第八話
外出先のためルビは後で修正します!かぐやの正体を知ってしまう帝たちだが……
受け入れてもらえるかはわからない、騙したことを咎めて刃を向けてくるかもしれないと不安になりながら、その日とうとうかぐやは帝を閨へ呼びこんだ。閨、つまりベッドルーム。
なぜか時間をずらし、石上と御行も屋敷に呼ばれた。これでは閨の前で鉢合わせしてしまう。しかしそれこそがかぐやの狙いであった。
「随分唐突な気もするけど、ようやく結ばれるのだな……」
帝はいつもより数段格好付けて囁いた。
「明かりは落とさないでいいのか?」
今まで相手にしたのは恥ずかしいので身体は見ないでほしいと奥ゆかしく告げてくる女性ばかりだったので気を遣ってそう訊いてみたのだがかぐやは身じろぎもせずじっと帝を見据えている。帝の方が照れくさくなってしまった。帝は自らも襦袢一枚のような軽装になりながら、するすると着付けを剥いでいく。かぐやの平坦な胸が露わになる。
「?!」
帯も外して、足が剥き出しになった。下着は着けないので、帝の目には自分と同じ男子の象徴がいきなり飛び込んでくるのである。
「お、おとこっ」
「逆にここまできてなんで気付かないのか」
起き上がって自分にのしかかろうとしていた帝を振り落とす。帝は混乱しながら、焦って自らの乱れた着衣を整えた。その頬は赤く染まっている。
そして次の瞬間、帝の顔面が青くなった。まさか、暗殺? それとも、襖の奥から屈強な男達が出てきて俺は犯されてしまうのか?!
「騙して悪かった、俺の話を聞いてくれ!」
かぐやに肩を掴まれて、帝は震えあがった。
「誰か! いっちゃん! 助けて犯される……」
襖を開けて、今まさに助けを呼んだ相手が入ってくる。おまけに門の前で鉢合わせをした御行まで伴って。二人は首を傾げながら、まさかそんなに乱れた行為をお望みかと襖の向こうで聞き耳を立てていたのである。
「やめて心の準備が! 騙し討ちなんてひどい!!」
帝は完全に自分が組み敷かれてしまうのだと顔をぶんぶん振って騒いでいる。
「しーっ、ばあちゃんたちが起きる!」
帝は慌てて口を塞いだ。ひとまず落ち着かせて、三人には大人しく座ってもらう。
「帝、あんたを巻き込みたくはなかった。いや今も、巻き込みたくはない。だけど俺と関わったことであんたも月衆に襲われる可能性がある」
「月衆……?」
――――……俺は月に棲む一族、月衆の末弟だ。人間にほど近い構造をした俺と違い、他の月衆は体がばかでかかったり、蛸みたいな手が何本も生えていたり、蜘蛛の糸を吐き出すことができたり、鬼、妖や怪異と皆が畏れるモノによく似ている。おそらく、それらの正体だ。
奴らを仕切っているのが、大王。あらゆる月衆の中で最も強大な力を持つ。すべての餌は、最優先で大王に献上される。
「月衆の餌は美しいモノ。偶然見目良く生まれてきた末弟の俺は……これ以上ないぐらいちょうどいい奴らの餌」
「え、餌って」
「美しい物を喰えば、その分力が増幅する」
そう言って、かぐやは傍らに飾られていた翡翠をまるで干菓子でも食べるかのように齧って食べて見せた。かぐやの体は淡く発光し、嫌でも作り話でないことを証明する。
「この手や指も斬られて奴らの口に入った。目は何度も抉られ喰われた」
グロテスクな話をすると、帝は眉をひそめて耳を塞ぐ仕草をする。
「……ごめんな、怖かった?」
「いや、大丈夫、聞くよ。全部ちゃんと聞く」
「餌にされるだけじゃない……体も、あいつらは“可愛がっているんだ”って感覚だったらしい、けど」
大王は体長三メートルにもなるような、巨躯の男の風貌をしている。闇のように真っ黒い塊が、一応男の風貌を成している、という状態だ。そこについと切れ目が入り、ぎょろりと目が剥いて、その下に口がある。かぐやは大王に押さえつけられ、体を食まれて、末端を齧られ、下半身は蹂躙されて、血液や体液、果ては精液を舐められる。体の一部を喰われてもまた生えてくるのだ。
月衆の長い寿命をさらに伸ばすため、末弟であるかぐや――――月で与えられた名は、『蓮』といった――――、
その蓮の整った美しい肢体は文字通りの餌であり、嗜好品でもあった。大王だけでなく、名も与えられぬ触手や化け物に犯され、生まれて早々にかぐやは感情を放棄した。
「再生能力の高い俺たち月衆はこの国の者たちからすれば不死のように長い寿命を持つ」
餌として食べられる美しい物は、花や鉱石、そしてかぐやの肢体だけであった。
地獄のような日々の中、軟禁されたかぐやの目の前に不思議な玻璃、今で言うガラスの珠が転がってきた。それを食そうと思ったのだが、珠の中によく見ると何か絵が浮かんでいる。それはテレビのようにこの国の人々の営みを映しているのだった。
「俺に似た構造の奴らがいる。きれいだ」
農民や貴族の暮らしを眺めるうちにかぐやの心は癒されていった。あの柔らかそうな腕で抱き締められたらどんな気持ちだろう。赤ん坊は温かいのだろうか、冷たいのだろうか。
餌としてでなく花を愛でるような生き物はどんな匂いがするのだろうか。
数百年前、かぐやの眺めていた珠の存在が見張りの月衆にばれた。
「美しい生き物、餌だぁ」
「やめろ餌じゃない、食うべき物じゃない」
どうか地球の存在に気付かないでくれとかぐやは願ったが、願い空しく月から地球へ降りる方法を見出し、多くの月衆が地上に降りては棲み付いた。鬼、大蛇、土蜘蛛……この国の人間は彼らに妖と名を付ける。醜い月衆は人間に憧れ、常日頃から美しいと愛玩するようになった。女を攫い、男を嬲っては喰い……。
「蓮よ、おまえのおかげでよい餌が見つかった、位の高い男のめだまのなんと美味なこと……私はこの国をまるごと貰うことにした、美しいもので満ちたこの国を月のものと為す」
(俺のせいだ、俺がこいつらに憧れて眺めていたせいで地上の存在に気付かれた。全部俺の招いたことだ)
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バトルシーンが終わったためまたしばらく2500字程度の更新に戻ります……