表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/19

プロローグ 前編

初めて投稿します。いろいろわからないことだらけですし、どちらかというと遅筆の方なので更新はゆっくりめだと思います。不束者ではございますが生ぬる〜く見守っていただけますと幸いです。

 日本がまるっと転移して既に10年の月日が流れていた。元の世界との門が閉ざされるのもあとわずかとなったある日。

 『西嵐の壁』の西側に位置するフォールラシータ諸島最大の島、大フォールラシータ島の前線基地から飛び立ったE-767早期警戒管制機502号機は真っ青な空の中にあった。遥か下に雲の海が広がる、高度1万2,000mの成層圏を西を目指して飛翔していた。ようやく明け始めた太陽の光が雲間を縫って差し込んで、さもサーチライトのような逆さの「天使の階段」があちこちに出来上がっていた。


 この高度ならE-767は500km先の艦影を発見することができる。果たせるかな数時間ののちには東進する大艦隊の姿をそのレーダーに捉えていた。

 艦隊だけではなく、派手にレーダー波を撒き散らしながら飛行する早期警戒機らしい飛翔体も数機発見しており、それらの情報は瞬く間に西を目指す海自の全艦艇に共有された。


 海上自衛隊の対帝国東征艦隊特別機動護衛群、略称「対帝特機護衛群」は嵐の壁の西側のまだ仄暗い大洋を進んでいた。かつて20世紀中頃の世界大戦で日本が敗北して以来、初めての大規模海外遠征ということになる。その規模は、原子力空母1、航空機搭載型護衛艦3、ヘリコプター搭載型護衛艦2、ミサイル巡洋艦1、ミサイル駆逐艦5、イージス護衛艦6、汎用護衛艦10、多目的護衛艦12、哨戒艦8、潜水艦6、補給艦などの艦艇も含めると60隻を越える大艦隊である。

 航空戦力に至っては攻撃能力があるものだけで200機にも達する。


 本来なら日本には『空母』すなわち航空母艦は存在しない。ましてや原子力空母などもっての外だ。CVN-83『コンスティテューション』は名前から分かる通りそもそもは日本の船ではなかった。元々は米海軍第7艦隊所属のジェラルド・R・フォード級空母の6番艦である。件の『事象』によって、無期限貸与という形でなし崩し的に手に入ったものだ。

 同じ様にして米軍から入手してしまった艦船が他に15隻もあった。米国的にはものすごい大盤振る舞いをしてしまったことになる。今回の略称「対帝特機護衛群」にはその内の8隻が参加している。


 この大艦体の派遣はもちろん侵略のためではない。あくまでも防衛のためである。第四帝国と自称する好戦的な軍事大国相手に、やりたくもない戦争をしなくてはならなくなってしまったのだ。それ故なのかもしれないが、敵艦隊の質を考えるとややオーバーキル気味の布陣となってしまったようだ。


 その「対帝特機護衛群」の中の一隻、最新鋭のしらね型イージス護衛艦の2番艦、DDG-1702『あかぎ』の薄暗い戦闘指揮所(CIC)の自席で、梅木三等海佐はふうっとため息ともつかない息を両の手に吐きかけると、温めるようにもみ手をした。その手で帽子を直し、ヘッドセットをかけ直す。神経質そうな細面の一見すると優男であるが、海自の士官らしい筋骨隆々とした体躯をその制服の下に隠していた。


 艦橋の指揮を執る女性副長の木原二等海佐、同じく艦橋で操艦の任につく航海長の飯盛(めしもり)三等海佐とは防衛大同期である。いわゆる秀才が揃った黄金時代と呼ばれた世代で、三人とも他にもれず、海自では久しぶりのスピード出世ぶりを発揮して、あれよあれよという間に20代のうちに佐官に任官されてしまった。中でも木原は飛び抜けて優秀で、他の二人を差し置いて二佐に上がるや否や本艦の副長の座を射止めてしまったのだ。


「梅さん、緊張してはりますね。」先任伍長の左文字一等海曹が後から声をかける。五十絡みの大男で、空手の師範代の資格があるとかないとか。

「ええ、まぁ、なんか手先が冷たくなってしまって。」と梅木。その背中を左文字がバンバン叩きながら豪快に笑う。「みんな戦争は初めてなんですから、老いも若きもみんなチェリーボーイですわ。あっ失礼、木原副長はボーイやなかったわ」

「いや、あいつもボーイでいいと自分は思います。」と梅木は笑いながら答える。

 三人とも仲は良いのだが対抗意識がないわけではない。今時男尊女卑もないものだが、女性の木原の後塵を拝しているのは些かなりとも梅木の自尊心を傷つけるには十分ではあった。とはいえ、大学在学中から今まで、座学であれ実地であれ、一度しか木原に勝てたことがないのだから致し方ないことではあったのだが。


「おっ、梅さん調子出てきはったんちゃいますか。」と左文字。

「毎度のことながら親爺(おや)っさんは緩みすぎなんですよ。」と艦長の多聞一等海佐が笑う。人好きのする笑顔の多聞は40歳になったばかりだが、こちらも異例のスピード出世でこの席を射止めている。ましてやこの最新鋭艦を任されるほどであったので、察するまでもなくそれなりに海自の士官らしい厳しさも併せ持っていることも確かなのである。


 だがそれを滅多に表に出すことはなかったので、初めて多聞に会った海曹士の中には優しい上官だと勘違いする向きも少なくはなかった。一重にこの左文字との気安いやりとりもその遠因であるとも言えた。


 左文字はこの船の最古参の下士官であり、海自独特の『先任伍長』という立場にあった。先任伍長というのは階級ではなくいわば役割名である。規律および風紀の維持や、海曹士の総括、隊内の団結強化など、士官では「痒いところに手が届かない」ような様々な事どもをどうにかするのがその任務であり、時には艦長ら上官に対して意見したり、命令拒否したりもできる。つまるところ、こうして軽口を叩いて見せるのもその任務の一環と言えるのだった。とは言うもののの、左文字の場合はいささかやりすぎな感がないわけではなかったが。


 左文字が「せめて私ぐらいはどーんと構えてへんとね。」とにやりと笑い、CICの他の隊員に向かって「全員注目ー、とにかく終わったら打ち上げやで。艦長と副長の奢りや。」そう言うと居住まいを正し「これで全部署用意よしであります。小官も艦橋に上がって副長の補佐に入ります。」とビシッと敬礼をきめた。

 先任伍長殿は今のようなやりとりを全ての部署でやってきたのかぁ〜、と梅木が半分感心していると、タイミング良く艦橋にいる副長の木原が「え〜、何やら付いているらしい副長であります。」とスピーカー越しに言う。

 どっと笑いが起こる中、彼女は続けた。「僭越ながら先任伍長と砲雷長、そして私の後ろで笑いを堪えきれずにいる航海長にもその酒宴の主催の任務につくよう具申いたします。」

 それを聞いた多聞がニコニコしながら「うむ。許可する。左文字一等海曹、梅木三等海佐、飯盛三等海佐はこの栄誉ある任務を全うするよう命ずる。」と告げる。

 敬礼の格好のまま「謹んで・・・ええーっ。わし安月給ですやん。割引を具申いたします。」と左文字が締まらない声を出し、つられて皆がさらに笑った。

 多少引きつった笑いのものもいたが、それでも何か空気が柔らかくなった。

 まぁいつものことなのだが、左文字先任伍長には何かと助けられていると思うことが多い。そのことに感謝しつつも自分も奢らされる側にされたことについては、木原にまんまとやられてしまったなと思う梅木だった。


 ◇◇◇

「司令部より。先行する早期警戒機が敵艦隊を捕捉。距離約100万m。データリンク中。」イージスシステムの女性オペレーター主任の島津一尉がそう告げると一気に指揮所内の空気が緊張する。「データ出します。うへっ。」

「聞いてはいたけど、実際にスクリーン上に出すとものすごい数だな。」と艦長の多聞が難しい顔をする。その目線の先には、スクリーン上で瞬く夥しい数の光点があった。ざっと600隻はあろうか。「大型艦がうち44隻。空母と思しきもの10、戦艦34、そのうち超大型艦が1隻。巡洋艦クラスが約200。駆逐艦クラスが約300。」と島津が読み上げる。


「うむ。」艦長は報告に頷く。「聞いていたより少し多いか。」

「はい。100ほど多いですね。帝国本国から派遣された直撃艦隊とやらが320で、あとは衛星国に駐留する艦が180〜200と聞いていましたが、どこから湧いてきたのやら。」と島津。


「うわさの超大型艦を見てみようか」と多聞が言うと、島津が端末を操作する。程なくスクリーンに巨大な戦艦の姿が映し出される。

「映像が来ました。うはぁ。これは大きいですね。データ読み上げます。全長約350m、全幅約45m、予想排水量10万トン。主砲は旧海軍の大和級の46cm砲より大きく、画像解析では45口径長50cm砲とのことです。これが3連装4基で12門、130〜160mmの3連装砲塔4基、同じサイズの連装砲塔8基で合計28門、30mm以下の連装機関銃が80基、単装機銃が20基。兵装も多いですね。コイツが多分旗艦だろうと。」島津は海自の女性自衛官カレンダーに抜擢されるほどの美人なのだが、実はミリタリーオタクで少なくともこの場にいる誰よりも詳しいのだった。


「島津、やっこさんの主砲の能力は?」という多聞の問いに島津はデータを読み上げる。

「最大射程5〜6万m、距離3万5,000mでの散布界が遠近方向に300m程度、発射速度は毎分0.8〜1.2発と分析してます。ま、当たりませんよ。」と返した。散布界と言うのは撃った砲弾の弾着のばらつきを示す指標で距離で表す。これが近いということは狙い通りの弾着を得やすいということであり、命中率の向上につながる。

とは言え、水平線の彼方の直視できない目標を射撃するためには観測機が不可欠であり、制空権もなく観測機との通信が妨害されている時点で、実戦では全く使い物にならないと言って良いものだった。


 そりゃあそうだと頷く多聞艦長以下CICの面々である。

「向こうさんの攻撃も当たりませんが、こっちの攻撃もなかなか通用しないかもですね。装甲が分厚そうです。船体はかなり頑丈でしょう。対艦ミサイルでもそこそこの損害なんじゃないですかね。こちらの艦砲だと、通常弾では豆鉄砲程度の影響でしょう。」と梅木が分析して見せる。多聞の「ふむ、艦橋の指令所を直接狙うか?」との問いに「戦闘指揮所は奥まったところにありますから、直撃弾を数発撃ち込む必要はありますね。」と梅木。

「本艦やオバマ級の155mm砲ならなんとかなりそうだね。」と多聞がさらりと言ったのことに、梅木はややひきつりながら「ええ」とだけ答えて、いうほど簡単では無いですけどね、という言葉を飲み込んだ。

「37隻の集中砲火ならなんとかなるかもしれんな。」と多聞は飄々とした調子で言うと、映像の続きを島津に促していた。


「あとは大和やアイオワクラスの推定排水量4万〜6万トンの大型戦艦が12隻。40cm前後の3連装砲塔3基、130〜160mmの連装砲塔が10〜12基。

 推定3万トンクラスの戦艦が21隻。こちらは30〜40cm前後の連装砲塔2〜3基、150mm以下の単装砲が20〜24門、または同連装砲が10〜12基というところですね。」

 スクリーンに映し出される衛星からのビデオ映像が次々と変わっていく。それを見ながら島津の読み上げが続く。

「空母は大戦中の米海軍のミッドウェー級とほぼ同等サイズの大型艦が4、エセックス級と同等の中型艦が6、およその艦載機数は大型艦が140機前後、中型艦が100機前後。あ、無人機からの映像きました。切り替えます。」

 画面に飛行甲板に飛行機をずらりと並べた空母が映し出される。

「映像解析の限りではありますが、地球の第2次世界大戦末期から朝鮮戦争勃発以前の技術水準と思われます。甲板上には旧ドイツ空軍のFW190Aに酷似した戦闘機と思われる機体とJu 87に似た逆ガル翼の攻撃機が展開中。ジェット機と思しき機体もあります。こちらは旧米海軍のF9Fによく似てます。」


「梅木砲雷長、どう見るね?」と多聞。

「全艦載機が1,500機ほどですか。そのうち1,200機ぐらいが、爆撃と雷撃をする攻撃機でしょう。残りは護衛の戦闘機。多いですが、脅威にはならないかと。」顎に手をやりながら「ただ・・・」と続けた。「いわゆる特攻を仕掛けてくる可能性があって、それは厄介ですね。」

「ほう、カミカゼと同じことを?」

「ええ。まぁ、国民性とメンタリティがわかりませんから、そのまま死を覚悟で体当たりをしてくるかどうかは確証はないですが、この逆ガル翼機は間違いなく急降下爆撃機です。直上の高空から体当たり覚悟で急降下されると流石に対応できる手が少ないですし、波状攻撃なんかされたら、こちらもノーダメージでは済まないかもしれません。」

「直上は直掩機に守ってもらわんと、と言うことか。」

「そうですね。まずは直上に到達する前に撃ち落としていく、残ったのを直掩機に守ってもらうと言う構えでしょうね。」

「ん。逢坂二尉、その旨司令部に伝えてくれ。特攻に注意と。」

「了解しました。」と通信士の逢坂遥二尉は頭の頂点で結ったお団子を揺らしながらコンソールへ向かった。


「航海長、進路このまま、僚艦との距離を保て。」木原副長の指示する声がスピーカーから流れる。

「ようそろー。距離保ちます。」とすかさず飯盛航海長が同じことを復唱する。

 多聞はそれに静かに頷き、「進路よーし。速度このままー。」とマイクに向かって答えた。


「島津一尉、会敵はあとどれくらいと見積もるか?」と多聞が問うと、島津はしばらくスクリーンを虎視したのちに、「敵は足が遅いです。12時間というところでしょうか。先発する攻撃機隊の攻撃開始予定が0930(マルキューサンマル)で我々の攻撃予定がその5分後の0935(マルキューサンゴー)で、先発隊のASM(空対艦誘導弾)の弾着予定が0940(マルキューヨンマル)で、我々の艦対艦誘導弾(SSM)攻撃が1005(ヒトマルマルゴー)ですが、その時点で敵艦隊は概ね壊滅状態だと思われます。それでもまだやる気でいるとしても、1545(ヒトゴーヨンゴー)には潜水艦隊の雷撃と誘導弾の艦砲射撃を始めますから、会敵する前に戦闘は終わってますね。」と答えた。

「うむ。」と艦長が頷く。そのやりとりを見ながら梅木は来る戦闘の脳内シミュレーションを始めていた。


 ◇◇◇

 護衛艦『あかぎ』の上空を幾筋もの飛行機雲が西へ西へと伸びていく。

 つい今し方後方の米空母と航空機搭載型護衛艦から飛び立った艦載機群である。多分先陣を切って飛ぶのは40機の無人攻撃機ペガサスであろう。

 その後を84機のF/A-41バルキリーII、20機のF-35BJ ライトニングIIの計104機の大編隊が追随し、退去して押し寄せる敵艦隊を滅するために西へと向かっていく。


『あかぎ』のCICで静かに時を待つ梅木砲雷長は、既にレーダーが使用不能になっているはずの敵には同情を禁じ得なかった。

 突如として『あかぎ』のCICのメインスクリーン上には新たな光点が表示される。敵空母から飛び立った艦載機である。その数およそ1,500機。

 レーダーが効かなくなったことから、我々が近づいていると判断して艦載機を発艦させたのだろう。敵も馬鹿ではない。それぐらいの対応はしてくるし、もしかすれば我々がお呼びもつかない奇策を講じてくるかもしれない。

 そんなことを思いながら、梅木はスクリーンを睨むように眺めていた。


 飛行機雲が西に消えてから20分ほど経った頃、司令部から攻撃命令が下る。

「90式誘導弾撃ち方よ~い。」と多聞の声がCICに響く。

 梅木はそれを復唱する。さらに管制官がスイッチのカバーを開け「よーいヨシ」と答えると、「撃ち~ぃ方始め~」と独特の節回しで多聞が号令する。

 梅木がそれを復唱すると、管制官が「てーッ」と叫んでスイッチを押す。

 予め目標を入力済みの90式対艦誘導弾が垂直発射装置(VLS)から矢継ぎ早に5発撃ち出された。


 40隻近くの戦闘艦から合わせて200基ほどの誘導弾が噴煙を尾のように引きながら、一斉に空へと駆け上る。その様子はさすがに壮観である。亜音速で飛翔するそれらは、あっという間に糸のような噴煙を残して空の彼方へと飛び去っていった。


 さらに5分後、水平線には夥しい数の黒煙の筋が立ち昇る。それは先行した飛行隊から放たれた400基ほどの17式対艦誘導弾が着弾し敵艦を屠ったことを示す狼煙だった。

 あの下で多くの命が奪われたことだろう。その後しばらくすると水平線間際の空にチカチカとフラッシュライトのような小さな光がいくつか輝いたが、すぐに見えなくなった。


「空対艦誘導弾、目標に着弾。見た限りはほぼ全弾命中です。停止した艦艇が250以上。多数がレーダーから消えましたが、爆発轟沈したものと思われます。」島津が淡々と戦況を伝える。「第一次の航空攻撃隊が敵機に対しても対空ミサイル攻撃を行なった模様。300機ほどを撃墜。残り1,200がこちらに向かってきます。多目的護衛艦(FFM)哨戒艦(PG)が防御線を形成して対応するようです。」


「防御線を超えてくるのも何機かいるでしょうから、それらには主に主砲で、撃ち漏らしたものに対してRAM(近接防空ミサイル)で対応します。」と梅木が言うと多聞はゆっくり頷いて「うむ。よろしく。」と答えた。

「さて1時間ぐらいはすることがないだろう。当直以外は休んでよし。おお、そうだ烹炊長から差し入れがあるそうだ。ちょっと早めのおやつだな」と続けると、CICの女性陣がわっと歓喜の声をあげた。


 ◇◇◇

「だ〜ん着〜」と女性観測官の声がCICにこだまする。発射から30分を経て90式誘導弾が敵艦に次々と命中している。無人観測機からのライブ映像がスクリーンに映し出されている。そこにはいささか現実味のない、それでいて陰惨な光景があった。まさしく海が燃えていた。


「全弾命中。敵艦残存数、およそ150。そのうち戦闘艦は50。空母は無し。戦艦20、巡洋艦20、駆逐艦ほか小型艦艇10。大型戦艦はほとんど残ったようです。」

 観測官の報告が続く。「非戦闘艦と思われる艦船で被弾したものは無し、誘爆に巻き込まれたと思われるものが数隻、見たところ被害は軽微。敵艦隊は停止した模様、救助活動をしているようです。あ、失礼しました、大型戦艦のうち半数が未だ前進を続けています。」


「まだやる気なのか。もう勝敗は決したと思うのだが。」と多聞艦長。

「彼らなりの矜持というものなんでしょうか。追撃戦を防ぐつもりなのかもしれませんが。」と梅木砲雷長が言い淀んでいると、「かつての軍国主義の日本と考えが似てるのかもしれんな。」と多聞がまるで心を読んだかのように、梅木が言おうとしたことを口にした。

「ええ。殲滅戦とか考えたくないですが・・・。」

「最後の一兵卒まで降伏せず戦うとなると、そうなるよなぁ。・・・それよりもだ、梅木砲雷長。まずは敵航空機だよ。」と多聞。

「はい。母艦が無くなったと気がついているでしょうから、死に物狂いで捨身の攻撃をしてくるのは確実と見ていいでしょう。」

「防御線と直衛機で概ね排除はできるとは思うが、ま、この一戦が終わったらまた2時間ぐらいは休憩できるから〜。皆、この30分は気を引き締めていこう。」

「了解です艦長。」多聞の緩めの発言にもかかわらず、CICは凛とした空気に包まれていた。



 ◇◇◇

「直掩機上がりました。『コンスティテューション』のF/A-41です。」

 24本の飛行機雲が急上昇していく。程なくして防御線を形成する多目的護衛艦と哨戒艦がけたたましい勢いで主砲を発射し始める。空に炸裂した砲弾の花が開き、その度に敵機が粉々に吹き飛ばされていく。


「さぁ、来るぞ。総員対空戦闘よーい。全員艦内へ。」多聞が号令をかける。

 けたたましい警報音が艦内に鳴り響き、自動音声のアナウンスが艦内への避難を促す。

 スクリーンを睨むように見ていた島津一尉がすうっと息を吸うと、大きな声で敵機の飛来を告げた。

「超低空で24機が防御線を掻い潜って侵入中。目標は『コンスティテューション』と予想。」


 それを受けて梅木は多聞艦長に進言する。

「こいつらはかなりの手練れです。エースオブエースと言っていい。進路変更して迎え撃ちましょう。我々が一番近い。」


「うむ。木原副長、侵入機との会敵コースをとる。操艦よろしく。観測用ドローン出せ。逢坂通信士、司令部に迎撃する旨連絡。砲雷長、後は頼みます。」と、ちゃっちゃと指令を出した多聞は深々と椅子に体を沈め、「一機ぐらい拿捕できるといいですねぇ。」と独り言ちた。


「コース変更。最大戦速。」木原の号令が飛ぶとともに『あかぎ』の速度がグンと上がる。


「砲雷長、出し惜しみする必要はないよ」と多聞は梅木に微笑みかける。梅木はぐっと歯を食いしばると、次いでフウッと息を吐く。

「全自動モード起動。」静かに号令を発する。

「トラックナンバー01(まるひと)から24(ふたよん)入力済み、全自動モードで対処。」

 武器管制官の返答とともに、スクリーン上に「AUTO」の文字が浮かび上がり、マークした敵機の脅威度が色別に表示される。24の目標がスクリーン上で明滅していた。


少し長くなりましたので今回は前後編でお送りいたします。

誤字脱字、ご感想などいただけますとありがたいです。お返事を各々の方にするのは難しいと思いますが、今後の参考にさせていただければと思います。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ