礼する。誰も何も言わなかった。
私は敬礼を返すとその場を後にした。
それからは時間との戦いだった。次の攻撃がいつくるか定かでは無い。私は走った。年甲斐もなく走ると結構答えるな、と思いながらランチに飛び乗り『グローセス・ヴァイデンライヒ』へと急いだ。
◇◇◇
『グローセス・ヴァイデンライヒ』も大変な状態ではあったが、兵装には被害が少なかったようだ。主砲は全て稼働するようだ。
私はその場にいる水兵を捕まえて、全部甲板と煙突の側など数箇所で煙幕弾を破裂させ、ついでにドラム缶か何かで木片やらを燃やせと指示した。派手にやれと、もちろん私の命令であることがわかるようにその場でサインをした紙を渡す。水兵は目を丸くしてすっ飛んで行った。
急いで艦橋に上がり作戦指揮所に入ると、今後のことで軍議の最中だった。
「閣下、遅くなりました。」とリーデンドルフ侯に頭を下げる。
「あれは君の差し金だろう。」と朦々と上がる煙幕を指差す。
「越権行為かと存じましたが、急を要すると愚考いたしましたので、私の責において命じました。」
「いや、かまわんよ。しかし、ここまで必要か?。」
「はい。間違いなく彼らは我々を監視しています。」
「そのための欺瞞か。なるほど。それはそうと『ウンベジークバー』は降伏して救援に回したのだな。英断だ。」
「恐れ入ります。で、状況はいかがでありましょうか?。」
「それについては私から。」と艦長のゴルトベルガー少佐がかしこまった口調で話し始めた。
「現在主機関は停止中です。この後、機関を稼働して敵の方に向き、主砲の照準を合わせて発射するだけです。」
「なるほど。その間に攻撃されてはたまりませんね。敵の方位は分かっておるのでしょうか?。」
「はい。ミュンヒハウゼン大佐自ら飛行艇でお知らせくださいました。」
私は大笑いしそうなのを堪える。やはりあやつは自身で飛んだのだ。
「距離と方位であらましの位置はわかるはず。ミュンヒハウゼンと魔導通信はできるのですね?。」
はい、というゴルトベルガー艦長の返事に私はニヤリとする。
「であれば敵大型艦に誘導できます。」
私の言葉にリーデンドルフ侯は目を細め、他の面々は目を見開いた。
◇◇◇
手筈通りに第一主砲の動作確認中にうまく動かなくなったフリをして、一門だけ仰角を合わせる。
その作業終了を確認したリーデンドルフ侯が無言で艦長の方を見ながら右手でゴーサインを出す。
「左バラスト注水開始。」ゴルトベルガー艦長が指示する。
「左バラスト注水します。」操舵手が復唱する。
しばらくするとゆっくりと艦が左に傾き始める。それに合わせるかのように全砲塔を右に旋回し始める。傾く艦体を支えるために砲塔を回すことは不自然では無い。敵はそう勘違いをするはずだ。
「右バウスラスター始動。取舵いっぱーい。」
「指定方向に艦向きます。制動開始します。右バウスラスター停止。左スラスター全開。」
「うむ。制動よし。」
「良くこんなこと思い付きましたね。」ゴルトベルガー艦長が感心したような半ば呆れたような声で言う。
「こう言うことを考えるのが私の仕事なのでね。」
勝負はここからだ。方位を合わせるところまではなんとかごまかせるが、全門仰角を合わせたら流石にバカでも気がつく。
「主砲仰角揃います。」
「主砲発射用意。」
「主砲発射用意よし。」
「主砲発射。」「主砲発射。」「主砲発射。」リーデンドルフ侯の命令が復唱されていく。
爆音と爆煙が艦体を包んでいく。9門の54cm砲が比喩ではなく正しく火を吹き、猛烈な煙を撒き散らしたのだ。
「総員退避。砲術班は速やかに待避せよ。右バラストに注水、艦体復元急げ。」ゴルトベルガー艦長の指示が飛ぶ。
リーデンドルフ侯は満足そうに砲弾が飛んで行った方角を見つめた。
「あとは敵の砲撃を待つだけだ。」そう言うと微笑んだ。
「ミュンヒハウゼン、あとは頼んだ。」
私はそう呟いて、他の面々と共に操舵室のすぐ後ろの作戦指揮所に入り防水扉をしっかりと閉めた。
—————
「奴はよくもこんなことを思いつくものだな。」図らずも頼りにされたミュンヒハウゼン大佐は、大洋にぽつんと浮かぶ飛行艇のコクピットの風防を開け、半身を乗り出して双眼鏡で10kmほど先の敵艦隊を眺めていた。
「魔導レーダーで敵艦の正確な位置を策定して、それを伝える。加えて魔導ブースターのスラスターを目視で補正する・・・と。ニホン国には魔導が無いから魔導通信も魔導レーダーも探知されない・・・か。」
魔導レーダーは電波障害下でも問題なく作動するが策定範囲が60km程度と短いのが玉に瑕で、使いどころが限られていた。まあ、こうやって役に立っているわけだが。
「おっ、主砲を撃ってやがるぞ。バレたか・・・。しかし発射間隔が短いな。」
「うまく行きますでしょうか。」コパイロットのケートマン中尉は不安そうだ。
「補正は魔導通信で砲弾を捕らえられれば、ということだからな。ダメ元だ。」
「魔導レーダーに感あり、主砲発射しました。」ケートマンが大声で告げる。
「魔導ブースターの魔導回路に割り込めるか?。」
「やってます。出力が足りない・・・。」
「流石に砲弾は見えんな。」ミュンヒハウゼンはガハハと豪快に笑って見せたが、直後に敵艦隊から何条もの噴煙が上がるのを見て、一瞬にして表情が凍った。
「・・・捕らえました。安定しない・・・。あっ。」
「どうしたっ。」
「捕らえた砲弾が消失したようです。感無し・・・。」
「奴ら、砲弾を撃ち落としたってぇのか?。」そう言うミュンヒハウゼンの目には、再び吹き上がる大量の噴煙が映っていた。
「化け物か・・・。」
「魔導レーダーに感あり。見つかったみたいですね。何か飛んできます。」
「はぁ?。こんな小さい船を見つけるってか?。」ミュンヒハウゼンはそう言いながらも笑っていた。「こりゃハナから勝負にならなかったわけだ。」
ミュンヒハウゼンは機内に体を滑り込ませると白と青の二色の降伏旗を取り出し、今度は翼の上まで上がってその旗をアンテナ線に括り付けた。
◇◇◇
バタバタと大きな羽音を立てて飛んできた回転翼機は飛行艇の上でホバリングする。トンボのようだなとミュンヒハウゼンは思った。
降りてきたニホン人の第一声は「救援が遅れて申し訳ありませんでした。」だった。その上怪我はないかとか心配された。ミュンヒハウゼンは「お人好しか。」と心の中でツッコミを入れた。
どうやらトラブルで着水したと思っていたらしい。
動かせる旨を伝え、先導してくれるように頼む。
こうしてミュンヒハウゼンの飛行艇は輸送艦『しもきた』に誘導され、ウェルドッグに格納された。
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主砲発射の数分後。例の聞き慣れた風切音が聞こえてくる。ただ、数がとんでもないようで、音が幾重にも重なってものすごく大きく聞こえる。
直後、凄まじい衝撃と爆音が壁越しに聞こえてくる。この指揮所は分厚い鋼鉄の壁に覆われているので、よほどの事でもなければ被害が及ぶことはないだろう。
砲弾の雨とは良く言ったもので、絶え間のない爆音が1分ほど続いた。その長い事。これほど長い1分を感じたことなどこれまでの生涯では無かった。
そして静寂が訪れる。
「終わったようだな。被害報告をたのむ。まぁ、あの砲撃では対抗できる兵器は何も残っておらんだろう。」リーデンドルフ侯は手招きで従者を呼び寄せる。「そこの道具箱に青い布と白い布がある。あれを何処かに一緒にくくりつけなさい。」
リーデンドルフ侯の言葉にその場の全員項垂れた。涙ぐむものもいたが泣きはしなかった。
「閣下宛に通信です。」通信士が所在なげに言う。何やら様子がおかしい。
ニホン国には魔導はないと聞いていたのだが、訝った私が何か、と問うのに対し、やや口籠った様子で通信士は「その・・・女王からの通信です。」と言う。
私を制してリーデンドルフ侯はヘッドセットを通信使から受け取り「本艦隊司令のベルトホルト・フォン・リーデンドルフであります。」と自己紹介すると耳を傾け、相手の話に頷いていた。最後に「謹んで承ります。」と答えるとヘッドセットを置いた。
「我が艦隊はニホン国からの降伏勧告に対し無条件で受け入れた。」リーデンドルフ侯は清々しい表情でそう言う。
外の様子を確認した下士官に促されて我々は外に出た。
艦橋の窓は半分無くなっていた。天井も3分の1が無くなって大きな穴になっている。
我々はそこに並んで下を見ると第一主砲塔は直撃を受けて爆発したらしく花が開いたように上部がめくれて、砲身が変な方向を向いてぶら下がるようになっている。第二主砲塔は砲の根元あたりに直撃したようで、砲身は折れ曲がっていた。副砲はどう言うわけかひっくり返っていた。
空を見上げる。何かが飛んでいる。
「アレは何でしょうか?人が乗るには小さいような?。」ゴルトベルガー艦長が指差す。
「多分アレが、彼らの目なんでしょう。」私もその飛んでいる何かを注視する。
リーデンドルフ侯は何も語らず、その飛んでいる何かの方を向くと敬礼する。我々もそれに倣った。
◇◇◇
1時間後、日本国軍の艦隊がやってきた。その前に、上空をとんでもない高速で飛行機が飛んできたのには驚いた。それ以上に、回転翼機が十機ばかり飛んできて救助活動を始めたのには正直驚いた。
我々は敵で、少し前までは戦っていた相手なのだ。捨て置かれても文句は言えないのに、だ。
日本軍の軍艦はクラインシュミット少佐から見せてもらった写真のと同じようなものも多数いたが、それよりもさらに異様なものも多々いた。
まるで水上を走るモニュメントのような、艦橋などの上部構造物が舷側と一体化している上に、ほとんど突起がないのっぺりした形をしていたのだ。
しかもどの艦も主砲が小さく、さらに1門しか装備していない。中には主砲が見えないものもある。聞くところによれば格納しているらしい。主砲を格納する意味がわからない。
とにかく我々の艦艇とは全く異なる設計思想のもとに作られた艦船であると言うことだけは良く分かった。
乗り込んできたニホン軍人は、ほとんどがのっぺりとした平たい顔をしていて、我らがもと居た世界の北国人に似ている。北国人の方が色は黒かったが。
リーデンドルフ侯と私は、彼らの旗艦であろう最も巨大な空母に招かれた。一人ずつ部下を連れてきても良いと言うので侯は侍従を私はフューゲルを連れて赴くことになった。
再会した時、フューゲルには泣かれてしまった。
迎えに来てくれたのは女性軍人だった。
「成田です。お迎えにあがりました。」化粧っけがないが切れ長の目の美人だ。髪が長ければ深窓の令嬢と言っても通りそうだ。秘書官か何かだろうか?。
見つめすぎたのだろう。ナリタに怪訝な顔で見られてしまった。
「女性兵士は珍しいでしょうか?。」と問われたので私はかぶりをふった。
「珍しいと言えば珍しいですが、少なくはありません。ただ概ね全員が航空関係です。」
ああ、なるほど、と彼女は納得したようだった。
ナリタに連れられて、まず『シモキタ』と言う補給艦にランチで移る。
身体検査と医師の検診を受け、予防接種などの注射をされた後で、ようやく回転翼機で空母に飛んだ。
実に巨大な船である。甲板の広さは我軍の『ウンターニーメン』の2倍はあるだろう。飛行甲板が進行方向に対して斜めになっているのが特徴的だ。
艦名を『コンスティテューション』と言うのだそうだ。「憲法」を意味するらしい。おかしな事にニホン国の言葉ではないと言う。よくよく聞けば、彼らがもといた世界では国によって言葉が違うのだそうだ。私たちのもと居た世界では共通語があった。この新しい世界では翻訳魔法がかかっているので、全ての人族がそれぞれの言葉を話していても意思疎通ができる。
艦橋はほとんど突起物がなくレーダーアンテナもない角張った形で
艦内も清潔でオイルの匂いがしない。我々は応接室のような部屋に通された。
「ようこそ閣下、大佐。それと少尉。そちらの方は民間の方かな。私は本艦の艦長スティーヴ・開高、一等海佐です。」中肉中背の中年男性。年齢は私よりも幾分若いように見えるが、北国人は見た感じよりも5〜10歳は歳が上だったから、実年齢は私と同じぐらいなのだろう。
「副長の吉永です。二等海佐です。」館長と同じぐらいの年齢だろう。細身で少し神経質そうだ。
「剣持です。三等海佐です。」がっしりした体型で背が高い男性。多分30代だろう。もっと若く見えるが。護衛というところだろうか。
「暮林です。同じく三等海佐です。」こちらは小柄な男性。30代か20代か他の3人よりは若いはずだ。がっしりした体型だから彼も護衛だろう。
「改めまして成田です。同じく三等海佐です。」と彼女は微笑んだ。
なんと、佐官だったとは。驚きをつとめて顔に出さないようにしたつもりだったが、彼女にはバレていたようだった。
食事をしながらでもと勧められ、食べながら話す事になった。
出てきた食事は「カレイライス」と言う穀物を茹で上げたものに香辛料タップリの具だくさんのソースがかかっていると言う南方系の料理だった。初めての味に私は魅了された。
他の三人も例に漏れずであったが、とりわけフューゲルは気に入ったようで、食べ終わった皿をうらめしげに眺めていた。
ケンモチが流し込むようにしてあっという間に食べ終わったのには、驚いたのを通り越して可笑しかった。笑いを堪えるのに困った。フューゲルは俯いてプルプルしていた。
その後はお互いの国の料理の話などで盛り上がった。驚いた事にニホン国にもブルストがあるという。帝国の料理に似たものを出す料理店もあるのたそうだ。
食後のコーヒーが出てくる頃には少し打ち解けていた。
人心地着いた頃にカイコー艦長が咳払いをする。
「まずは武装解除ですが・・・」とクレバヤシが話し始めた。
「機銃。大砲はそのままで構いませんが、20mm機銃弾を一定数残して弾薬は全部投棄していただきます。現有の航空機は機銃を外して投棄していただければそれで構いません。」
「船は?。」私が問うと「1隻を除いてお持ち帰りいただいて構いません。」とクレバヤシは答えた。
「どの船を引き渡せば良いのでしょうか?。」と問いながらもどうせ『グローセス・ヴァイデンライヒ』をよこせというのだろうと思っていたら『ウンベジークバー』だという。
「全員を捕虜にはできませんので、こちらが指定する方を捕虜としてお連れするのに船が要りますから。」とクレバヤシが無表情に言う。
船が足りないから?。そんなに捕虜を取るのか?、と思っていたら、意外なことを言い出した。
「傷病者のうち緊急を要する方、重傷者の方、それと各艦艇の責任者の方には来ていただきます。我々の医師がトリアージという緊急度を判断して、それに従って我が基地に来ていただく方を決めます。」
私たちが絶句しているとカイコー艦長が「私たちの方が医療技術は進んでますし、近いですから、助かる可能性が高いでしょう?。」とさも当然そうに言った。
「そちらの飛行隊の方で救助された方も、元気な方は一部の方を除いてお返しします。」
「はあ。」と気の抜けたような返事をしてしまった。
その時「あっ。」とナリタが何かを思いついたように声を上げる。
「あの巨大戦艦の主砲の砲弾を全種類ください。」
「あのなぁ、お前それ今言う事じゃないやろ。」ケンモチが呆れ顔で言うと「でもさぁ」とナリタが食い下がる。しばらく二人のやりとりが続き、その結果ニホン人全員がため息をつく。
「今のはお忘れいただいて結構です。」とヨシナガが言い、その場は収まった。
「帰投されるにあたって船の数は足りてますでしょうかね。」カイコー艦長が尋ねる。
「傷病者の一部・・・と言うか大半をお預かりいただけると言う事なので、残った船だけで足ります。『グローセス・ヴァイデンライヒ』や『ウンターニーメン』と言う大型艦もありますし。」
フューゲルがメモを片手に答える。
「医薬品や食料などは?。」とヨシナガが尋ねる。
「補給艦、支援艦はそのまま残っておりますので、ご心配には及びません。」とフューゲル。
「何か足りないものがあればご遠慮なく。できる限りの事はいたしますので。」カイコー艦長はにこりと笑う。
「どうしてそこまでしていただけるのでしょうか?。降伏したとはいえ我々は敵国の兵士ですよ。」私は訊ねてみる事にした。
私の問いかけに彼らは顔を見合わせる。その表情から真意は読み解きにくいが、答えに窮しているわけではないようではあった。
「人の命には、敵も味方もありませんからね。戦闘中ならいざ知らず、こうして話せば分かり合えるわけですし。」ケンコー艦長はさも当たり前だと言わんばかりにそう答えた。
「貴国の温情には感謝に耐えません。」リーデンドルフ侯は感極まったのか、片手で両の目頭を押さえながら静かに頭を下げた。
会談が終わり、私たちは再び飛行甲板に出た。
陽がだいぶ西に傾いて、空をオレンジに染め上げはじめていた。キラキラと光る海には百数十隻の船がひしめき合っている。つい先頃までここが戦場だったとは思えないほど、静かな海だった。
結果がわかっている話を書くと言うのはなかなか難しいですね。
伏線は回収できたと思います
お楽しみいただけましたでしょうか。
例によって説明不足な点については、閑話として近日中に掲載いたします
こちらもお楽しみ頂けると嬉しいです。
プロローグに関わる話はまた書きたいと思います。
謎能力の帝国軍パイロットや、捕虜になったヴァイゲル大佐たちのこととか。
よろしくお願いいたします。