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第五話

かぐや姫が男の子だったら……の第五話。かぐやは猫被ってますが実際は江戸っ子喋りなんです。

バトルのターンが増やせそうだったら加筆したいけど書いてる間に更新が追いついちゃいそう。

 それから数ヶ月の間に、数回帝はかぐやを訪ねた。御簾(みす)越しにするのはいつもくだらない話ばかりだったが、月にいた頃には到底、見聞きすることすらできなかった。

「それをね、餅の中に入れるわけよ、なまこを」

「えー」

「面白かったから右大臣の餅に切ったなまこ入れたらめちゃめちゃ怒られた」

 帝は賢くはなかった。だがいつも面白い発言をしてかぐやを驚かせ、楽しませた。現代で言うところの、天然キャラといったところだろうか。

 もう、筆談に戻る気はない。自分の声を聞いてもこの天然な帝はまだ姫だと信じているらしかった。

「まだ顔は見せてくれないの?」

「……心の準備が」

「見たい。顔見て話すると全然違うよ? 笑ってるとか、困ってるとかわかるし」

「……わかるのか。……お……私には、あまり、細かい表情の差がわからないから」

「じゃあ俺がいっぱい見せてあげる」

 そう言って、犬のような、猫のような、とにかく人懐っこい印象の笑顔を向ける。


 ある時は、今日は天気がいいから一緒に昼寝をしようととんちんかんなことを提案し、床板の上にごろんと寝転がってしまう。間違いがあっては困ると帯同していた従者が慌てて駆け寄る。

「帝、お召し物が汚れます」

「こんな板間で寝たら体が痛くなりますよ」

が、帝はもうぷうぷうと寝息を立てていた。従者たちは呆れ果てる。媼に呼ばれ、ぐみの実をつまみに行ってしまった。かぐやは足音を消して御簾から出ると、帝の横にしゃがむ。確かに日が当たって、ぽかぽかして気持ちいい。

「少しだけ……」

 隣に体を丸めて、目を閉じた。猫のような寝姿で、小さくなって眠る。かぐやの癖だった。人の体温の優しさを知ったのは地上に来てからだ。翁も、媼も、ほかほかすべすべしていて柔らかい。無意識に吸い寄せられかぐやは帝の腹に頭を乗せた。温かい。心臓が脈打っている。夢うつつで、わずかに目を開けた帝は、自分の腹に頭を預け、体を縮め眠っている美少女を見て、うっとりため息をついた。

(かわいいな……)

 目を覚ました時にはすでにかぐやは御簾の内に戻っていた。


 夢とうつつの境で見たあの美少女がかぐやだとしたら、噂に訊いた通りの見た目だ。帝はいよいよかぐやに惹かれた。これはどうしても顔を拝みたい。

 従者も、怪しむ石上(いそのかみ)も、適当に振り切って、帝はたった一人馬に乗ってかぐやの屋敷へとやってくる。この時代の帝といえばまったり牛車に乗っているのが当然だったが、幼馴染の石上による教育の賜物で帝は馬や剣、弓には覚えがある。

 竹林に分け入り、設けられた高い塀をよじ登る。いつもの直衣(のうし)ではなく、多少なりとも動きやすく狩衣(かりぎぬ)を着てきた。運動神経は悪くない方である。塀から飛び降り、こそこそと窓から屋敷の中を覗き込んだ。かぐやは御簾の内側から出て、真昼の月を眺めている。

 その横顔の、なんと優美なことか……。帝は胸を握りつぶされたような気持ちになった。運命的な恋に憧れていた自分の願いを、天の神様が叶えてくれたのだと思った。切なげに伏せた目、引き結ばれた薄い唇。

(華奢で繊細で、なんて守ってあげたい人なのだろう)

 かぐやは重い単や長袴を好まなかったが、それでも袿の色が白い肌に映え、着物の中で体が余っているように感じられる。それくらい体が細く儚げなのだ。もちろん帝の主観である。

 かぐやは背後の人の気配に気付いた。寝台の横にある太刀を取って戻ると、じりじりと窓ににじり寄る。

「…………っ」

 逃げないと、と走り出した瞬間、壁代を切り裂き帝の眼前に刀身が現れ行く手を阻んだ。

「帝?」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 必死に謝る姿と、姫君とは思えない太刀筋を見ても男だと気付かないことにじわじわと笑いが込み上げる。かぐやは笑い出した。

「え、なに、なんで笑うの、俺許されたの? 殺されるの?」

「顔を見てしまったのなら仕方ない。今度から御簾を上げてお会いしましょう」

「よかった……終わったと思った」

 約束を破ったと、この男を切り捨てることができないほどにかぐやは帝を気に入ってしまっている。人の子の心の機微に疎いまま育ったかぐやはそのことをまだ自覚していなかったが。

 くすくすと笑うかぐやの顔が大層かわいらしかったので、帝も笑ってしまった。

「腕が立つんだねえ」

「…………多少、心得が」

「俺は戦うのが下手だからな」

「帝はお優しい」

(取り繕った嘘の話し方ではなく、ありのまま帝と話してみたい。もっと親しくなれたら)

 そこまで考え、かぐやはぞわりと体を震わせる。巻き込むことをわかっていて、親しくなろうとしているのか、俺は。兵を用意させるために近付いて、この男の心をくすぐって利用しているくせに……? 随分強欲だ。

(だめだ、期待するな、錯覚するな、俺は)

「何もいらないんだ」

 自分に言い聞かせると首が赤くなった。


BLではないギリギリのラインを責めているので濃いめの友情や敵による美少年の触手責め(絡め取ってるだけだけどね)がありますが恋愛感情ではないのでBLタグ等はつけません!BLでもオリキャラ夢でも好きなように妄想して楽しんでほしい……切実に……

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