第一話
毎日2500字程度更新で連載します。
時代考証ありません!ネオファンタジー時代劇みたいなものと捉えてください!
語り部は今日のお話を期待している孫の小さな手を取って、御先祖様の代から伝わっている不思議な話をし始める。
「本当にそんな話し方なの?」
「現代人にも分かるようにお婆ちゃんがアレンジしてるのさ」
孫は目を丸くして祖母の膝に乗った。
「本当にそんな風に暮らしていたの?」
「そうだねえ、大昔のお話だからね、何を食べて、どう暮らしていたかなんて誰にもわからないし、所詮はおとぎ話さ。でも、お婆ちゃんが大好きなお話だよ」
――――……
今は昔、それは千年ほど前の、魑魅魍魎が跋扈する時代の話。
人と妖の境目も曖昧な頃のことだ。竹取の翁と呼ばれる老人がいた。山に分け入っては竹を刈り、あらゆる道具を作っては売って細々と暮らしている。翁には妻がいた。が、二人の間には子供がいない。
ある日のこと、山から帰ってきた翁がその腕に玉のような赤ん坊を抱えていたので媼はひっくり返って、とうとうどこぞから子を盗んできたかと問い詰めたが、翁は狐につままれたような顔をしている。
「いやあ、竹が光っていたんでな、どういうこっちゃと、蛍でも入ってんのかなあと両断してみたら、赤ん坊が……」
「まさか、そんな」
だが、京には鬼が現れ、怪異が続き、化身が至る所においでなさる、そんな時代である。驚くばかりだった媼も、その、人の赤ん坊よりやや小さめのちょうど竹の一節ほどの大きさの赤ん坊をそっと手に抱くとこの子は天からの授かりものじゃとすっかり納得した。
「おや」
赤ん坊が目を開き、小さな手を翁へと差し出す。
「かわいい、かわいい」
そうしている間に、竹の一節ほどの大きさだった赤ん坊が人の子の赤ん坊と同じ大きさに膨れ上がったことに媼は気付いたが、それすらどうでもよくなるほどに赤ん坊は可愛らしかった。
「名を付けねば」
「おなごじゃろうか」
「これほどまでに美しいとなると姫御かもしれんのう」
と、おくるみを剥がしてみると男児の象徴がしっかりついていた。
「はっはっは、男じゃ」
「なよ竹より生まれ出でた不思議な子。輝くように美しい子、かぐや」
乳児に与える飯がない。媼は母乳が出る訳ではないし、さていかがする、と思っていたら寝かせておいただけのかぐやが次の日には一歳ほどの大きさになった。
「あーあ、うーぁ」
「……大きゅうなりおった。不思議じゃなあ」
よかった、これならば普通の飯も食えるじゃろう、媼は安心して芋の煮たのや粥を与えた。
「んまま」
喜んで食べている。この子のためならば、何をも犠牲にしても構わないと思えるような、本当に可愛らしい顔をしている。媼は女である、大概の子供に対して母性がある。だがかぐやの愛くるしさは、『幼い者』特有の幼いから可愛い、という枠を越えている。
顔が整っているのである。赤ん坊らしい丸顔丸目丸鼻の愛らしさとは違う。
「この子は大きくなったら本当に端正な顔立ちになるでしょうねえ」
「ああ。まるで公達のような、品のある美しさだ」
次の日、また次の日と、普通の人間の倍以上のスピードでかぐやは成長していく。しかし言葉の発達は異常に遅く、さほど話さず、腹が減った時や眠い時だけ媼の袖を引っ張ってぽそぽそとしてほしいことを伝えた。
「はいはい、小川で釣ってきた魚があるから食べようね」
「……ん」
このままでは、あっという間に成長し、あっという間に老いて死んでしまうのではと懸念したが三ヶ月ほどで思春期の少年くらいの大きさに育ち、それ以降は成長が止まった。止まった、というより人並みの成長スピードに落ち着いたと言う方が正しい。
「よかった、かぐや。おまえは成長が早いから早死にするのではないかと毎日気を揉んでいたのよ」
「ばあさま」
行李に入っている媼の粗末な着物を指差し、じっと媼を見つめる。
「ああ。これが一等綺麗だよ、見てみるかい?」
嫁入りの道具として持ってきた着物を出してかぐやの手の上に乗せてやると、かぐやはおもむろにそれを羽織った。
「……着たいの?」
かぐやは無言で頷く。この子は男じゃ。それでも……これを着た姿が見てみたい。黒く艶のある髪に、黒く涼やかな目元だ。唇が薄く口は小さい。袿や単を着せたら日本人形のようになるだろう。少し紅を差してやったらそれはそれは美しいだろう。媼は自分の欲求に打ち勝てず、衝動的にかぐやに着物を着せてやった。嫁に来て以来余程の時でないと付けることのなかった紅を唇に塗ってやり、髪を整え結ってやると、まだ思春期の少年でありながら女性のような色気まで漂う美人が完成した。
「おお……」
かぐやがにこりと笑うので、媼はつられてにこりとした。翁が帰ってくる。男子にこのような格好をさせて、怒られるのではないかと媼は思ったが……。
「綺麗なべべ着て、嬉しいか?」
「うん」
かわいいかぐやがそう言うので、このまま翁に見せようと決心した。
「なんちゅう格好させてんだ、かぐやは男だろう」
「そうだが、じいさま、この子はこれが嬉しいと……」
「ふうむ。まあ、確かに、ちょっとくらりとするほど綺麗だな、この子は本当に天から降りてきた天女さまかもしれん。ああ、男だったか。この子が男か女か、そんなことは些末なことよ。それほどに美しい。かぐやが嬉しいと言うなら、それでよかろ」
その日から、媼は自分の持っている中でも華やかな着物をかぐやに着せ、毎日化粧をしてやるようになった。さすがに声変わりをしていたので、ばあさま、と呼びかける声は男のものであったが、かぐやは極端に無口だったのでそう違和感を覚えることもなかった。ある日この美しい子を少々自慢したい、という欲がふと、媼に沸いた。
「外に、行ってみるかい?」
「?」
「おまえを連れて歩けば、ふもとの連中はどこぞの姫御前だと思うだろう。わしのことは姫付きの女房だと思うだろう」
(それはきっと気分がいい)
媼は一度だって、注目されいい想いをしたことなどなかったのでかぐやの力を借りてふもとの者達を驚かせてやりたくなった。かぐやは頷いて、媼の皺だらけの手を取った。
まるでその媼の想いを受け入れ許すようにとろりと微笑む。
かぐやの微笑みは現代の物に例えるならばメレンゲだった。甘く柔らかく口に入れるとしゅわっと溶けてなくなってしまう儚さもある。
簡単に言うとかわいいのだった。
「わしのかぐや。ずうっと笑っていておくれ」
生産者はBLを愛好するため、ハグや口移しのためのキス、互いに大切に想い合う表現が登場しますがジャンルとしてはBLではありません。当て書きしていますがモデルが限定されてしまうと想像の幅が狭まると思いますのでわかった方は作者にこっそりメッセージなどで教えてください。
二次創作歓迎です。BL妄想、夢妄想、お好きに!ただし筆者は平安貴族のちょんまげin烏帽子スタイルを好まないのでイラスト化する時は前髪ありバージョンでお願いします。歴史に詳しい人に叩かれても前髪ありバージョンでお願いします。ハネてくれたら嬉しい。