第二話
毎日2500字程度更新で連載します。書き終わっているのですが少年漫画的なわくわく感を得てほしくて連載にしています。あとワニに便乗しています(正直)
時代考証ありません!知識のネタ元はwikiです。ネオファンタジー時代劇みたいなものと捉えてください!
おばあのセリフが千鳥のノブで再生されます。
媼はかぐやの手を引いて里に出た。里の者達は吸い寄せられるようにかぐやを目で追う。
「なんと……あのような美しい姫がこの辺りに居られたのか」
「綺麗だ」
「私の側室に迎えたい」
「いや俺の妻に」
男達は誰も彼も、かぐやに一瞬で夢中になり、ちょろちょろと後ろをついて回る。
「何か食べるかい?」
野草の入った饅頭を指して媼は訊いたが、かぐやはふるりと首を振る。
「いらんのかい?」
男の内の一人が駆けずり回って山桃を手折ってくると、かぐやに差し出す。
「受け取ってくれ」
かぐやは無言で山桃の枝を受け取り、黙って頭を下げた。
「おお、おお、美しい人! 貴方はどこの姫君か!」
かぐやは媼にこそりと耳打ちをする。
「これなるは私の娘、なよ竹のかぐや姫にございまする」
「かぐや姫! どこへ行けばそなたに逢えまするか」
かぐやは黙って、山の上の竹林を指差した。あの竹林の中にある屋敷にこの娘が。ならば今宵から三日通って求婚しよう、男はすぐに踵を返し屋敷に戻ると求婚の準備を始めた。
家に戻ると媼は困惑をかぐやに打ち明ける。なんでまた、娘御のふりなんてしたんだい、あれじゃあ男達がこの家に押しかけてきてしまうよ。
「ばあさまと、じいさまのため」
それに、自分自身のため、そうぽつりと言い、かぐやは質素な竹筒に貰った山桃を活けた。
媼の懸念の通り、噂はふもとの里を離れ、隣の里、隣の村と広がり、とうとう都へと辿り着いた。竹林の中の屋敷に、それはそれは美しい姫がいる。老夫婦に育てられ、未だ男を知らぬまま、ひっそりと暮らしている。
その者の名は、かぐや姫。なよ竹のかぐや姫。
その日から屋敷の周りには噂を聞きつけた男達が列を成すようになった。絹の美しい単や袿、櫛、紅玉、真珠、壺、箱、硯、あらゆる物がかぐやに贈られる。
「ばあさまと、じいさまのためというのは、もしかしてこれのことか」
幾人かはかぐやに謁見が許されたが、何を贈っても、情熱的な和歌を詠んでも、流麗な舞を踊っても、笛を吹いても、かぐやはただ黙って、観ているばかりだった。
「どうか私の妻に」
そう問われると、寂しげに首を振る。
(そりゃ、そうじゃろ、男なんじゃから)
媼は半ばあきれてその様子を眺めていたが、最後に必ず微笑む。これがまあ、効果が絶大だった。断られても断られても、求婚する男達は後を絶たない。
贈られた物で翁の家は潤い、竹を売らずとも食っていけるほどになった。
「のう、かぐや。ああして求婚してくれる方がたからの贈り物で我が家は大変に潤ったが、少々申し訳なくないか? 金目の物目当てに……騙しているようで。おまえは心の優しい子だ。美しい着物や宝玉が目当てなのかい? 金が欲しいのかい? 違うだろう」
そう問うと、かぐやはすいと立ち上がり、竹筒に活けてあった山桃を手に取った。
「な、なにを」
山桃を口に入れる。むしゃむしゃと花びらを咬み千切り、ごくんと飲み込む。
「え、えっ」
目を瞬かせ驚く媼の前で、かぐやは山桃を食べ終え珊瑚の球をころりと口に入れる。
「これこれっ、そんな物食うたらいかんっ、馬鹿か」
媼が止めるのも聞かず、かぐやは珊瑚を飲み込んでしまった。かぐやの体が薄っすらと光る。後光が差しているのだ。
「あ、ああ、ああ……」
間違いない、間違いなくこの子は人外。力が満ち満ちていくのが媼の目にもわかる。
竹から生まれ、どうやら人間ではないかぐやの力の源は『見目麗しき物』であった。
なるほど、じいさまとばあさまのため、家を豊かにするために姫御前の振りをして都の男達から『見目麗しき物』を貰い続ける。そして自分自身のためというのは、それを食して力をつけるということなのだった。
都の者達の間では、かぐや姫に挑むのが最早ステータスのようになっていた。ある者は財力で、またある者は風雅で、かぐや姫を落とそうとする。かぐや姫に求婚できると同時に、内外に自分の持てる能力の自慢をすることができる。
かぐやが簡単に笑ったり言葉を掛けたりしないことがますます男達の心に火をつけた。
男達は小筆でさらさらとお題を書くかぐやにでれでれと見惚れ、それに応じた物を持ちよった。儀式めいたその行程が余計に中国の謎かけ姫やどこか遠く離れた国の笑わない姫の伝承のようで、神秘的で妖艶に見える。
「かぐや」
かぐやは美しい物を摂取しては後光を強めたが、同時に夜になると月を見上げため息を吐くようにもなった。時折苦しそうに首を掻きむしる。
「かぐや、大丈夫かい?」
「大丈夫です。ばあさま、心配をかけてごめんなさい」
落ち着いた声音でそう言うが、うっと呻いて膝を突く。
「月が、何かあるの?」
ふるふる、と首を振るが、媼には思うところがあった。月に人が住んでいるという、途方もない口伝を聞いたことがある。彼らは月衆と呼ばれ、人間の及ばない力を持っている、という話。不自然に成長の速い、美しい子。もしやかぐやは、月衆なのではないか。
自分の力を強めるために贈り物は欲しいが、男だから求婚は受けられない。それで断っていると思っていたけれど、月に戻らなければいけないから、誰からの求婚も突っぱねているのか? すべて媼の想像に過ぎなかったが、眉を潜め苦しげに息を吐くかぐやの悩ましさを見ると全部が腑に落ちてしまうのだった。
生産者はBLを愛好するため、ハグや口移しのためのキス、互いに大切に想い合う表現が登場します。
二次創作歓迎です。BL妄想、夢妄想、お好きに!ただし筆者は平安貴族のちょんまげin烏帽子スタイルを好まないのでイラスト化する時は前髪ありバージョンでお願いします。歴史に詳しい人に叩かれても前髪ありバージョンでお願いします。